百醜千拙草

何とかやっています

昔の知り合い

2023-08-15 | Weblog
前にも彼のことをとりあげたことがあると思いますけど、三十年来の知り合いからメール。彼と最初に知り合ったのは湯沢で開催された小さな研究会ででした。

わざわざ新幹線に乗って冬の湯沢まで行って小さな会に参加するのは、今頃になって少子化対策を学ぶという名目で夏のフランスに大挙して行くようなものと本質的に変わらない、と思われる方も多いでしょう。しかし、研究分野ではこうして日常を離れて自由に交流するリトリートと呼ばれる研究会は伝統的な行事であって、そこにソーシャルイベントが組み込まれるのも普通です。もっともよく知られているのはゴードン 研究カンファレンスで、二年に一度、夏休みで空っぽの大学の寮と講堂などを借りて行われ、会期中は寮に寝泊まりし、朝と夕方のセッションの間の自由時間は、参加者同士テニスをしたり雑談をしたり、夜のセッション後は飲み会になるというスタイルの小規模の分野に特化した会議が長年続いています。ゴードンは多少、実利的側面の強い会で、若いうちに研究で一発当てて、こうした会の演者に招かれて名前を売り、コネを作りにはげみ、「仲間の輪」に入れてもらえると、その互助会的活動によってその後の生き残りゲームを有利に戦えるのです。ピアが評価しあう世界ですから。日本でも若手、学生向けに「夏の学校」みたいなのが開かれています。

それはともかく、この湯沢の会は、もちろんゴードンのような権威は全くなく、そもそもウチの分野の東京ローカルのリトリートで、スキーと宴会がオプションの慰安旅行的な性質のものだったのですけど、ちょっとした政治的理由で、その時は関西からも数名が参加したのでした。下っ端同士ということで知り合った彼は、当時は今は無くなってしまった外資系製薬会社の研究者で、私は大学院生でした。その後、彼の人生は紆余曲折あって、大学に戻ったりアメリカに渡ったりしたあと、とある国立の研究所に落ち着き、部長を退官してから、縁あって、今は中国の企業で研究を継続中という経緯です。

人口、14億の中国は医療、製薬のマーケットも巨大で、罹患率が高く有効な治療に乏しい病気の治療につながる研究、つまり金になる研究、に人が群がっております。それで、彼も営利企業の一員として、長年のテーマとは別に変形性関節症の基礎研究を始めたようで、とある実験手法について意見を聞きたい、とのことで連絡をくれたのでした。この実験手法については、私も十年ぐらい前に似たアイデアを思いついてやり始めたことがありましたが、最初の実験がうまくいかなかった後、資金と人材の不足で継続を断念したことがあって、そのあたりの経験を伝えました。

思うに、連絡の本当の目的は、やがて訪れる老後の不安などに関して、同病あい憐れむの心情で、愚痴を聞いてもらいたかったことのようでした。私より数年、年上の彼は奥さんとの二人暮らし、定年の早い研究所で、定年の十年前ぐらい前から、学会などで顔を合わせる度、今後の仕事と人生の不安について語り合う仲でした。

子育てとかローンの返済とか親のこととか、人生の義務的なことにある程度の見通しが立ってきたら、今度は残りの時間をどこでどう過ごし、どう死んでいくかといういうことを考えねばならなくなります。彼も私もそろそろその時期です。

今、私が日々、していることは、仕事も含めて「やらないといけない」ことは何もありません。仕事をしている以上、仕事上の義務はありますけど、嫌なら辞める自由もあります。若い時のように、残りの人生の全てを賭けてでもやりたいといういうようなものはもう持ち合わせていません。だからこそ、今の仕事を楽しく勤められているのだろうと思います。おそらく彼もそうでしょう。

これまでは、やらねばならないことをこなすのに精一杯でしたから、突然、自由を目の前に置かれても、どう扱っていいのか戸惑ってしまうのが小市民。いまさら大きなビジョンも持てないので、一日一善の心がけで日を過ごし、目の前の些末時に一喜一憂し、やがて誰かの世話になって、そっとこの世を去っていく、そういう老後がいいと思う一方、体の動くうちにもう少し意味のあることをしたいという気持ちもあります。

しばらく前の映画でありましたが、私もBucket listでもを作ってみようかと思っているところです。
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