おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「植民人喰い条約 ひょうすべの国」(笙野頼子)河出書房新社

2017-07-23 20:02:30 | 読書無限

 TPPがアメリカのトランプによって破棄されて周章てた「にっほん」。アメリカ抜きでなんとかとの思惑も視界不良。しかし、これで安心か(自動車も農業も医療も保険も)と思いきや、「アメリカファースト」を掲げて責め立てるトランプ。1対1の自由貿易協定締結を強いられ、結局はアメリカ・グローバル多国籍企業によって牛耳られるそうな気配。
 それにお追従して大もうけを企む国内グローバル大企業。結局は、農業は壊滅寸前。
 その先駆けとしてEUとの貿易協定が成立。ワインが安くなる、チーズが安くなる・・・、消費者がぬか喜びしている間に、気がついたら・・・。
 
 こうした国になりはてるにちがいない、その根幹をなすのが「ひょうすべ」すなわち「表現がすべて」=「表現の自由」なんてことにはならない。今や日本国ならぬ「大にっほん国」と化した国に寄与する言論の自由は充分に、充分に保証され、自在に発言が許されるが、少しでも逆らうような言論はすべてオミット。これこそ、TPPに棲みついた、人喰い妖怪「ひょうすべ」。

 「日本人」たる証明は「戸籍」にあるからはずだから開示せよ、なんてモノでは済まされない。戸籍にそうあったってそれだけじゃダメ! 
 本物なの? 隠れ外国籍があるんじゃないの? 本当に日本人なの? どうやって証明するの? もしかしたら戸籍をごまかして取って、実は外国の(中国の)スパイじゃないの?
 報道の自由、表現の自由の名の下に、「違法」行為と責め立てる国柄となりはてた日本。

 この小説? は、何だかこれからの日本国民を「日本国」民ならぬ「大にっほん国」民たらしめる意図を鋭く批判・暗示した先駆的(になりうる)小説作品です。
 
 2016年11月初版。

 「ご挨拶」から。

 IMFのお使い様、その名はTPP、開いて書けば環太平洋パートナーシップ協定、名分は一応、「自由貿易協定」。しかしその実体は、亡国人喰い条約。
 なぜかこの恐ろしいものを誰も報道しません、少ししか書きません、というよりも、どう考えても、……。
 メディアを上げて隠している。国民に何も、教えない? それは未来永劫の国あげての、国際的に逃げられぬ奴隷契約、内実までも黒塗りという悪魔の契約、どうしてマスコミは沈黙していたのだろう? どうして? どうして?
・・・
 ああそうそうそれでも、朝日新聞の政治部次長、高橋純子という人がこの前『だいにっほん、おたんこめいわく史』の憲法改悪の下りを取り上げてくれました。もともとはおかしな言説おかしな文章の批判から始まった作品です。十年前に書いたそれが今、総理への批判にそのままになってしまっている。ありがとうございます。でもまあ、……
 書店の皆様、そう、稀にこの本を置いてくださる書店の皆様、たとえ一冊しか取り寄せなかったとしても、せめて、その一冊を書店の台に、立てて置いてください。プラカと思って……。
 ・・・これは書店デモ、です。そしてもし私が笑われる程このTPPが実はなんでもなかったとしたら、その方がむしろ私は幸福、安心です。それと同時に。
 これはこれで私の文学の危機感の行き着くところ、ここには、人類の未来にまで渡る問題点が小説という、自由な分野の必死さやフィクションの有利さで(当然デフォルメされて)綴られているのですから。
 どうぞよろしく、お願い申し上げます。(P11)

 TPP「環太平洋パートナーシップ協定」=人喰い条約=によってもたらされるだろう「人喰い社会構造」という未来世を予言し、徹底的に批判した一冊。
 「パートナーシップ」だって、「自由」だって! どこが! ケッ! という笙野さんのつぶやき、いや大声が聞こえてきます。

 TPP、その正体は「人喰い」妖怪「ひょうすべ」だ、と看破される笙野さん。未来の日本を暗示させる、いや、すでになりつつある「大にっほん」国。そこに生きる埴輪詩歌とその家族をめぐる小説仕立て。


1 こんにちは、これが、ひょうすべ、です ―TPP批准後、その施政方針のための記者会見

 おめでとうございます、あなた方、これでもう「三等敗戦国」から脱皮しましたよ。つまりもう、国ではないのです。そして三等も敗戦もさっぱり消えたあとは、世界に開かれた見事な、公衆植民地です。
 さて、この植民地において、これからはすべて契約というものは、保険ひとつ結婚ひとつでも全て英語でしなければ罰せられます。(P37)

2 ひょうすべの約束

 その正式名称は「NPOひょうげんがすべて」。お国の第一党の仲良し団体、おとなのくせにそれは「ユーゲント」とか自称しています。
 このひょうすべ、本人たちは表現の自由をすべて守ると言っていますが、守るのはただひとごろし(ヘイトスピーチ)の自由とちかんごうかん(処女虐待や女性差別賞賛)自由だけでした。そしてそれ以外については一切、何もしませんでした。だって、政府は人間が自由に口をきく権利を、もうすべて奪っていましたから。(P47)

3 おばあちゃんのシラバス

 「輝くお年寄り法案」が通って、年寄りの「自発的安楽死」も増えた。マスコミはせっせとそれに協力した。混合医療とは何か? ひとことで言うと、「びんぼうにんはしね」である。赤ちゃんも消えた。子供を産むだけで百万キモータかかる。「もともとにっほん人ほど子供の嫌いな国民もないと思うよ。赤ちゃんさえも自分で行列に並べ、迷惑をかけるなといいかねない国だからね」。(P88)

4 人喰いの国

 TPP通れば、十二ヶ国、墓場、……ここは?
 灰色の桜に、満開の毒……金持ちは海外、……国丸ごと廃墟。
 ひょうすべ、ひょうすべ?
 ねえ、ひょうすべの国になると、そこはどうなるの?
 うん、生命体がすべて、資源になる。誰も彼もがそこでは、人間も動物も男も女も……。
 地球レベルの巨大な脱水機にかけられ、血を絞られ死んでいく。それが地球九十九パーセントの運命になる。にっほんはいわばその先駆け、医療の壊滅に農業の崩壊、本土よりもっと、きついのは島部、いくつもが無人島になってしまう。むろん、全国どこだって身の回りのことも、全てひどくなる。水道の水は「飲みにくくなる」、学校給食には「何か入ってる」、国民の体格も平均寿命も「古き良き時代に」戻っていくんだよ。うちらはもう小作人でさえなくなってしまい、世界企業のための食材にされるんだ。機械に放り込まれ、ミイラになっていく。
 救急車を呼ぶだけで給料は吹っ飛ぶ。子供を産みたければローンを組むしかない。白内障の手術が受けられない老人の社会。どこの家でも目の見えない年寄りが泣いている。また車椅子を買うのに補助金を出せば「投資家との世界裁判」が「怖い怖い」、ほら「IMFガー」とお役所は言うだけで。たとえ老人でなくっても動けない人は、倒れ伏してしまう。動ける人さえも、ローン払えなくって道で寝ているから……賃金も待遇も坂を転げ落ちる。だってこれからは、……。
 水も食べ物も服もない国との競争になるからね。幼児まで働かされる世界と職の奪い合い。だけど世界的に行われる自由競争ってもの、それは搾取する側のひとり勝ちでしかない。
 要するにひょうすべはにっほん人の、よそより長い平均寿命を切り取って喰いたい。全部の子供の顔に涙の跡がなければ、気に入らない妖怪で。(P96)

 さあ、この国において? 表現の自由って何の事だろうね?
 高い大きい広告を出してそこで好きなだけちかんごうかんの推奨やレイシズムをやって、ポンスはその広告料でマスコミを買い取って、正しい情報を絶対に流させずに嘘をまき散らす、それが自由なのか? 芸術は「売れない」と追い詰めておいて反論出来ないように弾圧して行く、大声の自由かね? 同じことを蒸し返し低劣な嘘を吐きネットに沸いてたかり、デマの画像を作り、マイノリティを中傷して虐殺幇助を企む。
 ひょうすべは表現をする時にまず、相手に口輪をはめてから言いたい放題、すると本当の事や肝心の事は、すべて、マスコミの闇に消える。それは内部事情、それは世界企業の悪。「内部事情は下品だから禁止します」、「中立の意見だけ書いてください」、「具体名禁止」、「必ず両論並立」。
 こうして足元を照らしてはならぬという規則の中、我々は崖っぷちの夜道を歩かされる。一方だけの自由に支配されて。そこに報道はない、言論もない、芸術も真実も告発も表には出られない。いるのはただ、ひょうすべ、ひょうすべ。
 弱者を虐殺してアートと称する自由、金の集まるところにある差別を固定化するための自由、だんまりを維持するためだけそこにある自由。
・・・原発を作らせない、戦争をさせない、武器麻薬を売らせない、毒汚染をまき散らさない、本来大切な事が全て条約違反になって。とどめこの人喰い条約に規定のない時はすべてひょうすべの命令に従う、という契約になっている。そして? 連中は取り敢えず戦争を連れてくる。(P98)

 かつて難民を助けようともしなかったこの国家から、政府と大企業だけが外国に移転され、生き延びるでしょう。彼らは安全な先進国に暫定政府を置き、そこからだいにっほんの生きた少女を売りつづけ国を売りつづけます。そしてあなたの国土とだいにっほん政府は昔と変わらず、実に何の関係もないまま、売られ、売り飛ばされるだけの時間軸を辿るのです。
 そうです。今からにっほんは世界企業によって核廃棄物の置き場にされるのです。(p.181)

5 埴輪家の遺産

 経済的に破綻してゆく「だいにっほん」。収入のなくなった埴輪家。詩歌は、ヤリテ見習いとして火星人少女遊廓に勤めることに。そこで出会った火星人落語の名手、木綿造と結婚します。そして、二人の間には、木綿助といぶきという二人の子供が生まれます。

 『だいにっほん。ろんちくおげれつ記』『だいにっほん、ろりりべしんでけ録』より、詩歌の子供、木綿助・いぶきの遺作、 

6 ひょうすべの菓子
7 ひょうすべの嫁

 の二作を収録します。

 そして、「後書き」どうせ私ら皆殺しにされるんですよ? でもね、なんとかして、避けられませんそれ? 無理?

 ただね、もし運良くTPPが流れていたとしても、(ていうかまだあきらめるのは早過ぎ油断してもだめ)どうせひょうすべはまたやって来るよ。皆さんご注意を(ことに特区、緩和、民営化って死神ワードだから)。

 臨時国会TPP審議中の十月十八日に 笙野頼子
(P252)

 この「後書き」にこそ、先見の明があります。明日、明後日の予算委員会で何が出てくるやら。

 けっして笙野頼子さんの世迷言というなかれ。
 
 巻末に『姫と戦争と「庭の雀」』「十年前の作品、アンソロジーに二回入れて自分の本に入れそびれていたものをぶれない追加として収録」してあります。

・・・作中のひげの隊長という「宣伝戦略」は今や議員となって仮面を取り、暴力をふるい、戦争法案を通過させやがった、……(P251)
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