【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

野田佳彦さんと輿石東さんがけん制しあう事態に 野田首相、まずは寝技で押さえ込む

2011年09月15日 11時56分25秒 | 第178臨時国会(2011年9月)野田内閣

【参院本会議 2011年9月15日(木)】

 参院本会議でも代表質問が行われましたが、この中で、輿石東さんと野田佳彦さんがけん制しあう異例の質疑応答となり、「挙党一致」「ノーサイド」への懸念がいきなり浮上しました。とりあえず野田総理・代表が、柔道の寝技でねばり強く押さえ込んだ格好となりましたが、衆参民主党議員は、しっかりと党代表だけでなく、日本国政府・行政府の代表である野田首相をしっかりと声を出しながら支えなければいけません。

 まず、輿石さんは、「会派を代表して質問します」と述べました。これは、第一会派ながら過半数に及ばない「民主党・新緑風会」をまとめ上げていることが、本人の権力源・政治的資源であることを意識した発言です。ところが、野田首相は、のっけから、「民主党を代表した輿石議員のご質問にお答えします」と述べ、両者のけん制から始まりました。

 また、輿石さんは、「国民の生活が第一。は民主党の基本理念」「マニフェストは必ず実現するというのが政権交代の原点であり、優先順位を変えてもマニフェストの理念は変わらない」として、3党合意に反する発言をしました。また、「国民の生活が第一。」という小沢一郎さんらの勢力に近いことを自ら表明するキーワードを使いました。

 これに対して、野田さんは「マニフェストの実現は国民との約束、現下の厳しい情勢の元でも、その理念は守っていかなければならない」としながら、8月26日に岡田克也幹事長が退任直前に出した「マニフェストの中間検証」に言及し、「輿石議員も民主党マニフェスト検証委員会の副委員長をされた」として、あたかも首に鈴をつけるかのような念押しをしました。

 そのうえで、「マニフェストについても、自民党、公明党の3党合意」に沿った政権運営ができるよう「輿石議員にもご協力いただきたい」としました。

 野田さんは代表選で「学生時代の柔道部でも、政治家になった今でも寝技は苦手です」と語っていましたが、とりあえず寝技でねじ伏せた格好です。

 自民党時代も、福田赳夫内閣以降は、「総・幹分離」といって、総理とは別の派閥の実力者が党幹事長についていましたから、衆院本会議などで党幹事長が総理に厳しい代表質問をすることはよくありました。しかし、その内容は「最近の総理を見ていると、いささか苦言を呈さざるを得ない面がある」といった感じで、そうやって軌道修正しながら、総理、そして自民党政権を守っていた感じがします。

 それに対して、きょうの輿石さんの発言は、たんによく3党合意を理解していないのではないかと思われる面があります。そもそも輿石さんは政務三役の経験がありません。また、参院議員会長としても、その日の本会議にかかる法案名がいえず、「なんだっけ?」と会派の副会長・幹事長らに聞く姿が散見されました。おそらく半分以上、法案の名前は言えないことが多いと思います。

 これを見ていると、野田さんは代表選のときに、何らかの協力条件として「輿石幹事長」を提示されたり、提示したりしていたのではないかと推測されます。そのような報道はすでにあります。

 平成になって最初の宇野内閣の参院選以来、参議院では過半数を持つ会派はありません。自公政権時代も、自民党と公明党は統一会派を組んだことはありません。例えば、平成9年(1997年)ごろに「参議院の天皇」と呼ばれていた村上正邦・自民党参議院議員会長なんかは、ふらりとひとりで首相官邸にきて、総理と数分話して帰ることがしばしばありました。どのような内容かというと、例えば「ペルー公邸人質事件が解決していないのに、首相主催の桜を見る会をやっている場合じゃないだろ」と、前日の橋本龍太郎首相の日程に、悪態をついて、それで帰る。橋本首相は自民党総裁でも、村上さんの機嫌を損ねると、参院自民党どころか、他の参院会派もそっぽを向いて法案が通らなくなるので、首相秘書官も村上さんのアポイントは必ず入れなければならなかったようです。例えば、与党参院議員会長には以前からずっと、SPが1人以上ついていますが、そのことも衆院議員だと知らない人も多いようです。そういった参議院特有の閉鎖性を、民主党幹事長として、党全体に広げることで、幹事長である自分への権力集中をはかろうと、輿石さんがしているように、私には思えます。

 もう決まったのですからしかたないですが、とにかく、情報管理の徹底がされても、「見て見ぬふりをする」与党議員は、衆議院だろうが、参議院だろうが、バッジを外して欲しいと思います。

 とにもかくにも、3党合意への正しい理解が必要です。くどくても、こうやって幹事長が分かっていないようすが散見されるのですから、何度でもしつこく書きます。


野党7党、会期28日間延長を議長にきょう申し入れ 拒否なら「3党合意」白紙の危機も

2011年09月15日 09時49分50秒 | 第178臨時国会(2011年9月)野田内閣

 輿石東幹事長、平野博文国対委員長ら野田民主党執行部が「3党合意」を白紙に戻されかねない重大危機をむかえつつあります。日本国憲法59条は「衆院の3分の2ルール」、60条は「予算の衆院優越ルール」を定めています。しかし、衆院で与党が過半数でありながら3分の2に届かず、参院では野党(衆院少数派)が過半数を持っている場合についての規定は日本国憲法にはなく、わが国は、内閣が提出した予算案をのぞく、すべての法案(予算関連法案、改正案、新法法案、条約承認案、国会同意人事案など)が決まらないという憲政史上最大の空白、すきまを迎えています。これを補う、事実上憲法に次ぐルールが「3党合意」になりますが、これが白紙になると、日本国憲法第7条により衆議院を解散しても、民主党政権になろうと自民党政権になろうと引き続き何も決まらないという極めて重大な局面にあります。

 さて、野田佳彦さんが2011年8月30日(火)に国会に指名されてから、臨時国会の召集までには若干の時間をおくべきだと私も主張して、実際には、9月13日(火)召集ということで時間がとれました。与党は守りですからそれで良いのですが、「会期が4日間」では「守り」ではなく「逃げ」になります。

 これに反発した公明党、自民党など野党7党は14日午前に国対委員長らが話し合い、きょうにも「会期を10月14日(金)までの28日間延長する」ことを横路孝弘・衆議院議長に申し入れることを決めました。臨時国会は2回延長が可能で、国会法により衆議院の院議が優先されます。

 この「10月14日まで」というのは何ともいやらしい提案ですので、交渉の余地がありますが、少なくとも民主党は延長の提案にのり、妥協案で折り合うべきではないでしょうか。なぜいらやしい提案かというと、政府は10月中旬~下旬に第3次補正予算案を国会に提出する方針ですので、10月14日に会期末が来れば、野党は「補正を早く出せ」と言いながら閉会するか、ないしは、与党が「第3次補正の審議をお願いしたい」として1週間~2週間程度の会期再延長をお願いすることになり、国会が10月末までは開かれていることになり、野党としては露出が高まる上、前国会から積み残しの3つの議員立法の審議も可能です。

 公明党の漆原良夫・国対委員長は、会期を4日間としたことについて、「野田内閣の逃げ回る姿勢はよくない」としました。3党合意により部分的に金額が浮いた「子ども手当及び児童手当勘定」の浮いた額の第3次補正予算案での減額補正などについて3党協議が必要となりつつある時期を迎えますが、記者団の「(会期の問題が)3党協議に影響が及ぶか」との質問に漆原さんは「当然そうなる」と述べました。公明新聞が伝えています。

 一方、日経新聞によると、平野国対委員長は「国対の話(会期幅)と3党合意がリンクするとは思わなかった」と述べたそうですが、漆原さんは「もう遅い」と答え、公明党は輿石執行部について「お願いは口だけで、姿勢が伴っていない」としているそうです。これに先立つ、平野さんと、自民党の逢沢一郎国対委員長、漆原さんとの会談では、平野さんは「3党合意のキックオフをしたい。まずは幹事長レベルで会談したい」と語ったそうで、ノーサイドだか、キックオフだか知りませんが、ヒジョーに高飛車な態度に感じられます。ただ、公明党は「予算委員会の日程を含め、今月末までの延長に応じれば状況は変わる」との認識がある、と日経新聞は書いています。

 政権交代後、民主党は毎回、秋の臨時国会・特別国会で失敗しています。昨年は衆参予算委員会の集中審議をくり返したうえで、補正予算を組む作戦に出ましたが、野党の露出が高まるばかり。そして、補正予算の閣議決定前に公明党に対して、要望の予算への実現度合についてのペーパーを出したところ、就任直後で張り切っていた石井啓一政調会長に「実現したという項目を予算書で見たら、5000万円しかついていない」と見抜かれ、公明党が反対に回ってしまい、参院で否決、憲法60条で衆院の院議が優先されるという事態になり、結局、西田昌司さんの知名度が上がっただけの臨時国会になってしまい、会期終了とともに、鉢呂吉雄・国会対策委員長が更迭されました。それを第177通常国会で、驚異的に粘りで安住淳国対委員長が建て直したのですから、虚心坦懐に、「輿石」とか「平野」ではなく、「民主党幹事長」「民主党国会対策委員長」という官職として働かなくてはなりません。虚心坦懐さが足りません。民主党は一事が万事、腰が高い。なんでこれで当選してきたのか不思議でなりません。

 映画『小説吉田学校』を見ていたら、まあたびたび繰り返してみているのですが、衆院に初当選した池田勇人と佐藤栄作が「また吉田学校で一緒だな。まあ、万事、阿吽の呼吸でやろうや」と握手するシーンがありました。こういう阿吽の呼吸があまりにもできない民主党。それは、3党合意の文書を正確に理解できていないからです。自民党や公明党も責任野党として、3党合意をあえて反故にしようとはしないはずです。小泉政権時代の社会保障3党合意とは意味が違います。憲法が空白になっているのです。しかし、それを使ってゆさぶってくることは当然に予想されることです。そのゆさぶりに対して、文書に対する理解不足で、政権を壊したら、どんなにもったないことでしょうか。ちなみに「大連立」の話がありましたが、あれも与野党当事者同士の「阿吽の呼吸」であって、本人たちだってホントウに大連立をしようなんて考えていなかったでしょう。大連立をすると言っておいて、3党合意をしっかり固めるのが狙いだったのです。

 9月26日週に衆参予算委員会による今年度予算の執行調査を2日間ずつやり、9月29日(木)か、9月30日(金)を会期末とする会期延長をすべきです。