「タイ当局が2月中旬、北西部メソトのミャンマー国境付近で16歳の日本人少年を保護していたことが14日、複数の地元当局者への取材で分かった。当局は少年がミャンマーに連れ去られ、犯罪組織の拠点で特殊詐欺に従事させられていたとみて調べている。当局者によると、タイの国軍と警察は少年を日本人としては初めて「人身売買被害者」と判断した。」
「人身売買」が大きなニュースになるわが国だが、昭和30年代くらいまで、地域によっては人身売買が横行していた(『本当は怖い昭和30年代』官庁報告書版)。
被害者である子どもが、意図せずして何らかの犯罪に関与するようになるケースも多かったが、タイの事件もまさしくそうである。
ところで、アメリカにおける90年代以降の犯罪発生率の低下を、人工妊娠中絶を憲法上の権利として認めた「ロー対ウェイド事件」判決によって説明しようとする見解がある。
「シカゴ大学経済学者のステイーブン・レヴィッツ、及びスタンフォード法科大学教授のジョン・ドノヒュー三世、が纏めたところによると、1991年から1997年間のアメリカ全体の犯罪のおおよそ半分が合法中絶に帰結するだろうと述べる。
合法中絶は,「母になるだろう女性たちは,冷酷な社会の中で生きていかなければならないその状態から避けさせる機会を,自分達の子供達に与えた。(人工)中絶された子供達は,(もしも生きていれば)母親の愛情は受けずに、厳しい貧困の中で、冷酷な社会の中で生きていかなければならないのである」という調査結果を立証するとレヴィッツは言う。」
合法中絶は,「母になるだろう女性たちは,冷酷な社会の中で生きていかなければならないその状態から避けさせる機会を,自分達の子供達に与えた。(人工)中絶された子供達は,(もしも生きていれば)母親の愛情は受けずに、厳しい貧困の中で、冷酷な社会の中で生きていかなければならないのである」という調査結果を立証するとレヴィッツは言う。」
今回の事件は、もしかすると、この説を裏付けるものと言うことが出来るかもしれない。
”unwanted child”(望まれない子) が犯罪に巻き込まれやすいことは、世界各国で指摘されてきたことなのである。
いや、人間の世界だけではない。
猫の世界でも、野良猫の中には非常に狂暴な猫がいる(かなり狂暴な野良猫! 手を噛む勢いで向かってくる)。
これはもっともなことだ。
”厳しい貧困の中で、冷酷な社会の中で生きていかなければならない”彼ら/彼女らにとって、近づいてくる人間はみな敵であり、威嚇・攻撃しないと殺されてしまうおそれがあるのだから。
・・・と、こんな風に考えながら東京の街を歩いていると、30年ほど前とはすっかり変わってしまったことに気付く。
街に”殺気”がないのである。
30年ほど前の若者たち(の一部)は、東京のあちこちで犯罪を起こしていた。
渋谷のセンター街、新宿の歌舞伎町、六本木などは、近寄るのも嫌なくらい”殺気”に満ちていたものだ。
ところが今では、街を歩く若者たちはみな一様ににこやかで上品で、まるで”家猫”のようである。
少子化の中で可愛がられ、大切に育てられた若者が多いからなのだろうか?
裏返せば、「失われた30年」の間に、”unwanted children”(望まれない子どもたち)も一緒に失われてしまったのではないだろうか?
・・・そんなことを考える、仕事帰りの黄昏時であった。