和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

『徒然草』不信任案と、儒学者の世界。

2022-06-10 | 古典
島内裕子著「徒然草文化圏の生成と展開」(笠間書院)を
ひらいているのですが、遅読で、なかなかすすまない。
うん。いいや、とりあえず第一部だけでも引用。
徒然草の『テーマ読み』の箇所が、今回引用したくなりました。

「徒然草は、正徹が現れるまで誰も深く分け入ることができないほど、
 複雑で陰翳に富んだ一種の閉ざされた作品で、
  内部に通じる入口は荊棘に覆われていたが、
 正徹や心敬たちによってようやく細々とした通路が見出されたのだった。

 ところが、近世の儒学者たちは、自分たちの学理を盾に取って、
 徒然草という閉ざされた庭園の中にいともやすやすと闖入し、
 あっという間に平坦な道を切り開いてしまった。

 儒学者たちが薙ぎ倒したのは老荘思想や仏教だけではなかった。
 色好みや女性論も同時に摘み取られ、刈り取られてしまった。」(p63)

こうして一人一人登場させております。

「儒学者の林羅山が著した徒然草の注釈書『野槌』(1621年)は、
 物語草子と比べて徒然草を評価しているが、自分の価値に合致しない
 箇所は、容赦なく批判した。

 さらに、近世には徒然草を教訓書として読む傾向があった。
 『教訓読み』が端的に現れている二書として、

 佐藤直方(1650~1719)の『しののめ』(1685年刊)と
 藤井懶斎(1618~1705)の『徒然草摘議』(1688年成立)がある。

 どちらも山崎闇斎門下の儒学者による、徒然草からの抽出書である。

 『しののめ』が訓戒となる部分を抜き出したのに対して、
 『徒然草摘議』は、初学者が読むと害になる29の章段を抽出している。
 そこで抜き出されているのが、仏教的・老荘的な章段と並んで、
 色好みや女性に関する章段だった。・・・・・

 ・・・近世初頭以来、儒学者たちは徒然草と兼好に対して、
 型に嵌った批判を繰り返した。」(~p65)


はい。ここだけ引用してはつまらないなあ。
もうちょい比較する意味で引用しなきゃね。


「徒然草は、『心にうつりゆくよしなしごと』を書き留めた
 ものであるから、内容が多彩になることは当然であって、
 むしろ兼好が目指したのは、想念の自在な運動と展開のさまを、
 みずから見極めることにあったのではないだろうか。

 ある時は緊密に、またある時はゆるやかに伸びてゆく
 兼好の思索の自由な広がりが、徒然草の特徴であり魅力だろう。

 ・・・何か特定の観点に力点を置いて徒然草を読むのは、
 この作品の読み方として最適であるかどうか疑問であるが、

 古来徒然草は、その全体像を捉えようとするよりも、
 多彩な内容の中からテーマを絞り込んで読まれる傾向が顕著であった。

 室町時代の正徹によって、
 『花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは』という
 下巻冒頭の引用されて以来、徒然草のどこに
 この作品の眼目があるかを問題にする読み方である。

 正徹は、『日本の古来の文化伝統を愛惜している章段』に
 最も感銘を受けたのであって、
『けっして人生をいかに生くべきかなんて議論している
 ところに感心しているのではない』という久保田淳の発言は、
 徒然草の読まれ方の出発点を言い据えた重要な指摘である。 」(p62)


うん。徒然草の章段の間の問題は、芭蕉の歌仙へと
そのままつながってゆく稜線のひろがりをもちます。
ということで、最後はこの箇所も引用しておきます。

「徒然草は、ある章段をそこだけ独立して読むことができるが、
 前後と連続して読むと意味合いが変わってくるものもある
 
 徒然草の章段の繋がりについては、すでに江戸時代に加藤磐斎が
 『来意』という言葉で捉えている。

 『来意』とは、一言で言えば、連想ということである。

 似たような話題で繋がっている場合には、この考え方はよく当てはまる。
 ただしここでは、単なる関係付けではなく、
 前の章段を視野に入れることによって、ある章段に書かれている内容が、
 より深みを持ってくる箇所を取り上げてみたい。・・・」(p20)


こうして、島内裕子さんは、各章段のつながりの例を
鮮やかに繰り広げてみせてくれるのですが、そのまま
芭蕉の歌仙のつながり具合の説明をうけているような
そんな気がしてくるのでした。うん。歌仙より明快に、
島内裕子さんによる各断章間のつながりが楽しめます。



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