――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
自民党の鳩山邦夫元総務大臣が12日の午前中、多分与謝野馨元財務・金融担当相が衆議院予算委員会で鳩山邦夫から聞いた話として鳩山首相を追及したことから、確認する意味でマスコミ記者に求められて急遽用意した記者会見だと思われるが、「NHK」記事――《“母親が「兄は金が要る」”》(10年2月12日 17時6分 )の動画では10人程集まっていた記者の前に現れて、ビルの周囲が一段高くなっているのか、慣れた態度で一段上がる感じでその真ん中に進み、振返って悠然と記者たちに囲まれる形を取ってから、おもむろに口を開いた。
鳩山邦夫「多分、1年半前か2年前かと。この事務所で、(一語一語確かめるようなゆっくりとした口調で)全然別な用事で母と電話で話しているときに、お兄さんは、子分を養うために、おカネが大変要るということだと。で、あなたは、どうなのと。あなたは子分いないから、要らないわけ?
こう言われました。いや、あまり(フッと短い笑いを漏らして)、そういう子分というのはないんだなあって、何か寂しかったと。これが電話の遣り取りの事実です」
鳩山邦夫(鳩山首相の資金管理団体の収支報告書にうその記載があったことについて)「私も、あの、私の知り合いに、ええー、貰ったことにしてくれっていう電話が入ったというのは何件か聞いていますよ」(以上NHK動画から)
動画にはその場面は出ていなかったが、鳩山邦夫は一方で次のように述べたと記事は書いている。
「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」
「これが電話の遣り取りの事実」だとしても、いくら政敵だからといって戦国時代の敵味方に別れて殺すか殺されるかの戦いを強いられているわけではなく、兄弟であることに変わりはないはずだ。普通は黙って庇うはずの身内の話を記者会見の形で世間にバラすといったことをした。
兄弟の情も信頼関係も既に失われ、蹴落としてやりたい憎悪、もしくは敵意に支配されているようだ。鳩山首相辞任――ということにもなれば、内心ザマー見ろという感情を抱くに違いない。蹴落とす爆薬に化けない保証のない暴露だからだ。
例え兄の由紀夫が弟の邦夫を裏切る行為を仕出かした報復として抱いた蹴落としてやりたい感情で、正当性は我にありと思っていたとしても、「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」、実際のところは把握していない話を記者会見を開いて公の情報とする態度は人間の風上にも置けない
(【風上に置けない】「(風上に悪臭を発するものがあると、風下では非常に臭いことから)卑劣な人間を罵っていう語」(『大辞林』三省堂)
内閣支持率は下がっているのに自民党の支持率は上がらない。景気回復の足音が聞こえ始めて、それが民主党と鳩山内閣に有利に働きかねない状況にある。自民党の支持率が上がらないまま参院選は近づいている。自民党自体が焦って、何としても政治とカネの問題で民主党に一泡吹かせて、自民党に風を吹かしたい。
そのような魂胆に鳩山邦夫も一役買って出たのか。自民党の誰も彼もヤキが回っているとしか思えないが、鳩山邦夫が母親の電話の話を本人自らが「私と母の会話は事実。与謝野氏という親しい政治家にしゃべったのも事実。人の会話を首相といえども否定することはできない」(東奥日報)と認めているように与謝野馨に喋って、与謝野にもヤキが乗り移ったのか、12日の衆院予算委員会でその話を鳩山首相への追及材料とした。
衆院予算委員会での鳩山首相と与謝野の遣り取りを「時事ドットコム」記事――《衆院予算委の詳報》(2010/02/12-21:23)が伝えている。(参考引用)
【首相の偽装献金事件】
与謝野馨氏(自民=比例東京) この事件は実はあなたの犯罪だ。親分は助かるが子分は警察に出頭するというのは、やくざ映画のシーンにいっぱい出てくる。勝場啓二元秘書の罪はそんなに軽いものではない。
鳩山由紀夫首相 勝場元秘書の行った罪の重さは私も理解している。
与謝野氏 首相自身の(自らの資金管理団体への)寄付が政治資金規正法の量的制限をオーバーしたと認めるべきだ。
首相 私は寄付をするつもりなどまるでなかったし、貸し付けという形に当然なっていると考えていた。
与謝野氏 首相や元秘書らは口裏合わせを行った。証拠隠滅だ。
首相 私は少なくとも新聞報道以来、勝場元秘書と一切会っていない。口裏合わせのようなことは一切行っていない。
与謝野氏 西松建設をめぐる小沢一郎民主党幹事長に関する検察の捜査を、なぜ国策捜査と言ったのか。
首相 多少感情的な高ぶりの中であのような発言をしたが、その後反省をして、一切そのような文言は使っていない。従って、国策捜査だと現実に思ったわけではない。申し訳なかったと思っている。
与謝野氏 (首相の実弟の)鳩山邦夫自民党衆院議員がぼやいていた。「うちの兄貴はしょっちゅう、お母さんのところに行って、子分に配る金が必要だとお金をもらっていた」と。実際は母と政治資金の話をしているのではないか。
首相 全くの作り話だ。兄弟といっても信じられない話だ。母に対して金を無心し「子分に配るお金をくれ」なんて言うわけない。
与謝野氏 あなたの代わりに、民主党の現職議員が首相の仲間にお金を配ったという話を知っているか。
首相 (現職議員が)誰だか分からないし、配った事実はないので、全く知りません。
与謝野氏 日本の税制は自己申告制だ。平成に入ってからこんなに多額の脱税をした人はいない。首相は平成の脱税王だ。
首相 資金提供は検察によって事実が判明するまで全く知らなかった。贈与と理解して納税した。
大口善徳氏(公明=比例東海) 首相は国民に対し申し訳ないと思っているのか。
首相 知らなかったとはいえ、責任はないとしらじらしく言うつもりはない。「新しい政治をつくれ」と言ってくれる方々の期待に応えるとの思いの下で身を粉にして働いて使命を果たしたい。
与謝野発言の「親分は助かるが子分は警察に出頭する」云々の箇所は「TBS」記事――《与謝野氏、「首相は平成の脱税王」》では次のようになっている。
「あなたをかばうためにやったんですよ、勝場さん(元秘書)は。実は、あなたの犯罪なんですよ、ね?私、最近はヤクザ映画を見ますけどね、ヤクザ映画のシーンにいっぱい出てくるんですよ。親分は助かる、子分は警察に出頭する」
鳩山首相「与謝野議員から“ヤクザ”と同じように扱われるのはいささかとは思っておりますが・・・」――
与謝野なる政治家は政治的知性を自らの成り立ちの資質としているのではなく、そんなものはクスリにもせず、生き馬の目を抜く油断のならない政治世界にまでやくざ世界限定の大仰な義理だ人情だを持ち込み、人間関係の道具としているようだ。
政治的知性を自らが依って立つ存在証明とはせせず、義理人情を人間関係維持の道具とするということなら、カネが必要なのは鳩山首相よりも与謝野という政治家の方ということにならないだろうか。
「msn産経」記事――《【鳩山vs与謝野】(2)衆院予算委・菅氏「冷静な与謝野氏の言葉とは思えない」(12日午前)》(2010.2.12 13:31) に与謝野発言の次のような件(くだり)が出ている。
〈与謝野氏「去年は(西松献金事件に関し)国策捜査といい、今度は検察は正しくて自分は立件されなかったと。そういうご都合主義はダメだ。なぜ国策捜査と言ったのか」
首相「多少感情的な高ぶりで発言したが、反省してその後はそのような文言は一切使っていない。国策捜査と現実に思ったわけではない」
与謝野氏「言葉は一度口から出ると魂を得て世の中をさまようから言霊という。だから政治家は言っちゃあいけない。政治家失格だ。これからの発言もいつでも取り消せる。感情の高ぶりといういい加減なことを言ってはダメだ。一度言ったらダメだ。あなたは政治的な信念に断固たる信念持って発言しているのか」
首相「そのようにありたいし、特にこのような立場でそのように行動したい。(西松)事件が起きたときに青天の霹靂(へきれき)の状況で申し上げたことは申し訳なかった」〉――
与謝野馨の“やくざ子分イケニエ論”は弟の鳩山邦夫が母親から聞いたという「お兄さんは、子分を養うために」云々の連想から用いたのだとは思うが、鳩山邦夫の「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」不確実な事実を「うちの兄貴はしょっちゅう、お母さんのところに行って、子分に配る金が必要だとお金をもらっていた」と確実な事実に脚色する言葉の業師が、「言霊」を持ち出して、「言葉は一度口から出ると魂を得て世の中をさまよう」などと言い出すとは恐れ入る。
与謝野馨が12日の衆議院予算委員会で質問に立った時間は9時44分で52分間質問している。鳩山首相を追及する時点に至るまで鳩山邦夫の「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」を直接聞いていなかったということなら、不確実な事実であることを伏せて、さも確実な事実であるが如くに与謝野に話した鳩山邦夫の「言霊」を今度は問題としなければならない。
その「言霊」の程度を知る格好の出来事がある。
鳩山邦夫は福田政権下の法務大臣を務めていた2007年10月29日に日本外国特派員協会で講演したとき、入国外国人に指紋採取を義務づける改正出入国管理・難民認定法に関する質疑の中で例の有名になった「私の友人の友人がアルカイダ」発言をやらかしている。
鳩山法務大臣「私の女房は結婚する前は外国人登録証明書を持ち歩いていました。あのー・・・・、アメリカ、9・11以来ですね、えー、私共国会議員でも、アメリカへ行くと、パンツの中までは調べられませんけれども、靴の中は調べられますよね。それは本当に悲しいことだと思います」――
必要性の是非を以ってして論ずるべきを、政治家にあるまじく「悲しい」と感情で対応している。
鳩山邦夫「あのー、私の友人の(ゆっくりと一言一言噛みしめるように)・・・・友人が、アルカイダなんですねえ。私は会ったことはないんですけども、オー、2、3年前は、何度も、日本に来ていたようです。でー、毎日色んなパスポートで、色んな、あのー、(口のところに左手を持っていき)ヒゲで、あの、分からないらしいんですねえ。毎日、大勢の外国の方が見えるんで。
彼はバリ島の、あのー、中心部の爆破事件に絡んでおりましたけども、私は彼の友人の友人ですけども、オー、バリ島の中心部は爆破するから、近づかないようにというアドバイスは受けておりました。私は(自分の胸のところに右手を持っていって指差し、自分がと念を押すように言う)。
ですから、あの、そういう方が、え、しょっちゅう日本に平気で入ってこれるっていうのは、やはり、あの、アン、安全上、好ましくないので、これで一度指紋を取っていただくと(指紋照合の機械に両手の指をかざす具合のジェスチャーを見せて)、顔写真の方は変形した、変装があるでしょうけども、1回取っていただくと、これはあの、ピン(?)できますから、また、アメリカから他の、どこだっけか?(と会場右手の方に手を上げて指差して尋ねるが、芳しい返事が貰えなかったようで)、まあ、色んなお互いの、その情報でですね、エー、そういうテロリスト、あるいはその関連、の方々の入国をチェックする必要性は、残念ながら、今の日本では、まだあると思います」(YUO YUBE動画から)
要するに日本は危険人物の入国管理が未だ発展途上で、入国審査をより厳格にする必要性があると言いたかったのだろうが、回りくどいばかりの発言となっている。
よく見受けることだが、テロリストの類の危険人物を指して丁寧語に当たる「――方」をつける愚か者は日本の政治家ぐらいのものではないのか。凶悪犯罪を犯した犯人に対しても、「犯人の方」と言ったりする。
外国特派員協会の講演ということで得意然と話をしたのだろうが、ところが講演したその日にバリ島の爆破情報を事前に把握していながら、法務大臣という立場上適切な予防措置を取るべきを取らなかった怠慢が問題視されると、たちまち前言を訂正、謝罪している。
「予告を聞いたのは友人で、私がその友人から話を聞いたのは事件の3、4カ月後だった。・・・・舌足らずだったと反省している」(サンスポ/2007年10月30日)
「バリ島の中心部は爆破するから、近づかないようにというアドバイスは受けておりました」と事前に予告されていたことが、「私がその友人から話を聞いたのは事件の3、4カ月後だった」の事後のすり替えとなっている。事後であるなら、「近づかないようにというアドバイス」は必要ではなくなり、何のためのアドバイスだったのかということになるが、鳩山邦夫の「言葉は一度口から出ると魂を得て世の中をさまよう」という「言霊」はその程度に軽く、信用が置けないということなのだろう。
だが、鳩山邦夫なる政治家がこのような軽くて信用の置けない「言霊」の持主であることを与謝野馨も自民党幹部政治家として身近にいて知り得ていたはずである。
当然、鳩山邦夫から「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」を直接聞いていなかったとしても、鳩山首相に「言葉は一度口から出ると魂を得て世の中をさまようから言霊という。だから政治家は言っちゃあいけない」などと批判して説教を垂れる身分に自分を置いている以上、鳩山邦夫の「言霊」の程度を身近にいて知っているはずでもあるのだから、その「言霊」にしても疑って確かめてみる判断力を持っていなければ、他人の「言霊」を批判して説教を垂れる身分に自分を置いている資格を失うはずだ。
だが、見抜けずに鳩山邦夫の「母は、兄が『お金を無心してきた』とは言っておらず、母に対して兄が言ったのか、秘書が言ったのかは、知らない」不確実な事実を「うちの兄貴はしょっちゅう、お母さんのところに行って、子分に配る金が必要だとお金をもらっていた」と確実な事実とする「言霊」を以ってして鳩山首相を追及した。
自らが言う「言霊」に矛盾した「言霊」の発揮であろう。
ヤキばかりか、支持率が一向に上がらない自民党の焦りが与謝野馨にも取りついて、「言霊」を正確に把握する神通力まで失ってしまったようだ。やくざの義理人情に頼るだけのことはある。