ミャンマー/独裁権力維持のための独裁

2007-09-30 06:08:20 | Weblog

 自由と人権と生活の保障に国境なし
 
 9月28日の朝日朝刊の見出し、≪物価急騰で困窮 ガス輸出益 特権層に≫が今回のミャンマーの僧侶たちによる反政府デモの原因と国家のありようを最もよく言い表している。記事の内容を箇条書きにしてみる。

デモの直接の引き金は8月15日の燃料価格の引き上げ。それがバス運賃に
 跳ね返って2~4倍も上昇した。
ミャンマーの平均月収は3万チャット程度だが、通勤のバス代が月4千チ
 ャットにまで占めるに至っている。
燃料価格の引き上げは政府による補助金の削減によるものだが、それが食
 料品価格にまで波及して、生活を直撃している。
多くの非効率な国営企業の赤字経営と「治安維持などのための」(と解説
 しているが、実態は独裁権力維持のためのだろう)軍事支出が政府の財政
 赤字の原因となっていて、燃料価格への補助金をカットせざるを得なかっ
 た。
首都移転に伴う莫大な経費と移転首都を機能させるための忠実な要員をつ
 くり出すために公務員の給与を6~12・5倍程度に引き上げたことによる
 国家財政の逼迫。

 (移転首都を滞りなく機能させることが即軍政維持につながる最重要事項なのは言うまでもない。)

96年からの米国及び欧州諸国の経済制裁、さらに03年の米国のミャ
 ンマー制裁法の制定がミャンマーの経済に打撃を与えたが、中国の需要増
 を背景とした 最近の天然資源価格の上昇が天然ガスを算出するミャンマ
 ーに米欧の経済制裁に よる経済的打撃を上回る恩恵をもたらし、06年度
 の輸出額は43億ドルと、90年の 10倍以上に膨らみ、一時は2億ドル程度
 に低下した外貨準備高を06年度には12億 ドルまで伸ばしている。
但し、潤沢となった国家の富が一般国民に公平に分配されることな
 く、軍政を担う軍人や一部の政商といった特権階級の懐に滞り、以前から
 の豊かな者がますます豊かになる構図を加速させるにとどまった。(見出
 しの≪ガス輸出益 特権層に≫がこれに当たる。)

 記事は<昨年11月には、最高実力者のタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長の身内による豪華な結婚式の様子が明かになり、不評を買った。
 同国では、一部の特権階級が利益を得る仕組みが以前からあった。例えば、通貨の公定為替レートと実勢レートには大きな開きがあり、公定レートにアクセスできる一部の政府関係者が、より少ない現地通貨でドルを手に入れることができる。
 ガソリンも原則として割当制で、一部の高級官僚や軍人には多く割り当てられ、それを闇市場に流すことで利益を上げてきたとされる。>と伝えている。

 最高実力者のタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長の娘の超豪華な結婚式のビデオが1カ月後に世間に流出し、如何に権力上層部が豪華な生活を送っているか、一般市民の知れるところとなったとテレビが報じていた。

 通貨の公定為替レートと実勢レートの差を利用して<より少ない現地通貨でドルを手に入れ>た<一部政府関係者>は多分それを実勢レートで現地通貨と交換するだけで、その差額を簡単に懐できる仕組みを利用していることだろうし、割り当てられたガソリンを闇市場に流して、その儲けを手に入れるといった地位に伴うあらゆる役得を利用した権力上層部の無数の小さな流れがやがて大河をなすような富の一極集中が国家財政の逼迫、補助金のカット、燃料費の高騰、諸物価への波及という流れをつくって国民生活の困窮を誘発しているということだろう

 こうして見てくると、アメリカ・欧米諸国が経済制裁を科さなくても、その結果経済が順調に成長し、なお且つ近年の天然資源高騰で国がなおのこと豊かになったとしても、一旦味を占めた権力上層部の富の独占は簡単には手離すはずはなく、手離さないための唯一の絶対条件は軍事独裁権力の絶対維持であり、そのためにその富の一部を最大限利用する必要上(軍人給与や軍事予算への厚い手当て等々)、富の独占は続き、その当然の反動として国民に対する不公平な富の分配を従来どおりに付随事項とすることとなり、どう転んだとしても民主化に向かう要素は見い出し不可能となる。

 このことは国民の飢餓・餓死に無頓着なキム・ジョンイル独裁の北朝鮮の国民支配の構造を見れば簡単に理解できることであり、サダム・フセインが独裁支配していた当時のイラクを見れば容易に類推可能となる。

 サダム・フセインはかつて米国がイラクへの医薬品供給を止めた結果、どんなに多くの子供が死んだか知っているのかと、国連の経済制裁にさらされたイラクの窮状を訴えた。しかしサダム・フセインは治療薬に恵まれずに死んでいく「多くの子供」に金持ちにふさわしいモノを与えるイスラムの教えを政治権力者にふさわしくなく裏切って、大量の金塊・大枚のドル紙幣を隠し持ち、金や大理石を惜しげもなく使った豪勢な宮殿をいくつも所有する国家の富の独占・国家の富の私物化を図っていた。

 また、9月27日「朝日」朝刊ミャンマー関連記事中の『キーワード ミャンマーと民主化運動』は、一方で国内の民主化運動に弾圧を加えながら、<その一方で、軍政は7段階の「民政移管計画」を表明。第1段階とされる新憲法の基本方針を決める国民会議(93年発足)が、9月に14年がかりで終了した。しかし、軍の権力維持のための内容がちりばめられているうえ、今後の日程も明らかにされていない。>と解説し、軍事政権の意志がどこにあるかを間接的に物語っている。<14年>という年月は「民政移管計画」が形式に過ぎず、長引かすための<14年>だったと言うことだろう。

 このように独裁は国家の富の独占・国家の富の私物化と表裏一体の姿を取り、権力者たちは富の独占・富の私物化のために独裁を死守する意志を働かす。とすると、町村長官のミャンマー制裁を求める欧米の声に対して「今後議論するテーマだが、結果としてミャンマーが中国にだけ傾斜していく姿がいいのかも考えなければならない」(9月27日朝日新聞夕刊≪対ミャンマー 安保理議長が「懸念」≫)という言い分も、「いたずらに欧米の国と一緒になってたたきまわるのがいい外交なのか、という感じが前からしていた」(9月27日朝日新聞朝刊≪ミャンマーデモ 軍政包囲網じわり≫)なる言い分も、「ミャンマーが中国にだけ傾斜して」現在ミャンマー最大の支援国に鎮座していたとしても、中国が共産党一党独裁国家であることの親近性からある意味当然と言えるから、日本がこれまで対ミャンマー最大援助国であったことと、その膨大な対ミャンマー援助が民主化に些かも効果がなかったこととを照らし合わせて考えると、日本の外交姿勢を正当化する内容とまでなっていない。

 2000年から小渕政権下で始まり、その後森喜朗政権が受け継いだ「教育改革国民会議」を文部大臣として主宰したのが町村信孝である。しかし何ら成果を挙げることができなかったし、なぜ無成果だったのかの検証も行わず、だからこそ安倍「教育再生会議」へと包装紙を取っ替えただけで中身の殆ど変わらない新装開店を遂げたのだが、町村信孝はそのような無能・無責任を裏に隠した澄まし顔で日本外交の無策を帳消しにすべく中国や欧米の対ミャンマー外交に責任を転嫁して何ら恥じない鉄面皮を曝している。

 アメリカはミャンマーに新たな制裁を科し、非難を強めているが、中国・ロシアが今年1月の国連安保理でのミャンマー非難決議案に「内政不干渉」を理由に拒否権を発動し、そのような中ロの「内政不干渉」政策が欧米の制裁の効力を奪っている。しかし<同じく中国と関係の深いスーダンのダルフール問題のように、08年の北京オリンピックと絡めて人権批判を浴びることは避けたい>(07.9.27『朝日』朝刊≪ミャンマーデモ 軍政包囲網じわり≫)意向から、<最近は国際社会からの視線を意識して、ミャンマーに民主化を促す姿勢も見せ始めている>(同記事)ということだが、同時にミャンマーが民主化されて親米政権が成立することを恐れてもいるということだから、程々に民主化を求める姿勢に終わる公算が高い。ミャンマーにしてもゴマカシの民主化で中国の要求に応えて国際社会を宥めるといった手を使うに違いない。何らかの形の政変が起きない限り、至高最大の甘い蜜と化している権力と富を手離そうとしないだろうからだ。政変の予防は国民に対する締め付けしか手はない。締め付けが非難されたら見せ掛けの民主化でその場を凌ぎ、国民が見せかけの民主化に乗って反政府の態度を見せたなら、再び締め付けるという機に臨み変に応じる場面転換を既定路線とするに違いない。これまでも演じてきた似たり寄ったりといったところだろう。

 中国やロシアの「内政不干渉」主張に対抗するには単に経済制裁を手段に民主化を求める姿勢だけではなく、「内政不干渉」主張を打ち破る対抗理論を構築する必要があるのではないだろうか。

 国籍・人種に関係なく、すべての国民・全世界のすべての人間は十全に生き、十全に活動する権利を有する。十全な生命・十全な活動は自由と人権と生活の保障によって可能となる。このことは自由と人権と生活を十二分に保障していない北朝鮮やミャンマーの国民の姿が証明し、かつてのサダム・フセイン独裁下のイラク国民の姿が証明している。

 十全に生き、十全に活動する権利が国籍・人種に関係なくすべての国民・全世界のすべての人間に等しく保障されるべきものであるなら、自由と人権と生活の保障は国境を超えて賦与されるべき権利としなければならない。そうである以上、自由と人権と生活の問題に関して「内政不干渉」の立場を取ることは「十全に生き、十全に活動する権利が国籍・人種に関係なくすべての国民・全世界のすべての人間に等しく保障されるべきものである」とする理想を否定する態度となる。

 いわば自由と人権と生活の保障に国境を設けてはならないとしなければならないわけで、国境を設けないことによって自由と人権と生活の保障の問題に関しては「内政干渉だ」とする非難はその有効性を失い、「内政不干渉」政策で以って傍観的態度を取ることも、その正当性を失う。

 こういった理論を確立させて世界的合意とする運動を起こし、中国・ロシアに認知させる。そういう方向を取るべきではないだろか。

 もし中国が内政干渉に当たるとして軍政当局の人権抑圧に鈍感でいられるとしたら、1989年に中国当局が天安門事件で見せた人権感覚から何ら進歩していない不感症状態にあるとの批判をぶっつけ、もし中国が<スーダンのダルフール問題のように、08年の北京オリンピックと絡めて人権批判を浴びることは避けたい>としているなら、ミャンマーの民主化に対する態度次第では、国際オリンピック連盟に対して北京での開催を中止するよう圧力をかけるべきだろう。

 オリンピック精神は自由及び人権と深く関わっているはずである。安定した生活も保障されなければならない。そうである以上、自由と人権と生活が保障されていない国の人間が打ち立てた如何なる好成績も、それが世界記録であっても、独裁権力の特別な保護のもとに可能となった記録だろうから、その価値は独裁政治同様に認めることはできないだろう。当然自由と人権と生活の保障に不感症な国家にオリンピック開催の資格はないことになる。
* * * * * * * *
 参考に『朝日』の記事を引用し。

ミャンマー経済失政 不満爆発 
     物価急騰で困窮 ガス輸出益 特権層に
(07.9.28『朝日』朝刊)

 【バンコク=高野弦】ミャンマー(ビルマ)の軍事政権に対するデモは27日も続き、新たに死傷者を出した。僧侶と市民が連帯して立ち上がった背景には、政治的な自由を求める声とは別に、軍政が失敗した経済運営に対する生活者として鬱積した強い不満があったとされる。天然ガスなど豊富な資源を抱えながらも、急激な物価上昇により人々の生活は困窮化。今回の値上げを機に一気に爆発したと見られる。
 デモの直接の引き金になったのは、8月15日の燃料価格の引き上げ。バスの運賃だけでも2~4倍に上昇。現地の日本人駐在員は「ミャンマーの平均月収は3万チャット(実勢レートで1米ドル=約1350チャット)程度なのに、通勤のバス代が月4千チャットまで跳ね上がった」と過度な負担増を指摘する。
 価格上昇は食品などにも及び、主食のコメは5%程度、ジャガイモやトマトなどは60%程度値上がりしたという。市民の困窮で、托鉢で暮らす僧が同情し、互いの連帯を強めたとの見方もある。
 燃料価格の引き上げは、政府による補助金の削減によるものだ。
 非効率な国営企業がなお多くを占めるミャンマーでは赤字企業が多く、税収が上がりにくい構造になっている。日本のアジア経済研究所によると、国内総生産(GDP)費で毎年5%程度の財政赤字を出し、中でも石油公社の赤字は全公社の赤字の14%程度を占めるという。
 また治安維持などのため、軍事支出が増える傾向にあり、予算に占める軍事費の割合は3割程度を占め、教育費の倍以上にのぼる。
 ミャンマーの消息筋は「原油価格が世界的に上昇する中で、財政負担が増え、補助金をカットせざるを得なかったのではないか」と見る。
 04年に9%程度だったインフレ率は05~06年にかけて20%~30%程度にのぼった。昨年4月、首都をヤンゴンから300キロ以上離れたネピドーに移したのに合わせ、公務員の給与を6~12・5倍程度に引き上げた。移転に関わる支出は財源を圧迫し、債券の発行のみならず、紙幣の印刷でまかない、インフレを加速させたのと指摘もある。
 03年に加速した米国による経済政策も打撃となった。米国への輸出のほか、国内への投資も滞り、経済は先細りする一方。停電は日常茶飯事の出来事になっている。
 尤も、中国の需要増を背景とした最近の天然資源価格の上昇は、天然ガスを算出するミャンマーにも恩恵をもたらしている。06年度の輸出額は43億ドルと、90年の10倍以上に膨らみ、一時は2億ドル程度に低下した外貨準備高は06年度には12億ドルまで膨らんだ。
 ただこうして得られた富の分配の仕方にも問題があったようだ。同国の事情を知る経済界の関係者は「一部の政商と軍人の手にとどまり、豊かなものがますます豊かになった。それを目の当たりにしたことも、市民の不満が爆発した背景にあるのだろう」と話す。
 昨年11月には、最高実力者のタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長の身内による豪華な結婚式の様子が明らかになり、不評を買った。
 同国では、一部の特権階級が利益を得る仕組みが以前からあった。例えば、通貨の公定為替レートと実勢レートには大きな開きがあり、公定レートにアクセスできる一部の政府関係者が、より少ない現地通貨でドルを手に入れることができる。
 ガソリンも原則として割当制で、一部の高級官僚や軍人には多く割り当てられ、それを闇市場に流すことで利益を上げてきたとされる。
 燃料価格に対する今回の補助金の削減を「補助金が反映された割当価格と、闇価格の差をなくし、透明性を高めるための改革の一環」(関係者)と見る向きもあるが、国民に対する説明が一切なく、却って混乱を招く要因になった。

 キーワード ミャンマー
 インドシナ半島西部、タイの西隣に位置し、人口約5300万人。面積約68万平方キロ(日本の約1・8倍)。英領インドに編入。日本軍による侵攻を経て1948年、英国との交渉で完全独立。
 89年、英国人の発音から、現地の発音に沿った形で国名をビルマからミャンマーに、当時の首都ラングーンの名称をヤンゴンにそれぞれ変更した。首都はネピドーに移転した。
 * * * * * * * *
時時刻刻 ミャンマーを注視 (07.9.28『朝日』朝刊)

 緊迫の度を増すミャンマー情勢を国際社会が注視し、動き始めた。親米政権の成立を警戒しつつ、圧力を強める国際世論を無視できなくなってきた軍事政権最大の後ろ盾の中国。「人権」を武器に一気の民主化も視野に入れる米国。一方で、過去に対ミャンマー非難決議案を否決している国連安全保障理事会では、情勢次第で新決議沙汰国動く可能性も出てきた。
  (北京=板尻信義、ワシントン=野島剛、ニューヨーク=松下佳世)

 五輪を控え板ばさみ 中国

 「中国はミャンマーの各方面に対し、自制を保持し、いま起きている問題に適切に処理することを希望している」
 中国外務省の姜瑜副報道局長は27日の定例会見で、これまでより一歩踏み込んだ表現で軍事政権などに自制を求めた。
 その一方で、海外メディアによる中国批判の報道は「中国に対する辱めだ」と反発し、国際社会の厳しい視線に神経を尖らせていることをうかがわせた。
 ミャンマー軍事政権にとって、隣国で最大の支援国でもある中国は「後ろ盾」といえる存在だ。それだけに、中国が影響力を行使することへの期待も大きい。しかし、東で国境を接する北朝鮮と同様、西で国境を接するミャンマーは中国にとってインド洋への窓口でもあり、安全保障上の重要な友好国だ。
 ミャンマーとは中国石油天然ガス集団公司(CNPC)が今年、天然ガス田のガス購入権や中国に向けたガスと石油のパイプラインの建設などで合意した。これらが完成すれば、マラッカ海峡を通らない中東への輸送路を中国は確保できる。
 ミャンマーへの武器供給や軍事技術の支援も中国は積極的とされ、人民解放軍とミャンマー軍事政権の関係の深さは「中国共産党と朝鮮労働党の間柄に似ている」との指摘もある。
 ミャンマー情勢の混迷化で中国が最も懸念しているのは「第2のダルフール化」だ。史上最悪の人道危機といわれたスーダンのダルフール問題では、政治・経済・軍事的につながりの深い中国が同国への同国への制裁に消極的だったことから批判の矛先を向けられ、「08年の北京五輪をボイコットすべきだ」との声も欧米諸国の一部では上がった。
 中国は今年1月米英がミャンマー軍政非難決議を提出した際、国連安保理で「内政不干渉」を理由に、8年ぶりの拒否権を行使してまで採択を阻止した。だが、今回、事態がさらに悪化した場合には、北朝鮮が核実験を強行した昨秋のように「制裁」に賛成するか、軍事政権を擁護して孤立化するかという二者択一を迫られる危険性もある。
 中国にとっては軍事政権が転覆し、ミャンマーに親米政権が誕生することは好ましくない。当面は制裁論議と距離を置きつつ、事態の沈静化と軍事政権の継続につながる「建設的な支援」(姜副報道局長)を国際社会に呼びかける構えだ。

 人権を重視圧力を強める 米国

 民主化や人権を重視し、軍政を「恐怖政治」と毛嫌いするブッシュ政権は、今回の事態で「我々の懸念が現実になった」(政府高官)と受け止め、軍政と近い中国やインドなど周辺諸国への圧力を強めている。
 米政府内には、88年の弾圧では沈黙を守った中国らも今回ばかりは一定の対応を取らざるを得ないとの見方がある。
 中国は来夏に北京五輪を控え、僧侶への弾圧光景が89年の天安門事件の記憶を呼び起こすことを嫌う、との読みだ。米印関係も88年当時と比べて大幅に改善し、東南アジアでも民主化が進むなど国境環境は変化した。
 「(ミャンマーの)隣人たち、特に中国やインドの役割は重いと思います」「中国は周軍たちに国を変えるチャンスだと呼びかけて欲しい」
 ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを敬愛するというローラ米大統領夫人は26日にラジオ出演し、中印の影響力行使を繰返し呼びかけた。米国には亡命者などミャンマー出身者も多く、大統領よりも高い好感度を持つ夫人の言葉は世論を動かす力を秘める。
 世論を利用する手法はダルフール問題で実証済みだ。スーダン政府と中国の密接な結びつきを批判する声がハリウッドから広がり、中国は国連平和維持軍を受け入れでスーダン政府の説得に回ったと言われる。米国は「軍政のキー・パートナーたち」(国務相のケーシー副報道官)と位置づける中国などへの説得工作を続け、包囲網を構築する戦略と見られる。

 新決議は現地報告次第 国連

 すでに独自の制裁を科している米国などは、今回の騒動を機に国連憲章代7章に基づく決議を採択し、制裁を国連の全加盟国に義務づけることを狙っている。そのためには、ミャンマー問題が国際的脅威であることを安保理が認定することが前提となる。.
 だが、26日に開かれた安保理の緊急会合でも隣国・中国は「地域の脅威ですらない」との考えを改めて示した。安保理の行動としては最も軽いとされてきた「報道声明」よりもさらに弱い非公式な声明にしか同意せず、「非難」を盛り込むことも許さなかった。
 だが、その中国にも、人道状況がさらに悪化すれば軍政を擁護しきれないという認識はある。
 中国の王光亜・国連大使はこの日、「ミャンマーの安定と国民的和解、民主化に向けた進展を望む」とも述べ、ミャンマーに緊急派遣されたガンバリ国連事務総長特別顧問に期待を示した。
 ガンバリ氏の帰国報告の内容次第では、中国は非難決議に同意するのではとの見方もある。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)のメンバーで、1月の決議案採択で棄権したインドネシアノナタレガワ国連大使も同日、軍政に「最大限の自制を求める」と発言し、ASEANとして問題解決に積極的に取り組む考えを示した。1月に拒否権を行使したロシアも、中国の対応次第では態度を変える可能性はある。

 日本

 福田首相は27日、記者団に「解決するには一体何をしたらいいか、外務省で一生懸命考えている最中だ」と述べた。町村官房長官も会見で「ミャンマー政府に強圧的に実力行使をしないように求めている」と語った。
 日本は89年に軍事政権を承認、援助してきた。03年にスー・チーさん拘束後、民政移管を求める形で新規援助を停止したが、05年度に約17億円の無償資金協力をするなど主要援助国の一つだ。
 「経済援助や投資を通じて静かに変化させるほうが近道」との立場で、制裁に傾く欧米と一線を画してきた。

 日本も自制促せ 英タイムズ紙社説

 【ボーンマス(英国)=大野博人】英国の有力紙タイムズは27日、「独裁性を白日の下に 中国、日本とASEANはビルマに自制を促せ」と題した社説を掲載し、「人々がさらなる弾圧から守るために」影響力を行使するべきだと訴えた。
 ミャンマー政府への影響力は、批判的な姿勢が明確な欧米より、近隣諸国や貿易相手国の方が大きいと指摘。日本については、中国と同様、エネルギー資源のためにミャンマーの「歓心を買おうとしてきた。歴史的におとなしく友好的に見えるこの国に温かい感情を抱いている」と述べ、そう感じるなら弾圧阻止に乗り出すべきだと主張している。

 ミャンマー軍事政権に対して
 中 国・・・・・・・・・経済・軍事などで支援
 ロシア・・・・・・・・・原子力分野で協力
 日 本・・・・・・・・・05年度に17億円余りの無償資金
             協力をするなど多額の援助
 東南アジア諸国連合・・・民主化促進を要求
   ASEAN
 米 国/欧州連合(EU)・人権抑圧非難

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