元気象省庁長官だった和達清夫さんの数学についてのエッセイで中学校のとき、数学の先生から「比とは比の値のことです」と説明があって、目から鱗が落ちたような感じがしたという述懐があった。
比とはなにかよくわからないと感じる人は多いと思われる。ご多聞に漏れず私もそのうちの一人だった。
昨日の午後、ただ塾の数学の教師ということで教育会館に詰めていたとき、私の友人のEさんから比とは比の値のことだと、これは言葉ではなく式で示された。また、ただ塾に来ていた2年生君もそういう風に学校で教わったと言っていた。
それでようやく現在の中学校の数学教育が私の受けた頃よりも進んでいることを知った。また友人のEさんは70年以上昔だが、進んだいい数学教育を受けていたということもわかった。
昔は
a:b=c:d
が成り立てば、「内項の積は外項の積に等しい」、すなわち、ad=bcという等式が成り立つとあまり理由を教えないで覚えさせられた記憶しか残っていない。
それで上の比例式を私などは嫌って
a:b=c:d
と書かれていれば、即座に
a/b=c/d
と書くことにしている。これなら等式であるから両辺にすぐに同じ数bdをかければ、
ad=bc
が導かれる。要するに現在の数学教育で「比とは比の値のことである」ということを教えられているのを、私は自前で実行していたことになる。
こういうことをどこで学んだかというと、私の場合には大学受験のために化学の計算問題の解き方を、津田栄先生の学習参考書を学んでいたときに自然に覚えた方法である。津田先生の本に詳しくそういう説明があったわけではないが、そういう風に考えてそこから学んだと思う。
私の亡くなった長兄は中学校の理科の教師であったが、彼も私と同じに
a:b=c:dが出てくるとa/b=c/dとするように教えていたらしいことは、彼の生前に何度か聞いたことがあった。
彼もまた私と同様に比例式で「内項の積は外項の積に等しい」ということが、数学的にどこから来るのかわからないという理由であったと彼から聞いていた。
a:b=a/bであるのならば、同様にc:d=c/dであるから、a:b=c:dから直ちに
a/b=c/dが得られて、ad=bcも出てくる。少なくとも長兄や私が学んだ頃の数学教育は今とは違って理不尽なものであったに違いない。
だが、そういうことは愛媛県では70年以上の昔はまかり通っていたのかもしれないが、他県、少なくとも、Eさんの育った、茨城県ではそういう教育ではなかったらしい。
ただ塾の数学の教師としてある時間をある場所に詰めているだけではなくて、貴重な経験をさせてもらっている。
今でも理系の人の書いた文章に比例式のままの表現がときどき見受けられる。だから、私は私の受けた教育が愛媛県にだけあったとは思っていない。全国津々浦々まで浸透していたのだろうと思っている。だが、それも現在では変わって来ているということだ。