さあ、今日はどんなことになるやら!
木曜日の午後三時はいつも心配とストレスが同居する
恒例となっている外国人の勉強の手伝いのボランティアの
高学年の部(小学3年以上)が行れるからだ
なかなかこちらが思うように勉強に取り組んでくれない
低学年も思い通りにならないが、我儘でもこちらはまだ可愛い
だが高学年は少しばかり難しい
それは人格とか個性とか、、そういったものが芽生えてきて
それが拒否反応を起こしているように見えたりするからだ
昨日の木曜日、いつもの三人組(男二人、女一人)は
何やら言い争いをしながら会場に入ってきた
机についてもなかなかその話を止めない
どうやら壊れた傘について誰が悪いとか言い争っている
このままでは勉強に入る状況ではない、そこでこんな提案をしてみた
「よし、今から裁判をやろう。こちらにNくんが座って、向かい合ってGくんが座って
Aちゃんはぼくと一緒に二人の話を聞いて、どちらの言い分に分があるかを決めることにしよう」
この提案に二人は即座に賛成し、机を対面するように移動させて座った
裁判官役のAちゃんの席も自分の隣に椅子を持ってきた
「まずは被害を受けたNくんから、いつどういうことがあったかを説明して!
そのあとその話を聞いたGくんが反対の意見を言うようにする
このように交互に話しをするんだよ
ちょっと、その前に言っておくけど、話すときに態度が悪いと
僕たちの心象が悪くなるので気をつけなよ!」
この心象が悪くなると一言は思いの外効果があって、彼らは感情に任せて
喧嘩腰の話はしなくなった
「証拠ってなに?」
訴えられたGくんが聞いた
「例えばナイフで人を刺した時、血のついたナイフとかそういうもの」
「それなら写真や動画もそうだよね」
さて証拠は提出されるか、、、
事件はNくんの弟の傘を別のRくんに渡したところ、Gくんが何らかの理由で
振り回して壊してしまった
その損害を弁償せよ、そして謝れ、、というものだった
最初に原告側のNくんが事件のあらましを説明し、Gくんが悪いと訴える
Gくんは反論する
「傘を振り回したのは認めるけど、そうなったのはRくんが自分に対して
変なことを言ったせいだ。そんなことがなかったら振り回すことなんて無かった」
すると、Gくんが話し終わる前に、言い始める(心象が悪くなるから気をつけてと言ったのだが)
「だったらRくんに仕返しをすれば良いじゃないか、どうして弟の傘を壊すんだ」
少し立場がまずくなったGくんが話を変える「傘の穴はいくつあった?」
Nくんは「ひとつだよ」
Gくんは「そうだよね」
「Gくん、その質問の意図がわかりにくいけど」
「もし僕が振り回して壊したのなら穴は2つあいてるはず、
穴は僕が見た時ひとつ開いていて僕がやったせいじゃない」
しばらくして証人を呼ぶことにした
最初にNくん側の証人として彼の弟のLくんが向かい合う机の間に立った
「これから言うことは本当のことを言わなくちゃいけないよ」
と釘を差したのち、Nくんが自分の立場を立証する証言を引き出そうとした
「あの時、Lくんはその現場を見たよね」
「ううん、見ていない」
「ほれ、RくんがGくんになにか言って怒らせた時」
「覚えていないな」
どうやらNくんの作戦は失敗したようだ
次の証人はGくんの妹さん
同じ様に「嘘を言ってはいけないよ」と言って始めた
ところがこちらが困った状況が発生した
Gくんが自分に都合の良い証言を聞き出そうとして妹さんに何やら
話しかけたがそれがポルトガル語で、こちらには何もわからない
そこで、隣の裁判役のAちゃんに「なんと言ってる?」と聞いてみた
するとどうもあまり関係のない話のようだった
と、こんな風に互いの意見を言い合うことが続いた
途中、子どもたちは可愛いな、、と思う瞬間があった
Gくん「傘はいくら位した?高かったら僕は払えないし、、」
どうも実感として自分の立場はまずいと感じているようだ
「さあ、意見を言い終わってこれでお仕舞いとなったら
今度はこちらが、どちらの言い分が正しいか決めなくちゃいけない
でも、ここからは相談だけど、はっきりどっちが勝ちと決めていい?
聞いていると、どっちもどっちというところもあるみたい
傘の穴は最初から開いていたかもしれないし、かれが開けたとする根拠もないみたい
でも振り回したのは認めてる
こういう時、白黒はっきり結論をつけずに仲直りするという方法があるけど
その方法は君たちが了解しないとできない」
「ところで、Aちゃんは今までの話でどう思う?」
「ううーん、困ったな。どっちもどっちみたい、どっちに決めるのは難しい」
「さて君たちはどうしたい、はっきり結論出したい?」
Nくんが言う
「傘は700円だけど、Gくんは200円くれれば良いことにする
その前に、(笑いながら)俺の脚にひざまずいてキスすればなかったことにしてあげる」
GくんもAちゃんも一気に緊張感は崩れて、笑う
「さあ、どうしようかな、白黒つけてもいいし、傷つかないようにしてもいいし」
「なんかスッキリしたい気持ちもある」の声
「よし、それじゃ決めようか。今回の裁判はNくんの言い分に分がある
そこでNくんが提案した200円をGくんが払う
それで全ておわり、その後は仲良くする」
「でも、この支払は強制じゃない、君たち二人の間での約束ごとにしよう
ふたりの金銭のやり取りを強制することはしたくないから、君たちに任せる、良いね」
「それで良い!」と二人の声
その後、笑いながらGくんは跪いてNくんの足先にキスをするふりをする
これにみんな大笑い
「どう、面白かった?」
A ちゃんに聞いてみる
「うん、でもN くんのBLの気があるのがおかしかった(足先のキスのこと?)」
結局宿題も何もしなかったが、昨日は子どもたちにも気分的に満足感を覚えたようだ
それに頭を使って疲れたとの声も聞かれた
子供たちは、知らず知らず、いい意味で妥協点を見つけようとしているように思えたこと
お互いに相手の事情をわかろうとしたこと
そうしたことが、実感として感じられて、こちらもいつもと違う充実感を感じた
今回少し分の悪かったGくんに
「今はNくんのほうが日本語能力があるけど、うさぎとかめの話にあるように
いつか追いつけばいいからね、それとね、能力はどういうわけが階段の様に
付いていくのではなくて、ある時急にグンと伸びる
でもそのグンと伸びるためには少しづつでも努力していかないとだめだよ」
最近、真面目な話にも聞く耳を持っているGくんは納得の様子で聞いている
この手間のかかる三人とも3月の卒業までの付き合いとなった
ストレスは溜まるけれど、いなくなると少し寂しくなるような気も、、、