――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
4月から実施予定の高校無償化で朝鮮学校排除の動きが問題化している。排除推進の中心人物は中井洽国家公安委員長。26日の閣議後の記者会見で次のように排除理由を述べている。《高校無償化、朝鮮学校の除外「拉致は無関係」 首相》(NIKKEI NET/10.2.26 14:01)
中井「拉致問題に絡んで制裁措置をしている国の国民だからこれはどうなんだろうと、昨年12月に川端達夫文部科学相に強く申し上げた」
要するに拉致問題で北朝鮮に制裁措置を行っている最中だから、その国の国民が通う朝鮮学校に対しても高校無償化の対象から排除する制裁を施すべきだと主張したと言うことである。
親が殺人犯だからと言って、大人たちが自分の子どもに殺人犯の子どもとは付き合うなと殺人犯に対する制裁をその子どもへの制裁にまで広げる、あるいは殺人犯に対する制裁をその子どもへの制裁で代償させることと似ている。国家公安委員長を務めるだけのことはある。
中井洽国家公安委員長の高校無償化朝鮮学校排除主張に対する鳩山首相の姿勢。2月25日夕方の国会内のぶらさがり(?)記者会見での発言を《天皇の政治利用「あってはならない」25日の鳩山首相》(asahi.com/2010年2月25日21時21分)(「高校無償化」に関してのみ抜粋引用)が伝えている。
〈――中井洽・国家公安委員長が朝鮮学校は支給対象外とするように要請しているが、総理の見解はどうか。
「これはいま調整、最後の調整しているところと承っていますが、これはやはり、朝鮮学校の方々のどういう、いわゆる指導内容とかね、どういうことを教えておられるのかというようなことが必ずしも見えない中で、私はやはり中井大臣の考え方というのは一つ案だと考えております」
――具体的な対象についての総理の考えは。
「方向性として、そのような方向性になりそうだというふうには伺っていますが、最後の調整だと思います」 〉――
この首相発言は“拉致制裁”からの無償化排除だとは直接的には言及していないが、指導内容の不明を理由に挙げて、「中井大臣の考え方というのは一つ案だと考えております」と中井大臣の“拉致制裁”に賛意を示している。
翌26日午前には「拉致」という言葉を使って次のように述べていることを上記「NIKKEI NET」記事が伝えている。
「国交がないわけだから中身はこちらから見えない。拉致とかかわりがある話ではない」――
「拉致とかかわりがある話ではない」と言うことなら、「私はやはり中井大臣の考え方というのは一つ案だと考えております」は矛盾した発言となる。軌道修正を図ったということなのだろうか。
具体的には拉致制裁がらみの朝鮮学校排除から朝鮮学校の授業内容が見えないことからの朝鮮学校排除への軌道修正ということになる。
鳩山首相が言っていた朝鮮学校の授業内容が「どういうことを教えておられるのか」、あるいは「中身はこちらから見えない」とは、政府筋の指摘として《鳩山首相、「制裁」絡みの否定に躍起=朝鮮学校を無償化から除外》(時事ドットコム/2010/02/26-21:34)が次のように伝えている。
〈朝鮮学校が反日教育を行っている可能性を念頭に「どういう教育をしているか分からないのに、国民の税金を使っていいのか」〉――
同記事は上記26日の鳩山首相の発言を次のように書いている。
「国交がないから、教科内容を調べようがない。国交のある国を優先するのは無理のない話だ」――
明らかに“拉致制裁”から離れて、「教科内容」、あるいは「指導内容」に軸足を移した無償化排除理由となっている。
「時事ドットコム」記事は朝鮮学校無償化排除が、〈閣内に除外への異論もあることなどから、あくまでも教育制度上の理由とするのが得策との判断もありそうだ。〉と、“拉致制裁”を理由づけとすることへの矛盾を払拭する変更ではないかと解説している。
そしてこの「得策」とする“変更”をさらに次のように具体的に解説している。
〈民主党が衆院選で掲げた高校無償化は、「家庭の状況にかかわらず、安心して勉学に打ち込める社会をつくる」との考え方に基づく制度。拉致を理由に除外すれば「政治の教育への介入」(政府高官)と受け取られ、制度の目的があいまいになりかねない。結局、教育内容を把握できないことを理由に排除するのが、無難であるのは間違いない。
もっとも、「友愛」を掲げる首相の政治理念になじまないとの見方もある。首相は26日夜、こうも強調した。「友愛は、体制が違うからといってけんかをするというのはふさわしくない。そういう思いはある」〉――
首相が言う「体制が違う」は北朝鮮を指しているはずで、当然、「けんかをする」しないの対象も北朝鮮となるはすだが、どういう理由であれ、排除という名の、ある意味“けんか”を仕掛けているのは実質的には朝鮮学校に対してである。体制が違う北朝鮮に、「体制が違うからといってけんかをするというのはふさわしくない。そういう思いはある」と言いつつ、朝鮮学校に“けんか”を仕掛けるのは最初に譬えた、親が殺人犯だからと言って、大人たちが自分の子どもに殺人犯の子どもとは付き合うなと殺人犯に対する制裁をその子どもへの制裁にまで広げる、あるいは殺人犯に対する制裁をその子どもへの制裁で代償させるのと同じことをすることにならないだろうか。
国連人種差別撤廃委員会(事務局・ジュネーブ)が9年ぶりに行った対日審査会合の2月24日の各国の専門家による質疑で「教育担当相と別の閣僚(中井洽拉致問題担当相)が、北朝鮮との外交関係を理由に対象外とするよう主張しているようだが、そういう差別的措置が取られるのか」といった質問や指摘が出たと、《高校無償化:朝鮮学校問題 国連委で議論》(毎日jp/2010年2月26日)が報道している。
このような疑義に対して25日、〈文部科学省の担当者は無償化法案について「(朝鮮学校など)各種学校については、高校に類する課程を定めた学校を対象とするとしているが、今後の国会審議を踏まえて対処する」と述べるにとどまった。〉と伝えている。
鳩山首相の「中井大臣の考え方というのは一つ案だと考えております」と言いつつ、“拉致制裁”否定発言は国連人種差別撤廃委員会の高校無償化からの朝鮮学校排除への疑義が理由となっているのかもしれない。
朝鮮学校は北朝鮮の影響が強い在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と関係が深いという。朝鮮学校の講堂に金正日総書記の肖像画を掲げている(msn産経)、あるいは、〈朝鮮学校は以前、万景峰号での修学旅行(祖国訪問)を通じ、金総書記への忠誠心などを植えつける教育を行っていた。今も、そのような思想教育を行っているのか。北の国家犯罪で、日本の主権と日本人の人権を侵害した拉致事件をどう教えているのか。〉(同msn産経)と報道するマスコミも存在する。これを事実と受け止めて、独裁者金正日の強固な指示を受けて、反日教育を施しているとしよう。
だとしても、朝鮮学校卒業生を日本社会は順次受け入れていく。中にいるかもしれないが、すべてが卒業後北朝鮮に渡るわけではない。生活の基盤が日本にあるだろうから。彼らが朝鮮学校で植えつけられた反日意識が日本社会の中で凝り固まらせたまま推移するのか、あるいは善悪いずれかの方向へ変化を見せるのかは日本社会の受け入れようにかかっているはずである。
彼らに生き方を教える教師が朝鮮学校の金正日の意を体していたかもしれないた教師から日本社会の構成員たる日本人に変わるからだ。
このことは「留美的親美、留日的反日」(アメリカに留学した者は親米派になり、日本に留学した者は反日派になる)と言う中国の言葉が如実に証明している。このことに関する分析を行っているHP《中国人留学生の日本観》(孫 長虹)が詳しい分析を紹介している。
日本語学校で語学を学ぶ中国人の〈就学生の多くは言葉を習得していないため、学費を稼ぐためのアルバイトは、体力を使う仕事につくことが多い。今までの研究によると、日本人とかかわりの多いのは、バイト先の日本人であって、中国人就学生の異文化接触における不満の決定因は、アルバイト先に由来するという結果が出ている。また、中国人就学生の日本観もアルバイト先の体験が彼らの日本に対するイメージの決定因となり、「極端な否定的なイメージ」と位置付けられている。
日本人とのバイト先でのトラブルは、就学生は大学生の3倍近く(大学生は13.6%、就学生は36.4%)であって、日本社会に対する不満度が、大学中国人留学生の日本観の2倍になる。すなわち、日本社会及び日本人に対する態度に関しては、大学生に比べて、就学生はよりネガティブである。日本での生活に、孤独・苦痛・つまらないといった否定的な感情を抱く者は、大学生では42%であるのに対し、日本語学校生では75%にも達している。
また、大学生は約4割が奨学金をもらっているのに対し、日本語学校生は98%の人が奨学金をもらっていないのが現状である。また大学に在学する留学生は、大学の授業料の免除を受けることもできるが、就学生の日本語学校の授業料は割高である上に、免除されない。さらに来日する時に、借金を背負うケースも少なくない。このように、留学生に比べれば、就学生は厳しい状況下に置かれているのが明らかである。
中国人就学生の80%以上が、ブルーカラーの職種についていて、そしてアルバイト先での処遇や日本人の態度が差別的であるという不満が最も多いと指摘されている。中国人就学生がアルバイト先で感じた不満や被差別感は日本人に対する不信感を深め、日本人との接触を回避させ、敵意を助長させることも予想できる。したがって、「留日反日」(日本へ留学して、反日感情を抱く)という傾向が、中国人就学生の中に存在するのは否定できない。〉――
一方殆んどアルバイトをせずに留学生活を維持できる〈国費留学生が普段付き合っているのは、大学の先生、日本人学生に限定されがちである。彼らは私費留学生と違って、アルバイト先での辛い体験を持っておらず、周りの親切にしてくれた日本人によって、彼らの日本・日本人に対する肯定的なイメージが形成されるわけである。このように、経済的な圧迫が無く、研究に専念できる国費留学生は、日本人との付き合いに満足し、その日本観はおおむね肯定的である。〉と同じ日本社会でも、経済的余裕の有無が決定要因となる受入れ態様の違いによって対日観の違いが生じることを紹介している。
いわば受入れ態様の違いが住む社会の評価を決定する。評価がその社会の性格を色づけることは断るまでもない。
このことは在日韓国人、在日朝鮮人についても当てはまる構図であろう。
国交がないことを理由としようと、授業内容が反日教育となっていることを理由としようと、高校無償化の朝鮮学校排除は朝鮮学校生や彼らの親や近親者をして、なお一層反日化させ、そういった反日化した者を日本社会は受入れ、抱えることになる。そういった状況に立たされたとき、日本社会が反日化した者たちの反日感情を「留美的親美」の構図を取って和らげるに力となるか、あるいは「留日的反日」の構造のままに悪化の一途を辿らせるか、そこに住む日本人が総体的な教師となって立ち向かう姿勢が決定要因となるが、いわば彼らをどう受け入れるかに影響を受けることになるが、鳩山政府の高校無償化朝鮮学校排除自体が日本社会全体とそこに住む日本人全体に支配的な影響を与えることになるだろうから、在日朝鮮人の高校無償化排除を機会になお悪化させた場合の対日観を良い方向に持っていくことは困難なものにならないだろうか。
勿論、同じ社会に住んで、彼らの反日感情は日本人にも何らかの形で撥ね返ってくることになる。
いわば高校無償化の対象から排除した、ハイ、それで終わりですだけでは済まない日本社会への影響が生じるだろうということである。
最後に拉致問題を扱った少し前のブログで第十八富士山丸事件を取り上げたが、「Wikipedia―第十八富士山丸事件」が富士山まるで密航を謀った朝鮮人民軍兵士閔洪九の、本人の性格からくる態度・姿勢、あるいは努力も影響しているだろうが、日本社会の受入れ態様も影響したに違いないその後を紹介している。
〈閔洪九は密入国容疑で収容され、福岡入国管理局から退去強制令書が発せられ、それに対する執行停止申立も東京地方裁判所で却下された。しかし「人道上の配慮」から朝鮮民主主義人民共和国へは送還されず、のちに放免された。韓国籍を取得したが、1988年に法務省から異例の在留特別許可を受けて日本で生活していた。だが傷害事件などで度々逮捕され、2003年4月には栃木県宇都宮市のデパートで女子高校生の体を触るなどのわいせつ行為をした疑いで逮捕・起訴された。実刑になれば出入国管理及び難民認定法第24条各号所定の退去強制事由に該当するため、日本国内から強制退去になる可能性があった。しかし2004年3月には留置場の金網を素手で破って一時逃亡を図るも、すぐ収監され、同年4月1日午後9時すぎごろに収容されていた栃木県警察宇都宮中央警察署の留置場で首つり自殺をした。享年40。〉――
密航があった1983年は金日成(1912年4月15日~1994年7月8日)が生存していた時期で、オリンピック韓国単独開催阻止を謀ってビルマのラングーンを訪れた韓国の全斗煥大統領一行を狙い北朝鮮工作員が爆弾を仕掛けたが、大統領は難を逃れたラングーン事件が1983年10月9日に起きている。
4年後の1987年11月29日には日本の偽造パスポートを持った北朝鮮工作員金賢姫ともう一人の工作員による乗客・乗員115人全員死亡の大韓航空機爆破事件が起きている。
当然在日韓国側の民団は敵国の兵士と看做して受け入れようとしなかったろうし、在日北朝鮮側の朝鮮総連にしても密接な関係を保っている北朝鮮から逃げてきた朝鮮人民軍兵士ということで受け入れなかったのは目に見えている。残るは最大多数を占める日本人がどう受け入れたかであるが、密入国の代償に富士山丸乗組員5人が拘留され、その後船長と機関長の2人が密航の幇助とスパイ容疑で収監、残る3人は解放されたが、日本人の対北朝鮮感情は良好であるはずはなく、嫌悪感情に支配されていただろうことを考えると、日本社会で彼を受け入れる土壌はどこにもなかったのではないだろうか。
感情過多の解釈に思われるかもしれないが、留置場は閔洪九にとって日本社会そのものではなかったのではないだろうか。そこから逃れようとして果たせず、逃れるための最後の手段を取った。