北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:将来三胴船方式艦艇への一考察【5】 戦闘配置から異なる護衛艦と掃海艇

2016-01-11 21:47:25 | 先端軍事テクノロジー
■護衛艦と掃海艇の両立は可能なのか
 本特集は今回が最終回です、護衛艦と掃海艇、両立は可能なのか、重要航路ごとに木造の掃海艇ひらしま型と小型護衛艦ゆうばり型を充分装備できればそれは理想なのですが、難しい故の代案について。

 沿岸防備任務にはミサイル艇のような対水上打撃力のみならず、潜水艦の浸透から重要航路を守りつつ、近年敷設方法が多様化した機雷脅威から我が国重要航路を防護しつつ日施掃海任務を行う、しかし機雷対処任務は専門分野であるため、航空機運用能力を利用し、航空掃海を行ったうえで機雷処分任務に当たる、更に対潜脅威の徴候があった場合には哨戒ヘリコプターの支援を受ける。

 もちろん、MCH101には数に限りがありますし、現行の航空隊を二個航空隊程度に増勢しなければ、日施掃海の実施海域すべてにMCH101を展開させることはできませんが、運用能力があってその上で後日増強するのか、それさえもないのかの違いは大きいといえるでしょう。ただ、掃海ヘリコプターは掃海艇以上に高価であり、機雷戦の脅威度を高く評価する海軍でも導入に踏み切ったのは日米とスウェーデン海軍など限られ、安易に増勢する事は難しいでしょう。

 ただ、ここで試金石となるのは先行して建造されるコンパクト護衛艦です、コンパクト護衛艦は掃海ヘリコプターへの支援能力を持つと共に掃海器具を搭載し暫定的な掃海任務へ参加可能であり、この種の任務へ対応する水中自航装備USVがコンパクト護衛艦により運用され、実績が積まれるならば、航空掃海任務と併用する新しい機雷掃討体系を構築できる可能性があるところです。

 即ち、相手も機雷を敷設するついでに掃海艇をしとめようと考える潜水艦がいる可能性に対し掃海艇が潜水艦に班下kするという可能性を付与する事に意味があります、小型でもソナーを搭載し対潜任務に従事するならば潜水艦は接近に一定のリスクを突き付けられ、その周囲に哨戒ヘリコプターが飛行しているならば、攻撃や機雷敷設という任務に一行の余地を与えるでしょう。しかし忘れてはならないのは乗員の事で、訓練体系の異なり、つまり科員の訓練の違いが大きく問題となるでしょう。

 配置一つとっても異なり、例えば掃海艇が機雷掃海任務に当たる場合は乗員すべてが上甲板や上部構造物のできるだけ外側に配置されます、これは過去の戦訓から機雷に触雷した場合は艦内にいた方が危険、という視点に基づくものです。護衛艦の対水上戦闘や対空戦闘では逆に露出した人員が破片の損害をうけるため艦内に入り、また甲板上はレーダーの電磁波影響が大きくなり特にイージス艦などはSPY1レーダーの発動中はこの影響に配慮し上甲板に乗員を出しません。

戦闘配置につくよう号令が掛かれば一斉に外にでるのが掃海艇ですが、護衛艦では逆となります。このあたりから異なるのですから、一隻で戦闘と掃海を実施する場合、従来の掃海器具を曳航し艇上部構造物や露天甲板から戦闘指揮をとる方式から、CICを基点に運用するべく、掃海器具を機雷掃討に特化させるなどの施策が必要となるでしょう。ただし、従来型掃海艇を全て将来三胴船方式艦艇に置き換えるのか、地方隊掃海隊にのみ将来三胴船方式艦艇を配備し、掃海隊群には従来型掃海艇を配備する選択肢はあるため、今後の展開を見守りたいところです。

北大路機関:はるな くらま
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榛名防衛備忘録:将来三胴船方式艦艇への一考察【4】 掃海任務と沿岸哨戒任務に当たる個艦戦闘能力

2016-01-10 20:36:49 | 先端軍事テクノロジー
■将来三胴船個艦戦闘能力
 将来三胴船方式艦が掃海任務と沿岸哨戒任務に当たる上で必要な個艦戦闘能力はどの程度でしょうか。

 将来三胴船方式艦の概念図には76mm砲とCIWSの搭載が明記されていました、対空戦闘能力はCIWSを搭載しますので、最小限度は確保できます、対空レーダーについては護衛艦いしかり、護衛艦ゆうばり型が対水上を限定的な対空レーダーに運用した実績があり、射撃指揮装置との併用によりかなりの捜索は可能とのことです。特に76mm砲に多目的砲弾が開発されており、その能力は安易な短距離対空ミサイルよりも秀でたものがあります。

 艦対艦ミサイルを搭載するのか、時期的に将来三胴船方式艦艇が建造される頃には、既存のミサイル艇はやぶさ型が耐用年数を迎える時機ですので水上打撃力が不足する事となります、SSM-1艦対艦ミサイルに対して艦砲だけでは能力が大きく低下し、特にミサイル艇はやぶさ型も76mm単装砲を搭載していますので、将来三胴船方式艦艇に想定される76mm砲とCIWSのみというものは能力的に劣る事は否めません、これを補う事は出来るのでしょうか。

 視点としては、上部構造物が大型ですので必要に応じて搭載する事は出来ます、がもう一つ。自衛隊統合データリンク機能整備と統合機動防衛力整備により、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾とのデータ連接が可能となり、特に地方隊の想定する沿岸部での戦闘に万一艦対艦ミサイルを用いた対水上戦闘を展開する場合には、陸上からのミサイル射程内での戦闘が可能です、また、射程は大きく劣りますが相手が防空艦でなければ、哨戒ヘリコプターからのヘルファイアミサイルにより対処する事も不可能ではありません。しかし、ヘリコプターは海象に運用が左右され、荒天下では運用に制限がつきます。

 この掃海任務との併用ですが、将来三胴船は上部構造物を大きくできる特性を持って基準排水量1100t程度の船体であっても、基準排水量5000tの護衛艦あきづき型と同程度の飛行甲板を配置でき、MCH101掃海輸送ヘリコプターの発着が可能となる、と説明されています。ヘリコプターの運用能力は機雷掃海任務の幅を大きく広げるとともに、対潜戦闘にさいしても大きな能力向上となりますが、それでも航空機だけでは対応できる能力にが上限があり、航空機補給拠点と簡単な自衛装備、という装備では対応できません。

 機雷、特に磁気機雷などは神経質すぎるほどの消磁と船体非磁気化が求められ、船体に微電流を流すアクティヴ消磁方式でさえも、近年はその微電流を検知する機雷が開発されつつあり、油断できないものです。将来三胴船が掃海器具を従来の掃海艇の様にそのまま曳航し機雷掃海任務に当たれるほど甘いものではありません。すると、どうしても機雷処分器具、無人掃海器具管制が機雷掃海と機雷掃討の主体となる。

 船体を現在研究中であるアルミニウム合金を断念し、例えば木製船体は難しいとしても掃海艇に採用されているFRP船体を採用し、徹底した金属装備品の搭載制限を行うならば、多少は異なるのでしょうが、他の装備品を搭載する事に制約が出ますし最高速力にも影響は無視できないでしょう。ここで、機雷戦に対しまず第一に掃海ヘリコプターの航空掃海を実施した上で、機雷戦艦艇による掃海を実施できるならば、多少は危険度が低下します。ただ、水上戦闘艦としての任務に併用できない部分も生じる事を忘れてはなりません。

北大路機関:はるな くらま
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榛名防衛備忘録:将来三胴船方式艦艇への一考察【3】 艦載ヘリコプターによるモジュールシステム

2016-01-09 21:04:22 | 先端軍事テクノロジー
■将来三胴船方式艦と航空機
 将来三胴船方式艦は航空機運用能力を以て、疑似的な艦載ヘリコプターによるモジュールシステムを可能とする可能性があります。

 ヘリコプターが独立した戦闘システムとして機能するのであれば、例えばモジュールシップ方式をとり、変なモジュールにより対潜戦闘モジュールや機雷掃討モジュールを搭載するよりは、哨戒ヘリコプターと掃海輸送ヘリコプターを積み替えた方がはるかに確実です。将来三胴船が、1990年代に乱立し、そして平時の管理や積み替え等の負担から固定化され消えて行ったモジュールシステム方式を採用しなかった点は、ヘリコプター運用能力を有している為とも言えます。

 ヘリコプター、自衛隊の至宝です。将来三胴船がヘリコプターへの補給と多目的区画へ魚雷やソノブイ等の備蓄を行い乗員の休息区画を置くことが可能、というものはそれだけで大きな能力となります。必要に応じSH-60K哨戒ヘリコプターを搭載、もしくは陸上の航空基地からSH-60Kを増加配備要請し、整備補給を行い対潜戦闘能力を急速強化することは可能でしょう。

 艦載ヘリコプターによるモジュールシステムというべきでしょうか。掃海艇が潜水艦の標的となりうる可能性についてですが、特に近年の掃海艇は機雷掃討能力が加わり、相当に高性能であるとともに数が限られており、つまり掃海艇の撃沈が対機雷戦の優位につながる高付加価値目標となった訳で、掃海艇そのものが標的となりうるわけです。日施掃海を行うにも8カ所を挙げましたが、掃海隊の数を考えた場合ぎりぎりで、失うわけにはいきません。掃海艇に護衛艦を随伴できるよう護衛艦を増強できれば多少は条件が異なるのかもしれませんが、それはそれで護衛艦の建造費の問題と維持費の問題が出てきます。

 護衛艦を掃海艇に護衛に就けるという仮定、これが護衛艦の定数上限から不可能であるのであれば、双方を兼ねる事が選択肢に上がるが、それ以上にその任務に特化したヘリコプターの洋上拠点とすればよい、掃海隊は非磁性を設計に盛り込むことで機雷からの秘匿性を確保出来るが護衛艦はそのような施策を行うには消磁といった程度に限られるなど限界があります。もちろん、将来三胴船方式艦艇、曳航式掃海器具からUUVやUSVなどに特化せざるをえないため、専門の掃海艇と比較し掃海能力に影響がどの程度出るかは未知数なのですが、ね。

 それでは独自の武装はどの程度まで搭載が可能なのでしょうか、要求されている速力性能は現在の掃海艇と比較し倍以上ですので一隻の対応海域を広くとる事が出来るでしょう。将来三胴船について、ソナーなどは想定されていないとしましたが、機雷戦ソナー等は搭載されている事でしょうけれども、其処に加えミッションベイに必要な対潜機材を搭載し、例えば曳航ソナーを搭載、艦上に短魚雷発射管、配置する場所がなければ魚雷投射装置を搭載することで、対潜戦闘にはある程度対応できるでしょう。

 対潜掃討と機雷戦対処能力は将来三胴船方式艦艇のセンサーだけではなく、やはりヘリコプター運用能力に依存するところが大きくなるでしょう。海上自衛隊の哨戒ヘリコプターはヘリコプター搭載護衛艦はるな就役とともに開始されたHSS-2の時代から、対潜任務用のシステムを全て搭載する比較的高価な機体を選定しており、吊下げ式のディッピングソナーと機上戦術情報処理装置を搭載し独立した対潜戦闘システムを構成してきました。

 航空機が独立した対潜戦闘遂行能力を有するという意味は大きく、例えばアメリカ海軍などではLAMPS軽空中システムとして艦載ヘリコプターを水上戦闘艦のセンサーを航空機に搭載し延長線上の超水平線運用を行う、という視点にて運用し駆逐艦等の補完に当てていましたが、海上自衛隊は伝統的に独立運用を想定し、海峡警備等にも対潜哨戒任務へ哨戒ヘリコプターを独立し運用させてきました。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十七年度一月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.01.09/10)

2016-01-08 23:10:40 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 迎春2016,陸海空自衛隊主要行事もいよいよ今年一年最初の行事が開始されます。

 第一空挺団降下訓練始め、千葉県の習志野演習場にて日曜日10日に実施される空挺降下訓練の一般公開です、当日は演習場内に観客席区画が設けられ、輸送機から続々と落下傘降下する空挺隊員、続いてヘリボーンが増援部隊を展開し陸上の戦車部隊と協同し、演習場の一角を占拠する仮設敵を撃破する迫力の訓練展示が示されます。

 空挺団は輸送機に搭載可能な装備を以て編成され、習志野駐屯地に教育部隊を含めすべてが駐屯、防衛大臣直轄部隊であると共に千葉県防衛警備及び災害派遣を担当する精鋭部隊で、現在は中央即応集団に所属、三個空挺大隊を中心として有事に備え即応体制を採っています、万一現在の中東情勢や朝鮮半島情勢が悪化し邦人救出任務が必要となった際には派遣される部隊です。

 落下傘降下は、強風下でも強行する能力がありますが、演習場が東富士演習場よりも遥かに狭い為、習志野訓練場での実施の場合、強風では落下傘降下が住宅街に流れぬようヘリボーンのみ、もしくは中止される事もあります。訓練始めは1100時からですが、相当混雑します、また暖冬とはいえ急激に寒くなる可能性もありますので防寒具をお忘れなきよう。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・1月10日:平成28年第1空挺団降下訓練始め…http://www.mod.go.jp/gsdf/1abnb/index.html

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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重要影響事態ペルシャ湾岸危機!サウジアラビア・イラン国交断絶危機が及ぼす我が国への影響

2016-01-07 21:44:45 | 国際・政治
■ペルシャ湾岸危機
 平和安全法制等の整備がようやく実現した我が国ですが、その自衛権の行使が杞憂に終わることを切に願いながらも、ペルシャ湾岸が湾岸危機というべき状況となってきました。

 中東情勢が急激に悪化しており、最悪の場合ペルシャ湾岸地域全域を巻き込む大規模武力紛争へ発展する可能性が出てきました。その場合、我が国は石油供給の多くが途絶する状況に陥り、原子力発電を全面的に停止している我が国ではエネルギー危機が国家経済を直撃するとともに、湾岸地位には多くの邦人が居留しているため、大規模な邦人救出任務が必要となります。これは今年に入りサウジアラビアがイランとの外交関係を断絶し、これに続いてバーレーンとスーダンもイランと国交を断絶、アラブ首長国連邦UAEはイラン大使を召還し国交の大半を制限する事となっています。

 外交関係の断絶と云えば、国連憲章以前の国際法体系下では宣戦布告を意味します、中東情勢はここまで深刻であるのか、という思いと共に更に状況は悪化し、サウジアラビア政府はイラン発航空便の全面受け入れ停止、イラン出身旅行団の受け入れ拒否、と両国関係が急激に悪化しています。イランとサウジアラビア両国はペルシャ湾を挟み対峙している他、ペルシャ湾岸は世界最大の産油地域であるため、我が国商社やエネルギー企業の社員が多数駐在しています。有事となれば救出へ展開しなければならない。

 安全保障法上の重要影響事態となり得る、サウジアラビアとイランの国交断絶、サウジアラビア国内においてアラブの春に常時反政府活動を行ったとして逮捕拘留中であったイスラム教シーア派指導者ニムル師の死刑が執行され、このシーア派指導者死刑執行に対し、世界唯一のシーア派が多数を占める隣国イランではサウジアラビア大使館前において暴動が発生、一部の暴徒がサウジアラビア大使館内に侵入し、施設を破壊するなどしたことを受け、サウジアラビア政府がイランとの国交断絶を発表したものでした。

 サウジアラビア政府はアラブの春に伴う騒擾事態をテロ行動と位置づけ逮捕した形ですが、二ムル師はサウジアラビア人で、サウジアラビアでは少数派となるシーア派イスラム教徒が多く所在する東部出身、イランへの留学経験もあります。しかし、サウジアラビアが死刑を執行し、イランが反発し、サウジアラビアがイランと国交を断絶、という事実関係だけでは、そもそも関係が逆ではないのか、という話など分かりにくい部分があるやもしれません。

 ここで、サウジアラビアとイランを取り巻く幾つかの情勢を並行して俯瞰する事が、この国交断絶問題に至る一つの理解に繋がるでしょう。2015年よりイエメンにおいて内戦が勃発しました、イエメンはサウジアラビアと国境を接しており内戦はサウジアラビアへも大きな影響を及ぼします。イエメン内戦はフーシ派武装勢力がアブドハーディー大統領へ反乱を開始し、勃発したものです。イエメン内戦では日本人観光客が巻き込まれかけ、中国海軍により救出されたことは記憶に新しいところです。

 フーシ師派閥であるためフーシ派と呼ばれるこの勢力はイスラム教シーア派を信仰しイランからの武器援助等を受けているものですが、この反乱事案に対しハーディー大統領は隣国サウジアラビア政府へ援助を要請します。フーシ派は既にフーシ師が死亡していますが、実はこの内戦に先んじて発生したアラブの春イエメン騒乱において襲撃事件により現職を退いたサーレハ前大統領と前大統領が掌握するイエメン軍がハーディー大統領へ反旗を翻したことで状況が悪化しました。

 フーシ派武装勢力はイエメン国内を拠点としていますが、反米主義を掲げ幾度か親米国であるサウジアラビアへ越境攻撃を加えています。しかしサウジアラビアは原油価格高騰の恩恵として得た大量の外貨を以てきわめて膨大な数の最新装備を揃えており、シーア派武装勢力の侵攻を難なく撃破、ここで武装勢力は大量の戦闘員を喪失した事により行動が大幅に制限される事となっています。宗派間対立がこうした言いがかり的に波及する事もあるのか、と考えさせられたものです。

 そのフーシ派がイエメン国内においてイエメン軍と呼号し内戦を引き起こしており、政党大統領と認めるイエメンのハーディー大統領がサウジアラビア政府へ支援を要請している事から、サウジアラビア軍はUAE軍やバーレーン軍と有志連合を組み、ハーディー大統領の政権復帰へ首都奪還を期して軍事介入を開始しました。イスラム教は世界三大宗教に数えられますが、宗派はスンニ派とシーア派に分けられ、スンニ派が全体の九割を占めています、このため数的優勢はスンニ派にあるわけなのですが、イエメン内戦はイラン政府が支援を行っている為、長期化しサウジアラビア軍などの有志連合にも無視できない人的損害が生じています。邦人が巻き込まれたのもこの際でした。

 イランは1979年のイラン革命と同時にアメリカとの国交を断絶しており、この認識だけを見たならばイランと国交を断絶した国が増えただけ、という印象を受けるやもしれませんが、イエメン内戦一つとってももともとサウジアラビアとイランは険悪な関係にあった訳なのです。サウジアラビア政府はシーア派がアラブの春に乗じてサウジアラビア国内において騒乱事態を引き起こしています、更にイラン政府がサウジアラビアの隣国イラクに対しシーア派武装勢力の浸透を支援しているとの分析があるのでしょう。

 シリア内戦へのイラン軍介入がシリア領内へのイラン勢力拡大に移っており、このまま看過すればドミノ倒し的に中東全域でのイラン勢力拡大という状況に発展する危惧があるのでしょう。こうした流れの中で、イランとサウジアラビアの国交断絶を見ますと、宗教指導者死刑執行は一つの引き金に過ぎず、元々のイランによる中東地域全域へのシーア派武装勢力支援を停止させるとの目的があり、その一環として対立が表面化したため、国交断絶に至った、という状況が見え、イエメン内戦へ有志連合として参加する諸国がサウジアラビアにあわせて国交を断絶しているとの現状は、国交断絶の次の段階まで発展する可能性を内包していると考えざるを得ません。日本から見れば石油、という印象があります中等ですが当事国としての視点はこうしたところ。

 サウジアラビア軍の戦力は膨大です、陸軍は7万5000名でM-1A2戦車315両とM-60A3戦車450両を装備し、M-2装甲戦闘車400両とAMX-10P装甲戦闘車380両にM-113装甲車1650両など機械化部隊を重視しているほか、特筆すべきは空軍力でF-15C戦闘機80機、タイフーン戦闘機40機、F-15E戦闘爆撃機150機、トーネード攻撃機75機、そして防空能力に革新的な能力を発揮するE-3早期警戒管制機5機を装備しています。また、サウジアラビアと呼号する有志連合の空軍力も産油国であるため、比較的最新鋭の戦闘機を導入しやすく、整備面などで民間軍事会社の支援を受け、また、近代化改修などの度合いにも理解の差異があるようですが、規模では非常に大きなものがあります。また、中国製中距離弾道ミサイルCSS-3を装備している為、サウジアラビア軍はイランの首都テヘランを直接攻撃が可能です。

 対するイランは陸軍大国で陸軍兵力は35万に達します、しかしイラン革命後経済制裁を受け兵器調達が頓挫しているため、T-72戦車480両を有しますが革命前に導入したM-60A1やセンチュリオンとイランイラク戦争で鹵獲したT-62戦車や中国製59式戦車とM-47戦車など多数を装備するも電子装備が民生品や国産品により可動車両がある程度で、空軍はイラン革命前に導入したF-14戦闘機やF-4戦闘機程度、アメリカ政府はF-14予備部品がイランに渡らぬよう徹底した輸出管理を行ったため、F-14を戦闘機ではなく早期警戒機として運用しているほか、飛行困難となったF-5軽戦闘機を改造し運用する、湾岸戦争期にイラクより退避したMiG-21/F-7等イラク空軍機を接収し運用しているなどの状況である。

 とてもではありませんが空では勝負になりません。しかし、人的規模は膨大であるため、長期戦となる可能性があり、万一の全面衝突の際には邦人御語が最大の課題となります。また、首都テヘランが内陸部にあるため、例えばアメリカがイラク戦争において実施したような縦深打撃を行われない限り、首都は安泰といえるでしょう。ただ、イランは北朝鮮より技術導入した弾道ミサイルを装備している為、弾道ミサイルにより反撃する事も可能である為、1988年のイランイラク戦争のように弾道ミサイル攻撃に空路が途絶し邦人が空港に取り残される、という状況も思い出されるでしょう。

 懸念事項は二つ、ホルムズ海峡へ影響が生じる点と邦人救出の規模が極めて遠いと共に膨大な数となる点です。サウジアラビアとイランは両国の陸上国境には中間にイラクがありますが、海上ではペルシャ湾を隔てて対峙しています。ペルシャ湾は世界最大の産油地域で、湾岸にはサウジアラビア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、などが沿岸国として並びます。そしてペルシャ湾北部沿岸はイランであり、仮にイランとサウジアラビアの政治対立が武力衝突に至った場合、産油国の生命線である石油輸出のシーレーンを機雷敷設により妨害する可能性が出てくるわけです。逆に考えるならば、ペルシャ湾を挟んでの軍事衝突が発生した際に、相手国の港湾から外貨を稼ぐタンカーの出港を無視して上空で航空戦闘が繰り広げられ海上戦闘が展開される、という状況は考えにくいものがあります。

 重要影響事態というべきペルシャ湾岸危機は、中東からの石油輸入が完全停止すれば、我が国化石燃料依存度は、特に中東に対して高く、大きな打撃となる可能性が挙げられるほか、我が国と同じように中東への石油に依存する隣国中国経済へも大打撃を与える可能性があり、中国政府は周辺地域での資源採掘への依存度をまし、例えばヴェトナムなどとの南沙諸島問題の激化に波及するというような新しい危機に繋がる可能性もあります。

 例えばタンカー護衛任務として海上自衛隊の艦艇をアラビア海へ派遣する必要性、万一のペルシャ湾機雷敷設に備え機雷戦艦艇及び掃海航空機の中東方面への派遣、邦人救出任務として現在自衛隊はソマリア沖海賊対処任務としてジブチなどに拠点を有している為、ここを基点として輸送機や輸送防護車、規模からは現在の少数のみが配備された輸送防護車では不足する可能性もありますが、また輸送艦による邦人の安全地域となる第三国への救出任務、などへ発展する可能性を有しています。

 この危機の回避手段としては、イエメン内戦の早期妥結に向けた外交支援、イラン政府による域外での戦闘部隊活動や宗派間対立増幅への抑制要請、シリア内戦早期終結への施策等が挙げられますが、既に内戦状態に展開している状況下では我が国が執り得る予防外交策は効果が考えにくく、アメリカも懸念を表明する以外の施策を採りません。2016年は始まったばかりであり、北朝鮮核実験という危機が突き付けられた状況下ではありますが、併せて遠い中東ペルシャ湾岸地域でも危機が進行中ということを認識しておく必要があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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北朝鮮水爆実験実施、北東部咸鏡北道吉州郡豊渓里付近でマグニチュード5.1の人工地震

2016-01-06 23:05:00 | 国際・政治
■北朝鮮水爆実験実施
 本日2016年1月6日、日本時間で1030時頃、北朝鮮北東部咸鏡北道吉州郡豊渓里付近において人工的な地震が気象庁により観測された、と一報がありました。

 気象庁が観測した地震波はマグニチュード5.1、その地震波形の特徴から自然地震ではなく核実験の可能性があるとされ、政府は首相官邸危機管理センター情報連絡室を官邸対策室に改編し、情報収集を開始しました。併せて米軍は嘉手納基地より電子偵察機や気象偵察機を離陸させこの中で核実験が実施される際に周辺に微量に漏洩する放射性物質クリプトンの有無を確認することとなり情報取集を強化、我が国防衛省もT-4練習機等に放射能集塵装置を搭載し大気情報収集を開始します。そして日本時間1230時、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビ特別重大報道での発表を開始し、観測された地震波は核実験によるもので、水爆実験に成功したとの声明を出しました。

 北朝鮮が初めて核実験を実施したのは2006年10月9日で、これは2003年1月の核不拡散条約NPT枠組からの脱退後三年を経ての実験でした、咸鏡北道吉州郡豊渓里核実験場での実験で我が国気象庁はマグニチュード4.9の地震波を観測しました。爆発規模が核実験としては小規模であった為、一時は大量のTNTを同時爆発させた艤装核爆発説が飛び出しましたが、不完全核分裂による1キロトン前後の核爆発であったとの分析が示されました、なお我が国はこの核実験を契機に北朝鮮国籍者の日本入国を全面禁止し特定船舶入国禁止特措法や日朝間経済関係の断絶という経済制裁を開始、今に至ります。

 続いて2009年5月25日には第二回目の核実験が実施、我が国気象庁がマグニチュード5.3の人工的な地震を観測しました。核実験は咸鏡北道吉州郡豊渓里核実験場にて実施され、5キロトン程度の核爆発であったと推測されるものでした。核実験に伴う人工地震発生は、S波とP波の波形と特に自然地震が断層破砕を生じ徐々に地震波が増幅するのに対し、核爆発は最初の核分裂により生じるエネルギーが最大規模でありその後急激に減退することから特徴を見て取れるとの事です。気象庁は長野県松代、第二次大戦末期に大本営移設工事が行われた地域ですが、松代の日本列島本州島において最も岩盤が重厚で地震観測に適した位置に観測施設を置き、地球上の地震、自然地震と共に核実験を監視しています。

 三度目の核実験は2013年2月12日に実施され、マグニチュード5.1の人工地震が観測された、としています。北朝鮮は、この2013年の核実験を核兵器小型化に主眼を置いた核実験と発表しており、核爆発装置を小型化する事で弾道ミサイルへの搭載に用いる展望を有している事が分かりました。核爆発装置は、大型化すればするほど核爆発を容易化させることができます、例えば冷戦期にインドが初めて実施した核爆発装置は一戸建ての家屋程度の大きさがあり、第二次世界大戦中に開発された核爆発装置、我が国に投下されたものも当時最大の戦略爆撃機B-29に搭載するものとして開発されており、例えば当時の二発の原爆は、プルトニウム原爆とウラン原爆ともに空母艦載機には搭載する事は出来ませんでした。北朝鮮は核兵器を対米抑止力の中枢に位置付けており、弾道ミサイルに搭載できる程度に小型化出来なければ意味がなかったわけです。

 水爆実験、という表現は今回北朝鮮が初めて用いた表現です。2006年10月9日実施核実験時観測地震波算定規模はマグニチュード4.9、2009年5月25日実施核実験時観測地震波算定規模はマグニチュード5.3、2013年2月12日実施核実験時観測地震波算定規模はマグニチュード5.1、今回観測された地震波はマグニチュード5.1、となっています。水爆は重水素化リチウムか三重水素を用いる核融合反応を利用するもので、原爆の核分裂連鎖反応よりも大威力となります、が、重水素化リチウムか三重水素を超高温超高密度条件に置かなければ核融合反応が始まらない為、その為の条件として超高温超高密度条件醸成に原爆の核分裂連鎖反応を利用します、つまり水爆は原爆を起爆装置とするわけですね。理論上、核分裂を用いずに反物質触媒や陽子加速器利用負電荷核融合反応誘発による純粋水爆の核融合は可能、といわれていますがSFの発想という位置づけにあり、実現はしていません。

 北朝鮮水爆実験実施、と題しましたが、北朝鮮水爆実験成功、としなかったのはこの部分にあります。咸鏡北道吉州郡豊渓里核実験場での実験ですが、気象庁が観測した人工地震のエネルギーを示すマグニチュード、今回観測されたものはマグニチュード5.1で前回の核実験と同程度であるため、観測数値の集成が行われるのか、2009年に観測された地震規模よりも小規模な爆発であるが水爆であるのか、水爆実験を行ったが爆発が核分裂に留まり核融合を誘発する事が出来なかったのか、など、今後の検証が必要となります。また、仮に核融合を誘発するための核分裂に用いた原爆のみが起爆しただけであった場合、再度、核融合を期した核実験が実施される可能性があります。これは過去に、2006年10月9日の最初の核実験の際、充分な核分裂が起きなかったために1キロトン程度の核爆発に留まり、わずか半年を経て2009年5月25日に再度核実験を行った背景には、完全な核分裂による核兵器の完成を期したのではないか、という分析も為されました。

 安全保障法制が成立し、存立危機事態として我が国安全保障上の重大懸念事項への対処が、国際法上我が国が有する自衛権行使の範疇において可能であるよう法整備が為された訳ですが、その前に従来の周辺事態法の範疇での事態となった訳です、現行法では安全保障法が策源地攻撃を盛り込んでいない為、実行されたならば我が国へ甚大な被害が発生する事態への対処手段、自衛権の先制行使とはいかないものの、これに準じる措置を採る体制、法整備と共に能力構築の必要性が再度議論の場に上るのかもしれません。具体施策として考えられるものを列挙しますと、F-2や補完する対地攻撃能力を有する航空機の増勢、そうりゅう型潜水艦に搭載すべくトマホークミサイルをアメリカから導入し、その上で策源地攻撃に最も困難を課す移動発射装置の索敵用機材、MQ-9無人攻撃機などを装備する、という選択肢など。

 冷静になって検証しますと、今後の北朝鮮核問題に関する分岐点ですが、弾道ミサイルへ搭載可能な規模へ弾頭が小型化された際が我が国安全保障上に非常に大きな問題を突き付ける事となるでしょう。潜水艦にトマホークミサイルを搭載し運用すれば、魚雷発射管から投射可能であるとともにアメリカは、イギリスに続きオランダやスペインにも輸出しており、導入を交渉すれば早期に取得は可能でしょう。トマホークならば我が国太平洋上や南西諸島近海からでも朝鮮半島全域への策源地攻撃が可能であるのに加え、ミサイル攻撃を我が国が実施した事を秘匿する事が可能であり、更に北朝鮮は対潜哨戒手段を全く持たない為、一方的に叩くことが可能となります。他方で、北朝鮮は現在、核兵器と弾道ミサイルを保有している一方で、核兵器を弾道ミサイルへ搭載可能な規模まで弾頭小型化に成功したという実証を行っていません。実際に撃ってみるのが一番なのですが、撃ってしまえばアメリカがミニットマンICBMにて反撃を行うため、どのように証明するかが困難なのですが、仮に何らかの手段により小型化に成功したことが証明されるならば、我が国防衛政策は更に大きな転換点に突き出されるでしょう。

 現時点で北朝鮮は我が国へ核兵器を運搬する手段を持ちません、弾道ミサイルへ搭載出来るまで小型化する必要があるのです。北朝鮮が主力潜水艦とする1950年代のソ連製ロメオ級潜水艦では水中航続性能が20浬程度でとても日本近海まで到達できませんし、主力爆撃機であるソ連製イリューシンIl-28爆撃機へは搭載能力から運搬手段として用いるのに限界があると共に、非常に飛行性能が限られ航空自衛隊の防空網を突破する事は出来ません。もちろん、貨物船に搭載し近海で起爆、といった特攻作戦という選択肢はあるにはあるのですが、これはテロ的な意味を持つものの単発的に用いるのみであり軍事的効果はありません、何故ならば、二度目が無いのですから。このため、弾道ミサイルへ搭載が可能な水準まで小型化された際が、我が国の安全保障にきわめて重大な転換を強いる時機となる、そう考えます。

北大路機関:はるな くらま
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榛名防衛備忘録:将来三胴船方式艦艇への一考察【2】 地方隊掃海隊の日施掃海任務と哨戒任務

2016-01-05 22:48:38 | 先端軍事テクノロジー
■日施掃海任務と潜水艦脅威
 将来三胴船方式艦艇への一考察について、今回はその必要性の背景、掃海艇が哨戒任務を担う必要の背景を地方隊掃海隊の日施掃海任務と哨戒任務の関係から見てゆく事としましょう。

 最初に、本題から外れますが中東では懸念すべき事態が進行中です、シーア派指導者処刑を契機となり中東は現在、イランとサウジアラビアが国交断絶に至る深刻な対立となり、バーレーンとスーダンもイランと国交を断交、外交関係の断絶と、経済関係の停止、航空乗り入れ便の受け入れ停止、中東情勢はシリア内戦とイラクシリアISIL活性化に続く深刻な緊張を孕む事態となり、現在全国の原子力発電所原子炉のほぼすべてが停止中である我が国は、サウジアラビアとイランの中間に位置するペルシャ湾からの石油に国家が依存する状況であり、現在の安全保障関連法でもペルシャ湾での掃海任務を具体任務の一つに挙げており、今後の展開を注視しましょう。

 本題、機雷戦は難易度が大きく、ついで、とはいうほど簡単にはいきませんが対処する能力が盛り込まれるようです、そして流氷観測と哨戒任務、ほどではありませんが、一見無謀にみえるこの二つの任務を海上自衛隊はなぜ一隻にまとめることとしたかについて。日施掃海、海上自衛隊は有事の際、特に沿岸防備にあたる地方隊の重要任務としてこの継続的遂行が求められます。そして、日施掃海任務へ哨戒艦艇として限定的でも水上対潜戦闘能力が求められる、海軍戦略上の装備体系転換が影響しました。

 日施掃海とは、重要航路を機雷の有無にかかわらず毎日掃海する任務です。重要航路、横須賀地方隊であれば京浜地区の浦賀水道と中京地区の伊良湖水道、呉地方隊であれば阪神地区の紀伊水道と九州本州の豊後水道、佐世保地方隊の対馬海峡と大隅海峡に舞鶴地方隊の若狭水道、大湊地方隊の津軽海峡などが重要航路です。掃海艇を毎日派遣し、この水道に機雷が敷設されていないかを掃海、重要港湾へ入港する艦艇を機雷攻撃から守ることが日施掃海任務です。機雷は我が国周辺に敵国が機雷敷設艦を派遣せずとも航空機や潜水艦により敷設が可能で、自動車貨物船などを機雷敷設に転用した事例もあります。

 機雷の有無にかかわらず、と言いますのは機雷の被害が出てから掃海艇が出動しては遅すぎる為、予め機雷の有無を掃海し、無いことを示す、というもの。機雷、安価で途上国でも大量に調達できる装備ですが爆発威力が大きく、一発で大型船舶を行動不能に陥れますので、一発でも触雷被害がでますと、その航路は当面航行不能となるため、予め掃海を行わなければなりません。地方隊配備の護衛艦が自衛艦隊に、機動運用体制強化として集約配備され、地方隊から護衛艦部隊はすべて中央に集約されましたが、掃海艇が地方隊に残されたのは、日施掃海任務の実施海域は基本的に不変であるため、集約しても動かすことはできず、このため、運用部隊と管理部隊を維持することが求められたためといえました。

 この任務に将来三胴船、多目的艦艇として掃海艇と哨戒艦の任務が重ねられた背景には、機雷敷設手段の多様化と掃海艇戦略価値の増大が挙げられます。機雷敷設手段に潜水艦が含まれることは前述の通りですが、その敷設方法が魚雷発射管からの敷設ではなく、魚雷型の機雷を長距離から敷設する方法が開発され、掃海した直後に敷設される可能性がでてきたためです。またもう一つ、無視できないのは掃海艇そのものが攻撃目標となる可能性です。潜水艦による機雷敷設は第二次大戦中から実施されていますが、潜水艦からの敷設方法は基本として魚雷発射管からの機雷敷設であり、しかし、現在の新しい脅威は魚雷型の長射程の自走式機雷です、つまり、潜水艦は需要航路から離れつつ投射できる意味であり、同時に潜水艦は魚雷も投射可能です。

 機雷をしとめにいったら魚雷にしとめられた、簡単に表現するならば掃海艇が標的とならないよう掃海艇であっても対潜哨戒能力が求められるわけです。つまり、潜水艦が機雷敷設のついでに掃海艇を魚雷で狙うならば、掃海艇も機雷掃討に併せて近くの潜水艦も掃討する必要性が出ている、というものです。特に機雷敷設手段が潜水艦となり魚雷型の機雷が長射程から投射される、機雷敷設手段の長射程化に敷設手段の秘匿性強化という転換を前に、掃海艇という機雷掃討手段そのものについても長射程の機雷敷設へ迅速に対処できるよう技術革新の必要が迫られている、といえるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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榛名防衛備忘録:将来三胴船方式艦艇への一考察【1】 コンパクト護衛艦に続く日米共同開発艦

2016-01-04 21:21:59 | 先端軍事テクノロジー
■海上自衛隊の将来艦構想
 新春特別企画短期集中連載、今回から将来三胴船方式による将来艦艇について何回かにわけ考えてみましょう。

 将来三胴船方式艦艇、日米での共同開発が進められている小型高速艦艇で、機雷掃討任務と哨戒任務を想定し、全長は80mで基準排水量1160t、満載排水量1400t、速力は35ノットを想定し、船体はアルミニウム合金が検討されているとのこと。あきづき型護衛艦と同程度の飛行甲板とヘリコプター一機を収容する格納庫を有し、小型ながら航空機運用能力をもちます。加えてその飛行甲板下にミッションベイとして600平方mの多目的区画をも配置するとのこと。

 三胴船方式を採用する背景には排水量に対して上部構造物を大きく取れる事が利点ですから、ミッションベイと航空機格納庫、基準排水量では掃海艦やえやま型と同程度でしかないのですが配置できることとなり、そのミッションベイにはUUVやUSVなどの無人機材とRHIBなど小型艇を、さらに武装として76mm単装砲一門とCIWSを搭載するとのことでした。なお、レーダーは対水上と航海レーダーを搭載、対潜装備やソナーについては言及がありませんでした。

 さて、一種類の装備で様々な任務に対応できることは理想的です。ここで例として示したいのが流氷観測任務、海上自衛隊が伝統的に気象庁の支援任務としてP-3C哨戒機により実施している任務です。P-2Vの時代やP-2Jの時代から続きます、が、しかし報道によれば、今年度の実施は大幅に削減される、とのこと。この背景には、ソマリア沖海賊対処任務や国際訓練の機会増大にあわせ、南西諸島警戒任務の増大などをうけ、10回程度毎年行われている任務を今年度は1回にとどめるとのことでした。

 ただ、平時の警戒監視任務にあわせ北方方面飛行の際にあわせて流氷観測を実施し、全体として気象庁の支援は継続するとの方針です。自衛隊の近年の厳しい国際情勢の影響が反映されていますが、ついでとはいえ、支援は継続できるようです。ついでに、即ち二つの任務を同時に対処するとの行動ですが、複合的に任務遂行可能な装備というものはえてして重宝するものです。さて、掃海艇と護衛艦、現在開発が進められる将来三胴船方式艦艇ですが、海上自衛隊の重要な任務を同時に、対処出来ることとなるもよう。

 将来三胴船方式艦艇は、現在設計が進められているコンパクト護衛艦とは全く異なるものとなります。コンパクト護衛艦は基準排水量3000tを期している、との事ですので護衛艦はつゆき型と同程度、満載排水量では4000t程度となり、満載排水量で3000tを越える水上戦闘艦艇は世界では大型水上戦闘艦に分類されますので、むらさめ型や護衛艦たかなみ型に護衛艦あきづき型と満載排水量6000t級の護衛艦が基本である海上自衛隊ではコンパクト、と称されるものの世界的に視ればコンパクト護衛艦は大型水上戦闘艦です。

 コンパクト護衛艦にも機雷戦対処能力が盛り込まれるとのことですが、基準排水量3000tは消磁等の措置を採ったとしても機雷に対する能力としては少々限界があります、UUVやUSVを搭載し機雷原から離れた海域からの機雷掃討を行う能力があります、が、基本は護衛艦であるわけです。護衛艦を軸に掃海艇の能力を若干とはいえ盛り込んだコンパクト護衛艦に対し、将来三胴船方式艦艇は掃海艇に若干の護衛艦の機能を盛り込んだもの、といえるのでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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FN Browning Hi-Power : 第一世代自動拳銃の最高峰 & SIG SAUER P228 : 法執行機関用拳銃の至高

2016-01-03 20:30:06 | 北大路機関特別企画
■ブローニングハイパワー
 本日はお正月恒例企画、2015年に調達しましたトイガンなどを紹介する事としましょう。

 ブローニングハイパワー、ベルギーのFN社製拳銃をマルシン社製モデルガンとして再現したもので、アメリカ人銃器設計者ジョンブローニングが1926年に設計した自動拳銃を1935年にデュードネサイーブ技師が改良を加えたもの、ジョンブローニング氏の設計した銃器はウィンチェスターM92レバーアクション銃や近代機関銃の始祖ブローニングM1895重機関銃、現用重機関銃として設計後一世紀以上を経て運用が続くブローニングM-2/50口径重機関銃に、我が国でも広く使用されたブローニングM1910拳銃にコルトガバメントM-1911自動拳銃など多岐に及びますが、ブローニングハイパワーは氏の最後の設計であり、複列方式の所謂ダブルカラムマガジンを採用することで13発の9mm拳銃弾を装填可能、映画ダイハードの原作にも主人公の拳銃として登場したほか、一昨年までイギリス軍が本銃の完成した設計に後継拳銃選定が難航したほどの傑作です。サイーブ技師は世界中に採用されたFN FAL小銃の設計者として世界中に知られています。13発という火力はイギリス空挺特殊部隊SASでも永らく使用されており、突入任務では再装填の必要がない程の火力を突入要員へ付与していまして、我が国では海上保安庁が使用しています。ブローニングハイパワーは1935年からベルギー軍制式拳銃として運用開始となりましたが、第二次世界大戦の勃発と共にドイツに占領され、FN社は敢えて粗悪な拳銃を製造する事でドイツ軍へ抵抗しました、このため、ドイツでは一般認識としてワルサーP-38等よりも銃弾が多いだけの粗悪拳銃、という印象を強めてしまいますが戦時中カナダで生産されたものは連合国への供給が行われたほか、中華民国でのライセンス生産も実施、戦後は一挙に高性能拳銃として採用国が増加し50か国以上で採用されました。

 S&W M19、357マグナム弾を使用する中型リボルバーとして1955年にスミス&ウェッソン社が発表した回転式拳銃で、4インチ銃身モデルがアメリカの警察用拳銃として広く採用されたことで知られます、命中精度を考慮し6インチ銃身型も発表されていますが、そのM19を東京マルイがガスリボルバーとして発表したものです。S&W社のダニウェルウェッソン技師は、マグナム弾、つまり従来拳銃弾の弾頭部分を強力な発射薬により初速を向上させ威力を増大させる方式の銃弾、その第一号として1934年に発表された357マグナム弾を拳銃に転用する設計案を示します、今日ではマグナム弾は高威力の回転式拳銃弾薬の代名詞ですが当初は法執行機関用のレバーアクション式カービン用弾薬としての用途が広く、拳銃弾を使用していたレバーアクション式カービンに高威力を付与する視点から仕様されていました、しかし、1930年代のアメリカ禁酒法時代、鋼板式防弾チョッキを着用しての銃撃戦に威力が評価され、ダニウェルウェッソン技師はその自らが設計した357マグナム弾を使用する拳銃としてM-19を開発しました。ガスガンとしてのM-19は24連発の独自機構を有し撃ちやすく、24連発設計は、ガスリボルバーが6連発時代にその不利を補うべく高威力化と脱法化に走りやすい傾向を多弾数を以て阻止した記念的な製品でもあります。

SIG SAUER P228、スイスのシグ社製9mm拳銃シリーズの法執行機関向け自動拳銃として1989年に発表されました、元々の原型はシグザウエルP-226自動拳銃で我が国でも海上自衛隊や海上保安庁に採用されたという高性能拳銃です、陸海空自衛隊が制式拳銃として採用しているシグザウエルP-220はスイス製自動拳銃の伝統に沿い、堅牢で故障が少ない一方で極めて高い命中精度を誇るものですが、装弾数が単列式となっているため9発と少なく、このためP-226はダブルカラムマガジン方式を採用する事で15発を装填可能としたものでした。P-220は1975年に発表されましたが、P-226は1984年に開発され、アメリカ陸軍制式拳銃選定に提示されました、が、高精度は必然的に高価格に跳ね返り、ベレッタ92Fにその座を譲ってしまいました、他方、高精度を必要とする特殊部隊ではP-226は愛用され、その銃身を若干切り詰め携帯性を強化したものがP-228です。P-226と並び海上保安庁や海上自衛隊の特殊作戦部隊においても運用されているもので、装弾数を2発少ない13発としたことで握把部分を小型化し、携帯性と共に握り易さなどにも配慮が為されています、ただ、2発減るのは火力低下につながるとしてP-228/M11A1モデルとして15発型も発表されています、写真はKHC社製固定スライド式ガスガンで饗庭野演習場からの帰路に近江今津駅前で鰻丼を頂いた際隣で偶然発見し購入しました、タナカやタニオコバ等が一時利き添って発表したP-228ですが、エアコッキング式を除けば既にすべてが廃盤となっており、偶然入手できたもの。

Sturm Ruger MkI、アメリカのスタームルガー社が創業の1949年に発表したものを台湾のKJ WORKS社製として再現したもの、スタームルガー社はこのスタームルガーMk1により、22口径という小型拳銃弾を用いるものの、射撃時の最装填に銃本体のスライド部分を動かすのではなく、本体内部に内蔵されたボルト部分を稼働させることで射撃時の可動部分を極小化させ砂塵などの混入による故障発生のリスクを抑えると共に反動を軽減させ、併せて可動部分を少なくすることは安価に仕上げる事にも繋がりました。発売されていたのはサイレンサー付モデルで、これはマルシンのMAXIシリーズとしても発売されていたものですが既に廃盤となっており、永らく入手できなくなっていたものが台湾製として発売されたもの、固定スライド式ガスガンですが、実銃の反動の少ない部分が継承されている部分ともいえ、更にサイレンサーモデルがヴェトナム戦争でのアメリカ軍特殊作戦部隊の競合地域活動用に多用されたほか、CIAが暗殺用拳銃として使用していた、とも言われます、他方22LR弾の反動の少なさはアメリカでの子供向け入門拳銃という位置づけが強く、しかしサタデーナイトスペシャルに代表されるような粗悪な拳銃ではなく、競技用拳銃に用いられるほどの安定性と事故の少なさなどから知られている一丁です。

 Enfield Revolver No.2 Mk.I、イギリス軍制式拳銃としてエンフィールドMk1は第二次世界大戦までを戦い、准制式拳銃として1982年まで現役であったほか、2010年代に入ってもイギリス本土に戦時予備として大量に備蓄されたままであったことがBBCにより報じられていた拳銃です、中折式回転式拳銃で駄菓子屋雷管銃玩具にてこの方式を知られている方は少々オッサンとなった方まで多いかもしれません、この細身で装填時の動作は一回見れば忘れないほどの強い印象を与える一丁であり、映画でもインディージョーンズ最後の聖戦にてインディが手にしていた、という印象が強いと思うのですが当方の周りではサクラ大戦でマリアタチバナさんが使用していた改造型や天空の城ラピュタにてムスカ大佐が使っていたという印象が強いとか、モデルガンを入手しました。中折式拳銃は再装填時に回転式拳銃よりも素早く排莢が可能である為軍用拳銃に必要な即応性の部分で秀でており、イギリス軍は1880年に制式化してのち1982年の准制式解除まで100年以上19世紀の拳銃を愛用していたこととなります、単純な構造から大口径拳銃弾を使用する事は出来ませんが、小銃と短機関銃の補完という位置づけにある軍用拳銃としては充分で、興味はあったものの手を出せませんでした、改造型を大日本技研が発売した簡易モデルガンは購入しましたが、今回ショットショーにて入手することができました。

北大路機関:はるな くらま
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謹賀新年二〇一六 新しい一年のはじまり、北大路機関を本年もどうぞよろしく

2016-01-02 22:33:49 | 北大路機関特別企画
■賀正二〇一六
 迎春の慶び、改めまして新年のご挨拶を。

 Weblog北大路機関をご覧いただきます皆様、明けましておめでとうございます。

 旧年中は大変お世話になりました、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 Weblog北大路機関は本年で創設から11年、今年も毎日更新として話題をお伝えしてゆく所存です。

 昨年、富士にて撮影、奇跡の四枚連写全枚砲焔写真を以て御挨拶させていただきます。

北大路機関
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