――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
天皇の国事行為の一つに閣議が処理した書類の決裁があるという。「msn産経」記事――《天皇陛下「夜のご執務」相次ぐ 書類が来ない…》(2010.2.4 01:14) によると、天皇は閣議処理の決裁の執務を原則として閣議開催日当日に行っていると説明している。
理由は公布を控えた政令などが含まれているからと書いているが、公布までの以後の手続きを考慮して生真面目な上に律儀に当日執務としているのかもしれない。このため宮内庁は通常閣議が行われる毎週火、金曜は、午後の早い時間から夕方まで、極力ほかの予定を入れないよう調整しているという。
ところが、「自民党政権では閣議前の事務次官会議で案件が調整され、閣議は午前中に短時間で終了するのが慣例だった。最近は時間が遅いので、われわれより陛下が大変で、影響を受けられている」とする政府関係者の憂慮を伝えている。
鳩山民主党内閣になって通常国会が開会した1月18日以降、朝の間首相や閣僚の国会答弁に備えた勉強の関係から閣議が午後から行われるケースが出てきたことと、内閣の意思を決定する閣議の時間が自民党閣議よりも時間が長くなっているために夕方終了といったこともあり、それに応じて他の執務やプライベートな時間との兼ね合いで天皇の決裁執務終了が9時前後になることもあり、天皇の健康に影響が出ないか、懸念されているという。
記事は遅くなった例として1月22日の午後5時過ぎに終了した閣議と1月26日の午後6時過ぎに終了した閣議、さらに2月2日の閣議と3回の閣議を挙げている。1月22日は天皇は夕方皇后と渋谷区で狂言を鑑賞する予定が入っていたため、鑑賞終了後に皇居にそのまま向かい、午後9時15分頃から執務入り、26日も夜間の執務となったと書いている。
2月2日は、体調不良を訴えて皇居御所で静養中だったが、午後9時ごろまで決裁のために時間を費やしたらしい。
自民党政権下の閣議短時間終了の慣習は閣議前日の事務次官会議で官僚のトップたちが閣僚の関与を必要とはせずに案件を処理・調整し、纏め上げてしまうために、いわば官僚主導で政策、その他を決定してしまうために翌日の閣議は名ばかりで、官僚が決めたことの追認機関に堕し、形骸化していたと言われていた。
それが民主党政権となって事務次官会議を廃止、政治主導の形式を採用したことから、時間延長を余儀なくされ、天皇の決裁執務にまで影響して負担をかけることとなった。そのため宮内庁は負担軽減策を検討、夜間執務常態化を懸念する声も出ているとする側近の発言を記事は伝えている。
「一時的であれば仕方がないが、常態化するようだとご負担になりかねない」
こういった宮内庁側からの憂慮に平野官房長官が発言している(《「陛下に負担ないよう対応したい」 夜のご執務問題で平野官房長官》「msn産経」/2010.2.4 13:05)
平野「天皇陛下の公務の時間がずれているということもあると思う。・・・。陛下の負担にならないように宮内庁と相談して対応したい」
平野官房長官らしいのか、素っ気ない発言で終わっている。
この素っ気なさは習近平中国国家副主席が次期国家主席と目されていることから、その評価を中国国内で高めるための中国側の政治利用とされた天皇との記者会見が日本側の中国に配慮した政治利用でもあったのではないかと批判が上がったとき、小沢民主党幹事長が「憲法の理念と考え方は、天皇陛下の行動は内閣の助言と承認によって行われなければならないという基本的考え方は、天皇陛下には、全くのプライベートっちゅうのはないに等しいわけですから、日本国の象徴、日本国民統合の象徴というお立場にあるわけだから、その意味では、ご自身に自由にあっち行ったりこっち行ったりっちゅうことはできないわけで、その天皇陛下の行動の責任を負うのは内閣なんです。国民の代表、国民が選んだ政府、内閣が責任を負うということなんですから、内閣が判断したことについて、天皇陛下がその意を受けて行動なさるということは、私は当然のことだと思いますし、天皇陛下にお伺いすれば、喜んで、私はやってくださるものと、そのように思っております」と規定した天皇使役の考え方からきていて、だからこその天皇の時間的都合を考えない「喜んでやってくださる」(に違いない)決裁執務ということになってしまっていたのだろうか。
「時事ドットコム」記事――《夕方閣議で陛下に負担=答弁準備優先-鳩山内閣》(2010/02/04-17:45)の閣議が午後開催されるようになったいきさつは次のようになっている。
〈自民党政権下では原則、定例閣議は毎週火曜と金曜に、国会開会中は午前9時から国会内で、閉会中は同10時から首相官邸でそれぞれ開催してきた。昨年9月に発足した鳩山内閣も基本的に踏襲してきたが、1月18日に通常国会が召集されて以降は、衆参両院の予算委員会などに臨む鳩山由紀夫首相や閣僚の答弁準備を優先。3回にわたり夕方に閣議を開催した。〉――
そして2月2日の午後5時半過ぎ終了閣議の後、天皇に回した決裁事項を、〈大使の信任2件と叙位2件〉だと書いている。当日の天皇は喉の痛みや腹痛を訴えて御所で静養中だったが、午後9時頃まで執務したという。
これがどのような国事行為に当たるのか、
第1章 天皇
第7条 国事行為
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
1 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
2 国会を召集すること。
3 衆議院を解散すること。
4 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
5 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証す
ること。
6 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
7 栄典を授与すること。
8 批准書及び法律の定めるところその他の外交文書を認証すること。
9 外国の大使及び公使を接受すること。
10 儀式を行ふこと。
大使の信任は5番の国事行為に、叙位は7番の国事行為に相当するが、いずれにして10の国事行為を、〈内閣の助言と承認により、国民のために〉行う。天皇は〈この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない〉と日本国憲法「第1章天皇 第4条 天皇の機能」に規定しているのだから、内閣の決定に異議を唱える権限も資格もなく、最初の「msn産経」記事にあるように政令の公布の決裁等を含めた他の国事行為と同様に内閣が既に決定、もしくは承認した事柄を単に後追い承認し、決裁するだけの行為を行うということに過ぎないのではないのか。
いわば大使の信任や叙位、政令の公布、その他の決裁事項はそれが内閣が決めた法律であっても、大使の信任や叙位の場合は相手がどんな人物だと話題とすることはあっても、各管轄省庁が既に文書、書類の類に纏め上げてある決定事項を改めて閣議で承認を取った上でそれをさらに天皇に回して、天皇の「決裁」という名の承認を得る手続きを経るということであろう。
こうして見てくると、天皇に向けた決裁手続きは一旦決定したことに対する形式の伝達に過ぎない。天皇の地位は国家元首ではなく、国と国民統合の象徴に過ぎない。「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」の規定ゆえに国事行為に関しても責任を有しない天皇に、単なる形式的決裁だから、責任の持ちようがないこともあるだろうが、形式の伝達を経て形式的決裁を求める二重の形式を必要としているが、天皇による価値づけ以外、何ら意味がない形式と言うことではないだろうか。
意味はないながらに形式を重んじる。叙位・叙勲の場合は県知事や総理大臣から授けられるよりも天皇に授けられた方が有り難や、有り難やの権威主義の蔓延(はびこ)りから形式ではあってもいたく光栄の至りということになるのだろう。
国事行為が天皇による形式的な価値づけであったとしても、たいした実益も生まない形式的な価値づけに形式一辺倒で囚われてそこから出ることができないでいると、習近平中国国家副主席の国家主席に向けたバトンタッチをスムーズに行う経歴の一つに天皇との記者会見を政治利用した中国の貪欲なまでの実益優先志向の政治にますます差をつけられることにならないだろうか。
午後遅い終了の閣議が天皇に負担をかけるということなら、天皇決裁執務を必要とする案件は閣議終了後に宮内庁に回すのではなく、閣議が午後開催されようと、一番に天皇決裁案件を処理して、閣議途中であっても直ちに宮内庁にまわすということをしたなら、天皇はかなり時間の余裕を持って決裁に当たることができるのではないだろうか。このことが天皇にとってはささやかな実利となるはずである。
形式の伝達に立った形式的な価値づけを必要としても、処理の方法一つで実利を生むことができる。