北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

軍事検証:ガールズ&パンツァー【6】 最終回・・・戦車大隊長への遠い道のり

2016-01-21 22:31:04 | 映画
■戦車大隊長への遠い道のり
 戦車道の試合では大規模な場合、劇中に30両vs30両の戦車戦闘が描かれていました、30両といえば実質的に戦車大隊の規模です。軍事検証:ガールズ&パンツァー、最終回はこの視点について考えてみましょう。

 戦車長、指揮官となりますので戦車長養成もまた長い時間を要するものといえるでしょう、また戦車の数が6両を越えた場合は一個小隊とするには規模が大きくなる過ぎるので、小隊を二個に分ける必要が出てきます、この場合はもう一人小隊長が必要となるのですが、その養成にもやはり時間がかかります、勿論、ガールズ&パンツァーの世界では10両以上の戦車、場合によっては30両の戦車を一つの部隊で運用する事がありますが、こうなりますと中隊長と大隊長を養成する必要があります、すると指揮官養成と調整しなければならない。

 指揮官としての素養養成分野やその規模の戦車が参加する事での戦術体系の複合化はより一層強くなりますので、このように戦車を動かすことは簡単でも、戦車が戦車としての能力を、戦車同士が連携して戦車部隊としての能力を発揮できるような体制の構築は非常に時間を要するのです、ガールズ&パンツァーの世界において、実際の戦術と戦車道の違いが顕著だな、と思う点はあくまで競技であり、戦争ではない、サンダース学園のケイさんも劇中で仰っていた言葉ですが、この点から複雑な戦車の描写をかなり軽めている点に気付かされます、戦車中隊長や戦車大隊長への道のりは遠いのです。

 それは、彼我戦力が試合開始の時点で明確となっている事から、実戦では非常に難しい相対戦力見積の難易度が払拭されていますし、砲兵が、劇場版では別としまして、間接照準射撃を行う脅威を考える必要がありません。また、全国大会では砲弾数が決まっているとの話でしたので、弾薬補給も想定しなくとも対応出来る事でしょう、更に二次創作の世界では“女子は戦車道、そして男子は、対戦車道!”と往年の名画が紹介されていることで知られるのですが、戦車道の世界では試合に歩兵が存在しませんので、このあたりは考え易く設定しているのでしょう。

 演出の限界といいますか、整備補給の面で多種多様な戦車を一つの部隊に置くことは非常に非効率ですし、戦車砲の初速と射程が全部違っている場合は小隊集中火力の利点を全く発揮できませんし、戦車部隊としての連携は機動力に格差があれば全く生かせず、早い快速戦車や軽戦車が先に第一線に到達し結果的に戦力逐次投入となる危惧や、そもそも整備補給体系と戦術教育など部隊としてまとめる事は出来ません、無論過去の末期戦では雑多な戦車を集積し防御戦闘に効力を発揮した事例は無くもないのですが、これは歩兵火力や防御陣地との連携の一部に戦車としての能力の一部を限定的に活かしただけのもので、やはり戦車部隊として機能しません、これはあらゆる戦車部隊の編成が最大限車種の統一を指向している事に表れています。

 ただ、アニメーションで戦車がこれまでにない水準で描かれていまして、そちらの技術には驚かされます、戦車は駆動部分が多く、セル画方式の作画では永らく描くことが出来ないものとされてきました、妥協しますと“アニメンタリー決断”のような止め絵と砂塵などで隠す演出主体となってしまうものでした、戦車の描写は現場対立も招くもので、その昔、テレビ版ルパン三世最終話に74式戦車を登場させようとしたところ、作画側が履帯の駆動動作を描くことは不可能として、演出と作画の深刻な現場対立となり、結局当時74式には無かったサイドスカートを追加し、履帯の描写を少なくすることにて妥協しました。

 それが2010年代には、CGの発展により旧式戦車も滑らかな動きにて描写できていることは驚かされました、東映の劇場アニメーション“FUTURE WAR 198X年”では戦車が頑張って描かれていまして、こんな内容描けるか辞めてやる、と労組と制作側の対立はありましたが、全体はさておき、劇場アニメーションであればこその戦車の水準でもありました、しかしそれにしても今日的視点からは少々難色があり、全体はさておき、限界を考えさせられるものです。そのあたりを技術で解決したガールズ&パンツァーは、技術の進歩を感じる事が出来る作品といえるでしょう。

 ガールズ&パンツァーはこうした戦車がある、という認識を得るには興味深い作品ですが、戦車を実際に運用する方には違和感があるという方もいらっしゃるようで、それは戦車のむずかしさを知っている故のものだといえるでしょう、他方、戦車が主役の映画“フューリー”が公開されたさい、なかなか戦車運用の視点からは幾つか留意点があるのですが、当方の知っている方で戦車乗りの方は、大絶賛でして、さてあの展開であの判断は如何なものか、と問うてみましたらば、うむ俺が戦車長ならばね、と更に熱く語ってくれました。

 その上で視線とは様々なものがあり、戦車乗りだからこそ深い知識と経験故のお話を聞けました、上から視点で語る方々、嬉しそうで羨ましかったですね、こうしてみますと、一歩引いてみますか、エリカは不憫、と異なる視点から見てみる、またはヒロイン中の人が同じ、蒼き鋼のアルペジオ、のように見た目は従来装備でも中身が完全別物、であればSF作品として更に広く受け入れられたのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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軍事検証:ガールズ&パンツァー【5】 戦車部隊は下士官の部隊、戦車はチーム戦車長は指揮官

2016-01-20 23:31:59 | 映画
■戦車部隊は下士官の部隊
 戦車部隊は下士官の部隊、本日は戦車長を取り巻く様々な責務と任務についての難しさを挙げてみます。

 ガールズ&パンツァーではそこまで描かれていませんが、戦車部隊は下士官の部隊と呼ばれ、特に自衛隊行事等で戦車の観閲行進を見ますと、戦車連隊が大量の戦車を出した場合でも複数戦車大隊が駐屯する駐屯地でも、車長に陸士の方は見えません、OBの方には陸士の方がいた、という話ですが、よく聞けば陸軍士官学校出身者とのことでした。それだけ戦車長の養成は難しい。戦車の戦闘距離ですが、ガールズ&パンツァーの世界では長射程の高初速戦車砲を装備する車両が出てきますので、現用戦車程大きくなくとも戦闘照準1500mで攻撃を仕掛けてくる事例は当然あります、戦闘距離900m程度が現実的な交戦距離となるでしょうが、砲手は京都駅に立つ距離ならば北は東本願寺北方の代ゼミ周辺に西方向では梅小路機関車博物館付近までと東側では鴨川の対岸京阪本線を越えた付近まで警戒しなければならないでしょう。

 更に陸上戦闘において戦車は最高度の打撃力と機動力に防御力を備えた装備ですのであらゆる装備から狙われる装備です、戦車長はこれら脅威から戦車を防護しつつ、攻撃や防御の必要な判断を下さなければなりません、戦車部隊は下士官の部隊、と表現される事がありますが、これは戦闘単位である戦車の戦車長に求められる判断力の大きさを意味するのかもしれません。ガールズ&パンツァーの世界観、現役戦車乗りや機甲指揮官の方の中で難色を示す方の背景には、戦車長を養成するのにくじ引きやノリで決められるほど戦車戦闘は甘くない、というものがあるのかもしれません。

 戦闘照準、戦車戦闘において目標までの距離を正確に測量することは待伏せる状態ならば兎も角、レーザー測距装置が無い時代には戦車が動きながら測距することは現実的には無理です、やって成功した、という話は聞かないでもありませんが、オフロードを走行中の自動車で丁寧に毛筆の手紙を記す程度の困難さがあります、そこで戦車長が地形などと目標を元に平均的な戦闘距離を戦闘が始まる前に画定しておき、砲弾も初速から徹甲弾か対戦車榴弾かを決め、諸元を予め計算しておく方法があります。ただ、この場合は、戦車が機動する範囲から、相手の交戦距離、そして機動力と双方の戦術を見積り、判断しなければなりません、地形を読む、とは簡単そうに聞こえるものですが、地形と彼我の戦術、実際に相手がどのように動くかの見積も彼我の装備と戦術体系の差異から非常に難しいものがあります。

 戦車部隊は下士官の部隊、戦車長の任務は戦車というチームの戦闘指揮ですが、戦車が小隊規模で行動する事が基本です、戦車が一両一両分散して運用するという状況は斥候や機械化歩兵部隊と連携する際や交差点など治安警備任務等ではあるのですが、対戦車戦闘では小隊行動が基本となります、自衛隊の場合は小隊長は幹部自衛官が充てられまして小隊長の技量がどの程度あるのかを小隊のベテランになる古参の小隊陸曹が補佐するのですが、戦車長は戦車小隊の戦車単位の戦車長の一人として、今度は戦車部隊としての連携に対応できるよう指揮できなければなりません。

 有利そうな地形を見つけた場合でも小隊行動と合致して展開する必要がありますし、隣の車両と離隔距離が広がり過ぎますと各個撃破される可能性が出てきますし、凝集しすぎて離隔距離が小さくなりますと一度の攻撃で付随被害を受ける可能性があります、この当たりを判断して視野を広く持つ必要がありますし、自分の戦車だけの動きを把握し掌握すればよいというものではありません、ガールズ&パンツァーは勿論さまざまな作品と幾つかの戦車映画、例えば近年のフューリー等では画面の絵のために戦車が凝集しすぎる部分がありますが、ここにも首をかしげる部分があります、とある著名な軍事評論家の方の表現をそのまま使いますと、そもそも戦車戦というのは基本お互いが見えない状態で戦うからね、と云われました。

 ガールズ&パンツァーの世界観では戦車道という協議のための戦車が戦闘用の戦車とは別に存在しているという世界観ですので、歩兵や砲兵、砲兵に関しては劇場版での扱い等で差異が生じつつあるようですが、実際の戦車では歩兵の近接戦闘の範囲に戦車を入れないという運用上の留意点がありますし、また戦車単体では戦闘任務を遂行できませんので戦車と歩兵の連携や砲兵との前進観測との連携などが戦車長の任務、戦車小隊長の任務に含まれてきます、この諸兵科協同という任務も非常に難しい。

 先任戦車長の任務は意外と多岐に及びます、例えば小隊において小隊長が指揮を執れない状況に陥った場合には指揮を継承し部隊を掌握しなければならず、その為には地形の見通しとその上の中隊規模の部隊運用や他の諸部隊との連携も視野に含め、その上で部隊が任務遂行可能なよう指揮を両立させなければなりません、戦闘に補給と上級指揮官の指示を仰ごうにも無線機を多用すれば傍受されるのは常識で併せてさらに多用すれば標定され位置を暴露します、非常に複雑ではありますが、戦闘とは人と人が所属する社会単位である国家の極限状態の終末点において生じるものであり、その一分野である以上複雑となる事はある意味当然ともいえるでしょう。


北大路機関:はるな くらま
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軍事検証:ガールズ&パンツァー【4】 戦車の高度な戦闘照準と戦車全体を指揮する戦車長

2016-01-19 22:41:22 | 映画
■戦車の高度な戦闘照準
 戦車の照準は飛翔する砲弾を目で追っての寸秒の戦い、としました。実際にはそれ以上に初期の戦車などは照準器性能が低く更に難渋する事もあった、という事を留意点としておくべきでしょう。

 戦車射撃はここまででもかなり高度な能力を求められるような印象を与えますが、相手戦車が動いている場合が大半で移動目標射撃を確実に達成できるようになってようやく一人前の入り口です、が、ここで目標までの測距作業が極めて重要となります、戦後第一世代戦車の徹甲弾初速は1000m/s程度、戦闘照準1000mで射撃する場合は弾着まで1.5秒ありますから、目標が30km/hで真横に移動している場合は7m近く移動します、戦車の全長を考えると其処まで大きな誤差があっては命中しませんので、戦車の前方3m程度の距離を照準しなければなりません。

 相手戦車はこちらの射撃を瞬間的に発砲焔で確認し急制動と回避行動を執った場合、命中しない可能性がありますし、地形によっては急に速度が変わったりもします、戦闘距離が500m以下ならばここまで修正距離は大きくならないでしょうが、あっという間に間合いを詰められるので、距離を置く執る必要があるのですが、距離を遠くとれば砲弾が磁力の影響を受けて落下しないよう見越しを採る必要と相手が高速で回避行動を執った場合には命中しにくくなります。

 戦術機動に際しては瞬間に相手が短停止することがありますが、その行動の意味は短停止射撃を行う瞬間ですので、相打ちに追い込まれる可能性も出てくる、戦車射撃はやはり難しいですね、90式戦車と10式戦車に機動戦闘車は目標自動追尾装置が採用され便利になりました、目標をロックオンすると自動追尾し見越し線を採って射撃してくれます、高級ですので採用しているのはメルカヴァMk3/Mk4など世界でも限られますが、便利になりました。

 正確な射撃には正確な戦闘距離を測距しなければ達成できません、74式戦車以降であればレーザー測距装置で誤差0.05%の距離を測距できるのですが、第二次大戦中と戦後第一世代戦車までは測距が大変でした、そもそも世代によっては測距を考えていない照準器の時代もありましたが、第二次大戦末期の時点で採用された最新鋭の照準技術が測距にスタジア方式、ドイツではシュトルヒ方式とよばれましたが、照準器の目盛に対して目標物、例えば全幅3mの戦車がどの数値で映るのかを瞬間で計算し距離を標定しました、街頭などで三脚の上の測距装置を持った計測員さんと紅白の基準棒をもった計測員さんが測量を行っていますが、原理的にはあれと同じものです。

 正確な測距には第二次大戦末期の戦車と第一世代戦車の場合には外装式若しくは搭載型の倒像合致式測距装置を用います、蟹の目のような砲隊鏡やロケットランチャーのような筒の両端にロケットランチャーでいうところの側面部分両端にレンズがついていて測量する装備で、上下に鏡像が投影されていて、距離を上下の鏡像が合致するよう操作する事で操作した修正量に応じて距離が分かります。

 機能としてはカメラのレンジファインダーカメラ機能、誤解を恐れずに説明すれば通常の一眼レフでもオートフォーカス機能においてピントが合うまでのレンズの回転数から距離を算出するというものと技術的には延長線上にあります、最初から測距して待伏せない限り正確な測距を第一線で展開する事は難しいのですが、第二次大戦中は小隊収集射撃を行う事で低い命中精度を補っていました、同型戦車が一個小隊4両から5両と同時に同一目標を射撃すればそれだけ命中する確率が高くなる、わけです。

 戦車長、砲手から戦車長になりますと戦車を指揮する立場です、が戦車は敵を先に見つけなければなりません、相手は錯綜地形や障害物に身を隠して前進しますので、適した地形と乗員の練度を念頭に必要な行動を必要ならば命令し以心伝心の高練度を目指さなければなりません、しかし、相手を見つけるという単純作業が大変なのです、現代戦車では交戦距離3000mが普通、3000mの交戦距離といえばJR京都駅新幹線ホーム付近から阪急河原町地上部分と撃ちあうようなもの。

 しかし敵戦車の接近方向が確実にわかるならば兎も角油断していると全然違う方向からの脅威がでてきます嵐電大宮駅の当たりから射撃が加えられるかもしれません、油断せず前方を警戒していても今度は包囲機動した敵が京阪伏見稲荷駅あたりから撃ちこんでくる可能性がありますし、砲手は見えているものだけを警戒する訳にはならないのです、そこで戦車長からの目標指示を受けて素早く照準し、また戦車長が警戒を促す方向を直感的に認識して警戒しなければなりません。

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軍事検証:ガールズ&パンツァー【3】 戦車戦闘を勝利に導く砲手の練成と戦車設計思想の発展

2016-01-18 22:40:34 | 映画
■戦車砲手練成
 戦車を戦場にて動かすことだけでも難しいのですが、戦車戦闘は動くことだけでは何も始まりません、そこで砲手の練成が重要となる。

 戦車戦闘、素早く照準し素早く命中させる、砲手の任務はここにあるのですが、ZMB照準訓練を行い即座の照準動作へ完熟を期します、ZMB照準とは簡単に言えば照準器をアルファベットのZ字M字B字に沿って照準器の中心点に照準してゆくもので、素早く正確に目標の捕捉を期したもの、文字に沿って照準させる訓練方法は日米ともに戦時中戦前から行っていたという。

 初期の戦車では戦車砲が軽量であったものに限って方で砲尾を押し上げ押し下げ突き動かして操行するものもありましたが、ZMB照準方法は主として高低ハンドルと左右ハンドルを操作するものです、簡単ではありますが戦車が駆動している場合や目標が移動している場合を想定し照準する事に必要な動作です、鳴門巻照準や2πr照準など複雑な操行を素早く正確に行うには、右利きの人が左で習字する程度に簡単といい、簡単そうだが慣れが必要、という意味を端的に示しているようです。

 砲手ですが、現在でこそ戦車長と砲手に装填手という区分が確立しているのですが、初期の戦車では砲手の照準作業を車長が担っていた時代が、あるだけではなく主砲弾が小口径砲であった時代などは一人用砲塔、つまり車長が装填から照準までこなさなければならなかった時代もあります、索敵し操縦手を指揮と僚車との連携を採りつつ装填し照準し射撃し次の目標に警戒する、戦車設計の発展がひと段落するまで、照準は非常に大変でした。

 砲手の仕事は命中させる事ですが、照準を迅速に対応できるようになったとしてもそのまま射撃しては、相当な至近距離でなければ命中しません、ボアサイト作業、つまり照準規正を行わなければ、照準線と主砲の延長線が離隔していますから命中しないのです、戦車用標的は大きなものですが主砲と照準器の離隔距離である数十cmが離れて命中すれば標的の中心を離れます、そこで照準器と主砲を一定距離で交わるように調整を行う訳です、これは想定交戦距離に応じて画定するもので1500mから2000mや3000m程度で照準するのです。

 先ずこの作業は1500mなり3000mなり遠方にボアサイト目標を立てるところから始まります、主砲の先端に針金や糸にて十字を結べる溝が掘ってあるのが74式戦車などで明確に目ますが、これはボアサイト作業用のものなのですね、主砲の十字が肉眼で見た場合に距離に応じた先のボアサイト目標を中心に狙う状況で照準器の中心点もモアサイト目標にも合致するよう調整するわけです、こうすることで照準器と主砲が完全に一致する訳ですが、主砲弾は当然地球の重力を受けるわけで射撃後放物線を描いて落下します、ここを距離に応じて角度を付与し照準する事で初めて遠距離照準と命中を合致させられる。

 砲手は命中しなかった場合即座に修正して次弾で確実に撃破しなければなりません、相手がどんな間抜けであったとしても射撃を受ければ気づきますので回避王道を採ると共に対戦車戦闘ならば敵戦車がこちらに照準し戦車砲を撃ってきます、二発目で命中しなければ相手の一発目が命中する事になるのですが、現用戦車の場合2000mでの初弾命中精度が95%といわれますので、二発目が外れたらば、まず助かりません、戦後第一世代戦車は戦闘距離900mでも命中精度90%程度、第二世代戦車は2000mで命中精度50%という目安でした。

 初弾を外した場合どうするか、砲手は照準器で射撃直後から命中まで砲弾を追尾し、命中するか左右上下手前どこに外れたかを目で追うとの事、第一世代戦車の900mと第二世代戦車の2000m、ともに戦車砲弾は一秒少々で命中しますが真後ろから砲弾は空気摩擦熱で光を放ちつつ飛翔しますので寸秒という文字通り一瞬ですが、目で追う事が熟練砲手には可能となるということ。

 それならば照準器から目を離さず砲弾を追尾すれば、と思うやもしれませんが射撃と共に車体が制動でおおきく揺れますので照準器に目をつけていたらば打撲傷を顔面に負って爾後の戦闘に支障をきたします、ですから射撃の振動を逃がした刹那命中するかを照準器で追う、初歩の砲手は命中したかどうか確認に失敗することも多いようで熟練すると命中する前に撃った瞬間分かるという、仮に命中したとしても砲手は振動でずれた照準点を再度修正し、もう一度狙いつつ車長から次の目標指示に備える、これが砲手に求められる能力です。

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軍事検証:ガールズ&パンツァー【2】 戦車乗員の基本、戦車を動かす難しさと大戦期の工業水準

2016-01-17 21:44:00 | 映画
■戦車操縦手と戦術機動
 昔の戦車は大変でした、とはどの戦車乗りも昔の戦車に乗車している方から聞く話、M-41の時代は良かったらしいのですが。

 ガールズ&パンツァーの世界では簡単に動いた戦車、アクセルを踏み込んでエンジンを吹かせばエンジンの回転数を上げましたらば、多少の無理はきくのですが、瞬間的に白煙が大きく上がります、潤滑油が蒸散して白煙を噴き上げただけで車体そのものには影響は無くエンジンが焼け付く前にアクセルを緩めれば何も問題はありません、しかし白煙は十数mの高さまで簡単に上がる為、地形によっては数km先からも戦車の位置が暴露してしまいます、それでは戦術機動として落第点、実戦ならば砲弾落下、というところでしょう。

 しかしエンジンを吹かし過ぎたかと異音を警戒して出力を緩めれば簡単に失速停止、敵前での戦闘機動中に停止すれば即命中撃破間違いなしです、自動変速装置やせめてシンクロナイザーの冗長性設計余裕もしくはシャフト部分にクラッチドラムを追加する事でかなり変速機の使い易さが向上するのですが、そこまで考慮しているかとは戦車沿うううへの設計者の技術的真価を経てというものですから、兎に角第二次世界大戦中から場合によっては1960年代まで世界には前に勧める事は出来ても戦術機動が難しい戦車というものが意外にあった訳でして、これは留意点とすべきやもしれません。

 もっとも、戦車というものはその国の工業水準が極限状態で厳正に表面化しますので、点火プラグの寒冷地性能不足やバッテリー精度の低さから、エンジン点火操作を行った場合でも点火しない、バッテリーの寒冷地性能が低すぎる為、寒冷地ではバッテリーを屋内に収容しバッテリー格納位置が過度な温度低下とならないよう炭火等で熱した、など様々な苦労話がありまして、バッテリー一つの脱着も注油作業等に地上整備も古くなれば古くなるほど大変で、グリスアップ作業が戦車運用のかなりの部分を占めていた、とも。ガールズ&パンツァーの世界、バッテリーくらいならば21世紀の信頼性があるものに切り替えられているのかが、少々気になるのは当方だけなのでしょうか、ね。

 ガールズ&パンツァーではあまり触れられていませんが大事なことは、戦車は戦車長が指揮するものです、自動車ならば全ての主導権を握っているのは運転手ですが、戦車では操縦手は入門者の第二段階に過ぎません、戦車の機動は照準し敵戦車を撃破するためであり退避し敵戦車や歩兵対戦車火力から位置を暴露しない為の戦闘動作の一つなのです、故にまず操縦手は車体の下の方に操縦席を充てられ視界も十分ではありません、一番見晴らしのいい場所は全体指揮と索敵に車長が位置し隣に砲手が戦車砲の番人として構えている為です。

 戦闘状況以外ならば操縦手は身を乗り出して操縦できますが戦闘時は密閉操縦として車内に位置しなければなりません、すると視界が凄く狭い透視窓もしくは潜望鏡、初期の戦車ですとスリットという覗穴から視界を得ます、その中から付近の稜線や窪地と障害物を瞬時に把握し地面に藪か湿地か岩場か崖かを確認しつつ動く必要がありますし、何より車長が発見した敵戦車や敵対戦車部隊をこちらから攻撃するには最適だけれども相手からは見えないし攻撃しにくい場所にピタリと展開させなければならないのです、この周辺の把握を変速機の操作とエンジン回転数に注意しながら同時にこなす、これが非常に難しい。

 戦車乗りに必要な資質とは何か、と問うてみますと、やはりどのような状況にあっても戦車の乗員が最後の一人になった場合に段列地域まで戦車を操縦して戻ってくることです、と云われました、戦車は最後まで戦うのではないですか、と聞いてみますと、下車戦闘として戦車が履帯が破損し主砲なども破損した場合には重機関銃により戦車に留まり最後まで抵抗するとの事でしたし、最後の手段として車載機銃と小銃を手に最後の戦闘を行うとのことですが、それ以前に戦車を後方に持ってゆく事で戦力回復できる状況ならば戦車を後方まで連れて戻る、その為にどの乗員であっても操縦できなければならないのです、と。

 戦車の操縦に習熟するまでに、やはり一年間はかるく要するようです、戦車の動きと戦術機動が一致するまでは戦車長が細かに支持する必要がありますが、完熟すると車長の意志が以心伝心で対応できるといいます、そこで戦車に乗車すると同時にその前の座学では安全法や操縦法等を叩きこまれますので、一人前の戦車乗りの入り口に立つまでに一任期二年間を使ってしまうともいわれます、しかし戦車は、装填手に操縦手を経て砲手になって戦闘に積極参加するようになります、砲手はゲーム新宿WARSのような一人で操作するものでは実感しにくいのですが、戦車の交戦距離がどんどん延びてゆきますと、その距離の索敵が必要になります、現代戦車では交戦距離3000mが普通になってきます、すると砲手と車長の戦車戦闘も、想像以上に複雑になるようです。

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軍事検証:ガールズ&パンツァー【1】 自衛隊機甲科隊員の支持意見と不支持意見の背景考察

2016-01-16 22:15:29 | 映画
■軍事検証ガールズ&パンツァー
軍事検証ガールズ&パンツァー、今回から戦車と現在劇場版公開中のガールズ&パンツァーについて、まず戦車を動かすことなどの面を筆頭に、戦車を運用する点での難易度やアニメーションと実際の戦車部隊などを少しみてゆくこととしました。

ガールズ&パンツァー、その存在を当方が初めて知りましたのは2013年の富士総合火力演習にて配布された朝雲新聞臨時増刊号での広告でした、内容は簡単に説明すればその世界観として、戦車道という茶道や華道などと並ぶ芸事の一翼を担い、淑女の嗜みとして戦車に乗り力強く礼儀正しい女性を目指すとの視点で広く戦車に乗車し戦車戦闘を模擬戦にて競うという舞台があり、主人公の西住みほさんが諸事情から戦車道の強豪校熊本県の黒森峰女子学園から茨城県の大洗女子学園に転校し、そこでの出会いから一時離れていた戦車道へ戻り、仲間たちと、決して強力とはいえない戦車とともに全国大会優勝を目指す、というもの。

この作品は、一般の方にもかなりの関心を集め、ブルーレイ/DVDは各巻35000枚以上もの売り上げを伸ばし大ヒット作品となりました。作品の舞台となった茨城県大洗は多くのファンで土日祝日は旅館が満杯、平日も賑わい昨年末には劇場版が公開、共産党が抗議するほどの活況となりました。ただ、この作品は戦車を扱っている事から陸上自衛隊機甲科隊員からも多くの支持を集め、中には空挺隊員で幾度も大洗に足を運ぶ名物隊員の方もいらすようですが、少なくない隊員の方、聞くところでは戦車乗りで陸幕の一番偉い方を始め、余りにアニメーションとして描かれる戦車に対し簡略化されている、簡単に動かせる誤解を与えているとの視点から批判を集めている事も確かなようです。

そこで今回から数回に分け、そもそも戦車を動かす事とは、というものをかなり省略してですが紹介してみる事としました。戦車、打撃力と機動力に防御力を兼ね備えた陸上装備の頂点に立つものです、機動打撃を行う場合には攻撃衝力の骨幹を担い、防御戦闘では最大の脅威である敵戦車を高度な監視手段と戦闘能力で撃破する、しかしその分複雑です、現用戦車はかなり自動化されているのですが、古くなれば古くなるほど難しい、戦車なんてバーっと動かしてバンバン撃てばいい、とはガールズ&パンツァーに搭乗した富士学校の戦車教導隊蝶野1尉のお言葉ですが実際はどうか、戦車を動かすことは誰にでもできるものです、しかし戦車を戦闘車両として運用するために戦術機動する事と運転して動かすだけというものは完全な別物です、とは元戦車乗りのお言葉です。

特にガールズ&パンツァーの世界では協議に第二次世界大戦終戦までに完成した戦車であればどの戦車を用いても良いとのルールに基づく戦車を運用するため多種多様な戦車が入り乱れています、様々な戦車を見られるというところがガールズ&パンツァーの作品ではあるのですが、操縦方法も全て個性と利点欠点があり、古い戦車程動かすに利用できる技術が限られています、第二次世界大戦末期の戦車にはM-24,富士駐屯地や東千歳駐屯地に練馬駐屯地等に展示されているものですがオートマチック変速機を用いる戦車も完成しているのですが、これは例外で戦術機動するだけでも相当な技術と慣れが必要というものが大半でした。

戦車の乗員ですが、狭き門を越えて戦車部隊に配属されたとして戦車部隊には多数の支援車両や装甲車両が配備されています、そして戦車に配属されますと、戦車は基本的な戦車で装填手と操縦手に砲手と車長が配置されており、最初は装填手から厳しい戦車の道が始まります、装填手は砲弾を戦車砲に装填する職務ですが、整備補給や警戒など手空きの際には他の乗員を補佐します、OJTというようなかたちで次の操縦手まで慣れてゆくわけですね。

戦車砲も徹甲弾に対戦車榴弾と発煙弾など様々な砲弾を搭載していますので、弾種徹甲戦闘照準、と命じられ間違えて他の砲弾を装填すると初速が違い早く落下するため命中せず大参事です、装填手は様々な仕事に携わりますが、重い戦車砲弾を素早く装填する事は並大抵のことではないという認識が必要でしょう、第二次大戦中の戦車は砲手と車長が兼任する事例がありましたし、逆に装填手の下に通信手を置いて戦闘時には車体銃を操作させるという事例もありましたが、戦車は機械工学の集大成、近年は機械工学と電子工学の結晶ですが、その為に得なければならない知識は膨大で、装填手と云えども楽なところはありません。

戦車を動かす、ガールズ&パンツァーの世界では簡単にやっていましたが90式戦車や10式戦車ならば意外と初めて操縦する隊員さんも案外動かせて、俺ってイケテル?、と勘違いし、その直後トチって頭をゴチンとなる訳ですが、第二次大戦中期以前の戦車は変速機のギアチェンジがマニュアル式で現在のMT車よりも遥かに難しいものでした、戦車が一直線の道路上を一定速度で走行するならば前に進むことは多少の慣れで実現する訳ですが、線上で一直線に進めば一分以内に命中弾です、そこで地形を利用して少しでも目立たないよう走る必要が出てくる。

地形利用が戦車機動の一般原則なのですが、地形に合わせて登攀と稜線突破の際に一瞬でも変速機操作が遅れると登攀中に停車してしまうものや稜線に姿を見せたまま動けなくなるものがあります、馬力が足りないのかとエンジンを下手に吹かせば過熱し停止してしまいますし、歯車回転数を車体振動と音から推測してギアを転換しなければ噛み合わず、第二次大戦中に金属加工技術が稚拙な状態もしくは工場設備が完全稼働しない状態で製造されたギアを用いた歯車式変速機を使っている場合、シンクロナイザーの設計余裕を越え噛み合わず欠けて破損してしまうという状態もあり、これは現在のMT車ではなかなか考えられません、このように一般には考えにくい難易度があるのです。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十七年度一月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.01.16/17)

2016-01-15 22:02:47 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 今年一番の寒波が先週来たばかりですが、その上を往く今年一番の寒波到来、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末は大学入試センター試験や台湾総統選挙、皆様ご健闘を祈ります。他方で自衛隊関連行事となりますと基本的になにも行われません、海上自衛隊基地の週末一般公開、また横須賀のヴェルニー公園、佐世保の佐世保港、呉のアレイからすこじま、舞鶴の前島埠頭フェリー桟橋から、自衛隊艦艇を眺める事が出来るでしょう。

 横須賀方面については、海上自衛隊と米軍艦艇を間近に見る事が出来ます横須賀軍港めぐり遊覧船ですが、桟橋工事の関係で全便が運休となっており、乗船する事は出来ませんのでご注意ください。また、舞鶴の遊覧船も冬期運休期間となっていますので、こちらについても乗船する事が出来ませんので、足を運ばれる方はご注意を。

 海上家遺体基地一般公開について、呉基地一般公開は事前申請が必要となっており当日そのまま見学する事はd来ません。佐世保基地についても団体に関しては事前申請を行う必要があります、舞鶴基地については当日受付の後に見学する事が出来ます。ただ、悪天候等により一般公開が中止となる事もありますので、くれぐれも最新の情報をHPにてご確認ください。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

自衛隊関連行事はなし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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平成28年第1空挺団降下訓練始め(2016.01.10)と茨城県大洗・横須賀基地周辺周遊紀行

2016-01-14 22:22:52 | 旅行記
■第1空挺団降下訓練始め
 日曜日から連休と併せ首都圏の自衛隊関連行事やその他の観光と基地周辺散策へ足を運んでまいりました。

 機動戦闘車、日曜日はこの一言に尽きるところ。第1空挺団降下訓練初めでは、陸上自衛隊の最新装備として開発実験団装備実験隊が試験中の機動戦闘車が一般初公開となり、本土の74式戦車を置き換える機甲科の新装備になると共に新設される機動連隊では諸職種連合部隊として普通科部隊の直接支援に充てる新装備であり、快晴の空の下で多くの注目を集めていました。

 第1空挺団降下訓練初めは、落下傘強襲を任務とする自衛隊唯一の空挺部隊である第1空挺団が年頭に最初の降下訓練を展示するもので、指揮官戦闘の伝統にのっとり兒玉恭幸空挺団長以下指揮官が落下傘降下、続いて戦闘部隊の降下訓練を経て空挺戦闘を模擬戦闘として訓練展示する行事であり、一般の方も自由に見学する事が出来ます。

 落下傘強襲は、輸送機に搭載可能となる装備を中心に編成した軽歩兵部隊を、落下傘降下により地形を選ばず相手の想定外の地域にある後方連絡線や緊要地形などの要衝や航空拠点などの奪取へ投入する部隊で、ヘリコプターによるヘリボーン攻撃と異なり、輸送機により一挙に千km以上の距離を越えて展開する事が可能です。

 自衛隊最精鋭部隊と表現される空挺団ですが、空挺部隊が盛況といわれるゆえんは輸送機へ搭載可能な装備品の実で戦闘を展開する必要があり、その分の事前集積品や車両化という条件が非常に制限される中で個々人の要員が持つ戦闘能力を最大限にまで高め、戦闘能力を補完するとの発想の下、厳しい選抜と部隊訓練が行われる為のもの。

 第1空挺団は千葉県習志野駐屯地に団本部をおき、団本部、団本部中隊、第1普通科大隊、第2普通科大隊、第3普通科大隊、空挺特科大隊、通信中隊、施設中隊、空挺後方支援隊、空挺教育隊、を基幹とする編成で、空挺団の要員全てが習志野駐屯地に駐屯する完結された部隊となっていまして、1900名の隊員を以て編成されています。

 習志野訓練場、京成電鉄八千代台駅からバスで結ばれている首都圏の訓練場が舞台で、当日は快晴という文字そのものの好天に恵まれ、若干の風があったほかは落下傘降下に適した環境、更に暖冬の影響か一月の初等という例年の凍える季節ながらもそれほど寒さを感じさせず、早朝から多くの見学者が開門前の習志野訓練場に並びました。

 空挺団降下訓練始めではありますが、訓練展示の想定は島嶼部防衛で、空挺団の所属する中央即応集団隷下部隊、そして第1師団や第1機甲教育隊に富士教導団等の支援が今年度も行われ、10式戦車など精鋭装備が空挺団を支援、航空自衛隊や高射学校のペトリオットミサイルや自走高射機関砲も加わり戦車と榴弾砲といった重装備の重要性を示した展示ともなりました。

 第1空挺団は2004年の部隊改編により、従来の空挺普通科群一個を基幹とした編成から、三個空挺大隊を基幹とした編成に移行しており、各空挺大隊は本部中隊と第1中隊に第2中隊と第3中隊、という旅団普通科連隊に準じる編成を採っています。人員規模は380名と旅団普通科連隊の半分強ですが、本部中隊は情報小隊と対戦車小隊に通信中隊を有し、大隊には軽装甲機動車も配備され、ローテーションにて即応待機態勢をとる、文字通り即応部隊といえるでしょう。

 今回の首都圏展開は、空挺降下訓練始めに併せて観光を盛り込み、やや遅くなりましたが、正月旅行、という位置づけとしました。そこで今回、以前から多くの方に足を運ぶことを進められた茨城県大洗に展開しました、女子高生と戦車を題材としたアニメーション“ガールズ&パンツァー”の舞台となった場所で、現在劇場版が公開中、一時完売となっていたBD初回限定盤が再版され遅まきながら全巻揃えブームにのった、というところ。

 大洗では、地積見積に基づく検証を試みましたが、まあ、戦術的なものを考えればアニメーションは成り立たない、という印象です。しかし何よりも、当方は昨年の正月旅行がお伝えしましたが、テレビアニメーション“氷菓”の舞台である飛騨高山を、昨年は観艦式付帯行事となったテレビアニメーション“蒼き鋼のアルペジオ”の舞台の一つ横須賀を散策しましたが、大洗のガールズ&パンツァーのアニメーション聖地化と地元の関係には非常に強い印象を持ちました。

 蒼き鋼のアルペジオ、関連ではありませんが最後に横須賀を経由しまして今年の正月旅行としました。横須賀は原子力空母ロナルドレーガンが入港中で、横須賀軍港めぐり遊覧船は桟橋の工事という関係から臨時休航となっていたのが残念ではありましたが、駅前喫茶店のマスターにお教えいただいた横須賀の名所旧跡を散策し、なかなか興味深いものも出会えたところ。

 ヘリコプター搭載護衛艦いずも、逸見桟橋に停泊しており遠くからもその船体、満載排水量27000tの巨大な船体は横須賀地方総監部庁舎を越える大きさで、やはり何度みてもこれまでにない程凄い護衛艦です。横須賀駅と東京湾の間に巨大な壁の様に存在感を示すヘリコプター搭載護衛艦を眺めつつ、今回の正月旅行としました。

北大路機関:はるな くらま
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陸上防衛作戦部隊論(第四三回):装甲機動旅団編制案の概要 PLS輸送車と輸送改革

2016-01-13 22:07:36 | 防衛・安全保障
■PLS輸送車と輸送改革
装甲機動旅団の段列地域と補給支援体制を確固たるものとするにはPLS輸送車と管理タグコンテナ方式による輸送改革と自動化が必要です。

PLS輸送車の大きな課題は、その取得費の大きさです。原型車である重装輪回収車で一両1億4500万円、これは96式装輪装甲車よりも高価で、現実的に旅団輸送隊へ戦車や装甲戦闘車と1:1での配備はあまり現実味がありません。ただし、旅団の前方支援大隊にはどうしても必要な車両であり、相当の負担であっても物流改革が必要でしょう。

災害派遣用途という部分を前方に押してでも旅団全体で30両程度は必要となります。理想は50両程度で、各連隊戦闘団へ16両程度を展開させることができれば、戦車中隊を同時機動させ、小隊規模の普通科部隊所要の装甲戦闘車を輸送、次の往復で完全編成の装甲戦闘車中隊を輸送可能です。予算面では30両も厳しいでしょうが。もちろん、装甲機動旅団は機動運用が前提である為、段列地域と戦闘地域は、主陣地と前地に後方という戦闘が動的に展開します、このため、必要な車両数はその戦線の延長に応じ転換する可能性は忘れてはなりません。

一方、PLSトラックの導入は前述のように災害派遣においても民間のコンテナ貨物輸送に編入し運用できるため、例えば大規模災害や本土武力攻撃の事態に際し、自衛隊と民間業者の輸送任務という同一行動への組織の壁の解消に一躍買うでしょう、自衛隊の輸送システムを民間の輸送方式に近づける為、当然といえば当然なのですけれども。この災害派遣を正面に出す上でのPLSトラック取得ですが、PLSトラックのコンテナ輸送能力はコンテナヤードから必要な物資を電子タグにより管理し適宜必要な装備の支援へ機材を輸送できる点にあります。

また、規格コンテナを採用するため、自衛隊用物資以外の物資でも輸送する事が可能で、東日本大震災規模の災害にさいし、東日本大震災では全国から様々な物資が輸送されましたが、物資集積地へ有志の供出品、衣類や食料などの持ち寄り物資について、あまりもの総量から自衛隊は各地へ集積拠点を構築し対応しました、これをコンテナ化していれば、素早い輸送が可能であったはずです。

このコンテナの威力ですが、米軍では前方支援大隊へクレーンや洗浄装置と検査器具など整備機材一式をコンテナモジュールに納め、機械化部隊へ随伴させています、随伴というと大規模派遣を彷彿させますが、たとえば日米共同演習へ十数両の装甲車を展開させるさいにもコンテナモジュール化した野整備設備を持ち込み、稼動率維持へ活用していました。

いわば、装軌車野整備施設の機動化を迅速に果たしたかたちですが、PLS輸送車を牽引機能のみ戦車輸送車として活用し、戦車を卸下後にコンテナ輸送に転換する方式であれば、自衛隊にも有用です。問題は、戦車を卸下する地点までのコンテナの輸送です。ここで一つ、旅団を支援する上級部隊とともに考える必要があるのは民間輸送力の活用です。

北大路機関:はるな くらま
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航空防衛作戦部隊論(第二八回):航空防衛力、適宜即時必要装備輸送と戦闘支援任務

2016-01-12 21:20:24 | 防衛・安全保障
有事の際に必要であればT-4練習機にもAAM-4を搭載するべきではないか、今回はその意見無茶な選択肢について紹介します。

整備用品の事前備蓄という視点で、費用という面から指摘されるのがLRUの備蓄で、例えば旧東欧諸国でLRU方式の整備方式を採用する戦闘機を採用した空軍等ではLRUには非常に戸惑うとのこと、LRUの数が稼働率を決定づける要素であるのですが、言い換えればLRUが充分なければ早晩に稼働率は最低となってしまいます。この部分、旧ソ連製のMiG戦闘機など最低稼動率を最高稼動率よりも重視した機体には無かった発想のようです。

事前にLRUを備蓄しておくという事は、補給処以外にLRUを大量備蓄しておくという意味でもあり、それならば、補給処と前線航空基地のLRU緊急輸送体制を構築した方がよいのではないか、との視点にも繋がります。もっとも、整備要員が整備工具だけを携行してヘリコプターに乗り込み、必要なLRUは随時連絡線を維持し補給、臨時分屯基地、つまり野戦飛行場で戦闘機と向き合う、というもの。そしてLRUについては、必要な数量を即座に基地から輸送する体制を構築し、弾薬についても輸送する体制を構築する、それだけの輸送機が無いと問われそうですが、冒頭のT-4練習機を有事の活用する視点に繋がる。

初動の最小限の装備をコンテナにより輸送する。こうした場合、空輸する初動のコンテナは、ラッタルや弾薬輸送架と、大型消火器、1回から2回程度の再武装用ミサイルに燃料と燃料供給装置、予備車輪に照明器具と地上誘導装置程度に抑える事が可能です。もっとも、8機の戦闘機を展開させるのですから、1回程度の再武装としてもAAM-5短距離空対空ミサイル32発、AAM-4中射程空対空ミサイル32発、20mm機関砲弾7520発、チャフにIRフレアー、予備増槽24基、内容量は絞ったとして膨大な数に上りますが、ね。

このLRU緊急輸送任務に威力を発揮するのが練習機です。上記の通り最低数の事前備蓄装備だけで膨大な数に上りますので、継続的に航空作戦を展開するには更に多くの物資が必要となります。そこで、T-4練習機、T-400練習機、共に速度があり、搭載量はトラベルポッドに搭載する程度ですので数は知れていますが、例えばT-4練習機だけで200機以上が生産されており、C-2輸送機やC-130H輸送機、C-1輸送機での輸送能力が限界に達した状況等では、重要な装備で大型ではないが兎に角早くいち早く、迅速に輸送する必要がある、という装備品の輸送には威力を発揮するでしょう。云わば、空飛ぶバイク便、というもの。

T-4練習機の飛行能力を可能な範囲内で空輸支援に充てる、T-7練習機までLRU輸送支援任務へ投入する必要はありませんが、T-4練習機であればトラベルポッドへ搭載し輸送するほか、必要に応じ主翼にAAM-4やAAM-5を装着し空輸するという緊急輸送方法も検討されるべきでしょう。T-4練習機に左右各3発計6発のAAMを搭載、勿論射撃する必要はありませんのであくまで主翼吊下げ輸送に過ぎないのですが、輸送における選択肢に含めるだけで、輸送用航空機が50機程度の輸送機に留まるのか、200機以上の小型高速輸送手段を得るのか、大きく変わる事は間違いありません。

ただ、選択肢には有事のさいに臨時分屯基地を展開させ戦闘機を分散運用させる時点dね、膨大な整備要員が必要となる為、列線整備要員の不足を教育訓練部隊より練習機の整備員を以て支援に充てる、という方式も考えられます。練習機を高速輸送任務へ用いる場合は、その練習機の運用要員も必要となりますので、こちらについてはその価値の判断が分かれるでしょう。

NIFC-CA将来統合データリンクや自衛隊統合データリンク能力と練習機を合わせ、特に長射程化する中距離空対空ミサイルを早期警戒機の誘導に応じて運用するミサイルキャリアー的な用途にもちいる、という選択肢もあり得るのかもしれませんが、その為の練習機を用いるよりは平時にあっては操縦要員の養成に専念させ、有事の際には後方の航空補給拠点から第一線の臨時分屯基地に貴重な部品とミサイルを空輸する、平時と有事の任務を明確に区分し能力を発揮させることはできるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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