すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

心を静かに照らす本を

2021年01月06日 | 読書
 12月に結構な量の雪が降ったので年末年始は…という甘い憶測で、のんびり本が読めると目論んでいたが、見事に外れた。8冊借りてきて読了できたのは3冊。昨年中に『平場の月』。そして『国宝(上)青春篇』で年をまたぎ『国宝(下)花道篇』を昨日、ようやく読み終えた。他には文庫・新書の再読が1冊ずつだった。


 吉田修一の『国宝』は新聞連載の単行本化。読み応えがあった。長崎のヤクザの闘争から始まるのが、いかにもこの作家らしい。モチーフは歌舞伎に生きる者の凄まじい一生。文体つまり語り口が講談調と呼んでもいいのか、実に新鮮であった。講談ブームに乗ったわけでもないだろうが、話の内容にぴたりとハマった。


 歌舞伎は十回には届かないが、数年おきに観てきた。そのなかで一番感動したのが坂東玉三郎の登場シーンであった。詳しい筋や台詞がわからなくとも、役者の持つエネルギーは感じ取ることができる。そんな観客の心持ちを表現している箇所には素人ながら同感した。女形を演じる精神性の高みは想像がつかない。


◆気分転換に、写真は食べ物シリーズを少し…自宅飯「久しぶりのチャーハン」

 再読は『面白いとは何か、面白く生きるには』(森博嗣)と『深呼吸の必要』(長田弘)。どちらも去年読み、心に残った本だ。風呂場へ持ち込み再びめくった。森のストレートな論理は刺激的だし、長田の深く味わいある詩句は、噛みしめるような読みに誘う。多読乱読が主だったが、今年あたりは切り替え時期だろうか。


 エンタメ本の魅力は捨てがたいけれど、この齢になると映像で十分かなという気もしてくる。選ぶ楽しみを残しつつも、必要な書物とはきっと、長田の著のあとがきに作家小川洋子が記した「心を静かに照らしてくれる」本ではないか。経験した喜び、辛さやどうしても手の届かなかった思い…反芻する季節に入った。