■NATO動揺は日本にも影響
NATO北大西洋条約機構は集団安全保障機構として最も成功した機構である、NATO50周年に際してNATO事務総長が述べた祝辞ですが2020年の今日、NATOが揺らいでいます。
NATOに歪みが生じています、トルコ軍は6日、地中海のキプロス島北部北キプロスにおいて軍事演習を開始、キプロス島北部にはトルコだけが国家承認するトルコ系国家北キプロスが存在し、長年ギリシャとの係争関係にあることから軍事演習の実施にEU欧州連合が強く抗議し、この抗議にトルコのエルドアン大統領は武力行使を示唆、緊張が高まる。
地中海東部では2009年より海底天然ガス田が次々と発見され、欧州外縁の新しい資源フロンティアとして注目されてきました。またギリシャ領のエーゲ海島嶼部は第一次世界大戦前まではトルコ領であった経緯から、歴史的な係争地となって来ました、今回、キプロスにおいての摩擦と並行して、トルコ政府が、かなり緊張を伴う資源調査を実施しています。
ギリシャとトルコはアジアにおける日韓関係以上に緊張をはらんで居るものではありますが、今回の対立は先月12日、ギリシャ領離島沖でのトルコ政府調査船オルチレイスによる海底天然ガス調査により顕在化しました、この調査には3000t級のヤウズ級フリゲイトなど水上戦闘艦艇多数が護衛に参加しており、非常に威圧的な示威行動であるととれました。
この行動に対しキプロスへNATO駐留部隊を派遣するフランスマクロン大統領が懸念を示し、キプロス駐留兵力の増強を発表します。トルコ政府による係争海域での天然ガス資源海洋調査が生んだ対立がさめない中での実施であり、緊張度が一段高まった構図です。この海洋調査に対しギリシャはEU共通安全保障政策に基づく海軍合同訓練で応えました。
地中海での合同訓練はギリシャ海軍、フランス海軍、イタリア海軍、キプロス軍が参加し8月26日から三日間実施、この訓練にはフランス海軍が戦力投射艦ミストラルを派遣する大規模なものとなりました。これに対して29日、トルコ海軍が東地中海において対抗演習を実施、NATO加盟国同士が海軍艦艇にて地中海でにらみ合う異例の状況となっています。
フランス海軍が艦艇を派遣した背景には、トルコ政府が進めるリビアへ接近が挙げられます、ギリシャが欧州と中東を結ぶ海底パイプライン建設を牽制するべく、リビア内戦への介入を実施したのです。これはトルコと排他的経済水域が接するリビアとの関係を強化する事で等距離中間線を地中海に設定し、これによりパイプライン建設を牽制したのです。
リビアを巡るフランスとトルコの緊張ですが、トルコ政府は内戦中のリビアを支援する際、正統政府が所在するリビア西部を支援するのではなく、自国に近く排他的経済水域を設定する事でギリシャを牽制できるリビア政府の反政府武装勢力を支援したのでした。これによりリビア安定化を目指したフランスは態度を硬化し、ギリシャ支援へまわっています。
フランスのギリシャ支援は最新鋭のラファール戦闘機を格安で売却するという状況となっており、ギリシャとトルコの対立はNATOを割り込む勢いともなっています。他方、トルコのエルドアン大統領が親ロシア政策を採った事でアメリカのトランプ大統領がこの問題へ間接的に関与する事となりました。これにより、NATOの亀裂は拡大する懸念がある。
キプロス軍へのアメリカの武器有償供与再開、これは過去30年以上にわたり見合わせとなっていますが9月2日にアメリカポンペイオ国務長官がキプロスのアナスティディアス大統領との電話会談にて発表した指針で、キプロスがトルコ系北キプロスの緊張に晒されているとして、非殺傷的な防衛装備品に限定し再開する方針です。装備名は明らかではない。
NATOがボスポラス海峡を隔てて東西に割れようとしている、この状況はロシアにとってはNATOへ付け入る時機といえるのかもしれません。そしてロシア国防省は4日、東地中海において海軍演習実施を示唆、9月8日から9月25日までの期間において実弾演習を実施する為に船舶航行注意情報を示し、NATOの罅に駆逐艦を派遣する方針を示した構図に。
ロシアのNATOへの圧力は現在、トルコのNATO離間工作に一つの重点が置かれているようで、2018年からはトルコ軍へロシア製広域防空ミサイルシステムS-400の供与を発表、アメリカ製ペトリオットミサイルよりも遙かに長い射程400kmとNATOなどは保有していない長射程のミサイルを輸出しました、ロシア製兵器という部分で不協和音を示した。
現代の兵器システムは汎用輸送車両や小火器などを除けばデータリンクにより能力を最大限発揮するものが多く、部品単位ではなくシステムとして導入する場合は仮想敵国システムを組み込むことはブラックボックスが存在した場合、データリンク漏洩や阻害など悪用される懸念があり、S-400をNATO防空システムに適合するには不確定要素があるのです。
アメリカはトルコのS-400ミサイルシステム導入中止を再三要請しましたが受け入れられず、この対抗措置としてトルコ空軍が導入するF-35戦闘機について、F-35データリンクシステムとS-400を結ぶことは許されないとして引渡しを中止、これによりアメリカとトルコの間に摩擦を生じさせています。またトルコは中東でサウジアラビアとも対立が広がる。
ロシアにとりNATOの離間を進める事はクリミア危機以来一つの課題となっています、こうして間隙のような状況を示しますと、様々な手段により有利な状況を醸成します。もっとも、これが外交という意味ですので間隙を造った方に落ち度があるのですが。しかし欧州の微妙な均衡が崩れる事は極東まで波及しかねません、関心を以てみてゆきましょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
NATO北大西洋条約機構は集団安全保障機構として最も成功した機構である、NATO50周年に際してNATO事務総長が述べた祝辞ですが2020年の今日、NATOが揺らいでいます。
NATOに歪みが生じています、トルコ軍は6日、地中海のキプロス島北部北キプロスにおいて軍事演習を開始、キプロス島北部にはトルコだけが国家承認するトルコ系国家北キプロスが存在し、長年ギリシャとの係争関係にあることから軍事演習の実施にEU欧州連合が強く抗議し、この抗議にトルコのエルドアン大統領は武力行使を示唆、緊張が高まる。
地中海東部では2009年より海底天然ガス田が次々と発見され、欧州外縁の新しい資源フロンティアとして注目されてきました。またギリシャ領のエーゲ海島嶼部は第一次世界大戦前まではトルコ領であった経緯から、歴史的な係争地となって来ました、今回、キプロスにおいての摩擦と並行して、トルコ政府が、かなり緊張を伴う資源調査を実施しています。
ギリシャとトルコはアジアにおける日韓関係以上に緊張をはらんで居るものではありますが、今回の対立は先月12日、ギリシャ領離島沖でのトルコ政府調査船オルチレイスによる海底天然ガス調査により顕在化しました、この調査には3000t級のヤウズ級フリゲイトなど水上戦闘艦艇多数が護衛に参加しており、非常に威圧的な示威行動であるととれました。
この行動に対しキプロスへNATO駐留部隊を派遣するフランスマクロン大統領が懸念を示し、キプロス駐留兵力の増強を発表します。トルコ政府による係争海域での天然ガス資源海洋調査が生んだ対立がさめない中での実施であり、緊張度が一段高まった構図です。この海洋調査に対しギリシャはEU共通安全保障政策に基づく海軍合同訓練で応えました。
地中海での合同訓練はギリシャ海軍、フランス海軍、イタリア海軍、キプロス軍が参加し8月26日から三日間実施、この訓練にはフランス海軍が戦力投射艦ミストラルを派遣する大規模なものとなりました。これに対して29日、トルコ海軍が東地中海において対抗演習を実施、NATO加盟国同士が海軍艦艇にて地中海でにらみ合う異例の状況となっています。
フランス海軍が艦艇を派遣した背景には、トルコ政府が進めるリビアへ接近が挙げられます、ギリシャが欧州と中東を結ぶ海底パイプライン建設を牽制するべく、リビア内戦への介入を実施したのです。これはトルコと排他的経済水域が接するリビアとの関係を強化する事で等距離中間線を地中海に設定し、これによりパイプライン建設を牽制したのです。
リビアを巡るフランスとトルコの緊張ですが、トルコ政府は内戦中のリビアを支援する際、正統政府が所在するリビア西部を支援するのではなく、自国に近く排他的経済水域を設定する事でギリシャを牽制できるリビア政府の反政府武装勢力を支援したのでした。これによりリビア安定化を目指したフランスは態度を硬化し、ギリシャ支援へまわっています。
フランスのギリシャ支援は最新鋭のラファール戦闘機を格安で売却するという状況となっており、ギリシャとトルコの対立はNATOを割り込む勢いともなっています。他方、トルコのエルドアン大統領が親ロシア政策を採った事でアメリカのトランプ大統領がこの問題へ間接的に関与する事となりました。これにより、NATOの亀裂は拡大する懸念がある。
キプロス軍へのアメリカの武器有償供与再開、これは過去30年以上にわたり見合わせとなっていますが9月2日にアメリカポンペイオ国務長官がキプロスのアナスティディアス大統領との電話会談にて発表した指針で、キプロスがトルコ系北キプロスの緊張に晒されているとして、非殺傷的な防衛装備品に限定し再開する方針です。装備名は明らかではない。
NATOがボスポラス海峡を隔てて東西に割れようとしている、この状況はロシアにとってはNATOへ付け入る時機といえるのかもしれません。そしてロシア国防省は4日、東地中海において海軍演習実施を示唆、9月8日から9月25日までの期間において実弾演習を実施する為に船舶航行注意情報を示し、NATOの罅に駆逐艦を派遣する方針を示した構図に。
ロシアのNATOへの圧力は現在、トルコのNATO離間工作に一つの重点が置かれているようで、2018年からはトルコ軍へロシア製広域防空ミサイルシステムS-400の供与を発表、アメリカ製ペトリオットミサイルよりも遙かに長い射程400kmとNATOなどは保有していない長射程のミサイルを輸出しました、ロシア製兵器という部分で不協和音を示した。
現代の兵器システムは汎用輸送車両や小火器などを除けばデータリンクにより能力を最大限発揮するものが多く、部品単位ではなくシステムとして導入する場合は仮想敵国システムを組み込むことはブラックボックスが存在した場合、データリンク漏洩や阻害など悪用される懸念があり、S-400をNATO防空システムに適合するには不確定要素があるのです。
アメリカはトルコのS-400ミサイルシステム導入中止を再三要請しましたが受け入れられず、この対抗措置としてトルコ空軍が導入するF-35戦闘機について、F-35データリンクシステムとS-400を結ぶことは許されないとして引渡しを中止、これによりアメリカとトルコの間に摩擦を生じさせています。またトルコは中東でサウジアラビアとも対立が広がる。
ロシアにとりNATOの離間を進める事はクリミア危機以来一つの課題となっています、こうして間隙のような状況を示しますと、様々な手段により有利な状況を醸成します。もっとも、これが外交という意味ですので間隙を造った方に落ち度があるのですが。しかし欧州の微妙な均衡が崩れる事は極東まで波及しかねません、関心を以てみてゆきましょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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