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大雪に思い出す人

2021年01月09日 | 雑記帳
 初任者教員として勤めた学校の校長は、とにかくフットワークの軽い方だった。山間部の小高い場所に立つその木造校舎。冬の降雪量は半端ではない。急な坂道があり冬場は給食運搬車が登ってくることが出来ず、人夫をやとい背負って運ぶ作業があったほどだ。屋根の雪が一定量を超すと、校長自らスコップを持った。


 もちろん用務員もいて除雪作業はしていたのだが、自ら率先して下屋根など雪下ろしをしてしまう。生意気な初任者はこう言う。「校長先生が雪下ろしするなはメクシャ(人目が悪い)くて、オレたちも都合悪いがら止めてたんせ。」しかし校長はにこやかに笑い、こう答える。「エナだエナだ、オレ暇でやってるなだがら。」


 そんな人だった。ある年の冬もご自分が居住する地域会館の雪を、一人で下してしまったという逸話も聞いている。もちろんそれを人にひけらかすなど絶対にしない。当時勤務時刻を過ぎても仕事するのが常だった私に、時々傍に来て「本当に仕事のできない男だなや。早く帰れよ」と笑顔で励ましてくれたりもした。



 いわゆる管理系というより研究・実務肌の人であり、今思うと緻密な研修資料を作っていた。県独自の教育誌が発刊された時、その創刊号にかなり長い論文が掲載されていた。実践家としての評価が高い証しだ。様々な点で感化を受けた。ただ身軽に動き、颯爽と何でもこなすあの体力、気力には到底追いつかなかった。


 2年目の冬、1月末だ。今ならさしずめ暴風雪警報の日があった。冬場は坂を下りた所に建つ教員住宅に泊まっていた。いつもなら3分で帰れるその道を15分以上かかった。数人の同僚も帰れず学校に泊まった記憶がある。冷たい経験ではあったが、その校長が居た場所は今では薪ストーブのように暖かく思い出せる。