【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

【用語解説】「沖縄振興一括交付金」は“普天間”とまったく無関係

2011年09月24日 13時09分35秒 | 第178臨時国会(2011年9月)野田内閣

 平成24年度予算(案)に、内閣府所管で、「沖縄振興一括交付金」という新しい歳出項目が、3000億円計上される見通しとなっています。この「沖縄振興一括交付金」について、新聞で「普天間移転がどうしたこうした」などと全く誤った記述が見られますので、きょうはこれについて説明します。

 マニフェストの中間検証と、マニフェストの部分的撤回による3党合意を実現した前民主党幹事長の岡田克也さんですが、実は、岡田さんが官僚たちの隙を巧妙に突いて、「骨抜きにされたマニフェストをなんとか原点に戻そう」という動きが、この「沖縄振興一括交付金」であり、基地問題はまったく関係ありません。仮にそうだったら普天間飛行場がある宜野湾市や、辺野古沖がある名護市に直接交付するはずで、県庁に交付するというのはねらいが違うからです。

 その前に、民主党は第1次野党期から、国から自治体への補助金(金も出すが、口も出す、さらに天下りも強要する)を削減し、地方一括交付金を創設しようとしていました。これは、県議経験もある玄葉光一郎さんらが「分権調査会長」として、取り組んできました。また、年金王子の異名を取った後、特別会計や天下りなどの問題に取り組んだ長妻昭さんも「HAT-KZ(ハットカズ、紐付き補助金など)」の撤廃を訴えてきました。

 マニフェストでは、行政刷新会議を創設し(実施済み)、紐付き補助金を廃止し、(義務教育と社会保障の国庫負担分は確保)、一括交付金として効率的に財源を活用すると同時に、補助金申請が不要になるので、その経費と人件費を削減できるとしていました。とくに天下り受け入れがなくなれば、相当額なムダづかい削減につながるところでした。

 霞が関では、全府省の省益が重なることは本来ありません。とくに、公共事業官庁である国交省と、査定官庁である財務省主計局の省益が重なるなどということがあるわけがありません。そこで、オール霞が関による骨抜きが行われたようで、平成23年度(今年度、2011年度)の当初予算には、内閣府に次のような予算事項ができました。

 
 このように「地域自主戦略推進費」として、4798億円がついています。次の欄に「0」とあるのは、前年度の予算計上が「0」だったということで、平成23年度のまったく新しい事業であることを意味しています。そして、その説明は、「地域の自由裁量により行う基盤整備等に要する経費に充てるための都道府県に対する交付金(地域自主戦略交付金)」ということで、「地域の自由裁量」だとか、「基盤整備等に要する経費」などと訳の分からないことを書いて、結局は従来の紐付き補助金をそれらしく衣替えしただけのことです。

 このマニフェストの骨抜きですが、実は霞が関は自ら落とし穴に落ちています。というのは、旧北海道開発庁は橋本行革で、国土交通省北海道局になりましたが、沖縄開発庁は1972年の創設以来、総理府ビルの中にあり、現在は内閣府沖縄振興局となっています。そのため、内閣府主管の予算には沖縄関連予算があります。これには確かに本土復帰と基地負担が大きく関連しています。

 ちなみに、私は地方一括交付金は政権交代(政権獲得)後は、総務省の所管になるものだと思い込んでいました。ただ、どこの所管になるかはマニフェストにも記載がなく、その辺が民主党マニフェストの象徴的に甘い所ですが、霞が関は内閣府に持ってくるという手段に出ました。

 そこを、岡田克也さんが「桶狭間」と気付いたようで、内閣府内の沖縄振興予算の紐を解いて、総額3000億円を一括交付金として、沖縄県庁に渡しきりにしなさい、というのが「沖縄振興一括交付金」です。名称にも「一括交付金」がわが国の予算書におそらく初めての単語として登場します。ですから、これは骨抜きにされたマニフェストの原点回帰です。北部振興策や普天間基地移設問題とはまったく意味が違います。

 一つ問題になりうるのは、今までは細かい事項を概算要求で積み上げていたのが、渡しきりの3000億円となると、次年度以降スパッと削られるではないかとという点。これは沖縄県庁が関係者に要望活動していけば、問題はないでしょう。それと野党時代からずっと懸案だった県庁から基礎自治体への配分はどうなるかということですが、この辺は、パイロット自治体としての沖縄県庁、仲井真弘多知事の力が試されるところです。

 とにかく、新聞が1行だけとはいえ、「普天間基地の移転問題もあり」と書くのがどうにも許せない気がします。沖縄問題の根は深いなと感じると同時に、岡田さんもマニフェストをなるべく守る方向性でやっているということを一人でも多くの有権者に知って欲しいし、それ以上に身内である民主党議員も気付いて欲しいと思います。

 官僚出身ということもあり、手の内を知っているということと、やはり攻撃型性格である岡田さんです。座右の銘は「大器晩成」、尊敬する人物は「織田信長」ということで、「大器晩成の織田信長」というのは相当すごいものがあります。この辺も政治はあうんの呼吸で、岡田克也さんが幹事長で、枝野幸男さんが官房長官(兼)沖縄・北方担当大臣、同期当選の大畠章宏・国土交通大臣と、政治改革仲間の鹿野道彦農相という取り合わせで端緒につきました。野田内閣では、川端達夫さんが総務大臣(兼)沖縄・北方担当大臣になりました。おそらく総務大臣と沖縄大臣の兼務は初めてですから、この人事には、岡田さんと野田佳彦首相の間で、なんらかのやりとりがあった可能性があります。官房長官は幹事長代理だった藤村修さん、国土交通大臣には政治改革仲間の前田武志さん、鹿野農相は再任しました。そして、通産省の15年先輩である仲井真弘多知事(昭和36年入省)という人事体制ができています。

 1972年の沖縄の本土復帰以来、国や総理府などの政策は、沖縄を本土並みにしようという姿勢で来ましたが、これからは沖縄が日本を引っ張る、沖縄ファーストの時代になります。他の46都道府県知事も参考にして、一括交付金化をめざしましょう。

 なお、2011年7月11日(月)の岡田さんの記者会見で、私などが次のような質問をしていますので、ご参考までお読み下さい。

http://www.dpj.or.jp/media/kanjicho_kaiken/20110711.html#05

○沖縄振興一括交付金について
 
【琉球新報・仲井間記者】先週末、官邸に沖縄振興の一括交付金について提言を持っていかれたが、沖縄に関しては高率補助制度が維持された形で交付金化されるのか、
それとも補助率は全国と同じような割合になって交付金化されるのか。
 
【幹事長】ちょっと質問のご趣旨がよくわからないのですが、一括交付金になるということは、補助金はありません。ですから補助率という概念もありません。
 
【フリーランス・宮崎記者】枝野官房長官には沖縄の「一括交付金」という言葉を使って提言された。マニフェストの中には「地方一括交付金」という言葉があったが、これが予算では内閣府の「地域自主戦略交付金」という違う名前になっている。沖縄は、交付金が多いからか、地方税の割合が低い。民主党の目指す地方一括交付金改革、最終的には税源移譲も考えておられると思うが、そういったことを沖縄の一括交付金の中に意味合いとして含めているか。
 
【幹事長】一括交付金化というのは、党のマニフェストでもうたった「地方主権」の大きな柱です。そういう中で沖縄を先行的なモデルとして位置づけてやっていこうということです
 沖縄の場合は、他と比べて違うところがいくつかありまして、例えば、既に内閣府に計上されているわけですね。もちろん、その根っこは各省庁にあるわけですが、一応、内閣府にそれをまとめて計上することをやっていると。しかも、それは補助金であるわけですが、今回はそれを交付金の形にして、各省庁の根を断ち切って内閣府だけで計上すると、総理・官房長官への申入書には書いておいたわけであります。これこそが本当の一括交付金であって、基本的にすべての補助金、そして国直轄事業も、基本的にはその一括交付金の中に含めるということでありますので、あとは沖縄県のほうで自由に判断していただいて予算配分していただくことになるわけです。
 他省庁から見ると自らの予算がその分減ってしまうわけで、いろいろな困難もあると思います。したがって、これは内閣の中でよく調整してもらう必要があると考えております。
 官房長官にはずいぶん前からお願いし、調整してまいりましたので、それから総理にも土曜日にお会いをして、あらためてお願いをいたしましたので、総理・官房長官のラインはしっかりとやっていただけると思いますが、今日、明日で農水大臣や国交大臣も、私、お訪ねして、それぞれ覚悟を決めてやってもらうようにお願いしたいと考えております。
 
【琉球新報・仲井間記者】これまで沖縄県で事業をする場合、高率補助ということで国が補助する割合が高かった。これから一括交付金化する際に、どういう基準で算出するのか。高率補助の数字をそのまま保証した形で交付金化の額も算出するのか。
 
【幹事長】あまり、高率補助か高率でないかは関係ないと思います。いずれにしても沖縄県は、今、国が沖縄県に支出している金額よりもさらに上乗せしてと言われているわけで、そういったことをどう考えるべきかということ。これは年末の予算を決める際に議論していくことだと思います。まずは枠組みをきちっと決める。概算のときにできるだけ一括交付金化の枠組みを決めてしまう。これは各省庁の概算要求の形にかかわる話ですので、沖縄に出していた分を各省庁の要求から落とすことにするかどうかという問題ですね。そこまでしっかりできれば、ある意味では道の半ばを超えたことになると思います。そして後は金額をどうするか、こういう問題だと思います。
 
【フリーランス・宮崎記者】あくまで提言ということだが、その先にあるのは税源移譲も考えているか。
 
【幹事長】税源移譲というのはその後の話ですから。もちろんわれわれ、一括交付金化、これは沖縄だけではなくて全体で一括交付金化し、やがては税源移譲ということですが、これはすぐにできるわけではありませんので、何段階かステップを踏みながら進めていくことになると思います。