「寂寞道人肩柳と名乗る修験者が、本郷円塚山にて村人が見守る前で火定に入った。日没とともに人々が帰ると、暗闇の円塚山に信乃の許婚浜路をさらった左母次郎がやってきた。村雨丸すり替えの話を聞かされた浜路は、信乃のために刀を取り戻そうとして殺されてしまう。これを浜路の腹違いの兄が目撃して仇を討つ。それは入定したはずの寂寞道人こと犬山道節だった。ところが村雨丸を手にしたところに額蔵こと犬川荘助が通りかかり、村雨丸をめぐって両雄の格闘となる。」
六月大歌舞伎・夜の部の最初の演目は、「南総里見八犬伝」円塚山の場。
「八犬伝」も、江戸時代の悪いところをたっぷりと含んだ物語で、テーマは「お家再興」である。
この円塚山の場でも、ドロドロで血なまぐさいシーンが目玉となっている。
浜路は犬塚信乃と婚約しているのだが、彼女に横恋慕する左母次郎は浜路を騙して連れ出し、信乃から騙し取った名刀「村雨丸」を種にして意に従わせようとする。
信乃は、父から「村雨丸」を古河公方足利成氏に献上する役目を託されていたのだが、偽物をつかまされており、このままでは死罪を免れない。
そこで、左母次郎は、浜路に、
「「村雨丸」を返してやるから、その代わりに俺の女になれ」
と言い寄った。
つまり、échange を持ちかけたのである。
ところが、浜路はこれを拒否し、「村雨丸」を奪い返そうとして、左母次郎の返り討ちに遭って肩を斬られてしまう。
そこに突如寂寞道人が現れ、なぜか左母次郎は土壇の中へ引きずり込まれる(このあたりの展開は意味不明であり、「馬鹿馬鹿しい限り」という意見も出てきそう。)。
実は、寂寞道人は浜路の兄で、彼女は兄に「信乃に「村雨丸」を渡して欲しい」と言い遺して息絶える。
以上のとおり、浜路は、信乃のため命と引き換えに「村雨丸」を奪い返したことから、「南総里見八犬伝」円塚山の場のポトラッチ・ポイントは、5.0:★★★★★。
次の「山姥」は、中村萬壽襲名披露狂言。
併せて、五代目中村梅枝の初舞台となるが、実は、中村獅童の長男:陽喜と次男:夏幹の二人にとっても初舞台である。
「獅童は昨年11月、「十二月大歌舞伎」の取材会で次男・夏幹さんについて、両手の小指が欠損していることを公表した。・・・
また「アメリカでは“Challenged”って言う言葉があって」神様から挑戦という使命や課題を与えられた人を意味する。障がいがあるがゆえの体験をポジティブに生かそうという考えがある。その言葉に出会い、獅童は「とってもいい言葉だと思ったんです」と話す。」
観ている人は、おそらくみんな気づかないと思う。
そういえば、脳出血の後遺症を抱えながら舞台に立ち続ける中村福助も、Challenged の一人だろう。