指揮者の粟辻聡氏の一挙手一投足に魅了されっぱなしの「ほくでんファミリーコンサート」だった。粟辻氏のそれは大胆にして繊細、頭の髪の毛から足のつま先まで全てが意味あるように操られ、オーケストラは華麗に奏でられた。
少し日が経った。去る7月18日(木)夜、札幌コンサートホールKitaraにおいて第43回の「ほくでんファミリーコンサート」が開催され、運良くチケットを入手することができたので参加した。
この「ほくでんファミリーコンサート」は、歴史があるうえ、市民に無料で開放されていることから大変人気があり、私はこれまで何度も申し込みながら抽選に外れていた。今回も私は抽選もれだったのだが、友人が運良く当選されて同伴者として参加することができたのだ。
この日私は「PMF豊平館コンサート」のチケットを購入していたのだが、PMFの方は弦楽四重奏だったこともあり、迷うことなくオーケストラの方を選んだ。
この日演奏されたのは次の3曲だった。
◆モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」序曲
◆スタラヴィンスキー/組曲「火の鳥」(1919年版)
◆ベートーヴェン/交響曲第7番 イ短調 op.92
〈アンコール〉◆モーツァルト/ディヴィルティメント K138より第2楽章
私が指揮者の指揮ぶりに魅せられたのは、私たちの座った席が大いに関わった。というのは私たちに割当たった席は、KitaraのLAブロックというステージを真横から見る位置だった。それは指揮台に至近距離でもあったのだ。
だから私は、粟辻氏の顔の表情から、細かな手の動き、爪先の動向までよく見える位置だったのだ。
一曲目のモーツァルトの曲が始まると、たちまち私は粟辻氏の指揮に目が釘付けとなってしまった。粟辻氏は大胆に体全体を大きく使って指揮を始めた。しかし、それはけっしオーバーには見えなかった。曲全体が盛り上がる時には大きく激しく、弦だけの囁くような曲調の際は小さく細やかに…、非常に表情豊かな指揮ぶりに私は吸い寄せられてしまった。
過日のPMFオープニングナイトのエリアス・グランディ氏の指揮ぶりも魅力的だったが、粟辻氏の指揮にはまた違った魅力があるように思えた。
札響の演奏の方はいつもの安定した演奏ぶりだった。私にはひとつ一つの演奏について論評できるほどの聴く力は残念ながら備わってはいない。私的には「火の鳥」の抑揚がはっきりとした曲が特に良く感じられた。クラシック初心者である私にはどうしてもベートヴェンの良さを感得できないところがある。どうもあの重厚な音が私の中では心地良い音として伝わってこないのだ。
ともあれ、思わぬ形で指揮者に注目してしまったコンサートだった。粟辻氏の札幌での再演があったなら、またステージ横となるLAあるにはRAブロック席から彼の指揮を楽しませてもらおうかな?と思っている。