さる、平成30年2018年4月16日(月)午後8時40分頃、集団的自衛権の解釈改憲・戦争法(平和安保法制)批判の第一人者、小西洋之参議院議員(千葉、2022年改選)が、自衛官から罵声を浴びせられる事案があったことは、このブログでもお伝えしました。事案が終わるとき、小西さんは「あなたは組織の中でも若いだろうから」と声をかけましたが、実は、統合幕僚幹部(統幕)の指揮通信システム部の3等空佐(三佐)だったという、驚愕の事実が浮かび上がりました。
防衛省が24日付で作成した「自衛官の小西参議院議員に対する暴言・不適切発言事案について」によると、三佐が「総合的に政府・自衛隊が進めようとしている方向とは、違う方向での対応が多いという全体的なイメージ」、すなわち空気で、「国のために働け」「気持ち悪い」などと発言していたことが明らかになりました。
防衛省のペーパーでは、三佐は、たまたま参議院議員会館前で一緒になった小西さんに会釈され、「私は小西議員へのイメージもある中、挨拶を返したくない気持ちもあり、無視をするのもどうかと思って、思わず、国のために働け、と聞こえるように、大きい声で言ってしまいました」と、省・隊に話しました。
「国のために働け」との罵声を浴びた小西さんは「国のために働いています。安倍政権は、国会で憲法を危険な方向に変えてしまおうとしているし、日本国民を戦争に行かせるわけにはいかないし、戦死させるわけにもいかないから、そこを食い止めようと思って、私は頑張ってやっているんです」、と返答した、と防衛省は説明しています。
とっさにこの返答をする小西さんもすごいと思いますが、三佐は内心「恐らく、小西議員は日頃からネット上や様々なところで、色々な反対意見・批判を受けていて、そのたびに改憲や平和安全法制の話題で対立していたので、この種の反論になれているように感じました」と、省・隊のヒアリングで答えたようです。
三佐は「戦死を身近に感じている私にとっては、小西議員の戦死という言葉の言い方が非常に軽く感じ、私のこれまでの災害派遣任務で経験したヘリから基地に空輸されてきたご遺体を目の当たりにしたときの強い衝撃や使命感、(略)覚悟を軽んぜられたと感じた」として次のように小西さんに言い放ちます。
三佐は小西さんに対して口頭で、「俺は自衛官だ。あなたがやっていることは、日本の国益を損なうようなことじゃないか。戦争になった時に現場にまず行くのは、我々だ。その自衛官が、あなたがやっていることは、国民の命を守るとか、そういったこととは逆行しているように見えるんだ。東大まで出て、こんな活動しかできないなんて馬鹿なのか」とむきになってしまい、言い返してしまいました」と語りました。
この「東大まで出て」ですが、戦前戦中の陸軍士官学校や海軍兵学校と違い、戦後の防衛大学校は、たいへん無念ながらも、社会的には「日陰者」扱いされてきたことは明白な事実。また、防大には法学部が無いことから、防衛省の法学部卒の内局キャリア官僚に服従していることへのコンプレックス幹部自衛官の間で充満しています。
防衛省のペーパーにかえると、警視庁警察官をまじえた騒動の中で、自衛官が「国会議員だったら、一国民が言っていることを、ちゃんと聞くぐらい、いいじゃないですか」とだんだん弱気になっていくさまが分かりますが、武士の情けで割愛しましょう。
そして、三佐は「私も事の重大さを認識し謝罪しようと思い始めていたため、小西議員に対し、今回のやり取りで、馬鹿、気持ち悪い、と言ったことについて、個人の尊厳を傷つけるようなことと、考えの違いはあるかもしれませんが、日々日本をよりより良くしようと頑張っている政治活動を冒涜するようなことを言ってしまい、大変申し訳ありませんでした、と謝罪しました」と省・隊に話しています。
この後、三佐は次のように話しています。「私の謝罪に対し、小西議員は、ご自身の政治理念を述べられ、具体的には、はっきりとは覚えていませんが、70年前に総理大臣を殺して226事件や515事件など、クーデターが起きたことを踏まえ、シビリアンコントロールが大事というような趣旨のことを話していました。小西議員は、あなた、どう思う?、と問われたので、私は歴史のことではなく、今回の一連の案件を通じて、勉強になりました、と答えました。私の本意は、自分の立場も考えず、言いたいことを言ってしまい、自分は、まだ未熟だな、ちゃんと社会人としてやっていかなきゃいけないな、という意味でした」と省・隊に答えています。
社会人という問題ではないと思いますが。
防衛省のペーパーはここまで。
三佐が、災害派遣でご遺体を見たトラウマや、全体的なイメージで総合的に政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う方向での対応が多い、という空気で動いてしまった。はっきり言ってノイローゼですが、これを読んで、ほうふつとするのは、やはり226事件。
東大卒に対してコンプレックスがある三佐ですが、226事件の陸軍士官も、東北出身というコンプレックスがあった、というのは公然たるタブーです。
「貴様らは今は日本にいるが、やがて満州に行かなければならないんだぞ。満州へ行けば、朝から晩までいくさをやるんだ。毎日人を殺さねばならないんだ。今ごろこんなものが、一人や二人撃ち殺せんでどうするか」
これは、岡田啓介首相(海軍)が、首相官邸(現・首相公邸)の2階から中庭を覗き見て、首相の身代わりに娘婿の松尾・首相政務秘書官心得が、射殺されるシーンを目撃した際の述懐(岡田啓介回顧録の158ページ)。銃を弾くことをためらう部下に対して、反乱した幹部が上のような文言で鼓舞したというものです。
明らかに、満州など外地に今後初めて派遣させるときを思い描いて、ノイローゼになった、一部の幹部陸軍人が妄想で暴走してしまったのが、226事件だったと分かります。なので、陸軍省本部が躊躇なく反乱を収め、このことで、かえって、内務省警視庁よりも、陸軍省憲兵隊の力が上回ってしまう、皮肉な結果となりました。
2014年7月1日の解釈改憲をしたのは言うまでもなく、自民党と公明党であり、2015年の戦争法(平和安全法制)を強行採決したのも、自民党と公明党です。三佐が小西さんを「総合的に違う方向での対応が多いという全体的なイメージ」という世界観で見てしまっていた。いずれにせよ、この自衛官が言った「国のために働け」や、財務省が20年来言っている「国の借金」の「国(くに)」とはいったい何ぞや。実は、国というものが空気ではないか。
個人的には、2015年戦争法が成立しちゃったから、もうどうにもならないな、というのが正直な、偽らざる感想です。
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