「シェヘラザード」が目的でチケットを購入。
ガラ公演では、ゾベイダと金の奴隷のパ・ド・ドゥがよく上演されるものの、1幕通しての公演はあまりなく、私はこれが初見である。
メインはゾベイダ:木村優里さん、金の奴隷:渡邊峻郁さんという新国立劇場バレエ団のプリンシパル・コンビで、「まあ豪華!」という印象。
木村さんは、昨年の今頃は怪我で休んでいたので、こうしてのびのびと踊る姿を見ることが出来るのは感慨深い。
渡邊さんは例によって抜群の跳躍力で、金の奴隷役がよくハマっている。
さて、パンフレットで目を惹くのは、バレエ団の創設者:小牧正英氏の業績をたたえる記述と、このバレエ団が氏ないし「小牧バレエ団」の正当な後継者であることを強調する記述である。
「・・・日本バレエ史に残る小牧バレエ団は1983年に活動を終了しました。
そこで小牧正英は、実弟の菊池唯夫が主宰する東京小牧バレエ団の名誉団長として、「上海バレエ・リュス」「小牧バレエ団」の名作の数々を演出・振付し、育成にも力を注いできました。今は亡き小牧正英と菊池唯夫の、「作品などの承継をしてほしい」との遺言を受け、当バレエ団の運営母体である国際バレエアカデミアの定款には、二人の言葉に従った活動内容が記載されています。
法人格を有する団体として「小牧バレエ団」の商標登録も完了しております。二人の遺言を受け、後世に引き継ぐ知的財産と認識し、日々精進しております。」(「ごあいさつ」より抜粋)
こうした記述の背景には、どうやらバレエ団の後継者争いの問題があるようだ。
「小牧氏の長女である菊池マリーナ氏によれば、血の繋がらない「いとこ」の菊池宗(そう)氏と対立しているという。宗氏は、小牧氏の弟である菊池唯夫氏と養子縁組した人物だ。
「2006年、父は94歳で生涯を閉じました。その遺書には“小牧バレエ団”の商標権や歴史的資料、さらに、いとこが率いるバレエ団に“小牧”の名称を使用させる権利も私に相続させると記されていた。ところが、いとこはあたかも父の後継者のように振る舞い、父の名を勝手に利用しているのです」」
遺産の問題だと考えれば、遺言があるのだからそれで解決出来る問題のようにも思える。
だが、そうなっていないのは、一義的な内容とはなっていないからではないだろうか?
そうだとすると、バレエ団の正当な後継者は一体誰であるかという問題が残る。
この種の後継者争いは天皇家でもかつてあったわけで、その際鍵を握っていたのは、”徴表”つまり「三種の神器」だった。
バレエ団についても同様に考えると、”徴表”とは一体何かが問題となる。
私見では、バレエのコアはコリオ(振付)なので、小牧正英氏が作成したコリオの権利を有している者・団体が、おそらく正当な後継者ということになるだろう。
そこでパンフレットを見ると、
「原振付:ミハイル・フォーキン、ニコライ・ミハイロヴィチ・ソコルスキー、小牧正英」
「演出・振付:森山直美」
とある。
この権利関係を調べれば、おのずと白黒が分かるのではないかと考えるのだ。
但し、三種の神器や錦の御旗がそうであるように、昔に作られたコリオの真贋を判断する手段は、おそらく基本的には存在しないのではないだろうか?
・・・それにしても、この振付は、ガラ公演で見慣れているフォーキンの振付と比べると、殆ど原型をとどめていないくらい違っているのに驚く。
パ・ド・ドゥのラストでゾベイダと金の奴隷が寝そべって抱き合うくだりもない。
その代わり、動きが激しいしアクロバティックなリフトもあって、なかなかよいコリオで、自分的には好みである。