和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

入門書をめぐる、アレコレ。

2006-08-22 | Weblog
山村修著「狐が選んだ入門書」(ちくま新書)が出たばかりなのに、
残念なことは、当の、著者の山村修氏が亡くなってしまったのです。

日刊ゲンダイに週一回で22年半という書評の連載をされていたのが狐さんで。
その狐さんが山村修氏だとご自身が種明かしをしたのが、今回の新書でした。

入門書といえば、「先生の程度」を日下公人氏が書いておりました。
「著者の中には、自分はこれだけたくさんのことを考えているんだぞということを飾って書く人がいます。博引傍証はいいのですが、自分は外国に留学してきたとか、大全集の本が並んだ本棚の前で写真をとったとか、よくあるやり方です。・・
こいう先生方が書くものは、どういうわけか決まって、入門書です。工業経済概論、会計入門、イギリス宗教史概要など、概論や入門ばかりで本論を書きません。本論はあると思わせていますが、じつは何もない場合が多いのです。ほんとうは、概説を書くためには全部を知らなければ書けないはずで、若いときには、だまされる場合が多いのですが、やがてその先生の限界がわかるようになります。・・」
(日下公人著「『逆』読書法」p84~85)

こうした入門書の氾濫のなかから、これはという入門書を選び出す眼力を期待して、若い人に自由に選ばせるほど酷なことはありません。そんな入門書洪水のなかで、ワラをもつかみたい人のための一冊。そこに山村修著「狐が選んだ入門書」が新しく加わったのでした。

そういえば、司馬遼太郎著「風塵抄」(中公文庫)に「“独学”のすすめ」という文がありました。そこには
「物を考えるときは、基本的なことをおさえる必要がある。・・
そういう場合、いきなりむずかしい本を読んでもわからない。その場合のコツは永年の『独学癖』で身につけた。少年・少女用の科学本をできるだけ多種類読むのである。
子供むけの本は、たいていは当代一流の学者が書いている。それに、子供むけの本は文章が明快で、大人のための本にありがちなあいまいさがない。そのあと大人のための本をよむと、夜があけたように説明や描写が、ありありとわかってくる。」
「ただし、『独学』は万能ではない。ひとりよがりの危険におち入ることを常に感じておかねば、あぶない。・・」

入門書を鑑識眼豊かな人(狐)に選んでもらえる。そんな幸せ。

読売新聞の「鵜」さんは
この新書を評して、こう書き始めておりました。
「たかだか200㌻ちょっとの新書と侮ってはいけない。これを読んだあなたは、膨大な読書時間と書籍代の出費を覚悟した方がいい。読み終わると、この本に紹介された書籍を次々に読み、味わいたくなること必至だからだ。」

書物の森への水先案内人、
狐のけもの道を知りたければ、それなりの覚悟がいるのでした。


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狐からのメール (ほんねこ/酔眼亭)
2006-09-10 21:57:50
匿名書評子「狐」こと山村修氏とは一度だけメールのやりとりをしたことがあります。

数年前にネット古書店の業界で狐=山村修氏という噂が流れ、私も自分のサイトでそのことに少し触れたところ、ご本人からメールを頂戴したのです。そのとき自らが狐であるとも、そうではないとも明かされなかったのですが、いつか「古書肆ほんねこ」で買い物をしてくださるとの有難いお言葉をちょうだいしました。

その後、私は都合で海の向うに渡り、サイトを閉じましたので、ご注文を受けることもなく、そして今度は山村氏ご自身が遠くへ行ってしまわれました。

こちらには「狐」名義の書評集全てと山村氏名義の本を二冊持ってきています。わずか数回のメールのやりとりでしたが、追悼の気持ちから読み直してみようと思います。



和田浦海岸さん、BLOGお始めになったとの由、ご連絡ありがとうございます。楽しみが一つ増えました。期待しています。
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古書肆ほんねこ。 (和田浦海岸)
2006-09-10 23:43:55
ご訪問いただき、コメントをありがとうございます。

ひさしぶりに「古書肆ほんねこ」のことを思い出しました。あのネット上の古本屋さんがまるで夢でも見ていたような感じに、鮮やかに。しかも、あったのかなあという疑問のかたちで蘇えってきました。

酔眼亭さんのブログを目指して、及ばないながら励みにしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
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