――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
「asahi.com」記事――《民間人登用案2カ月近く放置 拉致問題対策本部》(2010年2月17日1時15分)はどういうことかというと、北朝鮮による拉致問題の情報収集強化を目的に政府の拉致問題対策本部に民間の専門家を登用する人事案が提出されたが、2カ月近く決裁されずに放置されたままだということが政府関係者の話で分かったという内容である。
何事も理由がある。中井洽拉致問題担当相の人事案に脱北者支援の活動家が含まれていて、政府内に中国政府の反発を懸念する声があるためだという。
中国政府の反撥を懸念するとは、中国政府の反撥に対して抱く恐れの感情であるはずである。
人事案は中井拉致問題担当相の指示を受けて対策本部事務局が作業。昨年12月中旬、「北朝鮮難民救援基金」の加藤博理事長ら3人を大臣直属の参与とする案を固めた。加藤氏は北朝鮮の難民支援に取り組んでおり、北朝鮮内の情勢に精通。事務局の情報室と連携し、情報収集を行う予定だった。
だが、例の平野博文官房長官が決裁を保留。加藤氏は2002年に中国で「北朝鮮住民の不法入国を助けた」として公安当局に一時身柄を拘束されており、政府内に中国側の反発への懸念が出たためだからという。
以上、殆んど100%近く記事の言葉どおりに解説。
加藤氏は2002年に中国に入り、北朝鮮住民の脱北を手助け、中国公安当局に身柄を一時拘束される程の行動力を併せ持っている。そういった人物の拉致に関わる情報収集は少なからざる利益をもたらすに違いない。
要するに中国政府の反撥を恐れて、北朝鮮事情通であるばかりか、行動力のある加藤氏の参与登用に待ったをかけた。さらに要するに北朝鮮事情通であるばかりか、行動力のある加藤氏を通して北朝鮮内部の情報収集活動を行い、拉致問題解決進展に役立てようという構想よりも中国政府の反撥を優先させた。
だからこその平野博文官房長官の決裁保留ということなのだろう。
それとも既に中国側がこの動きを前以て内偵していて、内々に懸念を伝えていたということなのだろうか。
そうでないとするなら、中国が反撥するかどうかも分からない動きに前以て懸念を示したことになる。あるいはあるかどうかも分からない中国政府の反撥を予め恭しくへりくだって忖度したことになる。
まさか小沢幹事長なら中国の無理を何でも聞いてくれるからと小沢幹事長を通して伝えた懸念に鳩山政府が応じて平野官房長官が決裁保留に出たということなのだろうか。
だとしたら、尚のこと大問題となる。
いずれにしても拉致問題解決進展に向けた利益よりも、中国公安当局に一時身柄拘束された人物の人事案への中国の反撥を回避して友好を選択する利益を現在のところ取っていることになる。
なかなかの日本の外交力ではないか。政治大国と世界から尊敬を受けているだけのことはある。
記事の後段は、鳩山政権の自民党政権と比較した拉致問題の動きを伝えている。
先ず政府が昨年10月に安倍晋三内閣の下で設置された拉致問題対策本部を廃止し、新たな対策本部(本部長・鳩山由紀夫首相)を設置したこと。
そこで拉致問題担当相の中井氏が「自民政権では、情報収集の面で機能していなかった」と批判して、致被害者や北朝鮮国内に向けた情拉報招集機能の強化を打ち出した。その具体案が事務局の人員増と民間専門家の登用というわけである。
組織運営には予算付けが必要となる。2010年度予算案は費用を前年度比4倍の8億6400万円に増額。いわば4倍の意気込みを見せたわけであるが、記事は、〈ただ、具体的な方策は固まっていない。〉と書いている。
具体策が固まっていないばかりか、中国政府の反撥を恭しくへりくだって忖度し、適材適所まで欠いていたなら、予算4倍の意気込みがまるきり薄まってしまう。事業仕分けの対象にすべきだったのではないのか。
次に北朝鮮への対応方針をめぐって国会で野党から批判を浴び続けていると記事は書いている。
〈自民党政権下では「拉致被害者の安全確保と帰国」「事件の真相究明」「実行犯の引き渡し」の3項目を、絶対的な要件と位置づけていた。これに対し、鳩山政権は昨年10月の閣議決定文書で、3要件のうち「実行犯の引き渡し」を削除。北朝鮮は、欧州での日本人拉致事件にも関与したとされる「よど号」ハイジャック事件の実行犯と妻らの帰国に前向きとされ、中井氏は「帰国により拉致問題が幕引きにされては困る」と説明。しかし、納得のいかない野党側は同じ質問を繰り返す。
こうした状況に、被害者家族たちは不安を募らせる。1月下旬の集会で、家族会の飯塚繁雄代表は「政府に具体的な動きがみられず、心配している」。増元照明事務局長も「鳩山総理が言う『命を大切にする社会』の命に、拉致被害者は入っているのか。熱意が感じられない」と訴えた。 〉――
自民党政権が拉致問題解決の絶対要件としていた3項目を改めて取り上げてみる。
1.「拉致被害者の安全確保と帰国」
2.「事件の真相究明」
3.「実行犯の引き渡し」
民主党政権が3.の「実行犯の引き渡し」を引っ込めた。
このことへの野党自民党などの批判に対して、中井拉致問題担当相が「よど号」ハイジャック事件の実行犯と妻らの帰国によって拉致問題が幕引きされかねないと受け止める理由が分からない。自民党政権下で既に北朝鮮側はよど号とは関係なしに拉致問題は解決済みだと幕引きしている。
前々からHPやブログで書いてきたことだが、北朝鮮による日本人拉致の首謀者は金正日であろう。少なくとも私自身はそう信じている。恒常的に崩壊状態にある北朝鮮経済の建て直しに日本政府の戦争賠償と経済援助は大いなる力となるはずだが、それを手に入れるためには拉致問題の全面的解決とそのことを受けた国交正常化が条件となるが、“拉致解決”と“戦争賠償+経済援助”を天秤に掛けた場合、誰だって“戦争賠償+経済援助”を取るはずだが、“拉致解決”にそのことによって露見するかもしれない首謀者の“黒幕金正日”が最初から加わっていて“拉致解決+黒幕金正日”と“戦争賠償+経済援助”の天秤だとしたら、金正日からしたら、“拉致解決+黒幕金正日”を引っ込めざるを得ないだろう。それが「拉致は解決済み」という北朝鮮側のサインとなって現れているということであろう。
日本側からすると、金正日が拉致問題を喉から手が出る程に欲している戦争賠償と経済援助獲得の障壁とし続けているからこそ、解決の長期化であろう。
帰国させた5人は拉致の首謀者が金正日と露見しない許容範囲内の存在だった。死亡していないにも関わらず死亡したとしている拉致被害者は首謀者が露見する危険を抱えた人物と見なければならない。露見させないために表面上、死人に口なしとしたと疑うこともできる。
拉致首謀者が金正日なら、自民党政権が拉致問題解決の絶対要件として掲げたとする
1.「拉致被害者の安全確保と帰国」
2.「事件の真相究明」
3.「実行犯の引き渡し」
の3項目のうち、民主党政権は「拉致被害者の安全確保と帰国」以外、「実行犯の引き渡し」だけではなく、「事件の真相究明」にしても削除しなければ、全員帰国につながらないだろう。
もしも北朝鮮労働党幹部が関与していた場合、体制内に何らかの問題が生じる恐れが出るかもしれないという口実のもと、一種の司法取引を持ち出して、事件そのものを問わない、実行犯が誰かも、またその罪も問わない、拉致被害者の全員帰国のみを求める。但し、帰国者から知り得ている一切の情報を日本政府は聞き出すことをしない、帰国者本人にも何も喋らせることはしないとする。
真相を闇に葬ることによって帰国を得る。独裁者金正日を助けることになるが、拉致被害者を助けることの方を優先利益とする。
勿論この方法が成功するとは限らないが、“拉致解決+黒幕金正日”から金正日を除くことができて“拉致解決”のみとした場合、それと“戦争賠償+経済援助”との天秤は“戦争賠償+経済援助”に傾く可能性が生じない保証はない。
1983年11月に北朝鮮兵士が北朝鮮の港に入港していた 第十八富士山丸で密航して門司海上保安部に逮捕されたことに対する報復として、同年暮れに再び北朝鮮に入港した富士山丸の船長と機関長の2人を密航幇助とスパイ容疑で逮捕、のちに労働教化刑15年を科し、逮捕から約7年を経た90年9月に訪朝した自民党・社会党訪朝団(金丸・田辺両団長)の釈放交渉が成功して訪朝団と供に帰国することができたが、多分釈放条件としての密約があったのだろう、帰国した2人はマスコミの取材に対しても、北朝鮮側の待遇、そこでの生活の内容、その他一切を語ることをしなかった。
「Wikipedia」――「第十八富士山丸事件」は、〈『北朝鮮抑留 - 第十八富士山丸事件の真相』(西村秀樹著・岩波書店)によれば、2名は「日朝の友好を乱さぬように」とする政治的事由から朝鮮民主主義人民共和国における体験については公言せず沈黙を守るように宣誓させられたという。〉と、真相沈黙の理由を書いている。
同じ「Wikipedia」記事は2人は5年後の阪神・淡路大震災の被害を受けたことをキッカケに北朝鮮でどのような待遇をされたか、どのような拷問を受けて身に覚えのないスパイ容疑を認めるに至ったを話したということだが、話したとしても、5人の拉致と同じように情報機関の責任にとどめることができる。
だが、新たな帰国は情報機関よりも上、金正日の責任を暴露する可能性を考慮、拉致帰国者は帰国できた場合は、帰国の代償に生涯口を閉じる重荷を背負わなければならない。真相よりも、生きて日本に帰ることができた喜びを優先させるしかない。
拉致問題解決進展に向けた利益志向よりも中国の反撥を恭しくへりくだって忖度して中国公安当局に一時身柄拘束された人物の人事案の回避を図ろうとする日本政府の外交力に対して、アメリカのオバマ大統領は中国の猛反対に関わらず、台湾に武器売却を決定、対して中国は報復措置として米中間の相互訪問など軍事交流の一時停止を決定(asahi.com)、しかもオバマ大統領は2月18日にチベットのダライ・ラマとアメリカで会談することを発表、中国の強い反撥をさらに受けた。
だが、中国の軍事交流の一時停止決定に反して、2月17日に米海軍の原子力空母ニミッツと護衛艦4隻が香港に寄港。これは決定的な対立を避けたい中国側が米軍の要請を受け入れたことによる寄港で、香港島沖合に4日間停泊すると《米空母が香港寄港 米中関係冷え込みの中、友好の演出も》(asahi.com/2010年2月18日0時53分)が伝えている。
記事は〈香港メディアは「この時期の寄港は驚きだ」などと報じた。〉と書いているが、アメリカが中国側の直接的な反撥さえも忖度しなかったのは両国関係の決定的な決裂、決定的な冷却はどちらも不可能な相互性に立っていることをカードに、相手を牽制しつつ自己の国益がどこにあるか知らしめる必要性を絶対としたからで、これがアメリカの外交力であろう。
そして中国が「米国の指導者がダライと接触することに断固として反対する我々の立場は一貫しており、明確だ」(《中国、オバマ米大統領とダライ・ラマの会談に反対表明》NIKKEI NET/10.2.12)と強い反撥で牽制したが、オバマは公表したとおりに18日にダライ・ラマと会談、〈ホワイトハウスが発表した声明によると、大統領はチベットの宗教や文化、言語、人権を守ることに「強い支持」を表明した。〉(《米大統領、ダライ・ラマと初会談 人権尊重鮮明に、中国反発》47NEWS/2010/02/19 09:34 【共同通信】)と中国が最も嫌うことを公表している。
但し、〈ホワイトハウスで行われた会談は歴代大統領とダライ・ラマとの接触の際と同様、各国首脳との会談で通常使用する大統領執務室(オーバルオフィス)ではなく、今回は居住棟の「地図の間」で実施。チベット亡命政府の事実上の指導者としてではなく「ノーベル平和賞も受賞した、国際的に尊敬されている宗教・文化指導者」(国務省)として処遇することで、中国側に一定の配慮を示した。〉(同47NEWS)と米中関係の決定的決裂を避ける外交力を発揮している。
アメリカも中国も大枠としてはどちらにとっても大きな打撃となる両国関係の決裂は避けざるを得ない。それを承知していて、敢えて中国の反撥を前提に自国のあるべき姿・あるべき国益を主張する。
このことは同時に中国の反撥を計算済みの上、人権と台湾への武器売却を今後とも対中カードとすることの提示でもあろう。
対して再び拉致問題に見せている日本の外交力――
《キム元死刑囚 日本に招へいへ》(NHK/10年2月18日 14時57分)
一昨日の18日の記者会見で拉致問題担当の中井国家公安委員長が拉致被害者の田口八重子さんと北朝鮮で一時暮らしていたキム・ヒョンヒ元死刑囚に関して、「去年、日本政府がキム・ヒョンヒさんから聞き取り調査をした際に『横田めぐみさんに実は会ったことがある』と証言したという報告を受けた」と述べた上で、キム元死刑囚の日本への招へいに向け調整に入ったことを明らかにしたと伝えている。
招聘の目的はめぐみさんの両親が面会を希望していることにも応える意味もあるらしいが、「横田めぐみさんに実は会ったことがある」の証言は既に多くが知らされている事実である上に、さらに去年韓国で八重子さんの家族と面会していて、家族は彼女が知り得る情報を彼女から聞き出しているだろうから、日本政府が再度聞き取り調査をしたとしても、どこで誰と会ったか、こんなことがあったぐらい以外は北朝鮮側に拉致解決に向けた動きを促すような特別に新たな事実が見つかる可能性は低く、単なるセレモニーで終わるに違いない。
いわばこれといって打つべき決定打がないから、めぐみさんの両親との面会という目先の変化を加えて打てる手を打っておこうといった見事なまでの日本の外交力ということではないのか。