田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

船木和喜の哀しみ

2007-10-28 22:51:02 | スポーツ & スポーツ観戦
 その男の顔には哀しみが漂っていた。
 その男の背中は心なしか小さく見えた。

 10月28日、第1回伊藤杯サマーファイナル大倉山ジャンプ大会を観戦した。
 ライブでスポーツ観戦をするとき、テレビでは味わえない観戦の仕方を心がけるようにしている。
 今回、私は飛び終えた選手がスキーを外し、控え室に向かう通路のところ、いわゆるミックスゾーンのところで観戦した。
 そこは飛び終えた選手がゴーグルやヘルメットを外し、一瞬の素顔を見せてくれる場所である。

 多くの選手はあの目も眩むような高いところから飛び降りるという恐怖との闘いを終え、ホッとした表情を見せてくれる。
 中には、ミックスゾーンで家族や関係者の顔を見つけ談笑する姿も見える。
 そんな中、私は一人の選手に注目した。

 一時「世界で最も美しいフォーム」で飛ぶ選手、日本ジャンプ界の至宝と呼ばれ、オリンピックの金メダルはもちろんのこと、ワールドカップでも何度となく勝ち続けていたのに、この3~4年、その輝きをすっかり失ってしまった船木和喜選手に注目した。

 有力選手よりはるかに早いゼッケンナンバー58番、船木選手はスタートした。
 場内アナウンスが、他の選手にはかけない「カモン!船木!」という声援をかけた。
 誰もが彼の復活を願っていることを場内アナウンサーも知ってのことだろう。
 しかし、その声援も船木選手は追い風にすることなく、わずか80mのラインに落ちた。

 飛躍を終えた選手は、誰もが直ぐにミックスゾーンに来てスキーを外すのに、船木選手はなかなかミックスゾーンにやってこなかった。
 それは自分のぶざまなジャンプを早く忘れてほしいとでもいうかのように、彼はブレーキゾーンにとどまった。
 そして、後から飛んだ選手と重なるように、目立たぬように、彼はミックスゾーンを通過した。
 その顔には哀しみが漂っているように私には感じられた。
 見送った彼の背中は心なしか小さく見えた。

 ミックスゾーンの外れにいたTVクルーが彼にインタビューしようと近寄った。
 しかし、彼は弱々しく手を振り、インタビューを断り控え室に向かった。
 船木選手が輝き続けた過去を知っているだけに、その後姿が一層哀しく見えた。

 大会は船木選手より3才も年長の35才になった葛西紀明選手が140mの大ジャンプで見事優勝した。
 船木選手もまだまだ老け込む年齢でないはずだ。
  再び輝きを放つ船木和喜選手が帰ってくることを熱望したい。
  カモン!船木!

※写真は寂しそうにミックスゾーンを通過する船木選手です。