【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

残念だがやむを得ない、鉢呂吉雄・経済産業大臣の辞任

2011年09月11日 13時58分10秒 | 第178臨時国会(2011年9月)野田内閣

[写真]首相の野田佳彦さんとともに東京電力福島第一原子力発電所内を訪れた鉢呂吉雄・経済産業大臣(当時=左端)、2011年9月8日、首相官邸ホームページからトリミング。

 野田内閣で初入閣を果たした、鉢呂吉雄・経済産業大臣が2011年9月10日、辞任しました。野田佳彦首相は翌11日(日曜日)、「鉢呂氏から辞表の提出があり、受理した。福島県民の皆さんには大変心を傷つけることになり、おわび申し上げる。福島の再生なくして、日本の再生なしという方針は変わらず、きちんと一丸となって信頼回復に取り組んでいきたい」として、深々とアタマを下げておわびしました。

 これに先立つ、8日(木)、野田首相らと東京電力福島第一原子力発電所を訪問しました。この翌日である9日(金)の定例閣議後記者会見で、「野田首相と一緒に視察した福島第1原発の現場は、まだ高濃度で汚染され、大変厳しい状態が続いている。残念ながら周辺の市街地は人っ子一人いない死の町という形だった」と述べ、これが問題発言だと報道されました。この後になってから、その前夜である8日(木)に、鉢呂さんが衆院赤坂議員宿舎に帰宅した際に、夜回りの記者10人程度に囲まれた際、「放射能をつけちゃうぞ」ないしは「放射能をうつすぞ」(メディアによって違いがあり、正確な発言は不明)という発言や防災服をこすりつける行動をしたと、後から報道されたと思います。

 ちなみに、ここで私が不可思議に感じるのは、どこの大きいメディアでも、経済産業省は、経済部記者が担当しているはずです。大臣会見も経済部記者が担当していると思います。でも、議員宿舎の夜回りは、政治部記者が恒常的にしており、経済部記者が経産大臣を待つのは何か大きな特ダネの最終確認をのぞけば、あまりないと思います。ということは、この9日の会見の記事と、8日の懇談の記事は別の記者が書いているのではないかと思います。この辺が、新聞報道がスッキリしないものになっている原因だと考えます。言葉狩りの気がします。

 ただ、私はかねてから、大臣は、「辞める、あるいは辞めないという話」になってしまったら、辞めるべきだと考えています。なぜなら、”鎮火”しないと、総理にも延焼するかもしれないからです。そして、13日(火)に国会が召集されますので、その3日前は辞めるべきタイミングであり、野田首相の政治センスは優れていると感じています。

 個人的には、鉢呂さんに頑張ってほしかった。しごく残念です。

 鉢呂さんは野党・与党通じて、国会対策委員長をしていますが、野党時代に、自民党総裁で首相の小泉純一郎さんが2004年9月27日の第2次小泉改造内閣で、南野知恵子(のおの・ちえこ)法相を任命したところ、国会答弁で「専門家でないので」などと答弁し、審議が長時間ストップしたことがありました。予算委理事(故人)が「(専門家でない)あの人が(法相として)死刑執行の命令書にサインするんだよ~~」とおそらく集音マイクの位置を意識したうえで叫んだのをよく覚えています。鉢呂国対委員長も代議士会で、法相の苗字が難読で印象に残ることから、「法相を、のおのおと続けさせるわけにはいかない」とダジャレを交えて述べて、辞任に追い込む構えを示したことがありました。小泉首相の「何でも初めてなんだから、そんなにいじめちゃいけないですよ」という趣旨のぶら下がりインタビューの効果もあり、南野法相は辞任せず、職務をまっとうしました。一方、政権交代後、鉢呂大臣は9日間で辞任ということで、民主党お得意の「ブーメラン」となりました。このブーメラン体験は「政権交代ある政治の完成」へ向けた貴重な体験として、民主党は共有すべきです。

 鉢呂さんは岡田克也代表の下で選挙対策委員長として、第20回参院選で、民主党結党初の改選第1党を勝ち取り、国会対策委員長に昇進しました。国対委員長では前段の「のおのお」発言もありましたが、郵政政局では、自民党の本部(衆院)執行部と参院執行部との現在に続くあつれきを生じさせるなど、「ガチンコ相撲の突破力」(鉢呂さん)を見せて、早期解散につなげました。しかし、解散後に風が変わり、6年前の「9・11」、小泉自民党に地滑り的惨敗を喫してしまいました。

 南野さんは、昨年夏の参院選に立候補せず、引退しました。旭日大授章。南野さんは「専門」の日本看護協会に関係する法案が議題となった衆院本会議では、よく傍聴席(参議院議員傍聴席)の最前列でみかけました。一人、上下真っ赤なスーツ姿で、採決を見守り、可決や成立を見届けると、ぺこりとあいさつをし、階段をのぼってかえっていくところを複数回見たことがあります。

 鉢呂さんも、選挙も強いですし、今後、野党でも与党でも、何度かチャンスがくると思いますので、これからも頑張ってほしいと思います。農相、あるいはシャドウ農相などの「専門家大臣」というチャンスもあるでしょう。選挙強いですからね。残念ですが、やむを得ません。政治とはとかく不条理であり、むなしい物です。