漁師の二人が4時過ぎに来てくれた。心配だったのは坊主頭が伸びてしまうことであったが、気になるほどではない。今日はフンドシでなく上半身だけだが、それにしたってどこで撮影しても良い、ということでもないので、マンションの屋上に来てもらった。前回、全身が入ったカットが多かったが、彼等の顔が気に入ったので、もっとアップで撮ろうと考えた。もう何を撮るかは決まっている。大魚イシナギを丸太にぶら下げて運ぶ横からのカットと、今俺達が遭遇したのは河童か?と話し合っているところである。そのカットは向かい合ってやってもらえば、自分達は寒い中裸で、屋上で何をやらされている、と笑ってしまうだろうから、一人ずつやってもらった。 プロであったなら、それこそ「畜生。今ごろは風説(うわさ)にも聞かねえが、こんな処さ出おるかなあ。」とかなんとか言いながら演じてくれるだろうが、こちらはドが付くシロウトである。そこで今回多用した方法を取った。一応シチュエーションを説明した後、眉間あたりの演技をしてもらい、“ア、イ、ウ、エ、オ”といってもらって撮影。途中、笑わないよういったが、良く見ると笑っていない。図体のやたらと大きい二人だが、人柄が出ていて、目元にケンがないというか優しく穏やかな雰囲気がある。なるほど、私が彼らに決めたのはこれか、とファインダーを覗きながら思ったのであった。 合計5分もかからなかったであろう。前回風邪をひいて延期になった彼は、まだいくらか鼻声であった。K本で一杯、と思ったが、彼らがバイクで来るといっていたのを忘れていた。別れた後すぐ制作開始。物語の導入部だが3カットのつもりが増えてしまった。しかしここでの若者が、後に登場する柳田國男演ずる灯ともしの翁の年寄り臭さや、河童の不健康さまで強調してくれれば良いと考えている。
過去の雑記
HOM