ジャーナリストの上杉隆氏が次のような面白い記事を配信していた。
《歴代首相が鳩山総理を“脱税王”と追及できない理由》(Daiamond Online/2010年02月18日) (一抜粋)
自民党の歴代総理も多くは「脱税王」
3年前、筆者は週刊文春の連載をまとめた「世襲議員のからくり」(文春新書)を出版し、信じがたい世襲議員たちの無税相続の実態を世に問うた。
政治資金管理団体や政治団体は非課税で相続できるため、多くの世襲議員がその制度を悪用し、贈与税や相続税の支払いを逃れているという事例を追及したのだ。
11年前、党首討論で鳩山首相と対決した小渕首相の政治資金管理団体は、小渕氏の死後、その後、衆議院議員に当選した次女の小渕優子氏に無税で引き継がれている。筆者が調べただけで政治団体を迂回させる方法で、約1億2千万円もの資金が無税で相続されたのだ。
その後の森元首相も同様だ。石川県議の長男に対して、自民党石川県連を通じて、特別扱いともいえる資金提供を行っている。
小泉純一郎元首相も例外ではない。次男の進次郎衆議院議員に自らの政治資金管理団体を名義を変更するだけで、実質上はそのまま受け渡している。
安倍晋三元首相はもっと悪質だ。父・晋太郎外務大臣が死去した際に残した約6億円の遺産について、相続税・贈与税を払った形跡はない。派閥に残ったカネのすべてとは言わないが、現在に至るまでそのほとんどの使途と存在について沈黙を続けている。
福田元首相も同様だ。父・福田赳夫首相が選挙区を譲るとき、不動産も含めた資産を政治団体経由で長男である康夫氏に渡している。
例外は麻生太郎元首相くらいのものであろう。資産家として、また企業家としての立場から、そうした政治的な無税相続は行っていない。
つまり、日本で党首討論が始まってからの首相はみな、多かれ少なかれ「脱税王」なのである。
見える「脱税」を追及することはもちろん大切だ。だが、それ以上に、見えない「完全脱税」を追及する視点もまた欠かしてはいけないのではないだろうか。
記事は「政治的な無税相続」の「例外は麻生太郎元首相くらいのものであろう」と言っているが、麻生太郎の政界入りは父親が政治家を引退してから24年後で、父親が亡くなる前年のことだというから、政治資金管理団体を維持しているわけはなく、また政党支部長だの県連会長だのとは関係ない場所に父親がいただろうから、そこから「政治的な無税相続」を受ける機会がなかっただけのことではないのか。
また「政治的な無税相続」を受ける機会がなくても、政界入りする前は麻生財閥の中核企業である麻生セメントの経営を受け継ぐ中で、父親や祖父が戦前から戦後にかけて経営した石炭採掘の麻生鉱業の利益は、自前の石油資源のなかった日本で石炭は戦争中だけではなく、戦後も長い間重要な動力資源だったろうから、石炭産業が衰退するまで計り知れないものがあり、特に戦争中は1万人余も強制連行した朝鮮人を石炭採掘に安価な賃金で強制使役する一方、石油を補う動力資源として儲けに儲けていた利益を受け継いでいたろうから、だからこそ帝国ホテルの高級バーで高級ブランデーを毎晩飲めるリッチな身分でいられるのだろうから、「政治的な無税相続」を必要機会としていなかったということもあったに違いない。
麻生鉱業は強制連行朝鮮人を使役していただけではなく、第二次世界大戦の連合軍捕虜を強制的に労働させている。その事実を書いた記事を2006年11月にニューヨークタイムズが載せると、当時外務大臣だった日本の麻生太郎の差し金だったのだろう、外務省は在米総領事館のホームページに抗議文を掲載している。
「日本政府は当時の一私企業である麻生鉱業の雇用形態や労働条件などをコメントする立場にはない。しかしながら、日本政府は、これまでに麻生鉱業が強制労働に関与したというどんな情報も得たことがない。ニューヨーク・タイム ズ紙が何の証拠もなしにこのような偏向した報道を行うとは、はなはだ遺憾である。」 (《麻生鉱業についてニューヨーク・タイムズに抗議して赤っ恥をかいた外務省》(カナダde日本語/2008.12.22 (Mon))
このブログによると、このことの事実を示す文書が厚生労働省が保管、発見されると、在米総領事館のホームの抗議文は削除されたと書いている。またブログは「AFP」記事を引用する形で、08年当時の中曽根弘文外相が野党側からの質問を受けて、在ニューヨーク総領事館のホームページに掲載の捕虜強制使役否定の記事を、「厚労省の文書で新たな事実が明らかになったことを受け、削除を決定した」と答えと書いている。
参考までに引用――
《「旧麻生鉱業で外国人捕虜300人が労働」》(中央日報/2008.12.19 08:04:42)
時事通信は18日、「麻生首相の親族が日本植民地時代に経営していた旧麻生鉱業が外国人捕虜300人を鉱夫として使用していたという日本政府の文書が確認された」と報じた。日本政府がこのような事実を認めたのは今回が初めてとなる。麻生首相は外相時代に「第2次世界大戦の当時、旧麻生鉱業に外国人捕虜がいた」という主張に対し、一貫して否認してきた。
厚生労働省はこの日、民主党の藤田幸久参議院議員の要請で公開した公文書は戦後、旧陸軍省の資料を引き継いだ政府機関で作成された。公文書には福岡県にある旧麻生鉱業吉隈炭坑の捕虜収容所「第26分所」で英国人(101人)、オランダ人(2人)、オーストラリア人(197人)が1945年5月から終戦の8月15日まで強制労働をさせられた事実が明示されている。
藤田議員は18日の記者会見で「麻生首相は捕虜の労働条件と死亡の因果関係について検証する責任がある」と主張した。
厚生労働省の社会・援護局側は「捕虜を労働力として使用することは当時の状況では一般的のこと」とし「虐待があったのであれば別問題だが、この資料ではこのような内容は確認されてない」と話している。
麻生首相の親族が経営していた麻生鉱業は日本植民地時代に1万人以上にのぼる韓国人を徴用したことが伝えられている。韓国政府は11月28日、「戦時、動員された韓国人犠牲者の遺骨の実態を調査するため、政府間協議会(韓日遺骨調査協議会)で旧麻生鉱業に関連する資料の提出を求めた。麻生首相は、旧麻生鉱業が後に名前を変えた麻生セメントの社長を務め、政界入りしている。
谷垣自民党総裁は2月17日の党首討論で鳩山首相の「政治とカネ」について次のように首相を追及している。
「1年間に、これは1億8000万円ですか。1カ月にすると1500万。これは1日に換算すると50万円ですよ。それを7年間、さかのぼって、贈与税を払われたということは、私も報道で聞いております。しかし、私、総理のご説明に納得できませんのはね。要するに、これは贈与であるかどうか全く知らな…、そんなことがあるのは知らなかったと――」 (《【党首討論詳報】(2)》(msn産経/2010.2.17 16:48 )
こういう状況を以ってして、「総理、総理にはたいへん申し上げにくいですが、『平成の脱税王』という言い方もあるんです」(《【党首討論詳報】(1)》(msn産経/2010.2.17 16:48 )と首相を追及、金額の大きさを問題にして、与謝野馨を倣って「平成の脱税王」と貶している。
確かに金額は大きな問題点となるが、その金額にしても「政治的な無税相続」と同様、“受領機会”が決定する。麻生太郎は父親からの「政治的な無税相続」機会はなかったが、祖父や父親が麻生財閥として築き上げた財産を受け継ぎ、自らが麻生財閥系企業の経営者として稼いだ財産と併せた“受領機会”に恵まれ、その一部を政治活動費として利用することができた。
いわば父親が有力政治家でカネ集めに長けていて政治資金管理団体に多額の資金を遺しておいてくれたか、あるいは鳩山首相のように親が莫大な財産を所有しているか、麻生太郎のように親の財産と併せて自らもたんまりと稼いだか、そういったカネに対する“受領機会”が決定する金額だと言うことである。
このことを証明する格好の例がある。私が住む街の老人会や近隣の老人会が、私自身は入会していないが、幽霊会員や入会していない老人の名義借りして会員数を市から補助金を受けることができる人数にまで水増しして軒並み「単位老人クラブ補助金」なるカネを不正に受け取っているということを何年か前に知った。
このことに老人会の肩を持って、「誤魔化しているたって、かわいいもんだ」と、その金額のたいしたことがないことを言う者がいた。
「いや、誤魔化す金額は誤魔化すことができる金額の程度で決まるのだから、それが1000円なら、1000円誤魔化すし、1万円なら、1万円誤魔化す。金額りよりも、誤魔化すこと自体が問題だ」と反論した。
日本全国のほぼ全部の自治体が国からの補助金のうち予算の余ったものを「預け」といった方法で目的外使用したり、私的流用したりする誤魔化しも、言ってみれば、“受領機会”が決定する金額であって、金額が少ないから許される、多ければ許されないと言うことではないはずだ。
2009年3月29日の千葉県知事選で無党派、完全無所属を宣伝して当選した森田健作は自民党東京都衆議院選挙区第2支部(東京都中央区)長の地位に就いたままであることが分かり、無党派、完全無所属は選挙戦術上の便宜的な策略だったことを暴露したが、その支部の政治資金から1億6000万円余を支部と所在を同じくする森田健作代表の政治資金管理団体「森田健作政経懇話会」に寄付しているという。
これも上杉隆氏が言う「政治的な無税相続」に相当する資金の移動であって、本人は「知事選には使っていない」と言っているが、“受領機会”が仕向けた1億6000万円余であろう。
鳩山首相の母親が莫大な財産家であることからの「1年間に1億8000万円。1カ月にすると1500万。1日に換算すると50万円」の“受領機会”にしても、金額はさして問題ではないとは言わないが、金額の多寡を除いたなら、上杉隆氏が指摘しているように他と似たり寄ったりの同じ穴のムジナの資金操作と言えないだろうか。
谷垣自民党総裁にしても、与謝野馨にしても、自身が長として務めているとしたら、自民党都道府県連会長のいずれか、あるいは自らが設立している政治資金管理団体のカネを例え金額は少なくても、それぞれに与えられている“受領機会”を利用して、巧みな操作による資金移動を一切行っていないと果して胸を張って言えるのだろうか。
再び言う。金額は人それぞれに与えられている“受領機会”が決定する。もしそれが不正流用であるなら、金額の多寡と不正を働く精神の強弱は必ずしも比例しない。
いわば誤魔化した金額が少ないからと言って、ゴマカシ心はたいしたことはないとは決して言えない。