百醜千拙草

何とかやっています

勝負は勝ち負けではない

2007-07-03 | Weblog
私が子供の時は、1ドル360円の固定相場制の時代で、まだまだアメリカは日本よりも経済的、国力、文化的に優れた国であるというような幻想が根強く残っていました。とにかく日本は頑張ってアメリカみたいにならなければならないというような風潮がありました。いわばアメリカまたはヨーロッパ系人種に対する劣等感とでもいうべきような感情が漂っていたのでした。子供の頃みていたプロレスでは、悪役は必ず外人かそれにへつらう日本人で、それをジャイアント馬場が16文キックでやっつけるという図式でした。明らかに外人に対する劣等感への代償行為に見えたものです。プロレスはそれ以後、悪役外人をやっつけるお茶の間時代劇流のシナリオから進化して、人種や勝ち負けよりももっと技を見せて楽しませるなりましたが、むしろ時代劇的勧善懲悪劇といったわかりやすさが無くなってきたせいかだんだん人気が無くなってしまいました。
強い子供時代の刷り込みのせいか、実際に外人を知るようになってから、多くの場合で彼らが日本人より優れているのは筋肉の量ぐらいであることがわかってきて、実は随分失望したものでした。私にとって、日本が最も優れていたのではちょっと困るのでした。私は中高でしばしば劣等感に悩まされました。自分はバカではないと信じていたのでしたが、絶対に超えられない壁みたいなものはずっと感じていました。自分より明らかにすごい奴がいっぱいいて、自分はどうがんばっても彼らに勝てないという感情は若いころは余り愉快ではないものです。今、年をとってみると、自分より賢い人が世の中に何千万人いるということは全く当たり前のことだと思いますし、ちょっと勉強ができるのできないなどといったことは全くささいなことだもと思っています。とにかく当時は、日本では自分は優秀なグループには入れないが、外国にいけばもっと優秀な人々がいて、自分もその他の優秀グループの日本人もそういう人たちから見れば同類に違いないという気持ちがありました。つまり外国からみたら自分も自分より明らかに優れている日本人も同じレベルだろうし、ひょっとしたら違う土俵に立てば自分は優秀グループに入れるかもしれないというような考えがあったようです。しかし実際には とりわけ私の知る一般アメリカ人に関しては、私の知っていた一般日本人よりも、いろんな面ではるかにできが悪いように思えます。英語と英語で自己主張することだけは例外無く日本人より上でしょうが。時折それでもとんでもない天才を見ることがあります。人間どうしても他人は過小評価する傾向がありますから、すごい奴だと感じたら本当はとんでもなく凄いはずです。何人かは凄いなあというレベルでしたが、時折とんでもなく凄いと思う人にも会いました。とんでもなく凄いと感じたのですから、本当はそれは自分の頭の理解の限界を超えるほどの大天才なのだろうと思います。世界にはそんな人がごろごろしているわけで、そんな人との競争に勝ってエゴを満たそうとするのでは、やる前から帰趨が見えています。年をとって多少良かったと思えることは、エゴの充足に対する欲求が小さくなってきてもっと人間にとって大切なものをそのために犠牲にしないようにしようとする知恵がついてきたことではないかと思います。市場原理と金で動く世の中は競争が原則であり、よってそれは善です。今の世の中の悪い事は競争そのものではなく、その結果に善悪の判断がつくことだと思います。勝つことがよい事で負けることが悪い事なのです。強いものが正しく弱いものが間違っているのです。これは長年日本人が培ってきた価値観と相反するものだと思います。日本人は昔から判官贔屓で、弱きを助け強きを挫く庶民の味方をヒーローとしてきたのですから。日本人が比較的限られた土地で長期に渡って繁栄していくための知恵としてそうした価値観が生まれてきたのではないかと私は思うのです。限りある天然そして人的資源の中で、強いものが弱いものをそうした建前もなくどんどん搾取していけばどうなるでしょう。最後は強い者同士の潰し合いになります。戦国時代みたいなものです。そうした中でいったいどのような文化が発達していけるでしょう。弱きを助けることは社会の多様性の維持に役立ちます。多様性は変化への緩衝剤であり社会の底力だと思います。市場原理の跋扈とそれに対する危機感の欠如は、まさに悪貨が良貨を駆追するの喩えのように、とどまることなく私たちの価値観を不毛なものに変えていきつつあります。競争に勝つ事が善であるという短絡的な価値観は子供のものです。サックス奏者の坂田明は昔、将棋に負けて「勝負は勝ち負けではない」と言ったそうですが、そう言える余裕(?)、国破れて山河ありと思える心、そういう勝ち負けや競争というものを一段上のレベルから見れる能力は、教育と人生経験を経て獲得されるもので、それなしに競争に入って勝ち負けにこだわるのは大変危険だと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする