福島原発事故が起きてから6ケ月近くになります。人々の動揺もおさまり一体、何が起き、その社会的な影響はどのようになるか静かに考えられる状況になりました。そして将来の現実的なエネリギー政策はどのようにすれば良いのかが自然と見えて来ました。
そこでこのブログでは連載で「福島原発の総括」を掲載して行きたいと思います。
第一回では、まず福島原発の現場でどうのような経過で爆発事故が起きたかを具合的に総括してみました。
福島原発で起きた現象を冷静に振り返って見ると、その全体像が正確に分かります。
地震・大津波が起きた後に起きたもろもろの現象を「起きた順序」に従って整理します。
この整理をすると、残った原発50基の現場で今後起きるであろう危険な現象が分かります。残った原発の今後の安全対策の指針になるのです。
(1)大地震によって緊急スクラム装置が作動し、核連鎖反応を停止する事に成功しました。
制御棒のボロン・カーバイト棒が燃料棒の間に挿入され、核反応が緊急に停止したのです。
はじめの地震によっては、原子炉の配管や冷却系統は大きな損害を受けず、正常に冷却水が循環していたのです。
女川原発や茨城県・東海村の東海原発は緊急停止後も正常に冷却を続行していたのです。
(2)数十分後に襲った大津波で冷却システムと緊急発電機が流されたり、海水をかぶって全ての冷却水が止まってしまったのです。
全電源喪失という大きな悲劇が起きてしまったのです。
これに対して、女川原発と東海原発は緊急電源の津波対策のお陰で、津波襲来後も冷却系統が動いていたのです。
(3)炉心の高温化で残留水と燃料保護管のジルコニュウムが激しく反応して大量の水素ガスが出来てしまったのです。そして、その高い圧力で炉心圧力容器と、原子炉格納容器のあちこちの割れや損傷から沁み出して水素ガスが建屋内に充満したのです。
この時に炉心融解と、格納容器の底が抜け落ちたのです。
水素ガスが沁み出したということは放射能物質も水蒸気と一緒に格納容器に充満したという事になります。
(4)建屋内に充満した水素ガスが大爆発したのです。この衝撃の大きさは建屋の鉄筋コンクリートのコンクリートが粉々になって飛び散り、鉄骨だけが残り、グニャグニャになった事から理解できます。
この爆発の衝撃で、原子炉格納容器と炉心圧力容器に繋がっている数多くの配管や配線が繋ぎ目で壊れてしまったのせす。
この状態で、自衛隊と消防庁の献身的な注水で外部から冷却することに成功しました。しかし水素爆発で建屋内に充満していたヨウ素131やセシウム137が大量に空中に放散されたのです。放射能汚染は福島県の大部分へ広がりました。
(5)格納容器に繋がる多くの配管や配線が繋ぎ目で壊れたので、大量の外部注水が漏れ出し、炉心からの放射能物質が原発工場敷地や各種のトンネル内に拡散したのです。原発敷地内で強い放射性物質がつぎつぎに発見されたのがその証拠です。
(6)原発近辺で強い放射能が発見されても大局的には安心して良い状態であいた。ただし復旧作業をしている人々の安全を守りながら復旧作業をしなければいけないので、作業が難航しました。その後の汚水の浄化と循環に苦労したのです。
さて何処が壊れたのでしょうか?もう少し具体的に何処が壊れたか知る為に沸騰水型原子炉の図面をもう一度ご覧下さい。
ここで原子力発電という事を離れて、高温や高圧を使ういろいろな石油精製や合成化学の工場での爆発・火災事故の過去の例を振り返って見ましょう。するとその大部分の原因は配管からの可燃性ガスが漏えいして工場建屋内に充満して爆発・炎上したことが原因になっています。
今回の福島原発の水素爆発も良く似た現象です。上の原子炉の炉心圧力容器と格納容器には図面には描いていませんが、数百本の配管や配線が貫通しているのです。その付け根の部分が割れるのです。
大きな容器に、それとは成分の違う合金製の配管を溶接で付けるのです。難しい技術です。その上、水素爆発の衝撃と応力は数多くの配管付け根に集中します。割れないとしたら奇跡です。
話は飛びますが、敦賀の新型原発の「もんじゅ」は熱交換に使用していた高温の液体ナトリュウムが漏れて、水蒸気爆発をして建屋の外へ放射能が漏れた事故でした。液体ナトリュウムが漏れた場所は温度測定用のステンレス管の付け根だったのです。今後、精密な調査が進めば原子炉のいろいろな所の割れや損傷が明確に見つかります。
以上の福島原発の爆発の経過が判明したので、現在稼働中や定期検査中の50基ほどの原発の津波対策が具体的に進められるようになりました。
第一に、原発施設が津波に現れても絶対に全電源喪失にならない対策を徹底的に実行することです。
緊急電源を二重、三重にし、高台に設置することが一番重要な対策です。
第二に不幸にして炉心冷却に失敗して水素ガスが発生しても建屋内に充満しないように建屋の巨大な排気装置を早急に設置する事です。
第三に、全ての配管の繋ぎ目を柔軟性のある材料に交換し、地震や水素爆発によって繋ぎ目が割れないようにする事です。
配管さえ健全に残っていれば冷却水が循環できますし、汚染水が海へ漏れ出す事もありません。
第四に、福島原発事故は、他の原発の改良すべき耐震設備や大津波対策を具体的に示したのです。この結果、各地の原発は総合的に改良工事が出来るようになったのです。
以上のように不幸にして起きてしまった福島原発の大事故は大きな教訓を具体的に与えたのです。その教訓を活用して原発の改良を期待しています。
それはそれとして、
今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。藤山杜人