「彼の後を継いだのは、オーレリ・デュポンだった。その総括はまだ終わっていない。デュポンは、コンテンポラリーの新作でしばしば失望させたこと、ダンサーとの関係がときに難しかったことで非難された。とくに、観客全員のお気に入りだったフランソワ・アリュを、彼女はなぜか頑なにエトワールに任命しなかった。22年4月23日に『ラ・バヤデール』でアリュは総裁からエトワールに任命されたが、しれは観客の四分の一が終演後も会場に残り、「アリュをエトワールに!デュポンは辞任を!」と叫び続けた異例の上演の二日後だった。こうして、観客とかつてこのバレエ団の女王だったエトワールとの愛情の物語が終わった。デュポンはこの年の7月31日に辞任し、アリュも11月に去った。」(p52)
パリ・オペラ座バレエ団の前芸術監督:オーレリ・デュポンの突然の辞任の理由が明らかにされている。
彼女の人事が、観客からは嫌がらせ、要するに「好き嫌い」に過ぎないと見え、抗議を行ったのかもしれない(それにしてもフランスらしいやり方!)。
これに対し、彼女としては、芸術性に関する自身の判断が観客から否定されたように感じ、辞任を選んだのかもしれない。
サラリーマンであれば、ある程度数字で業績を測ることが出来るし、それに基づいて昇格を認めることも出来る。
だが、バレエのような芸術だと、こうした判断は難しい。
素人である観客と、プロ中のプロである芸術監督の判断が違うことは当然あり得ることで、性質上、どちらが正しいということも言えないのである。
・・・そう言えば、わが国の政治家は、「好き嫌い」で人事を左右したり、手を組む政党を選んだりするのが大好きなようである。
もっとも、「そういう政治家は辞任を!」という声があがらないところは、日本らしい。