
ようでけた映画のような話だが、これが実話だというのだから、人生はおもし
ろい。人の巡り合い、出会いは捨てたものではない。舞台は奈良。関西的なネ
タと笑い、涙が散りばめられている。
西畑保(笑福亭鶴瓶)は、65歳になるまで文字の読み書きができずに生きてき
た。そのそばには、妻の皎子(きょうこ・原田知世)が寄り添っていた。
定年を迎えた帰り道、保は夜間中学校入学の手続きをして帰宅する。娘夫婦も
集まったその場所で、保は入学手続きが済んだ用紙を皎子に見せる。保は、ク
リスマスに皎子へラブレターが書けるようにすると宣言する。
保は貧しい家に生まれ、ほとんど小学校にも通うことが出来なかった。そのた
め、生きづらさを抱えていきてきたが、思いやりのある寿司店の店主(笹野高
史)と出会い、人生に救われた。そこで皎子と運命的に出会い、結婚。だが、
幸せを手放したくないがゆえに、読み書きができないことを言い出せずにい
た。半年後、ついにひた隠しにしていた秘密が露見し、別れを切り出す。だ
が、皎子はこう告げる「今日から私があなたの手になる」と。
どんな時も寄り添っていてくれた皎子へ感謝のラブレターを書きたい。担任の
谷山恵(安田顕)先生もじっくりと、ゆっくり教えてくれる。年齢、国籍も異
なる同級生とともに学ぶ保だったが、学び方も身についておらず、老齢の保は
もの覚えも悪かった。気づけば5年以上の月日が経過したころ、一字また一字
と書いては消すひたむきな保と、それを見守る皎子は結婚35年目を迎えてい
た。
そして、ラブレターの形がようやく見え始めたころ、皎子に異変が起こる。
若いころの保は重岡大毅、皎子を上白石萌音が演じる。
添付した写真は、去年の大阪公演での上白石萌音のラストメッセージ。
「ありがとうさん」
この言葉が、映画と関連している。大切なメッセージの前振り。上白石萌音
は、朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」でそうであったように、昭
和の時代が合う。半纏姿と縁側がしっくりくるのが、この人の強みだろう。原
田知世とともに、関西ことばのイントネーションに違和感はない。二人とも歌
手をしている分、耳からの聞き取りがいいのかもしれない。関西人でも気にせ
ず鑑賞できるのが有難い。笑福亭鶴瓶は演技も笑福亭鶴瓶なのだが、何といっ
ても「間」がいい。
台詞と台詞の行間。そこは流石に、落語家としての真骨頂なのだと思う。ラス
トは笑福亭鶴瓶が演じる西畑保さんによる卒業式でのあいさつ(ひとつネタば
らし😓 )。ここはその「間」が生きたワンシーンだ。普通に、独演会で使えそ
う。
出演は他に、徳永えり、ぎい子、辻本祐樹、本多力。また、皎子の姉を江口の
りこが演じている。また、夫婦の隣の家に変わらずに住み、若い頃から老年の
主婦をすべて演じるのは、くわばたりえである。重岡大毅と笑福亭鶴瓶の保が
似て見えるから不思議である。この二人と、皎子役の二人のシンクロした演技
がお見事👏
エンドロール前の、保と皎子の名前の入り方がええのよ😉
監督は塚本連平が務めた。秦基博の主題歌とともにご覧のほどを。