明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



昔、いつまでも粘る私はベテランのデザイナーによくいわれた「石塚君、プロはとっととやって遊びに行くもんだよ」。家で田村写真にプリント紙が届くのを待つ間、何年も前に制作した本郷の質屋からでてきた樋口一葉を見ていたら、雪の日に、顔にこれだけ影ができるわけない。そう思って陰っていた部分を明るくした。さらに女っぷりが上がった。考えてみたら、雪なんか降っていない秋の終わり頃撮影したのを思い出した。この時の雪を積もらせた方法を使って後に226の将校に扮した三島由紀夫を某ビルの玄関先を血の海にして横たわらせたのであった。少々調子に乗り過ぎ、全身の血液を残らず抜いても足りないくらいの出血量にしてしまった。映画「憂国」撮影時、三島はもっと血をもっと、とぶちまけさせたそうで、少なくとも三島へのオマージュであった『男の死』は三島にウケることしか考えずに作ったものであるから、それで良かった。 夕方届いたということで向かう。オーデイオなどはカートリッジや針が良くても肝腎のスピーカーが良くなくてはならないだろう。田村政実氏の調整により『樋口一葉』『乱歩と怪人二十面相』『銀座上空の二十面相(仮)』『汝の安航を祈る』『医科学校の前の軍医総監森林太郎(鴎外)』『円谷な女』すべて上出来。手漉き和紙による効果でいつも見ているモニター上とはまるで違う。違ってこそプリントする意味がある。私のナマな企みが、和紙の風合いにより押さえられ、たとえ航空自営隊の戦闘機に襲いかかられながら平然と髪繕いをしている百メートル以上ある女も、こう書いて受ける印象とは大分違う。田村写真のFさんに「趣味も意見も合わないグループ展の出品作みたいだよね」といったら「ううん、そうでもない」。



銀座青木画廊「ピクトリアリズム展Ⅲ』5月12日(土)〜5月25日(金)20日(日休)

2016年『深川の人形作家 石塚公昭の世界』 youtubeより

『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載7回「“画狂老人葛飾北斎”」

HP

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