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令和核軍拡危機【1】オーストラリア&ドイツ核武装論,中国ロシア核戦力懸念受け急浮上

2019-08-06 20:09:49 | 国際・政治
■七四年目の広島原爆慰霊の日
 21世紀に入り2019年、本日は広島原爆投下から74年目の慰霊の日です。ただ、平成の時代も令和の時代となりましたが、驚くべき事に世界は核軍拡の時代を迎えつつある。

 北朝鮮の核実験と大陸間弾道弾開発、中国軍による南シナ海人工島建設と戦略ミサイル原潜量産は、インドパキスタンの核開発に続き、21世紀にも核拡散の脅威が顕在化した事を示しましたが、“核武装論も浮上、米中のはざまで国防めぐる議論続くオーストラリア(AFP)”と“米国のINF条約離脱とドイツの核武装をめぐる議論(日経)”気になる新しい論点が。

 核武装論も浮上、米中のはざまで国防めぐる議論続くオーストラリア、AFP特集に非常に刺激的な表題が載りました。オーストラリアは中国の東南アジア地域での影響増大と北朝鮮ミサイル弾道脅威を受け現在、第二次世界大戦後最大規模の軍拡を実施中です。近年ホバート級イージス艦と28000t級キャンベラ級強襲揚陸艦、水陸両用部隊新編を行いました。

 F-35戦闘機導入計画に潜水艦量産計画、陸軍は650両規模の装甲戦闘車と重装輪装甲戦闘車の導入計画、日本との包括安全保障協力協定を経て日豪間の防衛協力も進む。キャンベラ級はF-35Bが搭載可能ですし、新型潜水艦はフランス製原子力潜水艦を通常動力潜水艦へ再設計したものであり、将来的に原子力潜水艦導入への布石と見る事も出来るでしょう。

 しかし、核開発、これはオーストラリアの他にドイツでも核開発の必要性を年々議論する動きが報じられています。米国のINF条約離脱とドイツの核武装をめぐる議論、これは日経ビジネスに今年2019年2月12日に紹介されたリポートです。内容はアメリカのINF全廃条約離脱を契機としたロシア核戦力増大への危機感で生じたドイツ核武装論というもの。

 核拡散防止条約に反しますが、オーストラリアの場合はオセアニア地域の非核化を記したラロトンガ条約があります。南太平洋非核地帯条約根本から覆す核武装論です、地域非核化条約という日本の非核三原則よりも踏み込んだ非核化を成し遂げた歴史と対照的で驚かされますが、オーストラリアは核兵器に関し日本と異なった価値観があるのかもしれない。

 オーストラリアでは核兵器保有の事例こそありませんが、オーストラリア国内はイギリス軍の核実験場を提供した事例があり、少なくとも核開発に関しては自国が核攻撃された日本ほど、議論に禁忌はありません。それよりも突如北朝鮮の開発する大陸間弾道弾がオーストラリアへも向けられていると知り非核化よりも核攻撃からの防護が急務となりました。

 ラロトンガ条約の枠組根幹を見直す可能性も含め、議論としてオーストラリア核武装論が浮上する背景には、核攻撃への抑止力の必要性と過去の国内でのイギリスによる核開発を引き受けた歴史があるのでしょう。ただ、勿論核武装は議論が極論として出ているだけであり、現実にはホバート級イージス艦にSM-6を搭載し弾道弾終末段階迎撃を検討中です。

 ドイツ核武装論は、ニュークリアシェアリングという冷戦時代のNATO核戦力前方展開制度を理解しますと、意外にも核武装の心理的障壁が低い事を考えさせられます。ニュークリアシャアリングとは、平時に置いて核兵器国であるアメリカ等が核弾頭を管理し、有事の際に対独緊急供与しドイツ軍の攻撃機や重砲から戦術核を使用させる、という制度です。

 ニュークリアシェアリングは主として、冷戦時代にソ連軍がドイツへ侵攻した場合、ソ連軍はドイツ域外の大西洋岸まで侵攻する可能性が高く、ドイツ国内で通常戦力で阻止できぬ場合、戦術核を用いてでも阻止する必要がありました。しかし多数のドイツ国民が巻き込まれる為、NATOが行うには政治的に難しく、ドイツ軍により自国内で使用させるもの。

 INF全廃条約枠組の崩壊はドイツ政府に対し非常に厳しい懸念を突き付ける事となりました。INF全廃条約は射程500kmから5500kmまでの核兵器運搬手段を全廃させるもので、冷戦後にポーランドとベラルーシという緩衝地帯を得たドイツにはロシア軍核兵器の脅威が無い現状です。しかし、ここにINF全廃条約枠組破棄が核の脅威再来を意味しました。

 日本は広島長崎の惨禍から核廃絶を国是としています。アメリカの核の傘下にあるとの反論もありますが、日本国内への核兵器持ち込みは認めておらず、ロシア潜水艦による核兵器領域内通過を阻止する為に国際海峡である津軽海峡の中央部分を特例として公海とし、何が何でも領域内へ核兵器を持ち込ませない枠組を構築しています。世界にも例が無い。

 しかし、核廃絶の認識は日本の一般論で考えられるほど世界では共有されていません。現在進む核兵器禁止条約等に消極的な日本政府は核廃絶への行動が甘い様に誤解されていますが、核兵器禁止条約には制裁措置や離脱枠組が曖昧である故に多数の国が加入しているとも分析出来、核廃絶は日本式でもう少し真剣に取り組まねばならないように思います。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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8 コメント

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Unknown (北京亭すぶた)
2019-08-07 07:27:07
核兵器禁止条約、正直お題目的な位置付けにしかならんような気もします。とか、強制力に欠けるんで意味あるんか?(意訳)という日本政府の主張自体も首肯できます。ただ自分としては、『それでも』『敢えて』条約に加盟するべきであると考えます。確かに米国の核の傘の下に入って…という疑念や矛盾はあるでしょうが、それでも『核兵器を許さない』という理念理想を日本は諦めてはおらんぞ!というアピールにはなるでしょうから。実効性を重視するのが外交の王道なのでしょうけど、国家のイメージ戦略ももう少ししっかり進めていただきたいものです。
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Unknown (Unknown)
2019-08-07 12:42:51
仮に世界の核保有国が、ロシアと中国と北朝鮮だけになってしまったら
平和団体は責任をとるつもりなんですかね?
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Unknown (通りすがり)
2019-08-07 16:17:31
「日本式での核廃絶の取り組み」というのは絵空事にも程があるように聞こえますね、それこそ日本が反物質爆弾のような核を超える兵器を開発し世界に核廃絶を恫喝していくなどするなら話は別ですが……逆に日本は唯一の被爆国であるからこそ、国内に二度と核が落ちるような惨禍を招いてはならないと認識し、核武装を含めた強固な国防、そのための議論を積極的に進めていく必要があると感じます。
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Unknown (北京亭すぶた)
2019-08-08 07:37:34
『理想をかなぐり捨てた現実至上主義者』と『現実をシカトしてる理想至上主義者』、有害なることどっちもどっちな気がします。いずれにせよ、核兵器に関する議論すら封殺するのはさすがに宜しくないとは思います。
ところで、実際に核武装するとして、実験場どこにしましょうか?実験場確保のための用地買収費用だけで結構すごいことになりそうです。あと、どこから発射しましょうか?イージスアショアでこれだけ揉めてるのに、サイロ掘らせてくれる場所決まるんでしょうか?やっぱSLBMになるんでしょうが、そのためにはSSB(N)造ることになりますが、お高いですよね。あと、SSB(N)どこに潜ませましょう?日本周辺海域で聖域化できる海域ありますかね?瀬戸内海?いっそのこと琵琶湖に配備する?もちろん潜水艦乗組員の育成数も大々的に増やさないといけませんね。NPTからもサヨナラですから、原料調達もぐぐっと面倒になってきますし、商業原子炉も犠牲になりますね。
数多の艱難辛苦乗り越えてめでたく核保有国になった…じきに韓国(そのとき存続してたら)、台湾も核武装目指すんでしょうな。続いてベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン…東南アジアの各国は経済的にはどこも北朝鮮より大国ばっかですから、持とうと思えば(理論的には)持てるでしょう。物騒ですねー。
とまぁ考えてみたわけですが、他の人が考えれば他の疑問や回答が出てくるでしょうし、皆様のお考えもお聞かせくださいませ。
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Unknown (Unknown)
2019-08-08 08:24:28
取り敢えず、日本は非核外交が
技術的、外交的に核兵器を自主開発出来ないっていう国の寄り代と、
同時に核兵器が拡散して欲しくないアメリカの意見が持ち上げている状態だから
このままのスタンスで行くのがベストだと思う
(むしろ非核先進国の旗頭の日本が自主開発、配備したら、それこそタガが外れて、自己防衛・抑止防衛を大義に一気に核保有国が増えると思う)
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Unknown (名無し)
2019-08-08 12:05:23
日本に戦術核を貸し出しちゃおうと考えてるアメリカ人がいるぐらいだから。世の中の全ての国が核を持っようになったら逆に平和なのかもしれんね。反対に核が無くなったら長らく起きていない世界大戦が始まるかも知れんね。人間とはバカな生き物だね。
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Unknown (流線形)
2019-08-08 23:23:25
“絵空事であるというコンセンサスが広がるのに十分な時間的猶予と、段階的に状況が悪化していくというコントロールを行う為にNPT体制を維持する努力をするしかないですね。
急激な変化に国民の意識はついて行けませんから、政府としては、急激な状況の変化を避ける動きをしながら、コンセンサスが醸成されるのを待つ他に無いでしょう。
そのうち、お隣の分断国家が統一されるでしょうから、その前に、日本からある程度物理的距離のある国が、核武装を進めていき、NPT体制が徐々に崩れ、更には、廃止条約に加盟している国が、止むを得ず核武装に走り始めるという環境の変化が、コンセンサスを醸成するでしょう。
そして、トドメが隣国の統一によるある程度の経済規模を持つ核保有国の新規誕生でしょう。
正直、非核化を実現する具体的方策が存在しない以上、“待つ”他に日本が選択できる道はないでしょう。
この流れが数十年単位で起きるならば、良いのですが、数年で来た場合、国内が分裂して、収拾がつかない状況が生まれるでしょう。
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Unknown (はるな)
2019-08-31 12:29:16
核兵器禁止条約の難点は、核拡散防止条約とレジームの競合がおきるのですよね、核兵器禁止条約に批准する場合は核拡散防止条約の前進枠組みから弾かれてしまう。しかし核兵器禁止条約には査察条項や制裁措置の明示がなく、核拡散防止条約が核開発や関連物資の拡散阻止から大量破壊兵器全般の禁止まで大樹のようにレジームのクラスターを構成しているのとは真逆でして。

核兵器禁止ま条約はいわゆるソフトローといわれる、緩い制度ゆえの批准国増加を期したのもです。日本は核兵器を具体的にゼロへ向けて減らしたいならば批准は逆効果ですが、核兵器なくなるといいね、増えても残念だね、の願いだけで満足ならば批准は選択肢でしょう
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