印象から言うと、野党時代からよく耐え、よく頑張ってきた人が順当に評価されています。ただ、それは野党経験が長く、与党経験が短いことの裏返しでもあります。けっして虚勢を張らずに「分からない」「いやーっ、自民党はこんな大変なことをしていたのか!」と正直に心情を吐露するクリーンでオープンな菅民主党丸を期待します。
こうやってみると、自民党内閣は「町内会型」で、民主党内閣は「会社型」だな、と思います。
自民党は派閥ごとに当選回数順の初入閣・再入閣適齢期の議員のリストを提出して、その中から、首相・官房長官らが選ぶ格好になっていました。今回は、菅さんが官房長官らと相談して、各グループ、衆参のバランスも考えながら、過去の人事評価シートをアタマに浮かべながら、適材適所で選んだという感じがします。
改造内閣の顔ぶれをみると、自民党が1年交替の「町内会の役員人事」という風情があったのに対し、民主党は、配置換えと副大臣からの昇格人事という「会社型内閣改造」という雰囲気がします。
[画像]第1次菅改造内閣の顔ぶれ(朝日新聞)。院替え参院議員の衆院当選回数は私が書き加えました。
【鹿野道彦さんが21年ぶりに農相復帰】
まず、「会社型」でない意外な例では、なんと言っても鹿野道彦さんが21年ぶりに農相に復帰したことです。1989年8月の第1次海部内閣以来です。そのときは、いわゆる「自民党の小沢一郎剛腕幹事長」がTVに登場しだしたあのとき以来の農相です。
鹿野さんは民主党では珍しい自民党清和会(福田派)出身で40日抗争にも参加しています。その後、1989年農相、1992年宮澤内閣で総務庁長官。そして、政治改革の志から「新党みらい」の船に乗り、新進党に移りました。新進党解党後は、「国民の声」「民政党」のイカダに石井一さん、岡田克也さんと乗り込み、民主党に参加しました。2003年~2004年には、菅代表・岡田代表のもとで「ネクスト農相」として、現在農林副大臣の篠原孝さんの「農業者戸別所得補償」を採用しました。
捲土重来を図った第45回衆院選では、岡田幹事長がチャータージェット機で山形空港に乗り込み、「政権交代後の閣僚候補だ!」と応援演説しました。おなじ省のリアル大臣→ネクスト大臣→リアル大臣というのは鹿野さんが初めてだと思われます。鹿野さんは山形県内の農政通として、自民党宏池会の加藤紘一さんと比較されることが多かったのですが、「政治改革の志」を貫いた分、意外や意外といっては失礼ですが、歴史に名を残す政治家は、鹿野さんの方になりそうです。
【昨年9月から同じ役所のトップを続けるのは最年長・北澤防衛相だけに】
自民党国会議員経験者は鹿野さんのほか、防衛大臣の北澤俊美さん、そして国民新党の自見庄三郎さんと3人だけになりました。北澤さんは、昨年9月16日の鳩山内閣発足から、同じ省を担当しつづける唯一の大臣となりました。普天間と言うよりは、防衛大綱の改定が11月めどに控えていて、これは向こう数年というか、装備品の方針転換があれば、数十年の予算に影響を及ぼすものです。大臣就任時には、マスコミから失言を引き出そうと狙われていた気配があり、私はこのブログの中で「俊美さんは酔拳のオッサンのような人だから失言でクビはとれない」と指摘してきましたが、その通りになりました。防衛省の官僚の話をよく聞き、自衛隊の儀礼に対してていねいにアタマを下げる最年長閣僚。防衛省・自衛隊のみなさん、ラッキーですね、ですよね?
【前原さんの外相横滑りと副大臣昇格の順当な人事】
菅内閣発足のときは、総理の後釜として、野田佳彦さんが副大臣から財務大臣に昇格しました。幹事長に転じた岡田克也さんの後任外相には、前原誠司さんが横滑り。まさに順当な人事という奴です。そして国土交通大臣には馬淵澄夫副大臣が昇進しました。当選3回生ですが、党内若手への影響力の高さからすれば、納得です。
また、厚生労働省では、4回生の長妻昭大臣を「労働担当副大臣」として支えた当選7回生の細川律夫さんが昇格しました。これを長妻さんが更迭されたとみる向きもあるでしょうが、この1年間で、「消えた年金記録」の修復は進んできていますから、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」へ厚労省へのシフトが細川さんの大臣昇進で明確になったというとらえ方を私はしています。
【労組出身者も絶妙な配置】
民社協会からは川端達夫文部科学相にかわって高木義明(タカキ・ヨシアキ)さん、拉致問題担当大臣が中井洽さんから柳田稔さんに変わりました。向こう6年間の安定した参院任期を持つ柳田さんは法相も兼ねます。この辺の人事も興味深いところです。高木さんは、三菱重工業長崎造船所という、明治維新直前にできたニッポンの誇りともいえる造船所のはたらく仲間の代表ですから背中でモノを勝たれる人です。前任者の川端文科相と同じく民社協会で、日教組はいわゆる旧総評系で、まあ敵というか味方というか、難しいですが、その辺のバランス感覚が期待できそうです。
民社協会参院議員の直嶋正行さんから、中立労連・日立製作所出身で、鳩山グループ会長の大畠章宏さんが経済産業大臣になります。とくに、ベトナムの原子炉トップセールスでは、日立・東芝・三菱重工業などの重電3社と政府の取り組みについて、来月、日越首脳会談で回答がきますので、ドキドキです。なお労組出身の高木文科相は64歳、大畠経産相は62歳で、同期入社の仲間が定年退職を迎えている、ということで、早めに入閣したい、つまり、同期が定年退職したんだから、そろそろいいんじゃないか、と小選挙区で言われる可能性にも配慮したのかもしれません。労組系は選挙は楽だとされますが、60歳を過ぎるとなかなか大変です。だから、高木、大畠両大臣は、1生に1度の仕事だと割り切り、思いっきり政府のムダを切って切って切りまくって欲しいです。
【松本龍さん、岡崎トミ子さんらもきっちり抜擢】
当選7回生59歳の松本龍さんが環境大臣兼防災担当大臣になりました。少々驚きました。というのは、野党時代から福岡1区で小選挙区を勝ち続けている力のある議員です。そして、「部落解放の父」である松本治一郎・元参議院副議長の孫です。それはすばらしいことです。しかし、松本治一郎が仲間の生活の安定をきずくために創業した建設会社はけっこうイケイケドンドンで、その辺で、松本さんの入閣は、当選回数を2桁ぐらいになってからなのかな、と思っていたからです。人柄はバツグンです!!
松本さんは元衆院環境委員長ということで、環境通の岡崎トミ子さんは国家公安委員長兼消費者・少子化・食品安全などの担当大臣となりました。岡崎さんは長年、岡田克也さんをリーダー候補や気候変動の問題で支えてくれたので、私個人としてはうれしいです。もう66歳なんですね、おどろきました。
総務大臣には、自治省出身の元鳥取県知事、片山善博さん。補助金の廃止(地方一括交付金)、出先機関の廃止(自治体への移管など)の2つに絞って、民間人なんですから、公務員の雇用を確保したうえで、あとは、切って切って切りまくって欲しいと思います。
【ひとつ懸念は経済・金融チーム】
民主党では、閣議のほかに複数のメンバーで「閣僚委員会」をつくっています。普天間などの安保・外交チームは、前原外相、馬淵沖縄・北方担当大臣、北澤防衛相、仙谷由人官房長官というチームで精鋭揃いです。
一方、経済チームです。この内閣改造で民主党は「未熟さのディスクロージャー」をしました。自民党時代の「経済・財政諮問会議」を廃止しましたが、このことにより、経済政策の司令塔が見えなくなっていました。これが他の閣僚が申し訳程度に兼務してきて経済財政政策担当大臣(経財相)として、海江田万里さんの起用につながったと思います。ただ、経済チームが、海江田経財相、野田財務相、大畠経産相、自見郵政改革・金融相、玄葉光一郎国家戦略相ということになると、この面々のつながりというは見えてこない。
国会ウォッチャーとしてニッポンのためにはっきり言いますが、大畠経産相は、この人まったくの経済オンチです。野党の小沢一郎代表時代、ネクスト金融担当大臣として衆院財政金融委員会での質疑を聞いていてひっくり返りそうになったことがあります。リーマン・ショック直後の第170臨時国会(2008年10月29日)に大畠ネクスト金融相は、当時の自民党の財務・金融相(故人)に対して、次のように質問しました。「ところで、実は、書店に今は、この『ソロスは警告する』という本ですとか(中略)こういう本がマスコミ界で出回っているわけです。特にこの『ソロスは警告する』という本の中に、私も読ませていただきましたが、この方はもう七十歳を超える方でございますけれども、投資家でありまして、一兆数千億の資産を有するということですが、この方の回顧等を見ますと、経済を行う者は歴史を勉強しろ、歴史とそして哲学を持たざる経済はいずれ破綻するということが書いてあるわけです。この中に、去年の十二月書いたものですが、アメリカの市場原理主義による経済はいずれ破綻するということがもう既に警告として入っているわけですね」と。大畠大臣、「アジア通貨危機」って知ってますかと問いたくなる、分かる人にはズッコケの質疑でした。まあ、大臣には、知ったかぶりはやめてほしい。
菅直人内閣が背負う重荷は18人だけで担ぐのではありません。412人だけでもありません。我が国は間接デモクラシーですが、私たち国民もあくまでも自分にできる限りで、政権の重荷を背負いましょうよ。
菅内閣はクリーンでオープンを約束しています。それは国民との血の契りだ。だから菅内閣から出てきた情報は、熟議の材料としては最適です。ソクラテスのように、町で政治が語られる国に。ベトナム人民なんかも、何時間も新聞読みながらずっと議論していますよ。日本だって、がんばりましょう。太った豚より、むしろ痩せたソクラテスになりましょう。
【官邸の裏方さん】
内閣官房副長官は、衆院が古川元久さん、参院が福山哲郎さん、事務が元総務事務次官の瀧野欣也さんが留任。内閣法制局長官は、梶田信一郎さん。それから、これは大事ですが、総理の政務秘書官には民主党本部役員室職員だった岡本健司さんが引き続き務めます。
【写真】岡本健司・菅内閣総理大臣政務秘書官(宮崎信行撮影)
天皇の国事行為(衆院解散、国会召集)のときに皇居から国会まで陛下の詔書を運ぶ内閣総務官には、8月23日付で、原勝則さん(昭和54年厚生省入り)が就いています。4年間務めた前任者の千代幹也さん(昭和51年運輸省入り)は内閣広報官に昇進しています。