ドレンが取れるまでは、毎日、清拭後に新しいレンタル・パジャマに着替えた。
退院して1週間が過ぎた。
自分の病室で全身麻酔から覚めた時には、排尿したい感覚と気持ち悪さがひどかった。
それでも、動くことのままならない最悪の夜は、導尿カテーテルが付いたままなので排尿は必要なく、排便をもよおすこともなかった。
昨年、大変な便秘をして排便に苦しんだことがあって以来、便意がなくても毎日、時間をかけて必ずだすようにしてきた。
手術前に読んだ注意書きに、手術後の排便はベッドでというようなことが示されていたので、手術当日は早朝に排便を済ませておいた。
前立腺全摘手術の時は、一旦尿道を膀胱から切り離して、それからまた縫い合わせるということをやるので、導尿カテーテルはしばらく付けられたままだった。
管は下腹部に絆創膏で止められていたのだけれど、シャワー中に絆創膏が外れてブラ~ンと下がってしまったことがある。
『あ、まずい!』と思ったけれど、抜けてしまうことはなかった。
後で知ったことだが、管の先が膀胱の中でバルーンになっており抜けない仕組みになっている。
その管を抜いてくれたのは、主治医の助手といった立場の男性医師だった。
膀胱鏡を入れたり抜いたりするときと全く同じ、なんとも言えぬ鈍痛(気持ち悪い)だった。
導尿カテーテルを入れるのは麻酔中なので意識がないけれど、今回も抜く時は医師が処置室といった場所のベッドでやってくれるものと思っていた。
そうしたら、いきなりベテラン・ナースといった感じの女性が昼前にやってきて「おしっこの管を抜きますね」と言う。
診察した担当女医が私を診る前にやったと同じナイロンの割烹着風の前掛けをそそくさと着て、ゴム手袋もしてフェイスシールドも着け私の股間にとりかかる。
『え?病室で?!』と意外だったけれど、動けない私はされるがまま。
私は採血の時でも注射をされる時でも、針先を見ている。
小学校の時の悪ガキが、順番がくる前からビビり、注射をされるときには大げさに顔をそむけて痛がるのを見て、私は顔にはださずにせせら嗤っていたものだった。
そんな私だけれど、パンツ型オムツのマジック式を剥がされて管を抜かれるシーンは、仰向きのまま目をつぶった。
「ちょっと気持ち悪いですよ~、はい、抜けました」と、一瞬で終わった。
一瞬だとは言え、ちょっとどころか、かなりの気持ち悪さだったのは以前と同じだった。
でも瞬時のその後はケロリとなんともなく、オムツのマジックを元どおりにしてもらって処置は終わった。
今回の手術は尿道や膀胱をどうこうしたわけではないから、バルーン式ではなくただの管だったのかもしれない。
首の両側に付いたドレーン・パイプがうっとうしかったけれど、下半身のしがらみが一つ取れた開放感は大きかった。
そうして、直後に別のナースが清拭用の熱々タオルを持ってきて、背中を拭いてくれた。
生成りの変な服を脱ぎ、紙おむつでベッドの上にあぐらをかいた格好だけれど、恥ずかしいと思う間もない一連の成り行き。
大小4枚が程よい濡らしかたのおしぼりタオルで、ナイロンに入った小さい使い捨ておしぼりも1つあった。
使い捨てはどこにどう使うのかなと思ったけれど、拭いてくれるのは背中だけなので、あとはカーテンを閉めた私だけの空間で適当に自分でゴニョゴニョゴシゴシと。
紙オムツを脱いでパンツを着け、変な服からレンタルの洗いたてパジャマに替えて、ようやく人心地がついたのだった。