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【映画講評】アルキメデスの大戦(2019)【2】大和型戦艦とアメリカ海軍の新戦艦群

2019-08-07 20:15:12 | 映画
■ナルヴィック沖とレイテ沖海戦
 伊勢湾展示訓練の写真と共に前回は紹介しましたが例によって戦艦大和の動いている写真を持っていませんので今回は江田島練習艦隊出航の写真とともに。

 戦艦大和、戦艦武蔵、日本海軍は大和型戦艦4隻の建造でワシントン海軍軍縮条約失効後の新戦艦の時代に備えました。ワシントン海軍軍縮条約は第一次世界大戦後に当時人類が持つ最強の戦力である戦艦を各国で保有数を制限する事で第二次世界大戦を防ぐことを目指した人類史上初の戦略兵器制限条約兼戦略兵器削減条約ですが、各国は失効後に備える。

 装備体系の均衡、均衡は全てにおいて重要で、大学受験でも理系と文系が共に秀でていなければ選択肢が狭められますし、語学でも日本語と英語と第三言語いずれか一つだけでは不均衡、企業に於いても開発力と製造力と営業力の均衡が無ければどこかと協力、同盟関係を結ばねば成り立ちません。均衡が求められないのは人口や工業力等多寡の範疇のもの。

 加賀と赤城、大和。日本海軍は戦艦を重視していた、間違いではありません。しかしこれを日本海軍は戦艦だけを重視していた、戦艦大和を指して示すのは間違いです。そもそもハワイ作戦の時点で戦艦大和は建造中、主力空母の内、赤城と加賀は元々巡洋戦艦と高速戦艦からの転用、戦艦だけを重視するならばワシントン海軍軍縮条約失効後に戦艦に戻したでしょう。

 伊勢、日向、戦艦二隻から14インチ連装砲6基のうち後部2基を下して飛行甲板とし、航空戦艦としました。日本海軍が戦艦重視であれば、合計4基の14インチ連装砲を搭載して、大和型戦艦三番艦を14インチ連装砲搭載の高速戦艦として工期を短縮する事も出来たでしょう。砲塔流用急造戦艦ではイギリスの戦艦ヴァンガードの例がある。これは空母重視故の決定です。

 日本の戦艦はワシントン海軍軍縮条約下では10隻ですので、アメリカとイギリスの戦艦30隻にどう対抗するか、新戦艦と続く戦艦はアメリカとイギリスで17隻、日本は大和型戦艦4隻を計画し、2隻を完成させました。10隻と30隻、これが12隻と47隻、となるのですが、同盟国イタリアとドイツの僅かな戦艦が友軍に在るとはいえ、大和型は必要でした。

 レイテ沖海戦、前回の話題には続きがあります、アメリカ海軍は艦隊旗艦に戦艦ニュージャージーを充て、第34任務部隊に戦艦アイオワ、マサチューセッツ、サウスダコタ、ワシントン、アラバマ、を充てています。ニュージャージーとアイオワ以外は空母に随伴する速力を充分有しませんでしたが、日本海軍戦艦部隊との戦闘を想定し、戦艦の護衛が必要だった訳です。

 第77任務部隊として更に戦艦 ミシシッピ、メリーランド、ウェストバージニア、ペンシルベニア、テネシー、カリフォルニア、が参加しています。上陸支援艦という位置づけで説明される事もありますが、対水上戦闘を含めた上陸船団護衛任務も有しており、アメリカ海軍が戦艦を軽視しているならば、戦艦を12隻も随伴する訳がないと分かるでしょう。

 高速戦艦は日本の金剛型戦艦で30ノットを発揮します、これは脅威といえる。1940年にノルウェーナルヴィック沖で発生したノルウェー沖海戦ではイギリス海軍の空母グローリアスがドイツの戦艦シャルンホルストに捕捉され、グローリアスの護衛が駆逐艦のみであった為に遠距離から射撃、空母と駆逐艦全てが撃沈されています。故に戦艦の護衛が要る。

 レイテ沖海戦ではこの懸念が現実となります、フィリピン上陸を支援するアメリカ第7艦隊隷下の第77任務部隊第4群空母部隊が日本海軍主力である栗田艦隊に捕捉されたのです。サマール沖海戦という。クリフトンスプレイグ少将隷下の第77任務部隊第4群3空母部隊、船団護衛と近接航空支援が任務で護衛空母6隻、駆逐艦及び護衛駆逐艦7隻から成る。

 栗田健男中将率いる第一遊撃部隊には第一戦隊の戦艦大和、武蔵、長門。第三戦隊の戦艦 金剛、榛名。第四戦隊に重巡洋艦愛宕、高雄、摩耶、鳥海。第五戦隊に重巡洋艦 妙高、羽黒。第七戦隊の重巡洋艦鈴谷、熊野、利根、筑摩、大半がイージス艦の名に継承される大型艦が配備され、第二水雷戦隊軽巡洋艦及び駆逐艦多数が陣形を組み、護衛空母群と遭遇した。

 ファンショーベイ、ホワイトプレインズ、カリニンベイ、セントロー、キトカンベイ、ガンビアベイ、護衛空母6隻の内、ガンビアベイは艦砲で撃沈、セントローは連携する陸上基地からの史上初の特攻攻撃で撃沈、ホワイトプレインズ、ファンショーベイ、カリニンベイ、キトカンベイ、艦砲と特攻攻撃で何れも大破乃至これに準じる損害を受けています。

 アメリカの第34任務部隊戦艦部隊は九州方面から南下する小沢治三郎中将の機動部隊、直前のマリアナ沖海戦で壊滅状態の航空部隊と共に第三航空戦隊の空母瑞鶴、千代田、千歳、瑞鳳、航空戦艦伊勢、日向、軽巡洋艦と駆逐艦11隻から成る囮部隊の迎撃に北上しており、高速戦艦の護衛を全く欠いた状態で、いきなり日本海軍主力と遭遇戦、壊滅しました。

 フィリピン上陸に当る第7艦隊にはジェシー-B-オルデンドルフ少将指揮の第77.2任務群に戦艦ミシシッピ,メリーランド,ウェストヴァージニア,ペンシルベニア,テネシー,カリフォルニア等有力な部隊が居ましたが、こちらは栗田艦隊と別経路で連携していた西村祥治中将指揮の第二戦隊戦艦山城、扶桑、重巡洋艦最上と駆逐艦から成る第三部隊と激突している。

 戦艦の護衛が無ければ、戦艦と遭遇した場合、空母部隊は重大な損害を被る可能性がある、という事を端的に示したのが、このサマール沖海戦の戦訓です。もっとも、スプレイグ少将隷下の第77任務部隊第4群空母部隊は結果的に栗田艦隊を犠牲を以て足止めし、40万の米軍将兵が輸送船上で栗田艦隊と遭遇する最悪の結果を阻止したと評価されていますが。

 アイオワ級戦艦は33ノット、仮に日本が大和型戦艦を有さず、ワシントン海軍軍縮条約失効後に世界が新戦艦を建造していた中にあって戦艦を建造しなかったならば、戦艦の護衛が旧式戦艦主体となる日本の空母機動部隊に対し、アイオワ級戦艦が航空護衛下で艦隊戦闘を仕掛けた可能性があります、相手の弱点を突く事が要諦なのですからある意味王道だ。

 金剛型戦艦では攻撃力防御力共にアイオワ級に対抗出来ません、長門級戦艦2隻は対抗し得るのですが、空母よりも遥かに速力が遅く、空母部隊の機動力を大きく削ぐ可能性があったでしょう、マリアナ沖海戦では実際そうでした。アメリカの高速戦艦攻撃を抑止したのは、日本に大和型戦艦2隻が配備されていた為です、これは重大な抑止力といえました。

 大和型戦艦ほど大型ではなくとも、イギリスのキングジョージ5世級戦艦程度の戦艦を、大和型の2隻に代えて4隻程度建造する、という選択肢は、在り得たかもしれません。アメリカの新戦艦はサウスダコダ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマ、ノースカロライナ、ワシントン、以上六隻です。実際日本には金剛型戦艦後継艦計画はありました。

 キングジョージ5世級戦艦は38000t級で35.6cm砲10門を搭載し28ノットを発揮、5隻が建造されました。プリンスオブウェールズが戦没した以外は4隻が1957年まで現役でした。しかし、この規模の戦艦を建造したとしても、アメリカはアイオワ級戦艦6隻の量産を開始します、一時しのぎになったとしても早晩に大和型戦艦建造が求められたでしょう。

 二段構えの戦艦、アメリカ海軍は実際にワシントン海軍軍縮条約明けの新戦艦に続いて、高速戦艦と超大型戦艦の二種類を計画しました、高速戦艦は空母機動部隊に随伴でき日本の高速戦艦へも対抗し得るアイオワ級戦艦、超大型戦艦は前者に重厚な防御力を更なる打撃力の強化を図ったモンタナ級戦艦です。二種類を実現する工業力の高さゆえの選択だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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