「女の空間」だけで話が完結するわけではなく、ある男の登場によってストーリーは急展開を見せる。
それが、「園田光雄」という、湯河原で大衆食堂を経営している老夫婦の一人息子で、十年ほど前から湘南タクシーの運転手を務めている男である(p155)。
この光雄を、「鈴」の後押しを受けた「銀」と、「駒」の後押しを受けた「百合」が奪い合うという、谷崎文学ではおなじみの三角関係の構図が立ち現れるのだ。
そのうち、なんと光雄は、堂々と台所から上がってきて女中部屋に侵入し、銀とさんざんしゃべりこむようになる(p194)。
こうなると、台所を支配していた女の秩序は崩壊する。
かくして、少し前に結婚した「定」に続き、「銀」と「鈴」、最後に32歳の「駒」も結婚して、次々と女中を卒業していく。
さすがに、このあたりはデウス・エクス・マキナの感がある。
くどいようだが、女中が結婚するということは、嫁ぎ先の「イエ」の正規メンバーになることを意味している。
これによって、「半人前」だった女中が「一人前」になるわけだが、この頃になると、もはや「女中」という存在は消滅しつつあった。
女中たちを養育してきた磊吉夫婦(=谷崎夫婦)の「台所」も、どうやらその役目を終えつつあるようだ。
「今では時勢も変わり果てました。初や梅の昔を忘れかねて近頃でもときどき鹿児島へ手紙を出して、「お手伝いさん」の斡旋を依頼することがありますけれども、昨今の娘さんたちは皆会社の事務所や工場へ好条件で招かれて行きますので、女中奉公などをしようと云う者はいなくなりました。」(p219)
「サンデー毎日」での連載が終了したのは昭和38年(1963年)3月10日。
谷崎が亡くなったのは、その約2年後の昭和40年(1965年)7月30日のことだった。
それが、「園田光雄」という、湯河原で大衆食堂を経営している老夫婦の一人息子で、十年ほど前から湘南タクシーの運転手を務めている男である(p155)。
この光雄を、「鈴」の後押しを受けた「銀」と、「駒」の後押しを受けた「百合」が奪い合うという、谷崎文学ではおなじみの三角関係の構図が立ち現れるのだ。
そのうち、なんと光雄は、堂々と台所から上がってきて女中部屋に侵入し、銀とさんざんしゃべりこむようになる(p194)。
こうなると、台所を支配していた女の秩序は崩壊する。
かくして、少し前に結婚した「定」に続き、「銀」と「鈴」、最後に32歳の「駒」も結婚して、次々と女中を卒業していく。
さすがに、このあたりはデウス・エクス・マキナの感がある。
くどいようだが、女中が結婚するということは、嫁ぎ先の「イエ」の正規メンバーになることを意味している。
これによって、「半人前」だった女中が「一人前」になるわけだが、この頃になると、もはや「女中」という存在は消滅しつつあった。
女中たちを養育してきた磊吉夫婦(=谷崎夫婦)の「台所」も、どうやらその役目を終えつつあるようだ。
「今では時勢も変わり果てました。初や梅の昔を忘れかねて近頃でもときどき鹿児島へ手紙を出して、「お手伝いさん」の斡旋を依頼することがありますけれども、昨今の娘さんたちは皆会社の事務所や工場へ好条件で招かれて行きますので、女中奉公などをしようと云う者はいなくなりました。」(p219)
「サンデー毎日」での連載が終了したのは昭和38年(1963年)3月10日。
谷崎が亡くなったのは、その約2年後の昭和40年(1965年)7月30日のことだった。