■特報:世界の防衛,最新論点
陸上自衛隊ではAH-X次期戦闘ヘリコプターを本格的に検討すべき時期となっていますが、イギリスとオーストラリアの事例から参考となる点を考えてみましょう。
陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプターが明野駐屯地の陸上自衛隊航空学校へ配備されたのは2006年、2021年は早いもので15年を経たことを意味します。その後の陸上自衛隊戦闘ヘリコプター調達はミサイル防衛やサイバーセキュリティ能力強化、相次ぐ新防衛事業へ予算を間引かれる対象となり、当初62機の調達は13機まで削減される事となりました。
AH-1S対戦車ヘリコプターの数的削減はしかし、耐用年数満了とともに延命改修が行われることなく縮小が続き、現在では全ての対戦車ヘリコプター隊が定数割れの状況に追い込まれると共に、政府は2019年防衛大綱改訂に際して、従来の5.5個対戦車ヘリコプター隊を廃し、中央へ集約する決定を行います。しかしAH-64Dさえ老朽化する状況は続きます。
こうした中でイギリスでは面白い動きがありました。イギリス陸軍は従来の武装ヘリコプターに代え、自衛隊がアパッチロングボウを導入した正にその頃、AH-64Dの導入を開始した事で知られます。故に機体寿命も一足早く訪れている訳ですが、アフガニスタンやリビアで、近年ではロシアの軍事圧力に対抗する観点から必須となっているAH-64です。
イギリス軍へ配備されたAH-64Eアパッチガーディアンの整備がコロナ禍下でも順調に進められているとのこと。AH-64Eアパッチガーディアンは初号機、二号機が2020年11月26日にイギリス本土のワティシャム飛行場へ到着し、陸路によりイギリス第1航空旅団へ配備され、当面は7機が陸軍第3航空連隊へ配備され、機種転換訓練に当っています。
アパッチガーディアンに搭載されるAN/APG-78レーダーは海上目標追尾モードとして洋上目標や小型無人機創作追尾能力が付与され,MUM-T能力として無人機の管制及びリアルタイム画像共有能力を有すると共に、アメリカ陸軍ではこの能力を活かし、従来ヘリコプターセンサーの射程外であった100km規模の射程ミサイルの搭載研究が進められています。
AH-64Eアパッチガーディアンは1998年より67機配備され現在運用されているAH-64DアパッチロングボウことアグスタウェストランドアパッチAH-1の後継として配備されるもので、アグスタウェストランド社ではAH-64Dの整備支援能力の限界から2024年には廃止される事を受け後継機に既存機をAH-64Eへ再製造する決定を2015年に行いました。
イラク戦争に際して、AH-64Dは"戦国自衛隊的"といえる老練な待ち伏せ攻撃などにより思わぬ苦戦を強いられ、また、錯綜地形におけるレーダー性能の限界が日本国内演習場にて判明すると共に、当初のC4I戦への対応や情報RMA作戦体型具現化への入り口との名声は、高コストの期待はずれ、陸上自衛隊の劣等生、と厳しい批判が生じるようになります。
アパッチガーディアン。さて、本邦での批判は実のところAH-64Dを使いこなせなかっただけではないか、との視点も加えるべきかもしれません。開発国アメリカでもロングボウレーダーの識別能力限界などは既にに指摘されており、AH-64Dの充実した通信容量を受け、無人機を管制し目標を捕捉、アパッチに長射程ミサイルを搭載する改良型が生まれる。
島嶼部防衛が叫ばれる昨今、しかし進化を続けるアパッチは上掲の通り、ミサイルの射程は年々延伸すると共に,MUM-T能力としまして無人機との連接が可能となった事で、有事における先鋒としての任務を担うには不可欠の装備として進化を続けています。実際、アパッチしかない、と結論付けた興味深い事例にオーストラリアの事例を見てみましょう。
オーストラリア陸軍は2025年よりARH武装偵察ヘリコプターとしてAH-64Eアパッチガーディアンの取得を開始します。これはオーストラリアのホンリンダレイノルズ国防大臣が表明した将来装備計画で、オーストラリア陸軍は少なくとも29機のAH-64Eアパッチガーディアンを導入する計画です。しかし、これは非常に興味深い選択だといえましょう。
AH-64Eアパッチガーディアンの取得、これは同時に2006年より導入を開始したエアバスヘリコプターユーロコプター社製EC-665ユーロコプタータイガーが早速除籍開始されることとなり、ユーロコプタータイガーはドイツフランス共同開発でスペイン軍などでも採用されている機体ですが、オーストラリアでの運用は極めて短期間で終わる事を示します。
ARH武装偵察ヘリコプター計画ではAH-64Eアパッチガーディアンの他にアメリカのベル社はAH-1Zバイパー攻撃ヘリコプターを提案し、エアバスヘリコプターズ社もEC-665ユーロコプタータイガーの既存機近代化改修に合せ新規調達による増強を提案しましたが、稼働率低下や運用費高騰の問題があり、オーストラリア陸軍は継続運用を却下しました。
自衛隊の次期戦闘ヘリコプター、勿論予算的な問題は大きく、特に防衛費についてはF-35B導入事業や費用が巨大化し続けるイージスアショアミサイル防衛システムなどの陰に隠れ、根本的な装備品の更新さえままならない状況ではあるのですが、実のところ自衛隊の任務を考えますと、情報優位と国内での広い行動力を有する点から、必須の装備体系とも思う。
AH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプターやEC-665/PAH-2ユーロコプタータイガーと様々な機種が挙げられるのですが、全般的な性能としては冗長性と将来発展性という部分からAH-64を超えられる機種は、現状でAH-64に注ぎこまれる改修費用を越えるものが無い事から考えにくく、厳しい財政状況でも、英豪両国の選択には関心を持つべきとも思います。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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陸上自衛隊ではAH-X次期戦闘ヘリコプターを本格的に検討すべき時期となっていますが、イギリスとオーストラリアの事例から参考となる点を考えてみましょう。
陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプターが明野駐屯地の陸上自衛隊航空学校へ配備されたのは2006年、2021年は早いもので15年を経たことを意味します。その後の陸上自衛隊戦闘ヘリコプター調達はミサイル防衛やサイバーセキュリティ能力強化、相次ぐ新防衛事業へ予算を間引かれる対象となり、当初62機の調達は13機まで削減される事となりました。
AH-1S対戦車ヘリコプターの数的削減はしかし、耐用年数満了とともに延命改修が行われることなく縮小が続き、現在では全ての対戦車ヘリコプター隊が定数割れの状況に追い込まれると共に、政府は2019年防衛大綱改訂に際して、従来の5.5個対戦車ヘリコプター隊を廃し、中央へ集約する決定を行います。しかしAH-64Dさえ老朽化する状況は続きます。
こうした中でイギリスでは面白い動きがありました。イギリス陸軍は従来の武装ヘリコプターに代え、自衛隊がアパッチロングボウを導入した正にその頃、AH-64Dの導入を開始した事で知られます。故に機体寿命も一足早く訪れている訳ですが、アフガニスタンやリビアで、近年ではロシアの軍事圧力に対抗する観点から必須となっているAH-64です。
イギリス軍へ配備されたAH-64Eアパッチガーディアンの整備がコロナ禍下でも順調に進められているとのこと。AH-64Eアパッチガーディアンは初号機、二号機が2020年11月26日にイギリス本土のワティシャム飛行場へ到着し、陸路によりイギリス第1航空旅団へ配備され、当面は7機が陸軍第3航空連隊へ配備され、機種転換訓練に当っています。
アパッチガーディアンに搭載されるAN/APG-78レーダーは海上目標追尾モードとして洋上目標や小型無人機創作追尾能力が付与され,MUM-T能力として無人機の管制及びリアルタイム画像共有能力を有すると共に、アメリカ陸軍ではこの能力を活かし、従来ヘリコプターセンサーの射程外であった100km規模の射程ミサイルの搭載研究が進められています。
AH-64Eアパッチガーディアンは1998年より67機配備され現在運用されているAH-64DアパッチロングボウことアグスタウェストランドアパッチAH-1の後継として配備されるもので、アグスタウェストランド社ではAH-64Dの整備支援能力の限界から2024年には廃止される事を受け後継機に既存機をAH-64Eへ再製造する決定を2015年に行いました。
イラク戦争に際して、AH-64Dは"戦国自衛隊的"といえる老練な待ち伏せ攻撃などにより思わぬ苦戦を強いられ、また、錯綜地形におけるレーダー性能の限界が日本国内演習場にて判明すると共に、当初のC4I戦への対応や情報RMA作戦体型具現化への入り口との名声は、高コストの期待はずれ、陸上自衛隊の劣等生、と厳しい批判が生じるようになります。
アパッチガーディアン。さて、本邦での批判は実のところAH-64Dを使いこなせなかっただけではないか、との視点も加えるべきかもしれません。開発国アメリカでもロングボウレーダーの識別能力限界などは既にに指摘されており、AH-64Dの充実した通信容量を受け、無人機を管制し目標を捕捉、アパッチに長射程ミサイルを搭載する改良型が生まれる。
島嶼部防衛が叫ばれる昨今、しかし進化を続けるアパッチは上掲の通り、ミサイルの射程は年々延伸すると共に,MUM-T能力としまして無人機との連接が可能となった事で、有事における先鋒としての任務を担うには不可欠の装備として進化を続けています。実際、アパッチしかない、と結論付けた興味深い事例にオーストラリアの事例を見てみましょう。
オーストラリア陸軍は2025年よりARH武装偵察ヘリコプターとしてAH-64Eアパッチガーディアンの取得を開始します。これはオーストラリアのホンリンダレイノルズ国防大臣が表明した将来装備計画で、オーストラリア陸軍は少なくとも29機のAH-64Eアパッチガーディアンを導入する計画です。しかし、これは非常に興味深い選択だといえましょう。
AH-64Eアパッチガーディアンの取得、これは同時に2006年より導入を開始したエアバスヘリコプターユーロコプター社製EC-665ユーロコプタータイガーが早速除籍開始されることとなり、ユーロコプタータイガーはドイツフランス共同開発でスペイン軍などでも採用されている機体ですが、オーストラリアでの運用は極めて短期間で終わる事を示します。
ARH武装偵察ヘリコプター計画ではAH-64Eアパッチガーディアンの他にアメリカのベル社はAH-1Zバイパー攻撃ヘリコプターを提案し、エアバスヘリコプターズ社もEC-665ユーロコプタータイガーの既存機近代化改修に合せ新規調達による増強を提案しましたが、稼働率低下や運用費高騰の問題があり、オーストラリア陸軍は継続運用を却下しました。
自衛隊の次期戦闘ヘリコプター、勿論予算的な問題は大きく、特に防衛費についてはF-35B導入事業や費用が巨大化し続けるイージスアショアミサイル防衛システムなどの陰に隠れ、根本的な装備品の更新さえままならない状況ではあるのですが、実のところ自衛隊の任務を考えますと、情報優位と国内での広い行動力を有する点から、必須の装備体系とも思う。
AH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプターやEC-665/PAH-2ユーロコプタータイガーと様々な機種が挙げられるのですが、全般的な性能としては冗長性と将来発展性という部分からAH-64を超えられる機種は、現状でAH-64に注ぎこまれる改修費用を越えるものが無い事から考えにくく、厳しい財政状況でも、英豪両国の選択には関心を持つべきとも思います。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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陸幕はどう考えているのか・・・。