この映画の予告編を観たとき、あるTBSドラマでの工場が浮かんでいたのだ
が。当たり前だが、別物だった。
世界で17万人の命を救ったIABPバルーンカテーテルの誕生にまつわる実話を
もとに描いたヒューマンドラマ。脚本は『糸』の林民夫、監督は『君の膵臓を
食べたい』の月川翔が務めている。
1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美
穂)の娘である佳美(福本莉子)は生まれつきの心臓疾患を抱えており、幼い
ころに余命10年を宣告されてしまう。どこの医療機関でも治すことはできない
現実を突きつけられた宣政は、娘のために自ら人工心臓を作ることを決める。
知識も経験もない医療器具の開発。それは限りなく不可能に近かったが、宣政
と陽子は勉強に励む。有識者には頭を下げ、資金繰りにも奔走しなければなら
なかったが、佳美の命のリミットが迫っていた。
佳美の姉・奈美は川栄李奈、妹の寿美は新井美羽が演じる。病院関係者には、
光石研、徳永えり、松村北斗、満島真之介。他には戸田菜穂、上杉柊平など。
なお、物語の始まりは夫婦が黄綬褒章の授賞式インタビューから。インタビュ
アーは記者役の有村架純。ラストに、そのシーンに戻るのだが、これには理由
がある。
モデルとなった人たちのものすごいエネルギー。娘のために、妹のために、姉
のために。今は、医療ドラマの中の台詞でもカテーテル手術という言葉が出て
くる。この手術ができるのは、開発する人たちの情熱があったから。そして、
病院内部が縦社会だからこそ、その力関係に押しつぶされていくことがあるこ
とも、理不尽だ。腹立つ~と思う場面があるのは、悔しいが現実なのだろう。
つくづく、自分の立場より目の前の命を優先してくれることを願う。
大泉洋を中心に家族役のキャストは熱演。大泉洋と菅野美穂は幅広い年代を演
じているのはお見事。また、大泉洋の大ファンであることを公言している松村
北斗もナイスアシストしているのでチェック。松村北斗はアクがない演技がで
きるので、この映画でも力みなく感じる。
当方は鑑賞中、ある記憶が蘇っていた。うちの家の斜め向かいに昔、「心臓が
悪くてもう何度も手術してるみたいやねん」と母が話していたまだ小学生だっ
た女の子。明日は入院だという日、おかあさんが銭湯に連れていけないので
(まだみんなに家風呂がなかったそういう時代)、うちでその子がお風呂に入
ることになった。「手術のあとがあるで、びっくりせんといてな」と言われた
と思うが、子どもの入浴の仕方もわからず…長屋の狭い風呂場だし…傷に触れ
ないようにこわごわで、頭にお湯をかけて頭を洗ったり、背中をこすったりし
たと思う。とても本人に気をつかわせてしまったはずだ。そしてその後、当方
はその子の姿を見ることはなかった、と思う。しばらくしてお葬式があったか
ら。普段からほとんど会うことはなかったけれど、とてもしっかりしたいい子
の印象のままという記憶で。
たぶん、この映画と変わらない時代なはずだと、そのことで頭の中が目まぐる
しかった。おそらく、まだ心臓が悪いと助からない、そういう認識があった時
代だと思う。カテーテルが外国製で日本人の体に合うはずがなかった。人口心
臓が必要だったのかもしれないけれども。そしてまだ、完全な人工心臓は完成
していないという。