現在話題になっているパンスターズ彗星は、3月10日に近日点(太陽にいちばん近いところ)を通過後、高度を上げて計算上では13日ごろから甲府盆地からでも夕暮れの西の空で見えるようになってくるはずである。しかし、3月9日の時点でも日没時に水平線から5度以上の高度のところにあり、条件が良ければ山の上から見下ろせば見えるはずである。ここのところ冬山に登るトレーニングをしていたのはこの彗星を撮影するために照準を合わせていたこともある。山梨県で最初にこのパンスターズ彗星を撮影してやろうという意気込みでテントとカメラ機材を担いで山に登る。いざ参らん、冬の金峰山!
冬の恒例だった金峰山だが、頸椎を故障後はテント泊の装備を担ぎ上げるのに不安があり、2年ほど冬山テント泊からは遠ざかっていた。雪があるので水はあまり持って行かなくても大丈夫なのだが、あのpm2.5が混入しているかと思うとあまり使う気にはなれず、3リットル近い水を持って行くことにする。レンズも3本、さらに寒い夜中の撮影を考えて防寒具たくさん・・・20kg近い荷物となる。業務を終えてからの出発となったので、瑞牆山荘を出発したのは10時半になってしまう。
いざ出発!結構な荷物です。
富士見平下から見上げる瑞牆山。雪はあまり着いていない。
珍しく凍りついていた富士見平の水場
1時間少々かかって富士見平到着。空は青空が広がったが、低空には春霞が出て富士山は白くボヤけている。気温が上がってすっかり春の陽気となったのでこの程度の霞は止むを得ないのだろう。テントが3張りほど、既に出発した後だ。トレースはしっかりしているが、大日小屋手前の樹林帯の中はアイスバーンになっており、アイゼンを装着する。大日岩下の林の中はさらにツルツルのアイスバーン、慎重に通過する。午後2時過ぎに大日岩を通過し、樹林帯の急登を登り切って千代の吹き上げに到着したのは午後4時だった。前回下見に来た時は荷物が軽かったので余裕だったが、今回は既にヘトヘト、足がかなり疲れた。目指す五丈岩はもう目の前、ここで大休憩する。
大日小屋。鷹見岩の向こうに南アルプスが見えるはずだが、白く霞む。
八ヶ岳も春霞の中だが、雲は巻いておらず姿は見える。
千代の吹上到着。目指す五丈岩は目の前だ。
日没は午後5時40分ごろ、その前に到着したいが、ギリギリといったところだろう。陽はどんどん西に傾いて行くが、疲れた足は全くピッチあがらず、足が攣らないように小休憩をとりながら稜線を進む。そして5時20分、五丈岩に到着、日没にはなんとか間に合った。
西に傾く陽
長く延びる影。(こんなに足長かったか?)
斜光射すシュカブラ
テント設営は後にして三脚を構える。霞が出たおかげで夕陽は大きく赤く見える。綺麗な夕暮れだ。目的とするパンスターズ彗星の位置は日没の太陽の位置の少し左側、中央アルプスの左上あたりに出現するはずだ。双眼鏡を片手にそのあたりを念入りに観察しながら、ひたすらシャッターを切る。
夕暮れの富士山
夕陽が沈む
日没の空 この視野のどこかにあの彗星がいるはず。
どこかにいるはず。ひたすらシャッターを切る。
双眼鏡で見ると低空にはかなりの春霞が広がっていた。そのため夕陽の光が拡散してしまい、なかなか低空の夕焼けが消えない。おそらくはその夕焼けの中にパンスターズ彗星は隠れてしまったのだろう。双眼鏡では発見できなかった。しかし、写真では写っていることがあるので、帰宅後念入りに画像を見たが・・・やはり写っていない。残念ながら山梨県で最初にパンスターズ彗星を撮影してやろうという目論見は、今回は失敗に終わる。
結構強い風が吹いており、風を避けるために五丈岩の裏側にテント設営する。眼下には甲府盆地の夜景が広がるが、霞んでいる。さらに富士山もほとんど霞の中。しかし、双眼鏡で見ると南の低空に輝くカノープスはしっかりと見えた。計算上では6時20分ごろ、あれと同じくらいの高度で彗星が輝くはずだった。
霞む富士山と甲府盆地 見えますか?富士山の右脇に輝くカノープス。上空の明るい星はシリウス。
食事を終えて9時過ぎ、外に出てみると空には凄い星空が広がっていた。山上で見る星空はやはり格別だ。今年はオリオン座と冬の大三角形にさらに木星が加わって、そのあたりの星空は明るい星4つが輝いていてひときわ賑やかだ。カメラを変え、今度のEos7DはIso感度2000に上げてもノイズが少なく綺麗に撮れる。ハーフ拡散フィルターの効果も良く、安定した星空撮影ができるようになってきた。
五丈岩に輝くオリオン座と冬の大三角形 右手のひときわ明るい星は木星。
同上(縦位置)
金峰山山頂に輝く北斗七星とカシオペア座
おおいぬ座とオリオン座 この後インターバル撮影約2時間、オリオン座が西に沈むまで撮影を行った。
五丈岩と沈み行く冬の大三角形
深夜12時ごろから風向きが変わったようで、さらに風も強くなりテントは隅が持ち上がるほどの強風に煽られた。テントポールが折れるのではないかと思うほどテントが揺れて歪む。もし飛ばされたら・・・3メートル先は崖っぷち、落ちたら命は無い。とても落ち着いて寝ていられるような状況では無くなった。ピッケルを深く突き刺してテントは固定してあるものの、安心はできないし、歪んだテントが頭や顔を叩くのでとても眠れるようなものではない。結局ほとんど眠れず、まだ暗い早朝5時にテント撤収し始め、6時には下山開始した。
朝の五丈岩
空は曇り空、景色はほとんど見えず、目も開けていられないような強風が稜線上を吹き荒れた。千代の吹き上げまで下りて一休みし、その先の樹林帯の中は風を避けられた。足の疲れもあるが、それ以上に寝不足で体がだるい。当直の後もそうだが、最近はめっぽう寝不足に弱くなってしまった。休憩をふんだんにとりつつ、9時40分、瑞牆山荘前の駐車場に到着した。ちょうど富士見平小屋の小屋主相川さんが車でゲートを通過するところで、お会いすることができた。昨年瑞牆山での遭難者を救助する際に自らが怪我をされたそうで、今でもその後遺症に悩まされているそうだ。無謀な登山者も見かけるそうで、注意しても言うことを聞かずに困ると言っていた。シャクナゲ咲く季節にまた訪れることを約束した。
下山時は空模様がいまひとつだったが、冬型の気圧配置となったこの日は夕方になると霞や雲がすっかり消え、澄んだ夕暮れ空となった。もう1日早くこういう空になってくれればとちょっと悔しい思いがした。さらに悔しかったのは翌日のインターネットで検索したパンスターズ彗星の映像だった。撮影地は長野県原村。追尾した映像を10数枚加算処理して合成したものだが、確かに彗星が映っている。山の上から苦労して撮った写真ならば「負けた!」と素直に思うのだが、車で行ける場所から撮ったものに負けるのはかなり悔しい。合成では無く、1枚の写真できっちりと撮ってやりたいと思う。
冬の恒例だった金峰山だが、頸椎を故障後はテント泊の装備を担ぎ上げるのに不安があり、2年ほど冬山テント泊からは遠ざかっていた。雪があるので水はあまり持って行かなくても大丈夫なのだが、あのpm2.5が混入しているかと思うとあまり使う気にはなれず、3リットル近い水を持って行くことにする。レンズも3本、さらに寒い夜中の撮影を考えて防寒具たくさん・・・20kg近い荷物となる。業務を終えてからの出発となったので、瑞牆山荘を出発したのは10時半になってしまう。
いざ出発!結構な荷物です。
富士見平下から見上げる瑞牆山。雪はあまり着いていない。
珍しく凍りついていた富士見平の水場
1時間少々かかって富士見平到着。空は青空が広がったが、低空には春霞が出て富士山は白くボヤけている。気温が上がってすっかり春の陽気となったのでこの程度の霞は止むを得ないのだろう。テントが3張りほど、既に出発した後だ。トレースはしっかりしているが、大日小屋手前の樹林帯の中はアイスバーンになっており、アイゼンを装着する。大日岩下の林の中はさらにツルツルのアイスバーン、慎重に通過する。午後2時過ぎに大日岩を通過し、樹林帯の急登を登り切って千代の吹き上げに到着したのは午後4時だった。前回下見に来た時は荷物が軽かったので余裕だったが、今回は既にヘトヘト、足がかなり疲れた。目指す五丈岩はもう目の前、ここで大休憩する。
大日小屋。鷹見岩の向こうに南アルプスが見えるはずだが、白く霞む。
八ヶ岳も春霞の中だが、雲は巻いておらず姿は見える。
千代の吹上到着。目指す五丈岩は目の前だ。
日没は午後5時40分ごろ、その前に到着したいが、ギリギリといったところだろう。陽はどんどん西に傾いて行くが、疲れた足は全くピッチあがらず、足が攣らないように小休憩をとりながら稜線を進む。そして5時20分、五丈岩に到着、日没にはなんとか間に合った。
西に傾く陽
長く延びる影。(こんなに足長かったか?)
斜光射すシュカブラ
テント設営は後にして三脚を構える。霞が出たおかげで夕陽は大きく赤く見える。綺麗な夕暮れだ。目的とするパンスターズ彗星の位置は日没の太陽の位置の少し左側、中央アルプスの左上あたりに出現するはずだ。双眼鏡を片手にそのあたりを念入りに観察しながら、ひたすらシャッターを切る。
夕暮れの富士山
夕陽が沈む
日没の空 この視野のどこかにあの彗星がいるはず。
どこかにいるはず。ひたすらシャッターを切る。
双眼鏡で見ると低空にはかなりの春霞が広がっていた。そのため夕陽の光が拡散してしまい、なかなか低空の夕焼けが消えない。おそらくはその夕焼けの中にパンスターズ彗星は隠れてしまったのだろう。双眼鏡では発見できなかった。しかし、写真では写っていることがあるので、帰宅後念入りに画像を見たが・・・やはり写っていない。残念ながら山梨県で最初にパンスターズ彗星を撮影してやろうという目論見は、今回は失敗に終わる。
結構強い風が吹いており、風を避けるために五丈岩の裏側にテント設営する。眼下には甲府盆地の夜景が広がるが、霞んでいる。さらに富士山もほとんど霞の中。しかし、双眼鏡で見ると南の低空に輝くカノープスはしっかりと見えた。計算上では6時20分ごろ、あれと同じくらいの高度で彗星が輝くはずだった。
霞む富士山と甲府盆地 見えますか?富士山の右脇に輝くカノープス。上空の明るい星はシリウス。
食事を終えて9時過ぎ、外に出てみると空には凄い星空が広がっていた。山上で見る星空はやはり格別だ。今年はオリオン座と冬の大三角形にさらに木星が加わって、そのあたりの星空は明るい星4つが輝いていてひときわ賑やかだ。カメラを変え、今度のEos7DはIso感度2000に上げてもノイズが少なく綺麗に撮れる。ハーフ拡散フィルターの効果も良く、安定した星空撮影ができるようになってきた。
五丈岩に輝くオリオン座と冬の大三角形 右手のひときわ明るい星は木星。
同上(縦位置)
金峰山山頂に輝く北斗七星とカシオペア座
おおいぬ座とオリオン座 この後インターバル撮影約2時間、オリオン座が西に沈むまで撮影を行った。
五丈岩と沈み行く冬の大三角形
深夜12時ごろから風向きが変わったようで、さらに風も強くなりテントは隅が持ち上がるほどの強風に煽られた。テントポールが折れるのではないかと思うほどテントが揺れて歪む。もし飛ばされたら・・・3メートル先は崖っぷち、落ちたら命は無い。とても落ち着いて寝ていられるような状況では無くなった。ピッケルを深く突き刺してテントは固定してあるものの、安心はできないし、歪んだテントが頭や顔を叩くのでとても眠れるようなものではない。結局ほとんど眠れず、まだ暗い早朝5時にテント撤収し始め、6時には下山開始した。
朝の五丈岩
空は曇り空、景色はほとんど見えず、目も開けていられないような強風が稜線上を吹き荒れた。千代の吹き上げまで下りて一休みし、その先の樹林帯の中は風を避けられた。足の疲れもあるが、それ以上に寝不足で体がだるい。当直の後もそうだが、最近はめっぽう寝不足に弱くなってしまった。休憩をふんだんにとりつつ、9時40分、瑞牆山荘前の駐車場に到着した。ちょうど富士見平小屋の小屋主相川さんが車でゲートを通過するところで、お会いすることができた。昨年瑞牆山での遭難者を救助する際に自らが怪我をされたそうで、今でもその後遺症に悩まされているそうだ。無謀な登山者も見かけるそうで、注意しても言うことを聞かずに困ると言っていた。シャクナゲ咲く季節にまた訪れることを約束した。
下山時は空模様がいまひとつだったが、冬型の気圧配置となったこの日は夕方になると霞や雲がすっかり消え、澄んだ夕暮れ空となった。もう1日早くこういう空になってくれればとちょっと悔しい思いがした。さらに悔しかったのは翌日のインターネットで検索したパンスターズ彗星の映像だった。撮影地は長野県原村。追尾した映像を10数枚加算処理して合成したものだが、確かに彗星が映っている。山の上から苦労して撮った写真ならば「負けた!」と素直に思うのだが、車で行ける場所から撮ったものに負けるのはかなり悔しい。合成では無く、1枚の写真できっちりと撮ってやりたいと思う。