――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
北朝鮮が昨09年11月30日実施の通貨単位100分の1切り下げのデノミが逆に食糧不足の悪化や急激なインフレ等を招いて国内経済が混乱、餓死者させ出しているという情報があるとマスコミが伝えている。
混乱の一端は物価高騰と共に旧紙幣から新紙幣への交換限度額が最初は1人10万ウォンが15万ウォン、次いで30万ウォン、ついに50万ウォンに引き上げられたことに象徴的に現れている。
混乱が生じてから周章狼狽し、場当たり的に変更を余儀なくされる腰の据わらない政策だったことの暴露でしかない。デノミ政策担当者が更迭されたという情報もある。
デノミが元々脆弱な北朝鮮経済を一層弱体化させ、一般的な北朝鮮国民の生活を一層困窮化させたことは想像に難くない。だからこそ餓死者さえ出しているという情報が流されることになったのだろうが、2月1日、北朝鮮の将軍様こと金正日総書記が北朝鮮国民の生活苦難を思いやった情け深いメッセージを国民向けに賜ったと2月3日付「朝鮮日報」記事――《【萬物相】北朝鮮の住民に白米を食べさせるために》が書いている。
金正日「わが人民がいまだにトウモロコシを主食にしているということに、最も心が痛む。今わたしがすべきことは、人民に白いご飯を心ゆくまで味わわせることだ」
トウモロコシさえ口にできなかった餓死者の存在を無視したメッセージだが、自己存在証明上都合の悪い事実ゆえの無視なのだろう。
北朝鮮国民の飢餓・餓死、あるいは食糧難を横に置いて「白いご飯」ばかりか、高級ワイン、高級ブランデー、高級ステーキ、高級キャビア、その他フォアグラ、フカひれ、高級トロを使った日本の寿司等々を(もんじゃ焼きも入っているかな?)「心ゆくまで味わ」っているご本人が言うことだから、これ程信用の置けるメッセージは他にはなく、国の指導者の人民の生活の窮状に心痛めている心情が如実に伝わること請け合いである。
この情け深い国民思いのメッセージは故・金日成主席の遺訓のバリエーションだそうで、既に遺訓の形を借りて1月にメッセージ済みの2月になっての二番煎じだそうだ。
記事はこのことを次のように伝え、そのあとで金日成が1992年の新年の辞で実際に述べた言葉を再現している。
〈金総書記は先月にも、故・金日成(キム・イルソン)主席の「(人民に)白いご飯と肉のスープを食べさせ、絹の衣服を着せて、瓦屋根の家に住まわせる」という遺訓を守らなければならない、と述べたという。〉――
金日成主席「今年最も重要なことは、衣食住問題の解決に向け、農業や軽工業を発展させることだ。(人民に)白いご飯と肉のスープを食べさせ、絹の衣服を着せて、瓦屋根の家に住まわせるという念願を叶えなければならない」――
現実には誰もが知っているようにこのメッセージが描いた北朝鮮のユートピアは「人民」の手にするところとはならなかったどころか、記事は、〈その直後に数百万人が餓死する事態となった。〉と書いている。
この「餓死」について「Wikipedia」は次のように書いている。
1991年の〈ソビエト連邦(ソ連)崩壊によるソ連からの重油供給停止が引き金となり、1990年代半ばにかけて経済は混乱し破綻状態となった。同時に国内各地では食糧不足が深刻化し、各国の支援にもかかわらず、食料配給制度の崩壊などにより内陸の農村部を中心に餓死者が出る事態となった。それに伴い、多くの人々が食料を求めて中華人民共和国へと密入国し、脱北者問題が国際的に注目されるようになった。
1999年以降は、中韓両国の経済協力などによって、一時は破綻に瀕した経済は一応の安定をみた。もっとも、経済状況は、いまだ1970年代の水準で停滞を続けている。〉――
金日成と金正日のメッセージの違いは金日成が「白いご飯」と「肉のスープ」と「絹の衣服」と「瓦屋根の家」を欲張ってかどうか分からないが、約束したのに対して金正日が約束したものは「白いご飯」のみだということは誰の目にも明らかである。
父親の金日成があれもこれも約束して、あれもこれも実現できなかった過去の失敗を同じ失敗として繰返した場合の責任問題、あるいは権威の失墜による人心の離反を考えて、いわば具体性の点から金正日は控え目に「白いご飯」のみとしたのだろうか。
ではなぜ1992年の新年から2010年のこの2月まで、金日成・金正日父子世襲独裁政権が一部特権階級を除いて「白いご飯」の約束すら実現させることができなかったにも関わらず、金正日が父親が約束して失敗したことを例え一部でも再度取り上げて同じ繰返しに近いメッセージを必要としたのかと言うと、デノミ政策も却って経済と国民生活を混乱させ失敗、国家指導者として国民生活向上のこれといって有効な政策を打てない切羽詰った状態に立たされていることから、目標となる希望を与えることでそれを国民の腹の足しとする打つ手のない無策を代償させようとしたからに他ならないだろう。
腹の足しにもならない希望を腹の足しにしようとするパラドックスも見事である。
人間は生命と財産と基本的人権を保障されて初めて人間として肉体的にも精神的にも十全な生きものとして生き得る。生命と財産の保障の中には十分な食事と住まいと着る物の衣食住の保障が含まれるのは断るまでもない。逆説するなら、十分な衣食住の保障があって初めて生命と財産の保障だと言い得る。
当然、生活の困窮、さらに飢餓・餓死は生命と財産の保障の否定要件として立ちはだかる。
だが、北朝鮮に於ける国民の生命と財産と基本的人権の保障とは正反対の蹂躙は金日成・金正日父子世襲独裁政治によって起こされたもので、独裁政治こそが北朝鮮国民の生活の困窮、さらに飢餓・餓死の否定要件とし立ちはだかっている大本の元凶であろう。
独裁政治こそがそれらの元凶でありながら、独裁者である金正日が「トウモロコシ飯」から「白いご飯」を約束したということは見事なパラドックスとしか言いようがない。
このことを曲がりなりにも解決する方法は金日成・金正日父子世襲独裁政治の打破――金正日を独裁者の地位から引きずり降ろすことであり、引きずり降ろしたあと、他のどのような独裁者に取って代わらせないことによって基本的には北朝鮮国民の生命と財産と基本的人権の保障につながっていくことになる。
国家指導者の為すべきことは満足のいく衣食住の保障を含めた国民の生命と財産と基本的人権の保障を確立し、維持することであるにも関わらず、独裁者の存在自体がその保障を蹂躙する元凶であり、国家指導者としての資格を失うなら、国際社会は独裁者を排除する行動を一致して取るべきだが、北朝鮮に限ってはテーブルに就く交渉によって却って独裁者の地位にとどまることを許している。
さらには金正日が自身の独裁権力をその子ジョンウンに父子世襲すべく企み、北朝鮮国民の生命と財産と基本的人権の保障蹂躙の元凶である北朝鮮の独裁政治が維持されようとしていることに対しても手をこまねいている。
そういうことなら、国際社会が最低限すべきことは北朝鮮に対して、「国家予算を国民を満足に食べさせる方向に有効に支出せずにその多くを核開発、ミサイル開発等の軍備増強にまわし、尚且つ外国からの食料援助をムダにし、国民生活の困窮を放置状態に置いて、結果として国民の生命・財産と基本的人権を保障せずにいるのは国家指導者としての責任の放棄に当たり、国家指導者としての資格がない」とするメッセージを常に発して、国民生活向上への政策へ転換させるせめてもの圧力とすべきではないだろうか。
勿論簡単にはいかないことは分かる。だが、民主国家がこの手のメッセージを四六時中大合唱することによって、独裁体制下であっても国民を十分に食べさせること、基本的人権を保障することが国家指導者としての務めであり、その方向にに少しでも進む圧力とすべきではないだろうか。
北朝鮮に多くの飢えに苦しむ者、食物がなく空腹の苦痛を抱えて息絶えていく者がいるにも関わらず、何ら有効な政策を打てないでいる無能な独裁者の存在に何ら憤りを感じないと言うなら話は別である。