パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

昔、つくった物語

2024年03月17日 09時40分57秒 | 創作したもの

昔、原稿用紙で100枚を超える物語に挑戦したことがあった
勢いに任せて書き進めていったが途中で収集がつかなくなってあえなく挫折!
今は、そんなこともあった!と思い出だけになっていたが
先日、知人に「なにか書いたことはあった?」と聞かれて
久しぶりにこのことを思い出した

そこで知人には大まかなストーリーを話し始めたが、案外忘れていた
謎が多くて面白そう、、と自己評価していて
一度だけ途中の段階のそれを見せた人があった

今も書棚のある場所にそれ(原稿用紙)はとってある
読み返せばその当時のことを思い出しかもしれない
自分でつくっておいて記憶が曖昧なのは情けないが
必死に思い出せば思い出せるかもしれない、、と
振り返るのも悪くないかもしれない

舞台は何故か外国で、中心人物はフランスの女の子の告白から始まる
彼女は田舎の友人たちとは自分が少し変わっているいる人間であることは自覚していた
そして変わっている自分を産んだ母は、田舎の平凡な父と結婚して
自分と兄を育てたのはなんとなく納得できない思いでいた
母はもっと別の人と結ばれるべきだった思っていた
(父のことは好きだが、その思いは消し去ることはできなかった)

母は彼女が小さい時になにかの理由で亡くなった
その理由は父も祖母も何故かみんな口を閉じていた

兄は成長して画家になった
そして彼はある時、絵画コンクールで賞を得た
だが、彼はそれを少しも喜ばなかった

青い目のマリーは夏休みの旅に出た
電車の中で同じくらいの年齢の女性に会い、話が盛り上がった
彼女は電車で知り合った若い男と直ぐに関係を持つような行動的な人だった
男と女の関係というのは、、、理屈じゃないかもしれない

夏休みで訪れた場所は海沿いの観光地
そこで彼女は一人の日本人の男性から声をかけられた
「◯◯さんの娘さんではないですか?」と
彼は母をよく知る人だった
というより母の運命の人だった
彼は画家で、母とは結婚寸前まで行ったことを告げ
彼が母から受け取った最後の手紙を大事に所有しており
それを娘であるマリーに見せた

そこに書かれていたのは、普通の生活を安心して迎えるタイプの
平凡な人間である自分は(母は)精神の活動を至上のものとする人とは
一緒になれない、、ということが綿々と書かれていた

母が平凡な父を選んだのは理由のあることだった

話は兄の独白に変わる
兄が受賞した作品は実は模写したものだった
それは母が日本人の画家からプレゼントされた作品で
兄はある時それを見つけ、魅入られて必死に模写したのだった

たまたまそれを応募して、受賞などしてしまったから彼の悩みは深くなった
あの作品は自分のつくったものではない
それどころか、自分にはそもそも最初からそういう特別な能力はないのではないか
創造者の資格はないのではないか、、
彼の苦悩は続く

このあたりから自分の能力では話にまとまりがつかなくなって
訳がわからなくなっていく

最後に母の死は実は事故によるものだが、その事故は青い目のマリーが
幼いときに間接的に引き起こしたものだった
家族は幼すぎて記憶が残っていないマリーにはそのことを知らせないように
口をつぐんでいたのだった

さあ、ここからどうまとめるか!
真の創造者はここからの馬力が違う

物語の母とか兄のように平凡な人間である自分は
結局は、未完のまま討ち死に!
今は、いい思い出となっているわけだ

こうして振り返ってみるもの悪くないかもしれない
さてこれからは、思い出に浸るか、再挑戦にトライするか、、、

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完成させるのは難しい(〇〇ちゃんの思い出のために)

2022年10月30日 10時00分31秒 | 創作したもの

素人は思いつき(アイデア)はしばしばあっても、何かを完成させるのは難しい
仕事のように、しなければならない状態でないので
なんとしても完成させなければ、、という意識は弱い

作家とか作曲家に限らず人は何かしらの強制がないと作品の完成は
難しいのではないか!と思ってしまう

バッハは毎週のようにカンタータを仕上げなければならなかったし
モーツァルトも需要に応じて多くの作品を仕上げた
ミステリー作家は出版社の依頼に応じて職人的な多作を可能にしていた

素人は(子ども以外に)何も残さないで時間を終えることが多いだろう
時々、そのことに焦りを覚えて何か形のあるものを残そうと考える
振り返る時間が多くなってきて、やり残したような後悔が襲ってくる

時々、不意に(空想的な)アイデアが浮かぶ
メルヘンと名付けた「春の夢」「目が見えたモグラ」
「セミと風鈴」「イルカのエリア」などは一気に出来たものと
少し時間をかけたものだが、とりあえず最後まで行った

ところが途中まで行って、なかなか最後まで行き着かないものがある
スタートすればなんとかなる、、と思っていたが、思う通りにならず
ずっとストップしたままだ
話の骨格とか起承転結を予め考えておけば良いのだろうが
ベートーヴェンのように全体の構想を考えたものを仕上げるのには
力不足で、結局は途中までのものが多くなってしまう

完成は出来ないかもしれないが、ずっと気になっているものが一つある
それは一族の悲しい思い出で、一週間しか生きていられなかった女の子の
生まれる前からの意識みたいなものを空想したものだ

そこで、完成は出来ないかもしれないが、備忘録として残すことにする

〇〇ちゃんの思い出のために
 
お母さんの声が聞こえる。もう一つの声はおそらくお父さんの声。急に大きな笑い声になったからきっと楽しいことを話しているに違いない。お母さんが話しかけてきた。「調子はどう?お母さんはとてもいい気分。お父さんも早く逢いたいって、言ってますよ。」体が暖かくなってきたからお母さんはきっとお腹をさすっている。
お母さんは話しかけてくれているけど、声が届いているって思っていないのかもしれない。ちゃんと届いているのに。
 
お母さんとは違うけど、よく似た声が聞こえる。「あなたが生まれるときは、~~だったのだよ。」どうやらお母さんに話しかけているらしい。お母さんはいつもの様にお腹を擦りながら聞いている。
「私もそうしよう」今度は別の温かい手をお腹越しに感じる。
「動いてる。ホント不思議。」別の男の人の声が聞こえる。「体を大事にしなきゃダメだよ」ぼつぼつとしか話さないけどお母さんのこととても気にしているのが分かる。この声も私をホッとさせる、何故なんだろう?
そういえばお父さんも近くにいるのだけど今日は大人しくしているみたい。
 
今日は少し胸が苦しい。お母さんやお父さんの声も聞き取りにくい。自分が苦しい時お母さんも苦しいみたい。いつもなら歩く音も料理の音も聞こえるのにお母さんの呼吸だけが聞こえる。
 
パタン、車のドアが閉まる音。それから少しの間心地よい振動を感じていたら目的の場所に着いたらしい。たくさんの人の声、足音、車輪と床と擦れる音、様々な種類の音が聞こえる。一体どこなのだろう?少し不安になる。
「残念ですが、状態はあまり良くないようです。」抑揚のない声が聞こえる。私のことを話しているに違いない。手とは違う何か冷たいものがお母さんのお腹の上を移動していた。今日も朝から苦しかったけど、そのことと関連しているのだろうか。以前は時々だったのが最近は毎日のように苦しく感じる時がある。お母さんのがっかりしたような声が聞こえる。でもそれはほんの短い間。お母さんは自分に言い聞かせるように、お父さんに告げた。「一番良いことをしましょう。今も、生まれてからも」
 
お母さんの心臓の音は機嫌が良い時と元気が無い時と違うのが私には分かる。今日はご機嫌な方だ。お母さんの好きな美味しいものを食べているみたい。「この子のために栄養つけなくっちゃ」私は味を感じることはできないけど、しばらくすると体に力が湧いてくるような気がする。お母さん、頑張って食べて。私のためにも。
 
また冷たいものをお母さんのお腹を通して感じる。「予定は〇〇ですが、早めに準備はなさったほうがよいでしょう。それから赤ちゃんのことですが、状況は変わっていません。残念ですが生まれてから直ぐに、と言っても一週間以内くらいですが、手術しなければなりません。それで治るかと言えば、確証は持てません。ずっとお世話が必要なのかもしれません。」
「そうですか」お母さんとお父さんのがっかりした声が聞こえる。私も最近頻繁に苦しくなる。
 
「大おばあちゃんから電話。予定日は何時?って。あわてんぼうの人だからもうお祝いが届いてる。まだあのこと話してないけど、言い難くなっちゃった。」
お父さんと話している。「いつか言わなきゃ。」
 
お母さんとお父さんは最近毎日話しかけてくる。「調子はどう?お母さんは今日何々をしました。お父さんはあなたのために可愛い、でもちょっと大きすぎるピンクのパジャマを買ってきましたよ。」「早く会いたいな。どんな顔をしているのでしょうね。お父さん似?それとも私に似ているのかな。」「赤ちゃん、あなたがどんな風に生まれても私たちはずっと守ってあげるからね。だから安心して生まれてきてちょうだい」
すごく嬉しいはずなのに涙が出てくる。最近自分でも自分の体のことがわかってきたような気がする。苦しくなる回数がずっと増えてきている。そしてこの症状は残念だけどとても手に負えないもののような予感がする。先日、冷たいものがお腹を擦った後、男の人の声が聴こえた。「今はまだお母さんのお腹の中で頑張れていますが、生まれてしまうと一気に自分で呼吸をしなきゃなりませんので負荷がかかってしまいます。赤ちゃんにはとても過酷な状況です。精一杯のことはしますが、前にも言ったかと思いますが、一生気をつけなければならないかもしれません」
 
最近お母さんも沈み込んでいる日が多い。毎日のようにお父さんと話をしている。ふたりとも無理やり元気を出そうとしているけど、無理しているのが私には分かる。きっと私のせい。
 
急に生まれるシーン挿入
時々私は考える。お母さんやお父さんの住んでいる世界はどんなだろうと。それは楽しいところ、悲しいところ。そこは本当に生きていく価値が有るところなのかだろうか。お母さんやお父さんは私に会いたがっている。二人の声は無条件に私の気持ちを穏やかなものにしてくれる。だから私も早く二人に会いたい。お母さん手が私に直接触れたり、お父さんの眼差しがやさしく注がれるその時、私はどんな気持ちがするのだろう。自分で息をして、外の光を感じる時、今とは違った気持ちになれるのだろうか。
 
時間は過ぎていく。もう少しでお母さんに会える日が近づいている。でも最近は苦しい時間が多くなってきた。じっとしているのがつらくて、つい動いてしまう。
 
あれは合図なのだろうか。外の世界に出て良いという。でもそれは私とかお母さんの意志とは関係のないところで進められているみたい。急に廻りが賑やかく動き始めた。私は何かに押されたり、引っ張られているような気がする。私はきっと外の世界に出られるのだ。幸い今は苦しくない。これならお母さんにもお父さんにも元気なまま会えるのかもしれない。廻りの動きが激しくなってきた。お母さんはいつもと違う場所にいる。
 
冷たい空気を感じる。いままでの温かいところとは違う。少し冷たいけど大きく包まれて広々とした感じ。お母さんの心臓の音が聞こえない。その代わりお多くの人の声が聞こえる。

ここまでは勢いで進んだ
だがここからが難しい、、
ずっと気になっているが、お終いまで行かないともモヤモヤするが
最後までいけるのだろうか
(どうであれ最後まで行くべきか、、)
 

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昔の俳句(らしきもの)

2022年10月28日 09時06分35秒 | 創作したもの

昨日取り上げた、昔の一日一句  
この時期のものはどんなだったか久しぶりに覗いてみた
やはり何も覚えていない
それどころか随分変なものがあって、意味がわからないものも多い

それでも、なんとなくそうだったな、、と思えるのがあった

○何万年紅葉見続け穂高岳

○涸沢の灯火ゆらゆら蝶に雪

昔、山に登っていた頃の記憶から謳ったものだ
涸沢の紅葉はずっと昔から、、その感慨にふけったところ

もう一つは、蝶ヶ岳から涸沢を眺めるとテントの明かりが
チラチラと見えて、蝶ヶ岳にはうっすら雪が積もっている姿のこと

土方歳三は豊玉発句集でいくつか俳句を詠んでいる
それを真似て、ボケ防止にもなるからと始めたが
実力とか出来は、土方さんと似たようなものか、、



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メルヘン「イルカのエリア」

2015年11月07日 09時02分14秒 | 創作したもの

昔、手がけて完成できなくて、そのままになっているメルヘン
どうやらまとまったものとして完成できそうにない
しかし、少しもったいないので、未完のままこっそりとアップしよう

相変わらず時代背景も場所もいはっきりしないが、読んだ人はどんなイメージを
自分のなかに思い浮かべるか、、(自分のイメージと同じか?)

イルカのエリア(メルヘン)

イルカのエリアはいつもと同じように思いっきりジャンプしてみた。

そして、いつもの様にななめになった視界にアレを見た。

ジャンプするとアレは少しだけ余分に見える。でも、それは一瞬だけ、ザブーンと大きな音をたてて再び水面に顔を出した時、アレはしっかりと大地に根をはやしているように見えた。

昨日より少し進んでいるようだ。エリアは丘の上に出来上がりつつある大きなアレを今度は大きく背伸びして眺めた。

空はここ数日ずっと晴れていた。今日も太陽は真上から照りつけ、丘の手前に茂ったオリーブの木は、時々、風に揺れカサカサと乾いた音をたてた。

それにしても、、、、エリアはいつもの様に考え込んでしまった。

エリアには人間たちが今取り組んでいるアレがなんであるかが解らなかった。これまでにも人間たちのする事はよくわからなかったが、今まではなんとか想像ができたり、どこか納得できるような気持ちになれたのだった。ところが今度のアレは全然違う。それが何であるか、と云うより、何故アレを皆で作っているのかが全く解らなかった。エリアの知っている人間はあんな事をするようにはとても思えなかった。今彼等のしている作業がとつもなく大変であることがエリアの目からも想像がついた。半端な事ではない事は、エリアが時々眼にした葬式のシーンの多さが物語っている。きっと彼等はアレを造っている間に何か事故にあってその命を失ったに違いない。それに遠めから見てもその作業は体力的にもかなりの負担を強いているのが解った。にもかかわらず、歳のいった連中としか見えない人々もいた。彼等は、本当は足手まといの様だ。しかし、何故かそれを解った上でそのままにしている。

エリアは、海中に潜って熱くなってしまった体を冷そうとした。が、先ほどのアレが気になって仕方なかった。

何故人間たちはアレを造っているのだろう。しかも、あんなに大勢で。

エリアの知っている人間たちときたら喧嘩ばかりしているか、自分の事しか考えない連中で、人間は自分達イルカとは違って平和に暮らす事ができない生き物だと思っていた。時には、船に乗った若い女や子供が我々を見つけては優しそうに接してくるが、それも、自分の思うようにならないと急に我々を脅かしたりする。そんな人間たちが何故かいつもの人間ではないように思える。みんなが協力して作業している。笑い声さえ聞こえてきそうな気がした。

 

 

エリアは最近いつも同じ1日を過ごす。いつもと同じ場所でしっかりお腹をふくらませた後は、仲間と分かれてアレが見えるところに近寄ってじっと見ている。なにもしないで見ているだけ。それは前の日と少しも変わりないように見える。しかしエリアは少しも退屈はしなかった。でもこの調子では自分の生きている間には出来上がった姿は見ることができないかもしれない、それが少し残念な気がした。

 

その時だった、どこからか、もの凄い音が聞こえて急に体のバランスが取れなくなってしまった。体が海中に引き込まれ右に左に揺れ始めた。そのうちに海底の砂が巻き上げられて海中は薄暗くなり、全然視界が利かなくなった。エリアはとにかく海上に出ようと試みてみた。しかし、どういう訳か全然体が思うように動かない。それどころか、自分の体というのにまるで固まった棒のようにしか感じられない。どんどんと海中に引き込まれていく。波は信じられないくらいの高さまで上がり、ますますその高さは高くなるように思えた。その時になってエリアは初めて恐怖を感じた。こんな事は初めてだ。今は上も下も解らない。体の自由が効かない。それに薄暗くて目の前が何も見えない。必死になって生き延びるためのことだけを考える。思いつくいろんな試みを試してみる。仲間が今どんな状態か確かめる余裕はない。いつまで続くのだろう、今はまだ体に力が残っているが、長く続いて疲れが出てきてしまったら。エリアは頭に浮かぶ不安な思いを無理やり打ち消すように今のことだけを考えた。
 

どうにかまだ呼吸は余裕があるようだ。パニックになった時は少し焦ってしまったが冷静になってみると先ほどからたいして時間は経過していない。エリアはそのまま体を勢いに任せてみた。すると、始めはでたらめに思えた体を引きずり込むような動きも、短い間隔のサイクルで変化しており、タイミングを見計らって海上にでて呼吸する事ができる様になった。すると、同じようにほかのイルカたちも大きな声を出しながら海上に顔を出しにきていた。彼等は、興奮ぎみに話していた。「長年生きてきたがこんなのは初めてだ。」「子どもたちは大丈夫かしら」「これからどうなるんだろう」そんな時落ち着いた声が聞こえた。「みんな慌ててはならんぞ。とにかく慌てない事じゃ」いつもと違って長老の話にじっくりと耳を傾けている。少し落ち着けたような気がしたが、それでも先ほどの衝撃を思い出すとつい恐怖心を覚えるのだった。

一体どのくらいが経ったのだろう。一週間、それとも一ヶ月。エリアは自分の意志とは関係なく流されるようにいろんなところを彷徨った。原型どころか痕跡すら見せない破壊された村や平原だけがあちこちで見えた。太陽は以前と同じように真上から照りつけているが、人っ子一人見えない。

エリアは思い出したようにアレが見える場所に向かった。ようやく波はいつもの高さに落ち着き、海水の色もまた同じ深い碧に戻っている。太陽は少し西に傾いている。エリアは丘の上を見上げた。だがそこには在るべきものは見えなかった。大きくジャンプしてみたが視界には何も入らない。この間までは大きな存在感のある建造物があったのに、下から見上げるこの角度では一体なにがどうなっているのか全然解らない。何度大きくジャンプしても目に入る風景変わらない。丘の上には何もない。エリアは認めたくはないがあの建物たちは倒壊してしまったのだろうと考えた。

あんなに必死に建ててきたのに、こんな事になるなんて。エリアは、少しだけ人間たちが可愛そうに思えてきた。どんなに希望を持って事を行っても、先の事なんて誰も解らない。生きているうちにする事なんて膨大な時間の中からすれば何の意味も持ち得ない。エリアは沈みがちになる気分の中で、そんな風に考えた。エリアはあの壮大な建物に、どんな意味と目的が在ってみんなで造ろうとしているかは解らないが、無意識の内に期待していたにかも知れない。なにかが、自分の中で変わるかも知れない。アレが、自分に勇気や希望を与えてくれるかも知れない。しかし、やはりもう駄目だ、何もかも破壊されてしまった。エリアは水平線に赤い太陽が沈むのをチラッと見て海中に潜りどんどんと岸から離れていった。

 

いくつもの季節がやって来て幾つもの季節が過ぎていった。いつの間にか出会うイルカが自分より年下になっていた。自分のことを振り返っても許される年令になった。エリアは自分の見てきたもの、感じたこと、そして生きていく上で困難に直面した時にどのように立ち向かったかを若いイルカたちに話した。だが言葉は若いイルカ達の耳を通り過ぎるだけの様に思われた。しかしエリアは気にかけず繰り返し繰り返し話し続けた。それは自分への言葉でもあった。

エリアはアレの事はすっかり忘れてしまっていた。悲しすぎる記憶は無理やり思い出さないようにしていた。そのうち、そんなことがあったということすら忘れてしまっていた。だから、断崖の近くに近寄る事もなく、毎日沖の仲間がいっぱい居る所でも過ごしていた。

そんなある日、エリアは不意に仲間のイルカが話す気になる噂を耳にした。どうも人間たちは訳の解らないものを造っているらしい。それもなんだか必死で、その目的は解らないが人間たちにとっては極めて大事なものらしい。エリアは急に懐かしい想い、憧れ、確かに若いあの一時期持っていた感情を呼び起こさされた気がした。そして大急ぎで岸に向かって泳ぎ始めた。アレを、造っている、人間たちはまた、アレを造っている。エリアは、自分の心が高揚してくるのを感じた。何故かは解らないが、エリアにとってもアレは大事なものの様に思えた。アレができれば、自分も変わるかもしれないと思ったアレは、アレは。

エリアは、昔よくきた場所まで泳ぎつくと思いっきりジャンプをしてみた。すると、水面からでは見えなかったアレのようなものが丘の上に建てられつつあった。今見たばかりの建造物は、以前よりももっと大きそうに見えた。前のものよりもっと丈夫に、まだ未完成だが観るものに畏敬の念を呼び起こしてしまいそうだった。今は丘の上に多くの人間たちが居る、女の連中も見える、子供すら見えたようだ。エリアは何度もジャンプを繰り返し人間たちの姿を眺めていた。

それから、エリアは毎日その場所に来て、日がくれるまで飽きもせずに、その進み具合を眺めていた。ほとんど昨日と同じ様子でもエリアは全然気にならなかった。早く出来てほしい、と思う反面ずっとこのまま造り続けていてほしいとも思うのだった。(おわり)

                                           
自分勝手になっているところが多いので、全体的な手直しは必要だが
ブルックナーの初稿みたいなもので、荒々しい直截な力も捨てがたいし、、
それに、何よりも力量がないから仕方ない
生きてるうちに機会があったらより洗練されたものに、、、できるかな

ところで、このメルヘンのきっかけは西脇順三郎のambarvalia
ギリシア的抒情詩から「皿」と題された詩

黄色い董が咲く頃の昔、
海豚は天にも海にも頭をもたげ、
尖つた船に花が飾られ
ディオニソスは夢みつゝ航海する
模様のある皿の中で顔を洗つて
宝石商人と一緒に地中海を渡つた
その少年の名は忘れられた。
麓(うららか)な忘却の朝。

(いいなあ~) 

何の関係もなさそうだが、インスパイアされたのは間違いない
ところで、拙い他のメルヘンのきっかけは
「春の夢」はトーマス・マンのトニオ・クレーゲル
「目が見えたモグラ」はH・Gウェルズの「盲人の国」
そして「セミと風鈴」は かもめのジョナサン


 

 

 

 

 

 

 

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セミと風鈴(追加と変更)

2014年08月01日 20時37分27秒 | 創作したもの

余りにも一本調子すぎるので少しエピソードを追加してみた

風のない暑い日
風鈴は自分では音を出すことができない

夏休みの少年たちの定番も少し加えてみた
多少の矛盾点は無視することにする

追加変更したもの、最初から!
まだ少しあちこち直さなければならないが
とりあえず現時点でのもの



セミと風鈴

セミは少し悔しかった
今も小さな女の子のつぶきが耳に残っている
「涼しそうな風鈴の音。とても気持ちがいいわ。
でもセミたちはなんて賑やかでうるさいこと
どうしてあんなに必死に泣き続けているのかしら?」

その林道の中腹には小さな古びた休憩所があった。
旅人は疲れた体を休め、眠りについたり、時には食事をしたが、その軒先に風鈴が吊るしてあった。
風鈴は日が傾き始めた頃、チリンチリンとなった。
「ほう、いい音だ。」
年老いた旅人がつぶやく。
セミはそのつぶやきを耳にした。
セミは「羨ましいなあ。自分の鳴き声があのように褒められるようになりたいものだ」
最初は何気なく思っただけだった。が、そのうちに褒めてもらえる鳴き方をすることがとても大事な、
もしかしたら生きているうちで一番大切なことではないかとも思うようになった。
そして、そのためにはどんな努力もいとわないと考えるようになった。
それからは前にもまして、体全体を震わして大きなで声で鳴くのだった。

朝から晩までセミは鳴き続けた。
近くの木に止まったセミが助言した。「そんなずっと必死に鳴いてばかりじゃ命がもたないよ!」
セミは頷いたが、全力で鳴くことをやめることはしなかった。
美しく鳴く、ただひたすらそれを求めて。

来る日も来る日もセミは鳴き続けた。
そんなある日、太陽は見えなかったがひどく蒸し暑い一日があった。
休憩所に入り込むと旅人はみんな首元、額の汗をせわしく拭きとった。
セミはいつもよりは疲れるような気がしたが、それでも力を振り絞って鳴いた。
そのうちセミはいつもと違うことに気がついた。風鈴の音が聞こえない。先程からずっと静かなままだ。
そのうちある旅人が「こんなところに風鈴が吊るしてある。それっ」と言って、
風鈴に向かって団扇を扇いだ。すると風鈴はいつもの様にチリン、チリンとなった。
「音だけで涼しくなれるようだ。本当にいい音だ。」
旅人は今度は少し強めに風鈴に向かって風を送った。風鈴はチリリン、チリリン。
そんなことを数回繰り返すとやがて飽きてしまって、また額の汗を拭い取るのだった。

ゴソッ。
セミの直ぐ下で急に大きな音がした。
下で一緒に鳴いていたセミの声が一瞬悲鳴に様に聞こえたと思うと静かになった。
樹の下では少年の声が聞こえる。
「やった。上手くやらないとおしっこかけられるけど、今のは大成功」
そういって捕虫網を得意げに引き下げた。別の少年が捕虫網の中を覗きこんでいる。
「でも、まだあそこに一匹いる、いそがないと逃げちゃう。」
少年が背伸びしてセミの止まっているところまで捕虫網を伸ばそうとするよりほんの少しだけ前に
セミは逃げることができた。風鈴が見えて旅人の話し声が聞こえる場所を離れたくなかったが。
そのうち少年たちは他の場所のセミを探しに足早に走り去った。
次の日、いつもの場所で鳴いていたセミは、今日も少年たちが捕虫網を持ってやって来たのに気づいたがこの場所は離れたくなかった。
「あれっ、あそこにセミがいる。昨日と同じ場所だよね。同じセミかな。」
「そんなことないだろ、違うセミだよきっと。それよりさっさと捕まえよう」
少年たちが自分に捕虫網を伸ばそうとしたのを確認するとセミは素早く木から飛び去った。
「ちえっ!まあいいや。別のところへ行こう」
少年たちは昨日と同じように場所を移してセミを探しに行った。
子どもたちは翌日も捕虫網を持ってやって来た。今度は一人増えている。前日までの手柄話を新しく加わった仲間に自慢している。
「不思議なんだよな。またあそこにセミがいる。昨日も一昨日もいたけど、やっぱり同じやつかな」
前の日と違ったのは今度は少年たちはそのセミを捕らえようとはせずに前日収穫の多かった場所に直ぐに移動した。
しばらくして満足そうな子どもたちの声が耳に入った。
「だから言ったろう。あそこはいい場所だって。」虫かごには数匹のセミが閉じ込められている。
「それにしても、あー暑い!」少年たちは旅人が涼んでいる軒下まで急ぎ足で向かった。
そこで軒に吊るされた風鈴に気がつくと手で軽く風鈴を押した。
チリリーン。もう一度別の少年が押した。チリリーン。「自分ちのやつよりいい音だな。」
もう一度今度は強めに押すと少年たちは勢い良くその場所を離れていった。
それからもう少年たちは来なくなった。そしていつもと同じように時が過ぎていく。
セミはいつもの場所でいつものように鳴き続けた。


どのくらい時間が経ったのだろう。セミの一生と言う時間をはるかに超えてそのセミは鳴き続けた。
親切に助言したセミは少し前に木からポトリと音を立てて落ちて今はその亡骸を蟻たちが運ぼうとしている。

しかし、そのセミは相変わらず朝から晩まで泣き続けるのだった。
ところが林道の休憩所から聞こえる声はやはり風鈴の涼やかな音を褒める言葉ばかり、
蝉の声については何の言葉を発せられなかった。

鳴き方がまずいのか?音が大きすぎるのか?音の高さを工夫することはできるのだろうか?
セミは考えついた全てのことを試みた。
しかし、やはり旅人にはただ騒がしいセミの鳴き声にしか聞こえなかった。
いやそんなことすら感じてもらえなかったのかもしれない。

ある日の午後、遠くに見えた雲が急に黒っぽく変わり、あたり一面が暗くなった。
冷たい風も吹き始めた。突然、激しい雨が降り始めた。
雷もなり始めて、はじめは遠く聞こえたのが徐々に近づいて来ている。旅人は先を争って家に飛び込んだ。
ピカっと光った瞬間、ガシャーン!と大きな音。近くに雷が落ちたようだ。
「クワバラ、クワバラ!」旅人は口々に呪文を唱える。
軒先に吊るされた風鈴は強い風にさらされて右に左に大きく揺れている。間髪おかず金属音を鳴らし続ける。
チリ、チリ、チリリーン。チリ、チリ、チリリーン。
「うるさいな!」旅人の中の一人がつぶやいた。とその瞬間、風鈴を吊るしていた紐が切れた。
風鈴が落ちたところは少しばかり坂になっていた。おまけに風に押されて風鈴はころころと転がっていった。
豪雨と雷の中、誰も風鈴を取りに行こうとはしない。
コロコロ、コロコロ、風鈴はしばらくすると見えないところまで転がっていき、ようやく草むらに入って止まった。
風鈴はそこで人々の記憶の中から消えてしまった。かつて休憩所にあったことも、その涼やかな音も。


雨が上がった。
ホッとしたような雰囲気が漂い、旅人たちは各々それぞれの方向に歩き始めた。

しばらくして雨を避けていたセミは休憩所が見えて、人々の会話が聞こえるいつものところまで戻って
いつもと同じように鳴き始めた。
以前と同じように来る日も来る日も。

しかし何かが前とは違っていた。風鈴を褒める声が聞こえない。セミの目にも風鈴は見えなかった。
セミは少し寂しかった。
やがて多くのセミが生まれ死んでいく季節も終わりを告げようとしていた。
ずっと鳴き続けてきたセミもとうとう声が小さくなってきた。
チチチ、チチ、懸命に鳴こうとしてももう体がいうことをきかなくなっている。
「あと少し、、、」意識が遠くなりそうな瞬間、「あっ、セミの声。すごい今まで鳴いていたんだ。頑張ったね」
小さな女の子の声が耳に入った。その声をセミは木から落ちながら聞いたような気がした。

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セミと風鈴(久々のメルヘン創作)

2014年07月30日 15時31分21秒 | 創作したもの
最初の1行は決まっていた
しかし、そこから先にはなかなか進まなかった
そんなことが続いて数年
とりあえず最後まで行くことに意味があると思い直して
重い腰を上げて書き終えたメルヘン「セミと風鈴」

「100万回生きた猫」と同じテーマとなるはずだった
しかし、書き始めると少しずつストーリーは変わっていった
あまり説教臭くなるのは避けたいと思ったせいか
そして説明的な部分を省いたせいか
ぼんやりした印象でしかない
テーマが何だったのかさえ不明確
しかし、今のところはこのままで
いつか変更するかもしれない

ただこれを書いているときは
なかなか楽しい時間だった
先に行き詰まって困ったこともあったが
あれこれ考えるのは頭の良い訓練に生る

さて本日仕上げた「メルヘン セミと風鈴」



セミは少し悔しかった
今も小さな女の子のつぶきが耳に残っている
「涼しそうな風鈴の音。とても気持ちがいいわ。でもセミたちはなんて賑やかでうるさいこと、どうしてあんなに必死に泣き続けているのかしら?」

その林道の中腹には小さな古びた休憩所があった。旅人は疲れた体を休め、眠りについたり、時には食事をしたが、その軒先に風鈴が吊るしてあった。
風鈴は日が傾き始めた頃、チリンチリンとなった。
「ほう、いい音だ。」
年老いた旅人がつぶやく。
セミはそのつぶやきを耳にした。
セミは「羨ましいなあ。自分の鳴き声があのように褒められるようになりたいものだ」
最初は何気なく思っただけだった。が、そのうちに褒めてもらえる鳴き方をすることがとても大事な、
もしかしたら生きているうちで一番大切なことではないかとも思うようになった。そして、そのためにはどんな努力もいとわないと考えるようになった。
それからは前にもまして、体全体を震わして大きなで声で鳴くのだった。

朝から晩までセミは鳴き続けた。
近くの木に止まったセミが助言した。「そんなずっと必死に鳴いてばかりじゃ命がもたないよ!」
セミは頷いたが、全力で鳴くことをやめることはしなかった。
美しく鳴く、ただひたすらそれを求めて。

来る日も来る日もセミは鳴き続けた。
セミの一生と言う時間をはるかに超えて鳴き続けた。親切に助言したセミは少し前に木からポトリと音を立てて落ちて今はその亡骸を蟻たちが運ぼうとしている。

しかし、そのセミは相変わらず朝から晩まで泣き続けるのだった。ところが林道の休憩所から聞こえる声は風鈴の涼やかな音を褒める言葉ばかり、蝉の声については何の言葉を発せられなかった。

鳴き方がまずいのか?音が大きすぎるのか?音の高さを工夫することはできるのだろうか?セミは考えついた全てのことを試みた。しかし、やはり旅人にはただ騒がしいセミの鳴き声にしか聞こえなかった。いやそんなことすら感じてもらえなかったのかもしれない。

そんなある日の午後、遠くに見えた雲が急に黒っぽく変わり、あたり一面が暗くなった。冷たい風も吹き始めた。突然、激しい雨が降り始めた。雷もなり始めて、はじめは遠く聞こえたのが徐々に近づいて来ている。旅人は先を争って家に飛び込んだ。ピカっと光った瞬間、ガシャーン!と大きな音。近くに雷が落ちたようだ。「クワバラ、クワバラ!」旅人は口々に呪文を唱える。
軒先に吊るされた風鈴は強い風にさらされて右に左に大きく揺れている。間髪おかず金属音を鳴らし続ける。チリ、チリ、チリリーン。チリ、チリ、チリリーン。「うるさいな!」旅人の中の一人がつぶやいた。とその瞬間、風鈴を吊るしていた紐が切れた。風鈴が落ちたところは少しばかり坂になっていた。おまけに風に押されて風鈴はころころと転がっていった。豪雨と雷の中、誰も風鈴を取りに行こうとはしない。コロコロ、コロコロ、風鈴はしばらくすると見えないところまで転がっていき、ようやく草むらに入って止まった。
風鈴はそこで人々の記憶の中から消えてしまった。かつて休憩所にあったことも、その涼やかな音も。


雨が上がった。
ホッとしたような雰囲気が漂い、旅人たちは各々それぞれの方向に歩き始めた。

しばらくして雨を避けていたセミは休憩所が見えて、人々の会話が聞こえるいつものところまで戻っていつもと同じように鳴き始めた。
以前と同じように来る日も来る日も。

しかし何かが前とは違っていた。風鈴を褒める声が聞こえない。セミの目にも風鈴は見えなかった。
セミは少し寂しかった。
やがて多くのセミが生まれ死んでいく季節も終わりを告げようとしていた。
ずっと鳴き続けてきたセミもとうとう声が小さくなってきた。チチチ、チチ、懸命に鳴こうとしてももう体がいうことをきかなくなっている。「あと少し、、、」意識が遠くなりそうな瞬間、「あっ、セミの声。すごい今まで鳴いていたんだ。頑張ったね」小さな女の子の声が耳に入った。その声をセミは木から落ちながら聞いたような気がした。


これで少し勢いがついたかもしれない
ずっと頭に引掛っていたネタでもう少し創作してみようかな
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若き日の詩

2014年02月01日 21時24分54秒 | 創作したもの
昔は空想するだけで、どれだけでも時間を潰すことができた
そんな時、今では決して作ることのできない詩などを
書いた事があった

どんなことを書いたのかは、うすうす覚えていたが
急に思い立って日記を引っ張りだしてみた

古い歌だ
勢いだけの理屈になっていない詩にしか過ぎない
しかし、懐かしい、その時にしかつくれないような味わいもある

出来の良し悪しは別にして、振り返っても良い時期になっている

自分の生きた証というより、感性の変遷をたどる意味で
今書き移してみることとする
(ほとんどその時のまま)

【古代】

口唇を突き出して
シュメールと言ってみる
遠い昔の粘土板の思いが
薄暗い写真から
そっと訪れる

羽根の生えた獅子が
国を守り
蛇の冠をかぶった
髭の王が
国を司る

そこにだって生活はあったのに
過去はいつだって
夢の中だけにある

シュメールと
もう一度口唇を突き出して
言ってみる

強靭な体格の巨人が
かつてこの国を治めた
光のない国を恐れながら
巨人たちは死の世界を考えた

砂漠の中で
謎を発した動物は
やがて不幸な男により
退治された

死後の世界を信じた王は
自分の運命を知らなかったばかりに
時間と呆れるほどの労力をかけて
偉大な労作を促した

葦の笛は悲しみを歌い
木造りの小舟は
大河の中を彷徨った

人間たちの夢は
人間たちの幸福は
子どもの寝返りのように
そっと消えた


【無題】

僕の心は飛んでいった
白い羽根が生えて飛んでいった
だけど、空の天井にぶつかって
血だらけになって戻ってきた


【煙】

黒い屋根から
白い煙が
?の形をして
青い空に
のぼっていった

【夏】

陽は真上から石畳に照りつけている
ぐったりとカスターニエンの木は
しかし日陰をつくる
長椅子に寝そべった男の顔に
蜂が近づく
羽の音に気がつくが
男は目を閉じたまま
くすぐったい足の気配
ふいに土埃を挙げて風が吹く
蜂は飛ばされて
男から離れる

またのんびりとした夏の昼
男の首に汗が光る

【少女】

水をいっぱいにいれた透明のコップの向こうに
ぼんやりと見える少女は
(私の眼の焦点が少女に向かった)
自分の思いが
余りにも平面的に
その大きな瞳に表れていた
少女の前には
大理石のギリシア彫刻のような
少年がいるはずだった


【影】

季節外れの海に面して
壊れかかった2階建ての家がある
窓をあけっぱなしにしても
波の音もしない
私の影は沈む太陽につれ
どんどん長くなった
私は体の重さを感じなかった

【万年筆】

小さな容器の液体が
金の切れ目に流れる
エボナイトに、体温が残る


本当に何が言いたいのか分からない
というのが自分でも正直なところ
しかし、何故かこうでなくてはならない
という気もする

確かに自分にも若い時があったということ
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メルヘン 目の見えたモグラ

2007年06月13日 20時18分15秒 | 創作したもの
 昨日に引き続いて若い時に作ったものを!
             
  目の見えたモグラ
        
 ある時、ある所で、目の見えるモグラが生まれた。目の見えるモグラは、両親のもとで大切に育てられ、幾年かが過ぎた。
その間、目の見えるモグラは、近所の普通のモグラからは、
「かたわものやーい、かたわものやーい。」
 と、いつもいじめられた。
 そんなある日、目の見えるモグラは、ある決心をして両親にいった。
「お父さん、お母さん、僕は今日『太陽』というものを見に行きます。」
 すると、お母さんのモグラは
「なんてことをおいいだね、この子はそんなものを見たらお前は死んでしまうに決まってるよ。
 いったい、お前は何が不満だというのかね。ともだちがお前の悪口をいうのかい。それなら私が守ってあげるよ。
 だからね、お前、そんなばかな考えは、もうよしておくれ。」
 と、涙を出しながら訴えた。
「お母さん、そんなに心配しないで、僕が居なっくたって弟や妹がいるじゃないか。それにね、僕は何も不満だからこんなことをしたいんじゃないんだ。ここはすごくいい所だよ。お母さんもいて、何もしなくても暮らしていけて、でもね、もし不満があるとすれば、実はそう言うことに対してなんだ。僕の目は見えるけど見えるということを少しも活用していない。ただ、普通に目の見えないモグラと同じ生活をしている。それで、僕は考えたんだ。何故、僕の目が見えるように生まれたのかってね。その結果、目が見えるってことは、何かを見なくっちゃいけないんだって事に気がついたんだ。そこで、僕は、僕に悪口を言ったりする友だちを見たんだ。すると、今まで強そうに見えた彼等は、実はすごく悲しそうに見えたんだ。そして、僕は感じたんだ。彼等も目が見えるようになりたいんだろうって。でも、いったい何が見たいのだろう。土の中のみんなの顔、それとも毎日の食べ物、、、そうやって考えているうちに僕はわかったんだ。『太陽』を見てみたいってね。ほら、あのなんとか言う草が言ってたじゃないか『太陽ってものは、あんた達には鬼のようなものかも知れないけど、そりゃーすばらしいものだ。』って『ある時は、赤く、ある時は黄色く光り輝いてすばらしいって』って
 僕はね、お母さん、どう考えても草に優しい太陽が、僕達に冷たいなんて考えられないんだ。僕達にも、もしかしたら優しんじゃないかって気がするんだ。
 それにね、仮に、又どこかで目の見えるモグラが生まれたら、、彼は又同じように思うんじゃないかって気がしてならないんだ。
 とにかく、何故だか解らないけど、目の見えるモグラは、太陽を見なくっちゃいけないって気がしてならないんだ。
 大丈夫、心配するなよ、お母さん、僕は死にやしないよ。絶対戻ってくるよ。」
 そういって目の見えるモグラは、よく晴れた日の昼頃、地上にもっこりと体を出した
 モグラは自分の真上から、ゆっくりと自分をあたためている優しいものを見上げた。
 目の中に眩しい光が一瞬入った。光が丸い形から四方八方に、公平に拡がっていた。
 するとすぐに、目に痛みを覚えて、モグラの目は見えなくなってしまった。
 モグラは呟いた。
「僕は盲になりに来たんじゃない。僕は今目が見えなくなってしまったけれど確かに見たんだ。あの四方八方に、どこの方向にも、何に対しても公平に光を発している太陽を。僕は目の見えなくなることでみんなと同じになったんじゃない、反対だ。今まで以上に、目が見えるようになったんだ。そして、自分がどうして目が見えるように生まれ、何故、太陽を見なければならなかったかって事もわかったんだ。」
 そしてモグラは、再び土の下の世界に戻って行った。
 それから、目のみえたモグラは、自分の見た太陽について、ほかのモグラたちに述べ始めた。
 どこにも公平で、美しく光を与える太陽の事を。
 やがて、彼が見た太陽は、目の見えないモグラたちの中にも続々と見えるようになった。
 それから、また数年すると、目のみえたモグラは死んだ。 
そのモグラの墓標には、目は見えなかったが、いまでは物事がすっかり見えるようになったほかのモグラたちの手で、「愛を説いたモグラ、ここに眠る。」
と、しっかりとした、モグラの字が刻んであった。
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メルヘン  春の夢

2007年06月12日 22時33分37秒 | 創作したもの
 自分の心がまだ今程疲れてなく、希望に燃えていたころ
 勢いに任せて創った小さな物語
 自分は臆病だったのかもしれない、との自戒の意味を込めて
 今初めて公にするのものです
 読み返すと恥ずかしくなったり、勢いだけの部分もあるけれど
 絶対に戻れない感覚が愛おしかったり、懐かしかったりします
  
    メルヘン            
    春の夢

 青年は久しぶりに山に登ってみた。  
そして、山の中腹から春霞の中にひっそりとたたずむ京の町を見ていた。   
腰をおろした辺りには、淡い赤色をした花がさき乱れ、白や黄色の蝶がまるで笛の旋律のように飛び交っていた。   
ゆらゆらと揺れる京の町は、昼食の用意だろう、煙突から薄青い煙りがたなびき、ずっと向こうの反対側の山からは、白い雲が小さく一つ二つ浮かんでいた。 青年は思わず目を閉じて草の上に横になった。              
 何もかもが久しぶりだった。チク、チクと青年の背中を刺す草も、チ、チ、と鳴く声を発して飛び去る鳥も。    
 いつしか、青年はうたた寝をしていた。   数刻の後、青年は蝶の声を聞いた気がした。                ひら、ひらと飛び交う蝶は「こんにちは、ずいぶん久しぶりですね。でも、こんなに世界は美しいのにあなたは何故そんなに難しい顔をしているのです。」 と、ささやいた。
青年は答えた。「やあ、こんにちは。何故こんな顔をしているかって。それはね、世界が美しいからですよ。美しすぎるからなんです。 私はね、蝶さん、おそらく嫉妬してるんですよ、美しすぎる自然に対してね。ここから見える世界は美しい、あの青い空も、すぐそこの花も、そして、あなた達も美しい。そして私はそれを深く感じているんです。なんて美しいのかってね。でもね、私にできることといったらそれだけではありませんか。歌に歌おうとしても、それはとてもこの美しさを表しきれない、言葉で言おうとすると、それは口から出るなり嘘になってしまう。 蝶さん、私はね、本当は悲しいんです、何故、私が、あなた達のように世界を美しくする自然の一部でないのかってことがね。それで毎年春になると悲しくなるのです。」            それを聞くと蝶たちは悲しそうに飛んでいってしまった。 
すると、次にはウグイスが話し掛けてきた。              
「こんにちは、ずいぶん悲しそうですね。」              
「こんにちはウグイスさん、とってもきれいな声ですね。どうしたらそんなにきれいな声が出るんです。」    
「きれいな声だって、どうもありがとう。でもね、見てごらんなさい、美しいのは声だけではありませんか。私はね、他の鳥のように美しくないでしょう。だから、私はみんなに見られないように物影で歌っているだけなんですよ。それに、私はね、神様はどんなものにも一つはいいものを与えて下さっていて、それが私の場合には、この声だと思っているんです。だから精一杯歌っているだけなんですよ。」
「いえいえ、ウグイスさん、あなたは他の鳥と比べたって美しくないなんてことはありませんよ。だって、あなたの声だって、姿だってあなた自身のものではないですか。」          
「どうもありがとう。でもね、難しいことは解らないけど、あなたはいい人ですね。私が神様にお願いしてあげましょう。早く悲しみが消えるようにね。では、さようなら。」 そう言ってウグイスはとび去ってしまった。             「なんて悲しそうな顔をしているんです。」                
今度は花たちが話し掛けてきた。「さっきから話は聞いていましたよ。そして、私達は、あなたに多くは語ってあげられないけど、一つだけ教えてあげましょう。 それはね、あなたもやっぱり美しいということです。気づいていないかもしれないけど、美しいものを持っているということです。どうか、これからも、ずっと、その美しいものを持ち続けて下さい。何が美しいかって。それは自分で見つけて下さい。 いつか、きっと解ると思いますよ。」         
青年は、急に寒くなって体を起こすと、空はもう暮れかかりカラスが群れをなして夕焼けの中を飛んでいた。    
それから何回となく季節がすぎ、青年も年をとり、老人となった。   
 そんなある日、老人は思い立って山に登ってみた。すべてはあの時と同じだった。花も、鳥も、雲も、そして、人間たちのささやかな営みも。老人はあの時と同じように、草の上に座りぼんやり眺めていた。そして、口の中で何かをつぶやいた。すると、老人の周りには、蝶や鳥が集まってきて、老人の肩にとまりはじめた。 いつしか時が流れてゆき、老人の姿は、幸福そうな石の像の姿になっていた。
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