生家にはピンポンが付いていない。
玄関を開けたまま留守にすることも多くて、たまに来る宅配便の人などは面食らうらしい。
滞在中の私は、裏の畑にいたり、道を隔てた前の畑にいたり、一段下がった横の田んぼにいたりする。
知らない人間が来たとしても、だれかしらが必ず見ているので大丈夫なのだ。
周囲に大声でも上げてくれたら、だいたい戻れる距離にいるわけだけれど、このセールスマンは何度か無駄足を踏んだのかもしれない。
「ごめんください」と言って内側障子を開けておきながら、私が「ハイ」と応えて出て行ったら、「あーおられたんですか」と意外な顔をする。
そうして「おとーさん、これ飲んでみて・・」と言う。
『おとーさん』に意外な気がした。
『おじーさん』と言われたら、もっと意外だけれど、そう言われたってよい歳ではある。
『おにーさん』と言われれば、私としたら自然でふさわしい気分なのだから、生まれ育った故郷にいると図々しく気持は若い。
セールス・トークもほとんどしないまま小冊子と試供品を置いて帰る淡白なセールスマンだった。
ちょうど農作業が一段落してトイレで用を足したところだったから、喉が乾いていて、もらった4本を左から順番に飲んだ。
左端は薄い牛乳みたいで、嫌いではないけれど、何だかなぁという感じ。
2番目は甘みも酸味も足りないなぁというイマイチ感。
3番目は、この見た目だととヤクルトもどきではないかという先入観からか、これも残念ながら淡白。
それなら最後のを飲もうと思ったけれど、4本も飲んでがっかりしたらツマラナイと思い、やめた。
サプリ系飲料はふだん飲まないせいか、薄い甘みが中途半端に残り喉の渇きはおさまらない。
そこで蛇口からの単なる水道水を飲んだら、『あーこれこれ、やっぱり水が一番』。
でも、効能書きが本当なら、カルシウムをはじめ栄養成分が1日分と食物繊維と内臓脂肪を減らす菌を私は一気に摂取した。
残った薄緑色のクロレラサンビッグは朝食時、味に期待感を持たず飲んでみよう。
『艶やかな私づくり』ができるらしいから。