ベクトル積a\times bの成分の覚え方に関心がある。
いまも四元数入門というエッセイを書いたところだが、この中にベクトル積の成分の覚え方について数行を挿入した。これはあまりうまく述べられていないのと思うのだが、それをうまく述べるにはどうしたらいいか。
もちろんLevi-Civita記号\epsilon_{ijk}で \epsilon_{ijk}a_{j}b_{k}などという難しげな記号を導入するというのも一つの手である。これがどんなものかはここではわざと紹介しないでおこう。関心を持った方が自分で調べたほうが印象が深くて絶対に頭に残るだろうから。
もっとも世の中の諸兄姉は私みたいな鈍才ではないので、ベクトル積の成分などには引っかからないでさっさと受け入れる方ばかりなのだろうか。
しかし、そうだとばかりは言えないらしいとは学習院大学の田島先生の物理数学の講義ノート(インターネットで読むことができる)で説明がされていたので、やはり優れた研究者の方でも「私と同じようなところがあるな」と思ったことがあった。
つぎの説明は田島先生の説明と同じだろうか。もし第1成分なら(123)の最初の1のところを指で押さえると、残りは23である。これが第1成分の第1項の添字である。第2項はーをつけて23の順序を入れ替えて32とすればよい。すなわちa_{2}b_{3}-a_{3}b_{2}が第一成分である。
第2成分は(231)と(123)を一つづつずらしてサイクルさせ、最初の2を指で押さえる。そうすると残りは31である。これが第2成分の第一項である。残りの第2項はーの符号をつけて31の順序を入れ替えて13としてたせばよい。すなわちa_{3}b_{1}-a_{1}b_{3}が第2成分である。
もうここまで述べると第3成分はa_{1}b_{2}-a_{2}b_{1}となることは明らかだろう。要するに第 i 成分のときに i が表にでて来ないのだが、これを意識することができれば覚えるのは簡単だという話である。
有名な『Feynman物理学』だとかの教育的配慮の届いた書籍にはどれにも、この表(おもて)にでて来ない第1, 2, 3成分という数字を意識させるような書き方がさりげなくされている。この辺は私みたいにこれでもかという執拗な言及はないのだが、奥ゆかしい配慮はされている。
上に述べたLevi-Civitaの記号とかの表示でも、たとえば、第1成分の添字に1という数字がまったく出て来ないことに違和感を感じて1が来るようにしたとか第2成分の添字に2が出てくるようにという風な工夫をしたのではないかと考えている。
図を描けばすぐにわかるところを言葉だけで説明をしたので難しく思えるが、図を描けば田島先生の説明になるのだろう。