すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

遊弋して構えてみる

2022年02月22日 | 読書
 遊弋(ゆうよく)という語を初めて知る。広辞苑には「艦船が海上を往復して待機すること」と載っている。今、自分の「海上」は図書館にあり、絵本の「島」などが見え隠れしているか。そんな想像ができる最近の読書から。


『コロナ後の世界』(内田樹 文藝春秋)

 「多様性を認めよう」「他者や異物を包摂しよう」という考え方は、現在の世界では多くの人が(捉え方に差はあるとしても)承知している。しかし、著者はそういった言い方を「すてきな目標」と評価しつつ、こんなふうに語る。「でも、これって、微妙に『上から目線』だと思いませんか。」その眼差しの行方は…


 「多様性と包摂」を否定するのではなく、その「上があってもいいんじゃないか」と。まえがきの時点でそう語り出すのである。そこでの提言キーワードは引用しないが、つまりは自己の日常性、周辺性、身体性にもっと気を配るということに尽きる。それは「コロナ後」だからこそ、より重要視しなくてはいけない。


 終盤、図書館について触れた部分がある。以前似た事を読んだが改めて共感する。「図書館の本質的機能は、書棚の間を遊弋する人たちが『自分が読んだことのない本、読むはずもない本』に圧倒されるという経験をもたらすことに存する」。地方の小さな館にも、世の中の「知」の集まりの凄さは確かに感じられる。


2011年の放春花より②


『心に緑の種をまく』(渡辺茂男  新潮文庫)

 絵本作家、訳者としても高名な方なのだが、正直あまり意識したことがなかった。知り合いのブログから興味をもって、この文庫版を手にした。冒頭の写真ページにある絵本の名作ラインナップにも圧倒された。門外漢だった自分が、ここ数年で見知った世界の発端は、あの「エルマー」にもあったことに今さら驚く。


 教員時代、唯一継続的に実践した読み聞かせは初めての一年生担任時だった。そのとき取り上げた『エルマー』のシリーズ。著者は、翻訳してこれほど「たのしく仕事ができた本は他にありません」と書いている。いわばトップランナーが語った次の文章は、子どもの「心に緑の種をまく」書物の条件なのだと思う。

「そこには、いわゆる道徳の押し付けもなければ、陳腐なお説教の安売りもありません。ためになるとか、役に立つとかという功利的な目的は、この『エルマー』には何もはいっていないのです。そのかわりに、おおらかな空想と、楽しい冒険、愉快なできごとが、たっぷりもりこまれています。」