◆東日本大震災直前に検討した事項
東日本大震災以降、全国に自衛隊を一律に配置する基盤的防衛力を見直し、機動力を増強する動的防衛力への転換という議論は、将来の脅威に対処できない、として一旦終止符が打たれました。
全国に均一に部隊を配備するということは、特に専守防衛を国是とする我が国においては周辺自治体との連携体制や陣地構築などに備えての地誌研究といった地域に密着しての基盤を構築することが必要です。しかし、例えば第七師団と第二師団のような機動打撃部隊のみで編成した軍団、もしくはイラク戦争時代の米軍機械化師団のような部隊を北海道、本州、九州に配置し、中央即応集団にあたる機動性の高い部隊を東日本地区と西日本地区、南西諸島地域に配置し首都防衛集団のような部隊を編制することが出来るのならば、動的防衛力の意義はある程度あるのではないか、前者の場合戦車だけで1000両、後者の編成でも戦車だけで800両が必要になるのですが、考えたことはありました。
こうした場合、地誌研究や自治体との協同基盤醸成という普通科連隊が担った運用をどう置き換えるか、ということで、考えたわけです。一つは自治体との連携体制は地方連絡部の地方協力本部への強化というすでに実施されている方向性、地方協力本部長には連隊長相当の指揮官が充てられることが多いのですから、方策としてはありえたわけです。そして地誌研究についてですが、東日本大震災以前の日本において、当方が考えた施策としては、普通科連隊を基本的に警備隊で置き換えてはどうか、ということでした。
警備隊、対馬警備隊のような編成です。対馬警備隊は本部中隊と普通科中隊一個、そして駐屯地業務隊の機能を備えた後方支援中隊を基幹として編制、300名程度の部隊となっています。本部中隊を有している背景には、対馬警備隊は即応部隊として一個普通科中隊を有していますが、必要に応じて九州からの増援部隊を受け入れた場合に指揮能力を十分発揮するためには普通科連隊並みの本部中隊が必要、という配慮に基づき行われている施策です。
本部中隊ですが、普通科連隊の倍にも本部中隊は本部班、人事班、対射撃班といった本部機能に加えて、情報小隊、通信小隊、輸送小隊、衛生小隊、管理整備小隊、施設作業小隊が編成に含まれているとのこと、十年以上前の話ですので現在では異なっているかもしれませんが。情報小隊は斥候などにあたる部隊ですが、第七師団の戦車連隊や普通科連隊には偵察警戒車が装備されている事例があります。また、施設作業小隊は師団施設大隊の支援を受けずとも簡単な設営作業は行える能力が付与されています。加えて、旅団普通科連隊の本部中隊には連隊が重迫撃砲中隊を輸さない旅団普通科連隊の編成にあって、重迫撃砲小隊を有している事例があり、防空能力こそ携帯SAMだけではありますけれども、その能力を甘く見ることはできません。
警備隊を導入した場合対馬警備隊のような基本として一定以上の状況に際しては支援があるという前提ではなく、動的防衛力である機動運用部隊の展開までの即応能力と、一定の運用を介しての地誌研究をいう目的のもとに仮に警備隊として独力での能力を強化するのでしたら、例えば情報小隊に87式偵察警戒車2両を配置する、重迫撃砲小隊として120mm迫撃砲三門を置く、という手法はあってしかるべきでしょう。これら装備により、万一の際の維持能力はかなり高いものになりますし、この種の装備の運用への教育訓練体系の構築という意味合いもありその意義は大きいです。
普通科中隊は、諸外国の歩兵大隊の基幹部隊としての歩兵中隊ではなく、連隊の基幹部隊としての中隊という位置づけにある日本では、その編成は大きく、中隊本部に加えて、四個小銃小隊、迫撃砲小隊、対戦車小隊を基幹としています。小銃小隊も軽装甲機動車の配備が進むにつれてその能力は大きく、小隊本部と小銃分隊、機関銃分隊、対戦車分隊で7両の軽装甲機動車を運用、7両といいますが、並ぶと中々の威容でして、機関銃分隊のMINIMIはともかくとして対戦車分隊に装備される01式軽対戦車誘導弾は射程1500m、侮れない威力を持っているということ。
加えて、現在の87式対戦車誘導弾の後継として普通科中隊の対戦車小隊には中距離多目的誘導弾が配置されます。96式多目的誘導弾システムほど射程面での柔軟性は、データリンクを掃討充実させない限りありませんし、部隊規模での制圧能力にも差異があります、システムではなく誘導弾ですから、ね。しかし、この装備近代化により、87式とくらべれば、もちろん可搬性だけでみますと人力搬送が出来なくなっていますが、射程や運用面で大きく向上しました。81mm迫撃砲の射程も大きくなっていますし、中隊火力は一頃と比べ大きくなっていますから、一個中隊と侮ることもできません。
しかし、大きな難点があります。置き換えるべき普通科連隊は30以上、地方協力本部との連携を考えての都道府県を考えた場合地域の大きさもありますが50以上となる可能性もあり、300名以上の警備隊を30創設すれば一万前後の人員が必要となり、50とすれば乙師団二個分に匹敵する人員が必要に。こうしたなかで、動的防衛力にあたる重装備部隊を本当に充分確保する予算を捻出できるのか、ということ。機動運用部隊として三個機甲師団・三個機械化師団、そして軍団直轄火力、支援集団に二個即応集団。直轄部隊として首都防衛集団、警備隊を30から50個。必要な戦車は、装甲戦闘車は、装甲車は、自走高射機関砲は、自走榴弾砲は、ヘリコプターは、と考えると、やはり相当な予算的裏付けがなければ不可能でしょう。
十年ほど前には、機甲師団一個を除いた師団を全て旅団に置き換えた上で三個旅団と直轄機動打撃群を基幹とする大型の師団五個を編成、この師団と基幹として三個方面隊に再編して、方面航空部隊を集約した航空混成団を三個編成して、ということも考えていたのですが、現在の自衛隊の編成が相当熟慮に基づいて、編成されていると聞きますと今の編成が一番なのかなあ、とおもったりしていました。こうしたなかで防衛計画の大綱に動的防衛力、という概念が出たため構想してみました。もっとも、東日本大震災により基盤的防衛力を主として動的防衛力を構築する、基盤的防衛力の動的運用、という運用しか現時点ではありえない、ということにより、掲載は遅れに遅れてきたのですが。むずかしいものです。
北大路機関:はるな
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