ようやく小さな論文がアクセプトされました。最初に投稿してから半年弱です。投稿時にBioRxivで公開されたものに比べると、リバイスの間に多少のデータが加えられて見栄えは若干よくはなりましたけど、要点には変化はありません。多少の見栄えのために、この半年の間に費やされた労力とコストと時間を考えると、つくづくアホらしいと思います。ま、暇つぶしができてよかったと思うようにしています。
この雑誌に発表するのは初めてですが、初めて経験したことの一つは、ツイッターでの拡散用の要点をまとめた図の作成と一行要旨の提出でした。私もツイッターで情報を集めるようになって、初めてこのツールのパワーを実感しました。毎日、何千と出版される論文の中から興味のあるものを探して要約を読むという作業だけでも大変ですけど、ツイッターで情報の発信源をいくつかフォローしておけば、一日に数分それを眺めるだけで、重要なニュースは受動的に入ってきます。いちいち検索サイトを立ち上げて、キーワードをタイプして、何度もクリックして目的地にたどり着くということを繰り返す能動的な作業は必要はありません。というわけで、ツイッター拡散用の図の作成にまた丸一日費やすことになりました。それから筆頭著者の人のインタビュー記事用の原稿と写真、これは本人に任せます。これもこの雑誌の面白い試みだと思います。論文の簡単な解説を裏話もふくめて著者にやらせるわけです。普通はフロントページでの議論に値するような論文はレビューアの一人が第三者の立場で解説記事を書くと思います。しかし、多分、このような専門分野に特化したマイナー雑誌では、フロントページに割く予算も解説記事を引き受ける人もいないでしょうから、かわりに筆頭著者に論文のポイントを説明させる簡単な論文紹介ページを設けたのだと思います。これは、読者にとっても、著者のモチベーションという点にとっても、雑誌にとっても良いアイデアだと思います。
さて、少し前、学術論文の出版と評価について、従来の発表方法、つまり、商業雑誌などに投稿してピアレビューなどの評価を受けた上で論文を発表するという形、ではなく、まずpreprintでオンラインで出版し、それが評価を受けれるようなシステムにするべきだという話を書きました。今回の論文にしても、ピアレビューの間に要した半年の時間と労力に、それだけの意味があったとはとても思えません。結論は何も変わらず、主にコスメティックな部分が改善しただけです。
雑誌での発表は、限りある紙面に載せるための取捨選択が行われるので、論文に優劣をつけ、研究を評価するシステムとして代用されており、ゆえに研究者は雑誌のインパクトファクター (IF)を気にします。だからこそ、雑誌社はIFをあげ、人気を得ることで多くの出版料を集めるというビジネスが成り立ちます。先日、論文レビューの依頼がきた聞いたことのない雑誌はIFが5以上あるというので、見てみると、掲載されているほとんどの論文が総説論文で原著論文が見当たりません。そういうことか、と思って依頼は受けないことにしました。この総説論文を多く載せて引用回数を増やし、IFをあげるという雑誌の戦略は多分、Cellなどが始めた手法だと思います。雑誌にしてみれば、一旦、IFをあげてしまえば、自動的に質の良い原著論文を集めることができるようになり、それがさらにIFの上昇に寄与するというわけでしょう。こうしたIFエンジニアリングとでも言うべき手法でIFを気にする研究者を操作してビジネスに繋げるわけで、IFのわりに掲載論文の質が悪い雑誌というのにしばしば見受けられるようになりました。
先日、Qeiosという団体から興味深いメールを受け取りました。BioRxivに発表された私の分野に関連するある論文を評価してほしいという依頼です。この団体はどうも、オンラインで研究成果を発表する研究者の補助をすることで、商売をしているようです。preprint論文でフィードバックを得ることで、正式な雑誌投稿に際して原稿の改善に役立てるという目的なのでしょう。レビューは実名でBioRxivの論文サイトのコメント欄につけてほしいという依頼でした。ビジネスとして成り立っているのでしょうか?
しかし、こういうpreprint論文のレビューアを探して、論文の評価づけをするサービスを第三者の独立機関が受け負い、資金配分機関、例えばNIHや文科省などが、それを研究者の評価に考慮すると言えば、preprintで公開ピアレビューは広く成り立つと思います。これだと迅速に発表されたpreprint論文が、雑誌社のビジネスの影響を受けずに、低コストで評価を受けることができる思います。つまり、雑誌社を通じた論文出版と研究者の評価を切り離すことができ、その間に費やされる多大な時間と費用と労力が節約できると思うのですが、どうでしょう。
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