電柱のように太いマストが4本。それに取り付けてある横桁、ヤードが18本。そんなに重いものが甲板の上にあってよく横倒しにならないものだ。そう御考えになりませんか?
日本丸には前回記事のクルーザーのようなキールが船底からぶら下っていない。その代わり姿勢を安全に保持させるための重し、「バラスト」が船底に入れてある。バラストは石、コンクリート、鉄屑、など、比重の大きいもの。それがビッシリと船底に敷き詰めてある。船の全重量が2279トンなのでバラスとの重量はその三分の一以上必要。コンクリートや鉄屑の総重量が600トンとそれにバラストとの役目も兼ねた清水タンクの水が463トン。合計1063トンのバラストが船底に固定してある。さらに重量の大きなジーゼルエンジンが船底部に固定してある。
これでは船が横倒しになる筈がない。15世紀、16世紀の大型帆船も全重量の三分の一以上の丸石を船底に積んでいたという。(宮城県にあるサンファン号の建造中にバラストの鉄球を船底へ積んでいる場面が見られる)
日本丸は定員196人で毎日3度の食事に合計3トンの清水を使う。その他の生活用水に毎日2トン必要である。従って毎日合計5トンの水を清水タンクから消費する。しかし水タンクは船のバラストの役目もしているので、使える限界は200トン。残りの263トンはバラストとして残さなければならない。
200トンを5トンで割れば40日になり、日本丸の寄港なしの航海は40日が限度である。
横浜を出港し、訓練航海で太平洋を渡るとき、シアトルやロサンジェレスへ40日以内に到着しないと大変なことになる。従って悪天候でも低気圧の側について行って、追い風走法を続行しなければならない。(これが氷川丸のようなエンジンのみで走る船なら、清水タンク内の463トン全てを使っても安全に航行出来る。)
江戸時代の末期にアメリカからペリー提督が来て日本の港を開港し、帆走商船や帆走捕鯨船の水の補給を迫った。その理由が小生は始めて理解出来ました。皆様は、そんなことは既にご承知とは存知ますが。
日本丸の甲板の上で大西船長が深刻な表情で清水の重要性を説明してくれたお陰と感謝しています。
尚、下記のURLにはサンファン号の建造中の記録が動画で紹介してあります。ご覧になると昔のガレオン型帆船の構造がよく分かります。
http://bunkashisan.ne.jp/search/ViewContent.php?from=14&ContentID=181
(終わり)