◆装備品を確実に運用するために必要な事項
F-35が次期戦闘機として決定しましたが、この決定から生じる今後の検討課題について少し触れてみましょう。
まず、この決定により日本の航空防衛産業は、例えばT-4練習機後継機約200機の開発を加速させるなど必要な措置を取らない場合、非常な危機にさらされることとなります。予備部品、航空自衛隊仕様機の維持や運用継続に必要な、しかし日本でしか既に生産しておらず、構成部品や部品の素材等と同一のものは海外から供給することが基本的に不可能で、行うとすれば非常に多くの予算を必要とする分野であっても、F-35の製造は日本では行われないのですから産業そのものとして撤退されてしまう、現実の問題として受け止めねばなりません。
筆頭は、F-4を継いで航空自衛隊の主力戦闘機という位置づけに或る約200機のF-15です。航空自衛隊は明確な防衛産業への意思表示として、F-15を西暦何年ごろまで運用するのかを明示していません。防衛産業としては、もちろん国営偉業ではなく営利企業として存続しなければならないのですから、無駄な生産部門や部品在庫は極力省かなければなりません。しかし、戦闘機が必要であり、42機の取得と運用基盤構築に1.3兆円を要するというF-35を、F-15の運用支援がなくなったからという理由で200機調達する余裕は日本にあるのでしょうか。
必要となる視点は運用計画の透明化とそれを見越した整備支援計画の作成と、企業との間d結ぶ長期整備契約です。毎年毎の入札方式では、技術力が必要水準に達していなくとも、数枚に纏められた要求水準のみを満たしているというだけで、総合能力で対応することが出来ない企業の参入は避けなければなりません。このためには、短くとも五年単位、可能であれば十年単位で予備部品の調達と運用支援や重整備、定期整備にかかわる企業側の負担部分を明確化させ、そのうえで今後五年間、今後十年間の戦闘機運用基盤、というものが維持されるべきです。
特に、日本の自衛隊装備品は諸外国のものと比べ高い、という誤った認識が一部自称識者の論調により印象付けられています。ただ、戦闘機約300、大型水上戦闘艦約40、潜水艦約20、回転翼哨戒機約100、固定翼哨戒機(含情報収集機)約100、輸送機約50、戦車700、火砲600、その他多数のヘリコプターと装甲車に加え、弾道ミサイル防衛システムと防空監視体制を広大な国土に配置し防衛警備している組織として、現在の予算水準と比べた場合、非常に低い予算により実施されていることは忘れてはならないと考えます。
忘れてはならないのはAH-64D戦闘ヘリコプターの60機取得を明言し、しかし予算不足と当初の運用計画の見積もりの稚拙さから11機で調達修了するという方針を打ち出し、生産基盤を構築した富士重工に大損害を与えた事例です。政府は明示された契約に無いと約束を一方的に反故にしました。これを民間企業が契約先に行えば違法、逆に防衛産業が一方的に支援を打ち切り損害が生じれば大問題です。国は約束を反故にする、明示されたものではなく違約金を含め契約を締結しなければ信用できない、こういう印象を植え付けてしまいました。
結局のところ、主契約企業と共に、どれだけの機体をどれだけの期間で導入するのか、また何年程度運用する計画があるのか、既存の航空機の運用計画はどの程度か、それに要する予算はどの程度なのか、随意契約ではなく五年や十年の一括契約で結び、そのうえで付帯項目として最終的に何年間の運用を計画するのか、ということを示さなければ、今後日本の防衛力を今の予算規模を大きく超えない範囲内で維持すると言うことは不可能でしょう。日本のこれまでの契約方式とは若干離れることですが、検討は必要だろう、と考える次第です。
北大路機関:はるな
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