北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

沖縄国民保護図上訓練の課題【4】民間航空機チャーター機と先島諸島覆う大陸側長距離地対空ミサイル射程

2023-03-09 20:18:07 | 国際・政治
■S-500地対空ミサイル
 先島諸島から、フェリーによる避難には浮流機雷という多少のリスクがある事はこれまでに触れましたが航空機についても一つの留意事項が有ります。

 国民保護法制住民退避を行う場合の想定として、台湾有事の拡大か、それとも台湾有事に先立つ策源地確保へ南西諸島を確保するという南西有事先行型か、この二つを挙げました。そして台湾有事先行の状況を中心に論理展開を進めてまいりましたが、もう一つ、考えたくはないことですが、南西有事先行型についても、想定しておかなければなりません。

 旅客機による避難、課題は前回まではフェリーを中心に浮流機雷の脅威を想定すべきだと検証したのですが、今回は旅客機による避難です。先島諸島には下地島飛行場を筆頭に多数の空港があります、これは県民の交通手段として不可欠という側面がある一方、国民保護法制住民退避に際しても旅客機によるチャーター便運航というものは選択肢でしょう。

 チャーター便、COVID-19新型コロナウィルス感染症拡大初期には、都市封鎖された中国武漢において孤立した邦人を湯祖するべく全日空がチャーター機を運航しました。あの時点でCOVID-19という名さえもまだなく、未知の新型感染症によるアウトブレイクで次々と死者が出ている武漢へ情報もあまりないままに飛行した、まさに現代の英雄は全日空でした。

 イランイラク戦争、他方で1980年のイランイラク戦争において、邦人輸送を要請された日本航空が、安全が確保されていないとして旅客機の運航を拒否しました、この邦人避難はイランのテヘランに取り残された商社の駐在員であり、第二次石油危機などのさなかに日本へ何とか石油を安定供給しようと奮闘していたところに取り残されたという構図です。

 日本航空の拒否は、理解はできるのです。テヘランからの緊急避難が求められた背景には、イラン軍の攻撃に対抗してイラク軍はイランへの大規模ミサイル攻撃を警告しており、攻撃開始の時刻までに退避しなければ弾道ミサイル攻撃が行われる、そしてイラク軍は弾道ミサイルによる化学兵器の運搬能力を誇示していたため、危険ではあるのです。ただし。

 トルコ航空の志願者により、日本の在留邦人は救出されました。エルトゥール号遭難事件という明治時代の遭難事件へ日本側が官民一体となり手厚く救助したという恩返しということです、この話を聞き、日本も100年単位で恩返ししなければと考えさせられたものですが。一方、2021年アフガニスタンカブール陥落は不手際でまたしても間に合わなかった。

 カブール陥落は、南部州の州都二つが24時間で失陥するという明らかな非常事態に際しても、チャーター機運航などの準備を怠り、状況が悪化した際にはカブール周辺での戦闘が開始されている状況、とてもではないが民間チャーター機を飛行させられる状況ではありませんでした。自衛隊機の準備も後手に回り、結局現地まで輸送機を飛ばせていません。

 問題は、南西有事の場合、S-500地対空ミサイルなどの中国軍が保有する超長射程の地対空ミサイルは、中国本土から先島諸島まで射程内に収めているという点です。民間機を狙わない、とは思うのですが、民間機と軍用機を識別できるとは限りません、するとどの状況までチャーター機を射程内で飛行させるのが安全なのかは非常に難しい問題となるのです。

 民間機が戦闘に巻き込まれる事例は数多いのですが、例えばウクライナ東部紛争におけるマレーシア航空ボーイング777型旅客機、イランイラク戦争におけるエアバスA300型旅客機、大型旅客機が撃墜されますとその分だけ多数の犠牲者が出てしまいます。この場合、避難民輸送に、そもそも旅客機を一機も使えない状況をあらかじめ想定しておくべきか。

 旅客機も、例えば運航時刻を開示しておくことで、注意しておけば地対空ミサイルを運用する側にも、民間機であるという強調はできます。一方、飛行場は防衛施設、これは自衛隊が駐屯しているかどうかにかかわらず、滑走路そのものが軍事的に意味があるものですので、攻撃目標となる可能性もある。チャーター機はこうした問題も加味しておく必要が。

 ミサイル対処機動の訓練を行え、というわけではありません。ただ、都道府県単位での計画立案を任されている現状では、都道府県の危機管理の意識として先島諸島が中国本土からの地対空ミサイル射程内に含まれているという事実を理解したうえで、旅客機のチャーター便運航計画など調整しなければ、ほんとうの有事の際に飛べない可能性があるのです。

 都道府県の手に余る問題である、こうした意見はおそらく出るでしょう、地対空ミサイルと浮流機雷まで考えては避難計画は立てられない、しかし重要なのは、この結論を政府に示したうえで、政府に支援策を求めるということです。平時の感覚で安易な実行可能という結論を出し、いざ本番の時に取り残し多数では、沖縄戦の反省が全くできていない事となります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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平和国家の武器輸出-永世中立国スイスの武器輸出政策とウクライナ戦争下の第三国転売管理制度にみる中立政策

2023-03-09 07:00:00 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 日本はスイスの永世中立政策と武器輸出の両立というものをもう少し学ぶべきなのかもしれません。

 スイス政府は改めてドイツなど周辺国からのウクライナへの弾薬提供要請や輸出装備のウクライナ提供を拒否しました。輸出装備の提供拒否というのは、スイスがドイツやスペインへ輸出した装備をウクライナへ供与する事の拒否であり、改めて永世中立国の特異性を示したものです。しかし同時に、輸出された装備品の輸出管理を示した事となります。

 エリコンやシグ、モワクなどスイスには多数の防衛産業が存在します。そしてBAEやジェネラルダイナミクスなど多国籍企業に再編され、例えばエリコン社などはドイツのラインメタル傘下となっていますが、エリコン社が製造した35mm機関砲弾薬などはウクライナ提供を拒否し、これが少なくない水準でスイスの中立という意志が尊重されているのです。

 永世中立国であるスイス、もちろんこうした施策は、輸出した装備に対して金銭を支払った国の意思が尊重されないという視点から今後スイス製装備へのマイナス要素となるのかもしれませんが、それ以上に、仮に兵器を輸出した場合でも兵器の運用をかなりの部分で輸出国が統制できる、という点が重要であり、日本の防衛装備品輸出の参考となるのです。

 武器輸出と平和政策は両立しない、これが日本の少なくない支持を集める視点です。一方で“永世中立”という響きのよさから少なくとも1990年代までスイスのような平和政策を推す声が日本には在りました、もっとも、完全国民皆兵制や核開発研究と武器輸出政策や傭兵などのスイスの実態が日本で知られるようになりますと、支持する声は薄れましたが。

 日本が仮に戦車や潜水艦、哨戒機や輸送機とミサイルや火砲について、積極的に輸出した場合、地域紛争を拡大させる懸念があるという反論がありました、実際には影響が及ぶほどに市場での地位を獲得できるかは、そんなに甘い話ではないし平和主義者が思うほど日本の装備は市場を独占できない、と考えるものの、スイスを見れば輸出先を統制は出来る。

 輸出管理は、日本での視点として、輸出するかしないかは、輸出した場合は無制限無尽蔵に輸出する、という極論のほかに輸出した場合の転用管理という視座を欠いていたのではないか、と考えるのですね。簡単ではありませんが、これから日本の防衛装備品輸出を考える際に、スイスの様に厳格に管理し大量に輸出する事例を学ぶ必要があるのでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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